シャーロット・シャリアール、水ようかんを探して回る。
11月21日
先程、急に携帯のアラームが鳴った。
こんな時間に予定なんて入れていなかったのにといぶかしむと、画面にはこう照らされていた。
「父 誕生日」
しまった。今日だったか。
たまたまシャーロットと近くのゲームセンターでエアホッケーをして遊んでいた時だったのだが、彼女に詫びて今から買い物に行くことを伝える。
どこに行くのかと問われ、今から水ようかんを買いに行くことを伝えた。
僕の父は歯が悪くて、あまり硬い物を食べるのが好きではない。全部自前の歯だし虫歯もないのだけれど、強く歯を食いしばると痛むとか。
酒は飲まないし、硬い菓子も好まぬとなれば、水ようかんである。以前の父の日にも同じ物を買ってしまったが、それが好物なのだから、いいのだ。
さて出発しようとすると、シャーロットがちょっと心配そうな顔をしていた。
『あの、甘くて滑らかな泥みたいなお菓子でしょ? あんな涼しげなもの、この季節に売ってるの?』
それは探してみないとわからない。
1時間後。
知ってる菓子屋を全部回ってどこにも売っていないことがわかり愕然とする。
途中の和菓子屋で売ってた塩シュークリームを頬張りながらシャーロットが問う。
『他の食べ物でもいいんじゃない? 要は歯ごたえがなければいいんでしょ? こんにゃくとか』
そりゃ、君ならきんぷらこんにゃくでも作って食べさせとけばごはん3杯はいけるだろうが、あいにく父は普通人だ。
試しに、シャーロットに質問する。
『シャーロット、水ようかんを売ってる場所わからないか? こう、闇の流れとかで』
『ダイジロウは闇をなんだと思ってるのさ。流石にわかんないな』
それはそうか。
どうするかなとコンビニの駐車場で天を仰いでいると、声がした。
「あれ? 伊藤さんと、シャーロットちゃん?」
隣の部屋の女子大生の小室さんであった。いつもとは違う赤いジャージ姿。
挨拶をした後、どちらに? なんて訊いてみるとクリスマスに向けて新しい服を作っているのだそうだ。なんでも、シャーロットのファンタジーな雰囲気にあてられている内に、コスプレ衣装熱が燃え上がったらしく、なんかのイベントに向けて始動している。今日はその材料の調達中とか。
深くは聞かなくていいだろう。
で、僕は何をしているのかと訊かれたので、上記を説明。
すると、少し考えた後に
「そういえば、さっき見ましたよ」
との証言。
デパートのギフト売り場で、見たのだそうだ。
早速デパートに行き、1階入口スペースで店頭販売していた、たい焼きをシャーロットの口に突っ込んでギフト売り場を物色。
あった。
水ようかんではなく、果物ゼリー詰め合わせ。
悩むところだが、これが今の季節と僕の無計画な焦りのちょうど折り合いになってくれる気がして、購入。
シャーロットもゼリー食べるか聞いたけれど、『私はこのたい焼きでじゅーぶん』と満足してくれてるみたいなので、一セットだけ購入して包装してもらう。
さて、後はこれを実家に運ぶだけだ。
シャーロットは、どうするかと思ったけれど、置いて行くという選択肢もなく、一緒に出発。
『ねえ、ダイジロウ。あなたの誕生日っていつなの?』
『言ってなかったっけ? 君と一緒だよ』
『嘘? 聞いてない』
『言ってなかったなあ。それに僕くらいの年になると今更年齢なんて気にしないよ? 正直、今自分が何歳なのかちょっと自信ないもん。確か、38か39だったと思うんだけれど』
『駄目だよ、ちゃんと誰かに祝ってもらって、自分がだれかをわかっていないと。寂しいじゃん』
『じゃあ、シャーロットが祝ってくれるか? 何か贈り物でも期待していいわけ?』
『え……えーと。セプテン領の土地の権利書ならすぐに手配できるけれど』
『いらねー』
そうこうしている内に、秦泉寺カネさんの家の隣にある僕の実家に着いた。
シャーロットは助手席に残し、包装されたゼリーセットを持って実家を訪ねる。
母が出てきてくれたので、渡してさっさと帰る。
いそいそと車に戻るとシャーロットは呆れた顔で
『パッパに誕生日おめでとうくらい言えばいいのに』
