鏡よ~鏡よ~鏡さん~
タイトルで盛大にネタバレしております。
寒い時期にほんのりとホラーです。
宜しくお願いします。
学園祭が終わった数日後…
某ショッピングモールに行って見たい!という海斗先輩の願いを叶える為に、やって来ていたモールで真史お父さんの会社の名取さん(女子)と下島さん(男子)に偶然に遭遇した。
お互いの連れを見て途端にニヤニヤする私達。
「デートですかぁ?」
思わず浮ついた声をかけてしまったが、名取さんは頬を赤くして、チラッと下島さんを見上げている。非常に可愛い…。
「うん、そうだよぉ~」
ニヨニヨするな!下島っ!……まあ幸せな気持ちも分からないでもない。下島さんと名取さん、2人の魔質は今や完全に溶け合ってお互いの体を包みこんでいて、見ているこちらまで幸せになるような魔力を放っている。
魔力、綺麗だな~。益々笑ってしまう。
「前から思っていましたがお2人はとてもお似合いですね」
海斗先輩がそれはうっとりとするような微笑みを向けて魔力相性の良い2人を見ている。
名取さんと下島さんは真っ赤になるとモジモジしながらお互いを見て、それから笑いあっている。
おいおいっ甘酸っぱいなぁ~。周りを歩いている人達もこの甘酸っぱい雰囲気を感じているのか、ニヨニヨした魔力を向けてきている。
「いいな~幸せですね」
私が本音駄々洩れな言葉を発すると下島さんがチラッと海斗先輩を見てから私を見た。
「麻里香ちゃんもだろ~?」
なんだこの空間はっ…。私達は互いにのろけ合いをした後に別れた。
「元々魔力相性の良い2人だったものな~」
「そうですよね。あの持田 瑞希がガチャガチャ騒いだって入り込む隙なんてないですよね」
とか海斗先輩と話しをしながら、フードコートに行って見たい!という海斗先輩を連れて最上階のフードコートへ向かうエスカレーターに乗った時だった。
「!」
体全体に押し寄せてくる魔質の気配が感じられた。良くない方の魔質だ。どこから?魔力の出所を探る。
「上階の方だな…」
海斗先輩の呟きが聞こえた。上階…エスカレーターから仰ぎ見てみたが良く分からない。
「上に何かあるのでしょうか?」
「もしくは居るのかもしれんな…」
居る?もしかして…生き物?また黒い悪魔を思い出してしまった…フードコートで黒い悪魔…恐ろしい。
「このフロアみたいだな」
「降りてみましょうか?」
フードコートの一つ下の階、メンズ関連商品の売り場から良くない魔質の気配を感じる。
「こちらの方だな…」
何となく海斗先輩の背後に隠れながらついて行く。
良くない魔質は売り場の横のお手洗いがある場所から漂ってきているようだ。そして誰かが出て来た…。あれは…!
「持田 瑞希?!」
持田 瑞希は足早にエスカレーターに乗って階下に降りて行く。海斗先輩が走りかけて、ハッとしたように立ち止まった。私も海斗先輩の見ている方を見る。
メンズの靴売り場で下島さんの靴を選んでいるのか、名取さんと下島さんの2人の姿がある。持田 瑞希はこの2人の様子を見たに違いない。でも…。
「先輩、まだよくない魔力の気配がします。どういうことでしょう?」
「発生源を確認したほうがいいな…」
私達はメンズ売り場のお手洗いの方へ移動した。ああ…確かに感じる…。
「この女子トイレの中だな…」
「そうですね…」
「よし、麻里香見て来い」
「うええっ?!嘘でしょう?」
海斗先輩は腕を組んで私を見下ろした。
「俺が女子トイレに入ったら変態扱いされるだろ?」
あんたはそんな心配しなくても、充分変態だからっ!…という言葉は飲み込んでおいた。
そうだ、こんな衆人環視の中で海斗先輩を変態だと罵っている場合ではない。
私は意を決してトイレの中に入って行った。お洒落な内装のトイレは入口を入ると廊下があって、振り向くとすでに海斗先輩の姿は壁に隠れて見えなくなってしまっていた。
こちらを覗き込めっ…とまでは言わないけれど、こんな時こそ変態の底力を見せて盗撮なり尾行なりしていて欲しい…と心の中で無茶なお願いをする。念のために携帯電話を握り締めた。
ゆっくりと魔力の気配に近づいて行く。
入口付近は洗面台が配置されている。魔力の気配はここじゃない…。その少し奥のパウダールームからだ。
ううっ…間仕切りがあってパウダールームの中がここからは直接見えない。魔力はそこに居る誰かなのか?
