一眼レフ再び
暗い内容のお話が続いて申し訳ありません。
そろそろ変態にもご活躍頂きたいと思っております。
宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます
11/5人名修正しております
今日は児童相談所の方と亮暢のアパートの現場で夏鈴ちゃんの生活状況の確認をする予定だ。
子供を家に置いておくわけにいかないので、一緒に連れて来ている。弁護士の東條先生とばあちゃまもじいちゃまも来ている。
篠崎家総力戦だ。因みに異世界人、協力助っ人の元ナキート殿下…栃澤 海斗も控えている。
「来ないな…」
海斗先輩の呟きに真史お父さんが児童相談所の所員お2人の内、男性の方へ声をかけた。
「アパートの大家さんに事情をお伝えして弟の家の鍵は預かっているのですが…もう一度外から呼びかけてみましょか?」
私と海斗先輩は同時に小さく頷いた。そう…亮暢の部屋の中は無人だ、亮暢と嫁の優樹菜はこの面談を受ける為に外からやって来るはずだ。今のところは外から近づいて来る2人の気配は無い。
しかし予定の時間を30分過ぎている。子供達は日陰にいるとはいえ真夏の炎天下…もう暑さも限界だろう。
大人達は今一度、亮暢のアパートの前でインターホンを押してみたり、名前を呼んだりしている。
「家の中に入ってみますか?」
と真史お父さんの声が聞こえたので、私達もゾロゾロと階段を登って行った。
そして真史お父さんが玄関を開けた時に例の黒い悪魔が、サササ…と数匹飛び出してきた。
「ぎゃあああ!」
皆の悲鳴が上がった!東條先生ですら、きゃあと叫んでいた。児童相談所の所員の人ですら飛び上がって叫んでいた。
そしてひとしきり騒いだ後、皆で恐る恐る部屋の中を覗き込んだ。
「臭いし…暑い」
「もしかして…中で倒れて?」
由佳ママがそう呟いたので児童相談所の所員の女性の方が
「け…警察呼びますか?」
と慌てたが真史お父さんが私と翔真を顧みた。
「まずは中に入ってみましょう。麻里香、翔真…俺と一緒に入って先に窓を開けてくれ」
「わ…私も行くわ」
由佳ママはもうすでに土足で家の中に入っていた。気持ちは分かる。アレが通った床を素足で歩きたくないんだね…分かるよ由佳ママ。私もズカズカとスニーカーで入って行って、部屋の窓を開けた。足元を黒い悪魔らしきものが通り過ぎて行った気がするが…見ないことにした。
そしてエアコンを付けようとしたがつかない?アレ?前は来た時はついてたよね?コンセントには繋がっている。私が首を捻っていると、東條先生が部屋の新聞受けの中を覗いてから叫んだ。
「あ~あやっぱり、電気止められてるわ…電気代払ってないね」
「ええ?」
東條先生は新聞受けから、ガス、電気、水道の督促状を取り出して私達に見せた。滞納しているのか…。
そして皆で手分けして部屋の中やお風呂などを覗いて見たが勿論、誰も倒れてもいないし、亮暢も優樹菜もいなかった。
「ダメだ、トイレまで辿り着けない…」
真史お父さんがまるで山登りで悪天候の為登れなくなった登山者の如く、呟いていた。
「お風呂場片付けてたのに、また汚されてた…」
翔真がゴミの山をクロールで掻き分けながら居間に戻って来た。
流石に児童相談所の所員の方々も、この惨状では家庭環境の調査などしなくてもいいと判断したのだろう…
「調査は…保護者不在ですが、養育に適している環境とは言えませんので、当初お話させて頂いていた、暫くお兄様ご家族が夏鈴ちゃんを養育するということでお願いします。月に一度ほどご訪問させて頂いて夏鈴ちゃんの生活の様子を確認させて頂きます」
と言って眉間に皺を寄せていた。所員の方々も仕事とはいえ、こんなゴミ屋敷に入りたくないよね…。
私はさりげなく部屋全体に浄化魔法を使った。一体何年間、ゴミ屋敷状態だったんだろう…。
私はベランダに出てみた。ベランダもゴミが散乱していた。潜んでいる黒い悪魔と目が合いそうだったので、慌てて室内に戻った。真史お父さんは今後のことを所員の方と話している。
すると家に入らず外に居たばあちゃまが、慌てて室内に入って来ると、じいちゃまに携帯電話の画面を見せている。どうしたんだろう?
