うしろにいるよ…
夏の終わりのほんのりホラー回です。
嘘です^^;いつもどおりです。
宜しくお願いします
終業式の二日後、ばあちゃまから連絡があった。
『亮暢の突撃は明後日決行。行ける?』
『了解!』
私はすぐに栃澤海斗先輩にもメッセージを送った。日にち、時間…。すぐに返事は来た。
『了解した。部屋に踏み込む際は必ず、皆に魔物理防御障壁を張るように』
「御意。…ふぅ…ん?返信?何だろ?」
『愛している』
「ぐはああっ!」
もうこの元国王様は何でこんなに甘いのかな!
「おっといけない、バイトの時間だ」
夏休みはバイトも多めに入れているのだ。手早く外出の準備を整えると階下に降りて行った。
「悠真~明後日にばあちゃまがお出かけするって、大丈夫?」
彩香と和真の画用紙のお絵かきを監督?していた悠真はチラリと私を見て「行ける。」とだけ呟いた。
「菓子折りとか持って行ったほうがいいかな?」
テーブルに座ってもやしのひげを取っている由佳ママが小首を傾げている。いや~?そんなのいるかな?由佳ママの吞気な提案に…いや待てよ?と思い至った。
「そうだね、ご挨拶に手を抜いているとまた、亮暢が僻んで難癖つけてくるかもしれないし…。ああ、でもデパートの高級お菓子は上から目線になっちゃう?うちのご近所さんなら嫌味じゃないかな?ああっ!学園の近くの洋菓子店のお菓子にしようかな?」
「麻里香に任せるわ…」
と由佳ママに言われたので、シュアリリス学園近くの癒しの魔術師のおじさんの洋菓子店のお菓子にすることにした。癒しの術師だし、亮暢のお腹の真っ黒にも効くかもしれないしね。
「よーし任された!」
私は由佳ママから菓子折りの購入代を預かると家を出た。
そしていつものように電車に乗って一駅先の昔住んでいた地域の駅に着き、バイト先のパン屋『シェフェレーゼ』を目指す。そして商店街の入口に歩いて来た時に、入口付近に立ててある『痴漢注意!』の看板に目が行った。
そう言えば…小学生の女の子を追いかけた変質者、捕まってないよね?怖いなぁ。
今日は夏休みなのでお昼から夕方までバイトに入らせてもらっている。バイト終わりにあのケーキ屋さんに行こうかな?
そしてなかなか忙しかったバイトが終わり、私はいつも通りにパン屋を出た。
まだ日が高い…夏だな~。おおぅ和菓子屋さんがかき氷出してるぞ!と…店内をチラチラ覗きつつ、商店街から離れた。そして駅に向かう道すがらの公園の入口に差し掛かる辺りで気が付いた。
後をつけられてる…。
急がず、わざとゆっくりと歩いてみる。公園の横を歩きながら探査魔法を使った。間違いない…誰か確実について来ている。
亮暢か?いやまさか、今日は思いっきり平日だ。私は立ち止まった。つけて来る誰かも立ち止まる。心臓がバクバク鳴っている。
ショルダーバッグから携帯電話を取り出した。手がブルブルと震えている。つけている人が急に近づいて来た。私は走った!すると後ろの誰かもついて来る…?!
どうしようっ?!知らない魔質だ…!走りながら携帯電話で通話をしようとしたら、何かに蹴躓いて転んだ。転んだ拍子に腕を打ち付けた。咄嗟のことで魔力が練れない!おまけに転んだ拍子に携帯電話が前の方に飛んで行ってしまった。
急いで後ろを見た。頭からすっぽりとフードを被った黄色のパーカーの背の高い男が立っている。時間にして1,2秒のことだろうが、何時間も睨みあっている気がした。
ジリッと男が動いた。
その時、私の携帯電話が派手に着信音を知らせてきた。すると公園の中からお姉さんがひょいと出てきて、地面に座り込んだ私を見て
「どうされました?」
と聞いてきた。フードの男はくるりと向きを変えるとお姉さんが公園から完全に出て、こちらに近づいて来る頃には反対の路地に逃げ込んで見えなくなっていた。
「転んだの?大丈夫?」
お姉さんが携帯電話を拾って私の所まで持って来てくれた。
た、助かったっ…。
お姉さんの連れている割と大きな犬?雑種かな?が私の転んだ時に出来た擦り傷の所に鼻先を近づけて、キューン…と小さく鳴いている。
「あぁ腕から血が出てるよ?立てる?公園の水道で洗ったほうがいいよ」
と、言って手を差し出してくれた。連れている犬も私の体にぴったりとくっついてくれる。
「うちのマリオも心配しているよ~」
この白くて大きなわんちゃんはマリオちゃんというのか。私の体がまだ恐怖で震えているのをマリオちゃんは察してくれているようで、私の体を支えるように介助してくれている。
私はお姉さんとマリオちゃんに支えられて公園の中に入ると水道で腕の傷を洗った。
「イタタ…」
あ、そうだ電話…。携帯電話は画面は割れずに無事だった。不在着信が一件…するとまた電話が鳴りだした。
海斗先輩だ!
