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八つ当たり

暗い話の回になっております。

変態も鳴りを潜めております。


11/5人名を間違えていました。修正しております

私は亮暢の隣の部屋の204号室の住人の方、若いお母さんと赤ちゃんだった…に自分のシュアリリス学園の生徒手帳を見せて、ばあちゃまのペーパーなドライバー免許証を見せてもらって、親戚だということをアピールして話を聞いてもらえることに成功した。


やはり子供と老人という組み合わせで、見た目にも信用して頂けたのが大きいと思う。


「隣の篠崎さんね…私、ご主人にほとんどお会いしたことないんですよ?」


立ち話もなんだからとお隣(鈴木さん)はお部屋に入れてくれた。悠真は鈴木さん家の赤ちゃん、瑠雨(るう)ちゃんと遊んでくれている。


うちのクールボーイは気が利くよ。また目頭が熱いわ…。


「私は亮暢のお嫁さんに会ったことないのよね?あ、それはね亮暢とケンカしちゃってね~今日は長い冷戦状態に終わりを告げようと、兄の子達と一緒にご挨拶に伺ったんですよ」


すげー…ばあちゃまは鈴木ママに、合いの手を入れさせる隙を与えない喋りを展開している。聞かれる前に話しているね。


「そうなんですか…」


「でね、今日来てみたら…孫のあらやだ!名前聞いてなかったわ、あの子が1人で留守番しているって言うじゃないの~?ほら、ニュースにもなってて、エクエクト?だったけ…」


「ネグレクト」


翔真がまた訂正してあげている。


「そうそう、そのネグネグトみたいじゃないのよぉ~ねえ?息子の亮暢に連絡入れたら仕事中だかなんだか知らないけど、電話切っちゃうし~」


鈴木ママは大きな溜め息をついた。


「実は…私も気になっていたんですよ。夏鈴ちゃんって言うんですけど…最近お母さんも夜?に帰ってくるみたいだし日中1人なんじゃないかって…でも、そのことをわざわざ聞くのも変でしょう?ネグレクトを疑っているみたいだと思われるのもイヤだし」


ばあちゃまはそうよねぇ~と相槌を入れて鈴木ママと頷き合っている。


私の携帯電話が震える。海斗先輩からメッセージだ。


『この子どうやら、風呂も入っていなさそうだ、結構臭うぞ。食事も食べているのかも怪しいな…』


血の気が引く。こんな暑い中、不衛生にしていて病気になったらどうするんだ?!


「ばあちゃま、なんとか夏鈴ちゃんを説得して中に入れてもらおうよ。もしかしたらお昼ご飯も食べてないんじゃない?こんな暑いのに熱中症になっちゃうよ」


私がばあちゃまに言うと、ばあちゃまと鈴木ママは顔を歪めた。


「そうだね、ホントだよ!」


「わ、私…顔見知りだし夏鈴ちゃんに声がけしてみます。私が居たら開けて中に入れてくれるかも…」


大人達がイソイソと動き出したので、私達も後に続く。まずは鈴木ママがインターホンを押した。


「夏鈴ちゃんいるのかな?隣の鈴木です」


するとすぐに玄関先に夏鈴ちゃんが顔を出した。そして私達がいるので、また扉を閉めようとしたが…んん?目に見えない何かが扉を押さえている。


間違いない!海斗先輩だ…。鈴木ママとばあちゃまは夏鈴ちゃんの顔を覗き込んだ。


「夏鈴ちゃんご飯食べてる?おばちゃん家に行こうか?」


「ママに怒られる…」


「大丈夫だよ。バアバが言ってあげるから、そうだお菓子買ってきたんだよ?食べるかい?」


夏鈴ちゃんは目を見開いた。暫く迷っていたようだが、ゆっくりと頷いて中に入れてくれた。


「臭いね」


「本当だわ」


私達はすぐに、部屋の窓を開けようとしたが部屋の中は本当にゴミ屋敷だった。ばあちゃまが玄関先で戸惑っている鈴木ママに声をかけた。


「鈴木さんは赤ちゃんと外にいなさいな。不衛生な所に赤ん坊は連れて入っちゃダメよ」


私とばあちゃまは仕方なくゴミを踏みながら窓を開けていった。部屋の冷房は取り敢えず動いていたのでそのまま動かしておいた。


「台所きたねぇ!」


翔真が台所で換気扇を回している。私もキッチンに行ってみた。洗い物や生ごみ…何か腐っているのかすごい臭いと…ハエや言いたくないけど黒い悪魔がいそうだった。


「麻里ちゃん、部屋でまず一か所綺麗な所を作ろう。そこに子供達を置いておこう」


「よしっそうしよう」


私とばあちゃまは窓際のソファをまず片付けた。洗濯物か汚れ物か分からないものを横にのけて、床に落ちていたタオルを雑巾として使う。ソファを雑巾で水拭きしながらこっそりとソファに浄化魔法を使った。