武器らしい武器が携帯電話しかない…。黒い悪魔もどきが出てきたらどうしよう?!頭の中で某虫を殺すスプレーのイメージで魔法を練り上げる。
腰が引けて仕方ないが、震える足で一歩一歩近づいて行く。
黒い悪魔が飛んできたら、右に避けて…いや待てよ、同じ方向に体を動かしたら顔面衝突という人生最大の恐怖に遭遇するかもしれない。
ソロッ…とパウダールームを覗き込んだ。パウダールームは無人だった…。少し安堵した。
魔力はまだ漂っている。そう、パウダールームに設置されている大きめの女優ライトがついた豪華な鏡。その鏡から魔力が漏れてきている。
「鏡?」
鏡には覗き込んでいる顔色の悪い女が写っている……私じゃないか!脅かすな!と自身に怒ってから、体に魔物理防御障壁を張ってもう少し鏡に近づいた。
「禍々しい…なにこれ」
鏡には触れられない…黒い魔力が鏡から滲み出てくる。これは海斗先輩に報告しなければと、携帯電話のプッシュをして、コールした時にふと鏡を見て、息が止まった。
鏡の中の私の映っている真横に……持田 瑞希が居る! 慌てて横を見たけど…誰もいない…いない?
『おい、麻里…?』
「んぎゃああああああ!……ひぃぃぃぃ……いでっ!…あ、あれ?ここは…」
盛大に叫んだ後、顔を伏せて何かにゴンと頭を打ち付けたので、恐る恐る顔を上げると…どこかで見たことのある小部屋である。頭を打ち付けたのはトイレのドアノブだった。
『おい?おい…麻里香?どうした?ゴ〇ブ〇が出たのか?』
「その生き物の名前を言わないで下さい。寿命が縮みます…いえ、あまりの恐怖に私が一番安心と信頼を置いている自宅のトイレに転移魔法で帰って来てしまっているようです」
『な…なんだと?転移…本当だ…トイレの中に麻里香はいないな。で、無事なのか?』
そう…あまりの恐怖で私のフェイバリットスペース、家のトイレに転移してきているようだ。無駄に魔力があるって素晴らしいね。
「はい怪我はありません。今からそちらに戻りますので、少々お待ち下さい」
と言ってすぐ転移魔法を発動した。またあのパウダールームに戻って、先ほどの恐怖の再来は勘弁して欲しいので、ショッピングモールの地下の駐車場の非常階段付近に転移をしてみた。
上手くいったようだ。近くに海斗先輩の魔力を感じる。携帯電話から海斗先輩の声が聞こえる。
『戻ったか…下だな?行こうか?』
「いえ、今から上がりますから待っていて下さい」
急いで地下からエレベーターに乗ってメンズ売り場に上がって行った。
海斗先輩は例のトイレの前で怖い顔をして立っていた。私が足早に近づいて行くと、ホッとしたような顔をして私を抱き寄せた。こらこらっ!ショッピングモールの中ですから!
「大丈夫だな?何があった?」
私達はモールの通路に置かれているソファに腰かけた。海斗先輩は手を握って摩ってくれる。強張っていた体がほぐれていく。
「はい…鏡から魔力が流れ出ていました」
「鏡?」
私は鏡の中から魔力が出ていたこと、鏡を覗いていた時に持田 瑞希が横に立っていたが横を見ても誰もいなかったこと…そう話して海斗先輩の顔を見上げた。海斗先輩は心配そうな顔をしていた。
「そうか、鏡の中に持田 瑞希か。しかし実際横を見たら彼女はいなかった…と」
あれさ、認めたくないけど…ゆ…ゆぅ…幽霊とかじゃない?自分で考えてゾワッと鳥肌がたった。
「鏡に何か呪術が使われたかもしれないな。う~ん、よし。夜にもう一度見に来るか」
「よ、夜?!」
海斗先輩はトイレの方角を睨みながら
「昼間は人の目がある。俺が女子トイレに入って行ったらマズイだろ?」
と言い放った。
いやそうじゃない!そうじゃないんだ!夜のトイレなんて怖さ最高潮じゃないかぁぁぁ!