「海斗先輩…」
『今どこだ?商店街の入口付近にいないから…』
「今、公園の中です。転んでしまって、お姉さんに助けて頂いて…」
『なっ…!』
という短い叫びの後に…公園の中に物凄い勢いで海斗先輩が走り込んで来た。
マリオちゃんが急に飛び込んで来た海斗先輩に恐怖したのか、めっちゃ吠えている。
「大丈夫かっ?!」
マリオちゃんの飼い主のお姉さんは急に現れた海斗先輩を見て固まっている。驚かせて済みません…。
「麻里香を助けて頂いて、ありがとうございます」
お姉さんは見た目だけは良い海斗先輩に見詰められて、真っ赤になっていた。
「いえいえいえ~っホラ、マリオ…もう行こうか~じゃあお大事にね」
「はい、助けて頂いてありがとうございました。マリオちゃんもありがとう」
私がマリオちゃんに顔を近づけるとマリオちゃんは小さく鳴きながら私の差し出した手に頬を摺り寄せてくれた。海斗先輩とお姉さんとマリオちゃんが見えなくなるまで2人で見送った。
「麻里香…」
海斗先輩の声は硬い。
「はい」
「魔力の巡りがおかしいな…お前が転ぶなんて、何があった?」
海斗先輩を見上げた。海斗先輩は怖い顔をして私を見下ろしていた。
「知らない男に後をつけられました…」
海斗先輩の魔力がガンッと上がって、まるで竜巻みたいに私達の周りを回り出した。
「何もされなかったな?大事無いな?」
海斗先輩が私を引き寄せて抱き締めた。まだ公園には散歩しているおじいさんとか犬の散歩中のおばさんとかいるので気恥ずかしいが、海斗先輩の真剣な様子に大人しく腕に抱かれていた。
「つけられただけです。私が転んでしまった時に先ほどの女性が声をかけてくれたので、その男は逃げました」
「そっか…うん。あの女性に感謝せねばな。いいかっ何かある前に絶対に俺を呼べ。分かったな?」
私は海斗先輩と手を繋いで歩き出した。こうやって手を繋いでいると段々怖さも和らいできた。
亮暢の家に突撃する時に手土産を持って行くので、今から焼き菓子を買いに行くのだ。高魔力保持者の癒し系魔力の持ち主がいる洋菓子店なのだ…とか話しながら、駅まで移動した。
駅前にある薬局で絆創膏と消毒液を買って、転んで出来た擦り傷に張った。くーっ沁みるなぁ。
傷の手当を手伝ってくれている海斗先輩の魔力も落ち着いている。そうだ、海斗先輩はこのまま一緒に行ってくれるかな?
「海斗先輩…電車に乗ります?」
海斗先輩がハッとしたように私を見た。顔が若干赤い。これは嬉しいのですね?私は自動券売機の前まで移動した。
「これが自動券売機ですよ!」
「…馬鹿にするな、それくらいニュースなどで知っている…」
逆にニュースでしか知らないんだ…!ということには触れないでおく。海斗先輩に路線図を指差しながら
「ここから二駅先の『シュアリリス学園前駅』まで切符を買います、はいっ」
と説明しながら、私は小銭を自動券売機に入れるとサッとボタンを押して券を発券した。すると海斗先輩が、ああっ!と小さく叫び声を上げた。どうしたの?