「どうしたの?」
ばあちゃまもじいちゃまも携帯の画面を見て顔を引きつらせている。
「亮暢のやつ…優樹菜さんと離婚するからと言ってきてる」
「なぁ?!」
私はばあちゃまから携帯電話を受け取って画面を見た。私と一緒に海斗先輩と翔真も画面を覗き込む。
『優樹菜と離婚するから』
「ええ?ちょい待って?これだけ?今日、ここに来なかったことに対しては何かないの?」
私が叫ぶと、真史お父さん達がやって来たので、携帯画面を見せた。
「何だと?!」
「嘘でしょう?」
「何ですかコレ?」
真史お父さん、由佳ママの後に呟いた児相の所員の方の呟きが的を射ていた。
本当にこの状況で堂々とこのメッセージを送ってくる神経が分からない。そして暫くこの文章の続きが送られてくるのでは?…と皆で携帯画面を見ていたが10分待っても何も送られてこなかった。
「いい加減にしなさいよっ~ふんっ!ふんっ!」
ばあちゃまが画面が割れるんじゃないか…と思うほどの指圧で携帯画面を叩き、亮暢に電話をかけた。
「なかなか出ないわ…あ、亮暢?あんた今日、約束してたわよね?え?それはそれで…関係ないでしょう?」
ばあちゃまは携帯電話の受話をスピーカー機能に切り替えた。
『…て、だからもう離婚するんだし関係ないんだからそっちで上手くやっておいてよ…』
「なっ!」
ここに居る皆が小さく悲鳴を上げた。上手くやってくれ?何を言っているのだ?
「親が離婚しようが夏鈴ちゃんの養育はあんた達が面倒見なきゃいけないだろう?」
ばあちゃまがそう言うと…スピーカーの中から溜め息が漏れた。
『夏鈴は兄貴達が連れて行っちゃったじゃないかっ…そのせいで優樹菜と上手く行かなくなったんだぞ?もう俺に嫌がらせするのがそんなに楽しいの?』
「……」
皆、驚愕で黙り込んでいる。スピーカーの中からは亮暢の熱の籠った「可哀そうな俺」なメンヘラ台詞が流され続けている。
『ずっと由佳に監視されているみたいに、慰謝料の支払いも急かされるし…俺のことそんなにしてまで追い詰めたいの?俺に執着してさ…そんなに…』
私は我慢仕切れずに、ばあちゃまの携帯に向かって大声で怒鳴った。
「あんたのことなんて米粒ほども興味ないよっ!夏鈴ちゃんは私達が立派に育ててみせるから二度と現れるな!」
『誰?…由佳か?あのさ、いい加減に…』
「麻里香だよっ!いい加減にするのはお前の方だ!二度とかけてくるんじゃないよ!ばーか!」
私はばあちゃまの携帯電話を取り上げると電話を切った。
「麻里香…」
由佳ママが茫然としたまま私の名前を呼んだ。私は半泣きになりながら篠崎家の面々を見た。
「私は二度とコイツに関わりたくない…二度と会いたくない」
由佳ママが近づいて来て私を抱き締めてくれた。涙が零れる。こんな悔しくって悲しいことを子供から大人に伝えなきゃならないのか…。
「もうあいつは家族じゃないから…」
私が呟くとばあちゃまも私を抱き締めてくれた。
児相の所員さん達は帰って行かれた。帰り際女性所員の方が小声で私に言った。
「夏鈴ちゃんのことお願いしますね」
胸が熱くなった…。はい、全力で子育てします!