「夏鈴ちゃんはここに座ってて、悠真、このお菓子を夏鈴ちゃんに食べさせてあげてね。新しい飲み物はここにあるから」


私は魔法で水魔法を使えるので口の中は自力で潤せる。私が持って来ていた未開封のスポーツドリンクを魔法で冷たくして夏鈴ちゃんに差し出した。


「つめたい…」


「口を開けるね、はい飲んでね」


夏鈴ちゃんは喉が渇いていたのだろう。ぐいぐい飲んでいる。


私は玄関先でオロオロしている鈴木ママの所へ行った。


「取り敢えず、私達で亮暢か奥さんが帰って来るまで待っていることにします。部屋も掃除しますので」


「そう…そうね。そうだ、ゴミ袋持って来てあげるね」


鈴木ママはそう言ってゴミ袋を持って来てくれた。優しい人だ。


「ありがとうございます。改めてお礼に伺います」


と、ばあちゃまが腰を折って深くお辞儀をしてる。私も頭を下げた。鈴木ママは、困ったことがあったらお声かけ下さいねと何度も言いながら隣に帰って言った。


私の携帯電話が鳴った。


『一応各部屋に浄化魔法を使っておいた。媒介する病原菌はいなくなったと思う』


良かった…たまには背後霊(元旦那)も役に立つ…。


悠真は夏鈴ちゃんにフィナンシェをあげていた。うん、綺麗な癒しの魔力をお菓子から感じる。夏鈴ちゃんが一口食べる度に体の中の魔力の巡りが綺麗になっていく。


「このおかし、おいしい」


「だよね、僕もここのクッキー大好きなんだ」


ちびっ子のやり取りにほんわかする。そしてずっとほんわかしてはいられない。


私とばあちゃまは床に溜まった明らかにゴミだと思うものを、ゴミ袋に入れていった。そして服や洗濯物?も取り敢えずは畳んでおこうと翔真も一緒になって畳んでいった。なんとかリビングは床が見え始めた。


「どれ、キッチン片付けようか?」


ばあちゃまが立ち上がったので私は翔真に声をかけた。


「翔真、お風呂場見て来てくれる?もしお掃除出来そうなら、綺麗にして夏鈴ちゃんお風呂に入れてあげたいから」


翔真がハッとして、お菓子を食べている夏鈴ちゃんをチラチラ見ながらこちらに来た。


「もしかしてさ、あの子風呂も何日も入ってない感じ?」


「…だと思う」


翔真は無言で頷くとお風呂を見に行ってくれた。そしてダッシュで戻って来た。


「風呂もきたねぇから俺が洗っとくよ。綺麗に出来たら呼ぶから」


ああ、うちの兄弟は本当にいい子に育ったわ…。


ばあちゃまと生ごみをゴミ袋に入れていく。必死で浄化魔法をかけながら掃除をしていった。もし黒い悪魔が出て来たら、あの魔法を使おうとぴりぴりしていたが、今のところは出ていない。


「風呂洗えたよ~」


「はい、ありがと!夏鈴ちゃんお風呂入ってさっぱりしようか」


翔真に返事をしてから、私は拾ったバスタオルに浄化魔法をかけながら夏鈴ちゃんを促した。夏鈴ちゃんはもう私達に慣れてきてくれたのか、一緒にお風呂場まで来てくれた。お風呂場に行く廊下も物で溢れかえっていたので、翔真が私が抱え上げた夏鈴ちゃんを受け取って脱衣所に連れて行ってくれた。