「自分で買いたい…」
初めてのおつかい状態だね。よしよし…。私はICカードを持っているんだけど、今回は海斗先輩に付き合ってあげましょ。小銭を海斗先輩に渡すと自動券売機のコイン投入口を指差した。
「ここにお金を入れて下さい。自販機と一緒ですよ~」
と説明して海斗先輩を促した。海斗先輩めっちゃ緊張してるね。今、よおっ!と先輩の背中を叩いたら、驚きすぎて暗黒魔法を発動してしまいそうだね?
海斗先輩がゆっくりとお金を投入した。すると料金ボタンのランプが点灯する。海斗先輩は素早く視線を動かした。
「ここからどうすればいいんだ?」
ふぃ~。海斗先輩の緊張が私にも伝染してきそうだよ。
「シュアリリス学園前駅までは280円ですので280と書いてあるボタンを押して下さい」
海斗先輩はゆっくりとボタンを押した。ガチャン…と音がして券売機から切符とお釣りが吐き出された。
「買えた…」
「はい、買えましたね、切符とお釣の取り忘れにご注意下さい」
海斗先輩は切符とお釣を手に取った。すると私達の後ろで小さい拍手がおこる。振り返ると小学生くらいの女の子と保育園児くらいの姉弟かな?というくらいの二人が満面の笑顔で拍手してくれていた。
「お兄ちゃん買えたね!」
「ね!」
海斗先輩はチビッ子の前で腰に手を当てて偉そうにふんぞり返っている。
「そうか!あはは!」
やめてよ、後ろにいるお母さんが困ってるじゃないか。私は海斗先輩の腕を取ると改札口へと引っ張った。
「ホラ、高笑いはもういいですからっ切符を改札に通してみましょう。私が手本をしますね。この差し込みに切符を差し入れて…」
切符が吸い込まれたと同時にガードがバーンと開いて私は改札の向こう側へと渡った。
「さ、海斗先輩も入れてみて!」
「お兄ちゃん頑張れ!」
「っれ!」
海斗先輩の後ろで先ほどの親子三人が固唾を飲んで見守っている。どういう状況だ、これ?
海斗先輩はゆっくりと切符を差し込み口に入れた。海斗先輩が思っていたより切符を吸い込む吸引力がすごかったのか、先輩は女子みたいな悲鳴を上げた。
「ひっ…!」
ガードがバーンと開いたので海斗先輩を手招きする。
「切符の読み取りが完了したのでもうこちらに入って来ても大丈夫ですよ。読み取りの終わった切符を取り忘れないで下さいね」
「切符?どこだ?」
私は指差した。海斗先輩はホッとしたように切符を抜き取ると慌てて私の側に走り込んだ。ものすごく挙動不審だ。
「お兄ちゃん出来たね!」
「やった!」
またも姉弟に拍手されて悪目立ちをしてしまう。何度も姉弟のお母さんに向けて頭を下げてしまう。お母さんも苦笑しながら頭を下げている。
海斗先輩はそれは嬉しそうに買った切符を眺めている。正にはじめてのおつかいだね。
そして海斗先輩に改札内の売店の説明をしながら移動した。立ち食いそば屋さんの前で足を止めて、食べたそうに見つめる海斗先輩を急かしてホームに上がり、電車を待つ。
私は先ほどのつけてきた男の事を思い出していた。普通の人…だとは思う。特別に魔力が多い、ということはなかった。
ただ…私自身が動転していてはっきり見ていなかったけれど、男に何か特徴はあっただろうか?
電車が来たので、そこで思考が中断された。
電車に乗って海斗先輩を促してドアの付近に立つ。何気なく窓の外を見て、商店街の入口に視線をやって気が付いた。
そうだ商店街の入口の『痴漢注意!』の看板に痴漢の特徴が書いてあった。
大柄で…黄色いパーカ―を着ていた…と。
さっきのあの男…例の痴漢じゃないのか?
「あの人…痴漢…」
ついうっかり呟いてしまって、一緒に立っていた海斗先輩がやや白い目で見られていたのを、私は知らなかった…。
★★★★★★★★★ ★★★★★★★★★
さて、亮暢の家に突撃する日がやって来た。本当に海斗先輩はついて来ているのだろうか?