私が泣いていたからか、夏鈴ちゃんも彩香もずっと号泣していた。翔真と海斗先輩の2人がずっと面倒を見てくれていた。
皆が帰る時に私は海斗先輩と帰るから…と亮暢のアパートに海斗先輩と2人で残った。
「今日はお見苦しい所をお見せして失礼しました」
「よせよ、堅苦しいのは~あれは亮暢が良くない…良くない所か害悪だな。先ほど、おばあ様の携帯が亮暢と繋がった時に、電波に乗せて探査と追尾魔法を入れておいた。麻里香は関わりたくないと言ったが、居場所は確認している。あいつが近づいて来ないようにする為に逆に、あいつの居場所を確認しなければならない、分かるな」
「はい」
海斗先輩は深く溜め息をついた。
「あれは…亮暢は何かしらの病気ではあるが、魔力の…腐黒病の影響もあるかもしれんな…」
「私もそうだと思います」
海斗先輩の顔を見上げた。
「俺は腐黒病の知識が無いので確かなことは言えんが、腐黒病とは伝染病の類ではないのだろうか?」
海斗先輩の言葉にギョッとするが…確かに言われてみれば優樹菜のお腹の黒いモヤも日に日に黒くなっている気がする。
「まさかとは思うが亮暢から優樹菜に伝染ったのではないかな?」
「そう…ですね、でもそれでしたら由佳ママが伝染っていないのが不思議ですし…因みに、亮暢は10年以上前からお腹は黒かったですよ?」
私がそう答えると海斗先輩は首を捻っている。
「だったら伝染病ではないのかな?魔力が腐る…という病なのだろうから、人間の何に影響を与えているのだろうか?どこかに異常をきたす病なのかな…」
海斗先輩はブツブツと呟いている。
私はどう考えても魔力が腐って精神に影響を与えていると思いますけどね!と、心の中で叫んでいた。
後日、亮暢の住まいは掃除するのは兎も角、まずゴミを片付けねば…ということで、部屋の物を不用品回収業者に任せることにした。
そのお知らせだけでも…とばあちゃまがこういう状況なのでゴミを片付けますね~と優樹菜のご実家に連絡を入れると、向こうのお母さんとお兄さんが2人してばあちゃまの所へご挨拶に来たらしい。
「ずっと謝られていたし…こっちが見てて辛かったわ…」
ばあちゃまは悲しそうな顔でそう言って、由佳ママに封筒を渡していた。向こうのお母さんは部屋のゴミの処分代も渡して帰られたらしい。それも結構な額を…。私にはこれで私達は今後一切関知しませんよ、という優樹菜のお母さん達からのアピールに思えた。
さて、亮暢の部屋のゴミを処分し、私達が滞納分の家賃と光熱費も払い、全ての事務手続きを終わらせてやっと正式に夏鈴ちゃんを我が家に迎えることになりました。
すると海斗先輩が夏の終わりの最終週に北海道に行こう!と再び言い出した。
この夏は亮暢に振り回されてピリピリしがちだった篠崎家のメンバーは大喜びだった。そして…北海道旅行当日…。
「きゃああ、麻里香ちゃんの妹ちゃん達も可愛いわ!」
「ママ写真だー!早く早く!」
嘘だろ……。
北海道旅行…連れて行ってくれるのは楽しみだったんだけど、まさかの海斗ママンとパパンが一緒についてくるの?
某国内線ターミナルのVIPルームで海斗パパンによる撮影会?が行われている。被写体は夏鈴ちゃんと彩香だ。海斗パパンは一眼レフを構えている。
「すまんな…前の無人島は学校行事だから、と同行を拒否出来たけれど…」
真史お父さんと由佳ママは海斗ママンとパパンの迫力に押されている。そして実はもう1人…。
「うわっ紫陽花と少女の写真の子じゃん!」
嘘だろう…いや嘘だと言ってくれ。
「海斗先輩…」
「すまん」
「謝らなくてもいいのですが、海斗先輩にそっくりですね」
「おいおいっ海斗が俺に似てるのよ?俺がお兄ちゃんだしね」
「はあ…」
そう…海斗ママンとパパンだけでも圧が凄いのに、今日は海斗先輩のお兄さん、某国立大在学の大学二年生の隼人さんも来ているのだ。外見は恐ろしいほど海斗先輩とそっくりです。流石兄弟ですね。しかも隼人さんは真史お父さんと同じ学科の年は違えど大学の先輩と後輩ということで、朝から「真史先輩!」と隼人さんがずっと呼んでいる。
はっきり言って史上最強に暑苦しい兄だ。しかも私が海斗先輩が幼少の頃からストーカーをしていた少女だと分かった途端、海斗先輩とご自分と私に関する昔話を延々と聞かせてくるのだ。
誰だコイツを呼んだのは!……私の彼氏か、がっくり…。
栃澤ファミリーは最高にうざかったが
北海道は魚介丼が最高に美味でした。栃澤家所有の別荘で見る星空はまさに星が降ってくるように見えていました。あんなに流れ星って見えるのですね。
そして夏休み最後の日
海斗先輩と姿隠しの魔法を使い、メンヘラ亮暢の様子を見に行った。
メンヘラは辛うじて仕事はちゃんと行っているようだ。ただ顔色が悪い。そして前は首の辺りまで黒いモヤのような魔質が見えていたのが、今は胸の辺りだけが濃く黒くなっていた。
「あの…海斗先輩はあの黒い魔質、見えてます?」
「ああ、以前見かけた時は首の辺りまで黒ずんでいたな。今日は胸だけがやけに濃いな…あれは黒ずみが縮小した…とみていいのか?それとも腐黒病が治ってきているのか?分からんな…。」
本当ですね。亮暢の体の胴体部分に充満していたあの黒い魔質は今は胸のちょうど心臓辺りにしか見えない。規模が小さくなっているので…良い傾向なのか、悪い傾向なのか…。
その魔質の縮小の答えは夏休み明けの2週間が過ぎた時に分かった。
ばあちゃまから篠崎家に一斉送信でメッセージが送られてきた。
『今日ムカつくから亮暢の私物を捨ててやろうかと、あの子の部屋の服とか本とか片付けてたら、健康診断の診断結果とかいう封筒が出て来たのよ。中を見たら17年前くらい前で、診察結果に心電図に異常あり、要検査とか書いてあるんだけど…真史か由佳さん何か知っている?』
と、あった。心電図に異常…ということは心臓の病気の疑いありだったってこと?