「よ、夜のトイレなんて…で、でん…殿下、危ない…」
海斗先輩は若干ニヤッとしている。
「そうか~危ないか~でも夜しか確かめられないしな~でも、何が出て来るか分からないから……これが麻里香と来る最後のショッピングモールかもしれんな。最後の記念にフードコートに付き合ってくれ」
そ、そんなっ…最後なんて?!オロオロした私の手を引いて海斗先輩は上階のフードコートに向かう。温かい魔力が先輩の手から私の手に伝わってくる。
取り敢えず私は釜玉うどんを食べることにした。海斗先輩は長崎ちゃんぽんだ。海斗先輩は呼び出しベルをカウンターで受け取るとソワソワしている。
私は別の意味でソワソワしているけど…。
「海斗先輩…あの」
「なんだ?ベル?!…違うか、隣の席か…。んっ!また…違うか…」
おい?落ち着いて話せないじゃないか!
「呼び出しのベルは振動しますからテーブルに置いておいても大丈夫です」
「そうか?よしっ…まだかな?」
こんな世間一般の常識?に疎くて夜のトイレに行かせてよいものか?はっ!待てよ、ショッピングモールといえば防犯カメラがついているのではないか?万が一トイレに侵入する海斗先輩がカメラに映ったら…。
週刊誌やワイドショーで、深夜に忍び込んだ少年Aが女子トイレを盗撮?!なんと少年Aは有名メーカーの御曹司だった!
とかの話題になって…これはマズイ!絶対マズイ!
ちょうど注文していたうどんが出来上がったようだ。海斗先輩より先に呼び出しベルと取り上げると私は立ち上がった。
「麻里香っ俺が取りに…」
「殿下は座っていて下さい。私が参ります。それと鏡の呪術の件、私も共に行きますからっ!」
海斗先輩はニヤッと笑っていた。これ嵌められたかもしれない…。いやいや世間知らずの殿下を守る為だ!
そして、ちゃんぽん麵の出来上がりをお知らせするベルも鳴った。こんな時の為にラーメン屋のカウンターに近いテーブルを取っている。
「先輩、お盆を持って!こぼしちゃダメですよ!こっち、こっち!」
私の指示通りに海斗先輩はなんとかラーメン鉢から汁をこぼさないでテーブルに持って来れた。
「ふぅ…こういう時魔法が使えて助かったな」
なんと、汁のこぼれ防止に魔法を使ったのか…魔力の無駄遣い…いやいや、有効活用だ。
初フードコートでのラーメンを食べる海斗先輩。非常に喜んでいる。
「モッテガタードにも小麦粉あったかな~あっちの世界でもこのラーメンを作れば流行るよな?」
「ですよね~麺類はパスタに似た食品はありましたが、このうどんも流行りそうですね」
元王子殿下と元妃殿下で熱々の麺をすする。なんとも言えないシュールな絵面だ。
「ん?何だか階下が騒がしいな」
と、海斗先輩が言ったので魔法を耳にかけてみた。遠くの音を拾うものだ。
『救急車を早く…』
『犯人…』
『警察を…』
「何か事件でしょうか?」
「まさか、鏡か?」
「!」
私達は素早く食べ終わると階下に降りて行った。野次馬の数がすごい…。
ちょうど下島さんと名取さんの姿が見えたので私は声をかけた。
「名取さん!」
名取さんは私の声に気が付いて下島さんと2人でこちらに近づいて来た。
「何かあったんですか?」
名取さんは表情を曇らせた。
「実はね…私もトイレに居た時だったんだけど、女の子が誰かに襲われたみたいなの」
トイレ?!
海斗先輩と視線を交わした。今度は海斗先輩が名取さんに話しかけた。
「襲われた…ということは犯人がいるのですか?」
名取さんは何度も頷いている。
「私がトイレの個室に入っていたら悲鳴が聞こえて、慌てて出たらパウダールームで女の子が倒れてて…髪の長い若い女に鏡に顔を押し付けられたって…額から血が出てたのよ」
「ええっ?!」
因みに名取さんはボブカットである。持田 瑞希は…ロングヘアーだった…。まさかね?
「鏡か…」
海斗先輩の呟きに私は背筋がゾクゾクときた。
近くのショウウィンドウのガラスに映る沢山の人の姿…その中に持田 瑞希の姿が見えたようで怖くなった。