私はゴミの山を掻き分けて脱衣所に入ると、夏鈴ちゃんのワンピースを脱がせた。翔真がチラッと夏鈴ちゃんの背中を見てからホッと息を吐いていた。


「良かった、殴られたりしてねぇな」


やっぱり翔真も気になってたんだ。私も虐待でもされているじゃないかと思っていたけど、そこは大丈夫なようだ。


「俺、この廊下のゴミ片付けとくわ」


「頼んだ」


私は夏鈴ちゃんをお風呂場に入れると頭を洗ってあげて、体も洗って上げた。石鹸類は腐ったりはしていないはずだ。シャワーを体に当ててあげると夏鈴ちゃんは笑ってくれた。


「気持ちいい」


「良かった~さっぱりしたね」


夏鈴ちゃんの体を拭いてあげた。やっぱりさ、夏鈴ちゃん体細いよね。ちゃんと食べてるんだろうか…。


翔真が廊下に通路?を作ってくれていたので、物の隙間を縫って歩いてリビングに戻った。ばあちゃまはシンク周りの掃除をしてくれていた。


「麻里ちゃんがいないあいだにアレが出てさ」


私は飛び上がった。く、黒い悪魔の事か?!そうなのかっ?ばあちゃま!


「僕が退治しておいた」


クールボーイ悠真がサムズアップをしてくれた。偉いぞっ悠真!