『海斗先輩、どこにいます?』
すぐに返信がある。
『麻里香の真後ろだ』
怖えよ、もう一回言うよ?怖えよっ!まさに背後に立つストーカー。
「電車だとここから40分くらいかかるね~」
ばあちゃまが鞄から水筒を出してお茶を飲んでいる。私は手を繋いでいる悠真を見下ろした。
「悠真、お茶飲んでる?」
「さっき飲んだ」
悠真の顎に流れ落ちた汗をタオルで拭いてあげる。
「電車来た~。暑ちぃ~」
翔真が被っていたキャップを脱いでパタパタと扇いでいる。
ばあちゃまと孫3人+見えないストーカーは電車に乗り込んだ…はずだ。見えないから心配だな…ドアに挟まってたりしないかな?ちゃんと車両に乗れたんだろうか?
『先輩、ちゃんと電車に乗れました?』
またすぐ返信がある。
『麻里香の目の前にいる』
怖えええよ!何回も言うよ?こえええええっ!
ばあちゃまと悠真を空いている座席に座らせた。何となくだが、海斗先輩は背後にいる!後ろからハァハァと言う息遣いが聞こえてくるようだ!携帯電話がメッセージを受信する。
『後ろにいるよ…』
「ホラーかっ!」
「どうしたの?」
ばあちゃまに聞かれて、何でもない!と答えて、後ろに向かって舌打ちをする。
心強いんだか、脅かしにかかっているのかどっちなんだよ。
「そういえば、あんた達から見たら腹違いの妹か弟があっちにはいるんだよね。今更だけど、ゴメンね。麻里ちゃん達は気まずいよね。私も気まずいけどさ」
ばあちゃまがしょんぼりとして悠真の頭を撫でている。
「俺はさ、気持ち的には親戚の家に行くみたいな感覚だよ。出来れば仲良くしたいくらいだし、別に今時、親が離婚ってそんな珍しくないよ?俺のクラスにも何人かいる」
「何人もかい?あらまあ…」
ばあちゃまはびっくりしたような声をあげて、前に立つ翔真を見上げた。翔真はチラリと私を見た。
「だからさ、アイツにはこっちに構わないで欲しい。アイツが恋しいとか全然ないし…ねーちゃんや悠真の事怖がらせたりするんなら尚更だよ」
翔真…あなたいつの間にか大人になって…。思わず目頭を押さえる。また携帯電話が鳴る。
『翔真はいい子に育ったな…』
…いちいちウザいよっ元旦那!
やがて電車を乗り換えてまた移動して亮暢が暮らす街までやって来た。私達はホームに降りた。改札を抜けて外に出るとばあちゃまが携帯電話を開いて、亮暢の住所をナビゲーションしている。
「こっちだね」
ばあちゃまのオババの勘が逆方向を示しているようだ。私は歩きかけたばあちゃまの腕を掴むと、さり気なく…あくまでさり気なく進行方向は逆ですよと教えてあげた。
そして、休憩を挿みつつ…以前に海斗先輩と訪れた亮暢のアパートの前までやって来た。これまたさり気なく郵便ポストを見る。
「篠崎の表札あるよ、203号みたいだよ」
私達は階段を上がると203号室の前に立った。先に探査魔法を使って部屋の中を確認する。
え?どういうこと?嘘でしょう? 携帯電話がメッセージを受信する。
『部屋の中には麻里香達と似た魔質の…小さい子供の魔質しかいないな』
ちょっと待って?確か子供って悠真より年下だよね?ばあちゃまは203号室のインターホンを鳴らした。しかし誰も出ない…、当然だ。だって室内には恐らく子供しかいない。
「あら?ここまで来て留守なの~?えいっえいっ!」
ばあちゃまがインターホンを連打している。こらこら?ばあちゃまご近所迷惑ですよ?