とか言うけれど、中年男性とその男親が、そんな気の置けない会話できるわけないのだ。
さっさと出発。
さて、すっかり遅くなったけれど、夕飯時である。
本当はゲームセンターで遊んで近くにあるイタリア料理店で飯でも食おうかくらいに思っていたのだけれど、さて。すっかり遠くまで来てしまった。
『シャーロット、何が食べたい?』
『ナポリタン』
ナポリタン、なあ。
そうして考えていると、道沿いにパスタ専門店のファミレスを発見する。
果たしてナポリタンなんて邪道なもんを専門店に置いてあるのか微妙なところだけれど、なんとかなるもんだろうと思い、入店。
案内されたボックス席の隣に、小室さんとその友人らしき人達が座っていた。
果たして声をかけてしまっていいものかと悩むが、うっかり眼があってしまうと小室さんは大きく手を振って
「伊藤さん、シャーロットちゃん!」
とか妙にテンションが高かった。
シャーロットが大きく手を振り返す横で軽く会釈をして、お店の邪魔になるから席に座った。
なんだか隣から「あれが津雲の言ってたデカい人」「本当にデカい」「津雲の脳が見せてる都合のいい幻覚じゃなかったんだ」とかお友達の声が漏れている。
小室さん、僕のことなんて話してたんですか。あと、お前ら隣の金髪碧眼美少女野郎の話題でもしてください。
ドリンクバーでアセロラドリンクをコップ一杯に注いできたシャーロットに何を食べたいのか訊くと
『ナポリタン』
だそうだ。
あるのかなと思ってメニューを開いたら、パスタの欄の最初に「特製ナポリタン」とあった。
まあ、あるわな。
呼びだしボタンを押すとやってきた店員さんに、特製ナポリタン2皿とマルゲリータを一つ注文する。
店員さんが去った後、シャーロットが
『ダイジロウ、私もそのボタン押したい』
とか言うけれど、お前そんな迷惑なことすんなよ。注文する時だけにしろ。
さて、すぐに出てきた湯気の出る熱々のスパゲッティを二人して食べる。旨い。集中して食べて二人とも言葉が出てこない。カニ無口ならぬナポリタン無口という奴だ。
ほぼ同時に完食するとシャーロットは店員呼び出しボタンを押した。
『注文するから、いいでしょ?』
お前、散々甘いもの食べた後にイタリアン食っておかわりするとか、結構剛の者よな。
文字が読めないけれど、食べ物の絵は理解できるシャーロットにメニューを見せていると
『これとこれどう違うの?』
と示されたのが、ラザニアとドリア。
まあ、見た目は一緒か。
ちょっとした説明をすると、どうも思っていたのと違うらしくどちらも取りやめにしたらしい。
彼女はしきりにメニューを頭から最後まで何回も観直して何かを探している。
そういうのは、店員さんを呼ぶ前にして欲しかった。
こいつ、何を食べたいのだろう?
考える。
『シャーロット、もしかして、いちごティラミスが食べたいのか?』
『そう! それ!』
そう言えば、別のファミレスで食べたわ。四角い皿にティラミスが入っていて、いちごソースがかかってるやつ。確かにぱっとみラザニア……いや、全然違うな。
メニューを借りてデザートコーナーを見てみるが、やはりそれらしいものはこの店にはないようだ。
代わりにいちごパフェとコーヒーゼリーがあったので、それを頼む。
注文をした後、暇な時間を暇して過ごしていると、シャーロットが声を潜めて訊く。
『ねえ、コムロの周りにいるのって、コムロの学校の友人でしょ? 挨拶した方がいいのかな』
今日は別口で遊びに来ているのだから、無理しなくてもいいんじゃないか? と答えておいた。小室さんにも、小室さんの世界があるのだ。
と思っていたら、小室さんがこっちの席に来て言う。
「あの、伊藤さん。私の友達達が、シャーロットちゃんとお話したいと言っているのですが、挨拶させてもらっていいですか?」
店内で立つのも迷惑なので、シャーロットを隣の席に行かせた。
言葉が大して通じるわけでもないのに、異世界人の少女と日本の少女数名がきゃあきゃあ言ってるのを見ながら、コーヒーゼリーを嗜む夜。
……親父のプレセント、コーヒーゼリーでもよかったなと気付く、秋の深まる夜。