台所周りを片付けてゴミをベランダに出して、皆は綺麗にしたソファに座って一息ついた。


「しかし汚い家だね…亮暢は何してんだいっ」


「亮暢ってそんなに小汚くしているイメージはないけど?」


「俺覚えてないわ…」


ばあちゃま、私、翔真の顔をキョロキョロと見た後に、夏鈴ちゃんが小さい声でばあちゃまに話しかけた。


「おばーちゃん…あのね」


「うん?何だい?」


「パパは前はお片づけ…してくれてたよ?よくママに怒ってた…キレイにしろ…とかそうじしろ…とか。でもママしたくないんだって…」


おおぅ…亮暢の嫁がゴミ屋敷の発生元か…。しかし前は…てことは最近は亮暢も注意しなくなってたのかな…。


ばあちゃまは再び携帯電話を取り出した。


「ちょっと亮暢に早く帰って来るように言っておこうかね」


ばあちゃまが電話をかけた。するとそれと同時ぐらいに私の携帯電話が鳴った。海斗先輩だ。


『今、亮暢の会社まで行ってみた。仕事には出ているようだ。今は外回りに出て留守だ。そっちはどうだ?』


海斗先輩は刑事のような鋭い動きをしている。背後霊なんて思ってごめんね。役に立ってるよ。


「亮暢の奴、また電話に出ないね?またブロックとかしてくるんじゃないだろうね?」


ばあちゃまがかなりイライラしております。私は部屋を片付けて夏鈴ちゃんをお風呂に入れて今、皆で休憩している、と先輩にメッセージを送った。すると…


『分かった、後で差し入れを持って行く。着いたら連絡する』


ナキート殿下…元旦那は気が利くな~粘着ストーカーだけど優しいのは優しいんだよね。


「しかし困ったね~亮暢はまあ、仕事があるから帰ってくるのは夜だとしても…あ、嫁さん働いてるのかもね。夏鈴ちゃん、ママ…お仕事に行ってるのかな?分かる?」


夏鈴ちゃんは小さく頷いて、「パートって言ってた」と答えた。


「じゃあ日中誰もいないのは分かるけど、それこそさ、うちのばーちゃんか、え~と奥さんのお母さんに頼めないのかな?」


翔真の提案に皆がうんうんと頷く。


「うちは兎も角、お嫁さんのご実家はどうなんだろうね?よそ様のお宅に踏み込んで干渉するのもいけないしね」


すごいね、ばあちゃまの考え方。息子の家だけど、一線を引いてるっていうか…そうか元々がそうだもんね。今だって基本はばあちゃまからは踏み込んで言ってこないもんね。


「取り敢えずもう少し待つことで、片付けしておこうか…」


ばあちゃまはそう言ってキッチンに行ったので、私もついていった。夏鈴ちゃんもついてくる。


「怖くてまだ見てないんだけど、冷蔵庫開けて見ようか?」


私はばあちゃまに無言で頷いた。たあーっと言ってばあちゃまは冷蔵庫を開けた。


「ちょっと酸っぱい臭いがするね…。ぎゃ…生肉黒くなってるよ」


「それは捨てよう!」


私が受け取るとゴミ袋に入れた。そうやって夏鈴ちゃんにも聞きつつゴミを片付けていると、携帯電話が鳴った。


『今、甲本を使いにやったから、もう少ししたら行く』


甲本…と言えば栃澤家の執事だか侍従だかのロマンスなグレーのオジサマではないか。そうして10分少々して、インターホンが来客を告げた。


おお、確かにロマンスなグレーの甲本さんの魔質だ。私はドアを開けた。


「お久しぶりでございます、麻里香様」


ロマンスなグレーは45度の綺麗なお辞儀をしてご挨拶された。


「こちら海斗坊ちゃまからの差し入れで御座います」


と、廊下に置かれた台車の上に綺麗な風呂敷包みが置かれていた。


「あらまあ、どちら様?」


「あ、ばあちゃま…えっと海斗先輩のお家の執事の甲本さん」


「執事?!」


ばあちゃまと翔真の叫び声が重なった。ロマンスなグレーの甲本さんは穏やかな笑みを浮かべたまま「失礼いたします。」と断りを入れてその風呂敷を持ち上げて、ソファの前のローテーブルの上に置いてくれた。


「お召し上がりくださいませ、では失礼致します」


ロマンスなグレーの甲本さんが颯爽といなくなった後に、震える手で風呂敷を解くと風呂敷の中にはお寿司の折が入っていた!しかも折に巻かれている包装紙が私でも知っている有名なお寿司屋さんのロゴだった!


「ぎゃあ!〇座の〇〇〇だよっ!」


ばあちゃまが歓喜の悲鳴をあげた。私は折の蓋を開けた。うおぅ…海老がこれでもか!と踊り回っている握り寿司だ…。しかしちびっ子達がこんなこってりした大トロとか食べれるのだろうか…。


「やったーー!」


翔真も歓喜の悲鳴を上げている。あ、棒状の…巻きずしもあるね。これなら悠真も夏鈴ちゃんも食べやすいかな?


お寿司は大変美味しゅうございました…。流石、高級寿司。


夏鈴ちゃんはお寿司も食べてさすがに疲れたのかウトウトし始めた。どうしよう…。


「ソファに寝かせておいてあげようよ。私らもいつまでも居座っても仕方ないから、お暇しよう。私が嫁の立場だったらね、こうやって姑が家に踏み込んでくることを最も嫌うだろうしね」


私達は寿司折のゴミを片付けて、夏鈴ちゃんをソファに寝かせて体にバスタオルをかけると、ソッと家を出た。


「お隣の鈴木さんに声かけてから帰ろうか」


「そうだね」


私達は寿司折の残りを持って204号室を訪ねた。


鈴木ママは寿司折を見て頬を染めていた。あ、ご主人が帰っているのね。ご主人は頭を下げてご挨拶をした後に、声を落として話し出した。


「夏鈴ちゃん大丈夫でしたか?いつも1人なんですよね…。口を挿める問題じゃないのは分かっているんですが…心配で…」


鈴木さんのご主人も良い人だ…。するとばあちゃまがはっきりとした声で言った。


「大丈夫ですよ、今度からは私も口を挿みますから。日中面倒みれないっていうなら私が預かるよ。幸い、じいちゃんも元気だしね。夏休みの間は悠真もいるだろ?大丈夫だよね?」


ばあちゃまは悠真を見下ろした。悠真は笑顔になると大きく頷いた。


「僕も彩香も和真もいるよ!皆で遊べばいいんだ」


と、大人達がホッと安心した時に、鈴木さんが、あっ!と声を上げた。


「篠崎さん…」


私達は一斉にそちらを見た。階段を上がってくる女性…。ああ、やっぱり前にショッピングモールで見た女の人とは違う。ばあちゃまも翔真も悠真も絶句している。私はいち早く動いた。