由佳ママと真史お父さんから暫くしてから『知らない』の返事がきていた。もしかして亮暢もそのまま放置しているのかもしれないよね。17年前か…亮暢と由佳ママが結婚したか、しないかくらいの時だよね。
ちょっと気になったので海斗先輩にメッセージを送っておいた。
『魔質が黒く濁るのと…病気か、優樹菜と…あの真史さんの会社の厚かましい女も腹が黒かったな。彼女らも何か病の兆候があるのかもしれんな』
本当だ、真史お父さんの会社の赤リップのお嬢様。あの子もお腹が黒かった…。
その日の放課後、商店街のパン屋のバイトに向かっていると公園の入口近くで、以前転んだ時に助けてくれたお姉さんと犬のマリオちゃんがいた。
「お姉さん、マリオちゃん」
と言いながら近づくと、マリオちゃんが激しく尻尾を振って駆け寄ってきた。
「あっ~この間転んでた子ね…ってあれ?その制服…高校生だったの?てっきり小学生だと思ってた~!ごめんね」
「くう~ん」
そうですか…確かに私は小柄だし…顔は童顔なほうだと思いますけど、まさか小学生に間違えられているとは。何気にショックです。
「可愛い制服ね?どこの学校?」
「シュアリリス学園です」
と私が言うとおねえさんは、ええ!と驚きの声を上げた。
「うわ~お金持ちのお嬢様なの?」
「ああ、違います!奨学金で…」
と話をしながらお姉さんと商店街近くまで行った時に、マリオちゃんが覗き込んだ路地を私も何となく見て、緊張した。路地にいる誰か…それは!
私が覗き込んだことに気が付いた誰かが路地から飛び出して来た。
作業服を着た男性。工事現場の作業員…に見えた。だが私は魔質が見える。その作業員の男は足早に去って行こうとした。私はマリオちゃんの横に立って大声で叫んだ。間違いないこの男は…。
「この人痴漢です!」
そこからは大騒ぎだった。以前、お姉さんと鉢合わせた時にこの男につけられていたと説明し、商店街にいた大人が逃げようとするその男を捕まえた。通報を受けて駆け付けた警察官に、以前この男に追いかけられたことと、その時に顔を見たということと(正確には魔質だが)以前は黄色のパーカーを着ていたなどを説明した。
その日のパン屋のバイトには少し遅刻はしたが、私はその日から商店街のちょっとした有名人になった。
真史お父さんには痴漢にあったことを言わなかったことを怒られはしたものの、目撃し痴漢逮捕に貢献したことはお褒め頂いた。
海斗先輩にも怒られた。女性二人と犬だけの時に犯人と対峙してどうするんだ!とか散々詰られた。確かに今思えばコッソリ後をつけたりして、犯人の身元を特定してから捕まえたりも出来たよね。
因みに
犯人逮捕に貢献したとかで、警察から感謝状を頂くことになり、地方新聞の地域版に私とマリオちゃんの写真が掲載されることになった。
真史お父さんはその新聞をスクラップしていた。
そして何故だか感謝状を受け取り行った時に、栃澤ファミリーが警察署で待ち構えていた。品の良さそうな紳士が新聞記者さんに混じって一眼レフを構える違和感…。
悪目立ちし過ぎてるぜ、海斗パパン。
そんな地元のちょっとしたヒーローになっていた私の所に、アレが再び近づいて来るなんてその時は想像もしていなかったのだった…。