「もういいじゃん、こんなめんどくせーことしなくてもアイツにばあちゃんが直に聞いたらいいんだし」
と翔真がそう言ったが、ばあちゃまは扉をガンガン叩いて名前を呼んだ。
「亮暢か亮暢の奥さんいないの~?あなた達のお姑さんが来てあげたわよ~!」
ばあちゃまそれ怖いよっ!その呼びかけなら私でも居留守を使いたいわ。触らぬ姑に祟りなし…。君子危うきに近寄らず。
すると、玄関ドアの辺りでガチャと音がして、ゆっくりと細くドアが開いた。ばあちゃまはその隙間から中を覗き込んで息を飲んでいた。
「どうしたの?」
悠真がばあちゃまと一緒にひょいと覗き込んで
「あ!彩香に似てる」
と言った。私は悠真の後ろからドアの隙間を覗き込んで
「初めまして、えっと亮暢お父さんのこちらがお母さん、あなたのおばあちゃんの操さんよ。そして私は篠崎 麻里香。こっちが弟の悠真と翔真ね。あなたの従兄弟なの…難しいかな?」
と隙間から覗く亮暢の子供、私達の腹違いの妹に自分達の自己紹介をした。間違いない。この間駐車場で出会った女の子だ。
ばあちゃまは腰を落とすと、ドアの隙間からその子に声をかけた。
「亮暢は仕事かな?」
女の子は首を傾げている。
「じゃあお母さんはどうしたの?1人かい?」
「おかーさんはお出かけ…」
ばあちゃまが怖い顔で私を顧みた。
「麻里ちゃん、こんな小さい子1人家に置いとくなんて…何だっけこういうの…えぐれてるだっけ?」
「ネグレクトだよ、ばーちゃん」
翔真が代わりに答えてくれた。そう育児放棄…。まさか?
「ねえ、いつも1人でお留守番かな?」
私の問いに小さく女の子は頷いた。あ…これは…。ばあちゃまはダダンッと音を響かせて立ち上がった。
「ちょっとこりゃいけないよ!亮暢に言ってやるよ!」
ばあちゃまは携帯電話取り出して亮暢に電話をしている。
「あ、亮暢!あんたね、今どこにいるんだい?仕事?そんなのは分かってるよ!あんた知ってるの?家でアンタの子いつも1人で留守番してるんだって…何か聞いてないの?え?そう…そうよ、今アンタの家の前よ。あ…?あれ?亮暢?亮暢……あのこぉぉぉ!電話を切りやがったよぉ!」
ばあちゃま言葉遣いが悪うございますよ?
「なんだいっ!まだ話している途中だってのにぃ!あ…ゴメンネ~バアバ興奮しちゃったわ。パパは仕事中みたいだね。しかし困ったね~亮暢の嫁と顔合わせが出来ると思ってきたのにさ~」
翔真は悠真の汗をタオルで拭いてあげている。子供達と年寄りがこの炎天下の下ずっと待っているのも限界があるよね。
「ばあちゃま一旦引き上げる?」
私がそう言うと悠真が声を上げた。
「まだお昼すぎだよ?大人が帰って来るまでひとりぼっちにさせちゃうの?」
ううっそうだった。私がネグレクトを引き起こしてどうするんだ。
すると携帯電話がメッセージを着信する。海斗先輩だ…すっかり存在を忘れていた…。
『亮暢の家の中に入って見てきた。この家の中…ゴミ屋敷みたいだ』
い、いつの間に不法侵入!いやそれよりもゴミ屋敷だってぇぇ?!
ネグレクトでゴミ屋敷で…これは…何とかして中に踏み込まないと…。また携帯電話が鳴った。
『部屋の中から異臭がすると言え。子供が入れてくれなくても、隣や近所の人に麻里香達の身元を明かせば協力してくれるだろう』
そ、そうかっ!流石ナキート殿下!
「ば、ばあちゃま…何か部屋の中から臭うよ?」
ばあちゃまと翔真と悠真がドアの隙間に飛びついた。
「なにかがくさっているにおいだ…。兄ちゃん、サツジンジケンだ!」
「んなわけあるかっゴミが腐ってるんだろ?なあ?ばーちゃん」
「いや…翔真、こりゃ事件の臭いがプンプンするよ…」
ばあちゃまっふざけてないでっ!私は女の子…腹違いの妹に聞いた。
「お家の中汚れてる?バアバとお姉ちゃん達がお掃除しようか?」
女の子は一瞬目を大きく見開いたがバタンとドアを閉めてしまった。
しまった…いきなり踏み込む発言はまずかったか…。
私は意を決して隣の204号室のインターホンを押した。
暗い夜道は皆さまもお気を付けて!




