シャーロット・シャリアール、ワカメのポン酢和えを食す。
9月5日
どうにも陰鬱な気分が抜けない。
誰だってそういう気分の時はある。
でも、シャーロットが今日あたり来るかもしれないと思うと、仕方ないかと腰をあげる気になる。
これが家族とかだと甘えてしまって不機嫌な顔をしてしまうのだが、あの金髪美少女はこっちの世界に飯をたかりに甘えに来る以上、こちらが大人でないといけない。
やれやれと思いながらも、案外救われてるのはこちらかもしれない。
しかし、しんどいものはしんどい。
米は炊いてるし、レトルトの煮込みハンバーグが余ってるから、それでも湯がけばいいだろう。
あと、味噌汁には豆腐。
……もうこれでいいんじゃないかな。一汁一菜にせよと殿も仰られてるし。
でもなあ、あの異世界人、最近『妥協は死』とか言い出したからなあ。
何かないかと冷蔵庫を漁ると、ワカメとポン酢があった。
……。
『こんばんは、最近夜が冷えて来たね』
そう言いながら薄着のシャーロット・シャリアールを家に入れて、おゆはんを食べさせる。
『ダイジロウがごはんを作ってくれるなんて、久しぶりだね。雨が降るんじゃない?』
既に台風が来た後だ。
食卓には、炊きたての飯とレトルトの煮込みハンバーグ(これがデパートから取り寄せた一級品で、シャーロットみたいな肉は量食べないと落ち着かないみたいなタイプにはもったいないくらいのよい品)、そして豆腐の味噌汁と、もう一品という完璧な構成。
『これ、何?』
と、卓に座ったシャーロットが小皿を見つめていた。
見れば、わかる。ワカメのポン酢和えだ。
『えー?』
何、その眼は。
『いや、文句なんて何もないけれど、ワカメにポン酢かけたって、それダイジロウの創作料理すぎない? それだったら普通にオミソシルに入れた方が』
文句言うなあ。これ美味しいんだぞ?
『うーん』
初めて観る小料理におそるおそる手をつけるシャーロット。
一口食べて、大きな瞳がさらに大きく。
『えー?! なんでこんなに美味しいの?!』
思いっきり掌を返してくれたな。
これはジンさんから教えてもらった料理の一つで、どんな疲れた時にでもこれだけは箸が進むという一品なのだ。
刺身のツマにもなる海藻の癖の無さとポン酢の酸っぱさ。陰と陰の組み合わせが生むノーストレスな舌触り、これがどんな料理にも合うのだ。
嬉しそうにワカメをおわかりするシャーロット。こいつってどっちかというと西洋人っぽいのに、味覚は僕と似通ってるんだよなと改めて思いながら、仕方ないから僕のワカメを半分こしてあげる。
『まさかこんなに美味しいなんて、私の領地でもワカメの栽培始めなくちゃ』
とか眼をキラキラさせる異世界人に、お前の領地海に面してねーだろそもそもポン酢は!と言うべきか迷う、秋の香り少しする夜。