「初めまして、いきなり大人数で押しかけてごめんなさい。篠崎麻里香と申します」


私は鈴木さんのご主人に目配せをした。鈴木さんのご主人は小さく頷くと頭を下げて中へ戻られた。賢くて敏い方だ。


「え…あの、もしかして…」


階段を上がって来た亮暢の嫁、旧姓多部優樹菜さんは細身のちょっと気のきつそうな雰囲気の人だった。


「私、亮暢の母親の操よ。留守の時に申し訳ないけど夏鈴ちゃんに中に入れてもらっていたのよ」


ばあちゃまがそう言った途端、優樹菜さん(仮)は顔色を変えた。乱暴にドアを開けると、自分の家の中に走り込んでいた。


「夏鈴っ…あんたなんで中に入れたのよっ!」


ああ…もっともいけないパターンだった!夏鈴ちゃんに当たるなんて…。ばあちゃまは玄関先から優樹菜さんに声をかけた。


「夏鈴ちゃんを怒らないであげて!私達が入れてくれと頼んだんだよ」


優樹菜さんは家の中を見回して、カッと目を見開いてばあちゃまに怒鳴った。


「勝手に家の中を触らないでくれますかっ?!」


やばい…どうしよう。と思っていたら翔真がばあちゃまを押しのけて玄関口に走り寄ると怒鳴った。


「あんた親だろう?!どうして独りぼっちにさせるんだよっ!風呂くらい入れてやれよ!」


私とばあちゃまが翔真を押さえた。


「翔真っ…」


分かってるっ分かってるんだよ…。翔真の言っていることは正しい。正しいからこそ、大人は指摘されると…。


優樹菜さんはワナワナと震えるとその辺りに置いてあったものを掴むと、こちらに投げてきた。


「煩いっ!煩いっ!」


夏鈴ちゃんがソファの上で飛び起きて、暴れる母親を唖然として見ている。


優樹菜さんは何かを口から出している…ああ!


黒い魔力だ…‼優樹菜さんもまた黒い魔力をお腹に溜めている?!


「ふざけるなっ!お前らに何が分かるんだよ!なんで私だけ言われるんだよっ!」


優樹菜さんはローテーブルの横に置いていたテレビのリモコンを投げつけてきた。


ばあちゃんが翔真をかばった。ガツッ…と鈍い音がしてリモコンがばあちゃまの頭に当たった。私は半泣きになりながら魔物理防御障壁を張った。


忘れてた…海斗先輩に部屋に入る時は魔物理防御を張るように言われていたんだった。海斗先輩はこうなる可能性を考えていたんだ。


「ばあちゃん…ばあちゃん…」


「大丈夫だっ…悠真は後ろに下がってなさい、麻里ちゃん!」


「はいっ!悠真っ…」


私は悠真を抱き抱えると、部屋の前の廊下の壁際に移動した。


「マリカ…あの人なんで怒ってるの?」


こんな時でもクールボーイは落ち着いている。


「翔真みたいな子供にね、本当の事を言われると…大人って恥ずかしくて悔しいのよ。つまり、八つ当たりしてるのね」


「ママに八つ当たりはしちゃダメなことだって言われてるよ?」


「そうだね…」


すると204号室のドアが開き、鈴木さんのご主人が走って出て来て、私達をかばうようにしてご自分の部屋まで連れて来てくれた。鈴木ママは真っ青な顔で部屋の中で立っていた。


「大丈夫だった?怪我はない?」


「そ…祖母にリモコンが当たってたけれど…」


「!」


鈴木さんのご主人が顔色を変えた。鈴木ママは何度も頷きながら悠真の手を摩ってくれている。私は意を決すると外に飛び出した。


「マリカッ!」


悠真が叫んだけど急いで隣の203号室に戻る。私が助けないで誰が助けるんだ!


翔真とばあちゃまは玄関先でうずくまっていた。


「あんたのせいで…あんたのせいでっあたしが恥をかいただろう!」


優樹菜さんはテーブルの上に置いていたケトルを夏鈴ちゃんに投げつけようとしていた!私は土足のまま走り込んだ。間に合えっっ!


夏鈴ちゃんを抱き抱えて魔物理防御障壁を張った。


ケトルが激しく振り下ろされた時に私の前に…海斗先輩の背中が見えた。


バンッ…という衝撃音がした。ケトルが壁際に吹っ飛んでいた。


「小さな子供に向かって何をしているんだ…」


海斗先輩の地を這うような低い声が聞こえた。優樹菜さんは黒い魔力をガバッと口から吐き出しながら、物凄い形相で夏鈴ちゃんを睨んでいた。


「あんたが…あんたが生まれなかったら私は幸せになれたのよっ!」


「止めてっ!」


最後の台詞まで夏鈴ちゃんに聞かれたくなかった。思わず叫んで夏鈴ちゃんを抱え込んだ。


優樹菜さんは手当たり次第にものを部屋中に投げ散らかすと、外に走り出た。


海斗先輩が追いかけようとしたけれど、止めたようだ。


「麻里香、怪我は無いか?」


海斗先輩の声に顔を上げると心配そうな表情をした海斗先輩の顔があった。


視界が揺らぐ…海斗先輩に夏鈴ちゃんごと抱き締められた。


「もう大丈夫だから、大丈夫だから。」


私は海斗先輩の腕の中で泣き出した。


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