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(超特別編)伊藤大二郎、福岡に行く。(前編)

 脚色してます。

 


 5月18日


 いつものように、夕飯をたかりに来た異世界人の少女に、スケジュールを説明するところから、幕が上がっていたのだ。

『シャーロット、来週の金曜……って言ってもわかんないか。7日後からしばらく家にいないから。来るなよ。来ても飯ないぞ』

『……珍しいね、ダイジロウが家を空けるなんて。どこか行くの? 着いてあげて行ってもいいよ』

 何をほざいているのだこの金髪美少女は。

 今回はかなりプライベートな旅行なので、シャーロットの出番はないのである。

 しかし、微妙に食い下がってくる。

『最近会得した、面識のない人間の認識から完全に姿を消す隠密暗黒同化魔法というものがあって。多分ばれない』

 こいつ、もしかして僕がシャーロットに迷惑かけられることを喜ぶとでも思ってるんじゃないだろうか。……あながち、否定できない自分がいる。

 いらん、そんな技術を使う展開は僕と君のライフスタイルには存在しない。と、事情を説明した。

 以前から歴史探訪や寺社仏閣なんてワードが好きな人達とネットで知り合ってコミュニケーション取っていたのだが、今度皆で休みを示し合わせて九州福岡近辺の寺社を廻ろうという誘いを受けたのだ。

 所謂オフ会である。

 シャーロットにはこれまでの異世界探訪生活の中でインターネットとかノートパソコンとかソーシャルネットワークワービスとか小説投稿サイトというものについて理解をさせていたので、僕が何をしようとしているのかはわかったと思うのだが、説明をしてもどうにも納得していない様子だった。

『ダイジロウは……、そのインターネット? で知り合ったとか言う人達の顔も知らないわけでしょ?』

『うん』

『それ、友達なの?』

『友達だよ』

『名前も顔も年齢も素性も知らないのに?』

『文脈からにじみ出る人間性みたいなものは。それに名前は知ってるよ。wildcats3さん、読んでいるだけの人さん、佐竹三郎さん、筑前筑後さん、アルミ完成ヒンさんだ』

『……は? 半分くらいこの国の人の名前じゃなくない? この国の人の名前ってダイジロウ・イトウとか、ツクモ・コムロみたいな感じでしょ』

『ハンドルネームだよ。え、小室さんってツクモって名前だったの?』

『あー、インターネット? で使う仮の名前だっけ? え、何それ。じゃあ本名知らないの?』

『こだわるなあ』

『私達の世界には交流のない遠隔地にいる不特定多数の人間の意思を相互通信する魔法や技術なんてないもの。そんなもの、あったらそりゃ便利でしょうけれど』

『そんなにネットに忌避感示すなんて、意外とアナログなんだね』

『不思議なものが苦手なだけよ』

『暗黒魔法なんて不思議の極点を司ってるのに?!』

 シャーロットは、少し威張った顔で

『魔法は不思議でもなんでもないわ。再現性のある、学問よ』

 ……それ、昔僕が君に言った言葉じゃないかな。

『インターネットだって、再現性のある技術だよ。それに今回の論点はそこじゃなくて、再現性のない縁って奴で知り合った人達との時間を作ることなのだよ。僕が君と何かしらの縁でこうしてポテチ食いながら喋るようになったみたいに、さ』

 シャーロットはコンソメパンチ味を食べ終わり、手をウェットティッシュで拭くと

『今の台詞、私が言った事にしよ。なんか、いい感じだった』

 好きにしてくれ。

 来週は来るなよ。 


 そんなわけで、シャーロットにはしばらく退場していただき。

 僕は久しぶりに自分のためだけの時間を使うことにしたのだった。



 5月26日。

 日の出より間もない時刻。

 新幹線に乗って、僕は九州へ向かう。

 ご存知の方も多いが、伊藤大二郎は去年の5月にも福岡の史跡をネットで知り合った友人達に誘ってもらい旅をしている。

 その時の縁が今も繕いあって、こうして再び九州福岡の地を踏むこととなったのだ。

 他にも色々とあって、都合3日間。5月26,27,28日と僕の旅程は組まれている。

 そして今日は1日目。

 伊藤大二郎、5人の仲間と糸島をめぐる。糸島ツアージョースター御一行様状態なわけである。

 現地でまず落ち合うのは色々と世話を焼いて下さっている「wildcats3」さんこと、オヒョウさんと「読んでいるだけの人」さん、こと読むだけさんの2人。九州外よりやってくる陸路組である。

 列車に乗った途端、速攻オヒョウさんと出会ってしまった。

 というか、後ろの席だった。

 オヒョウさんは、休まれていた。

 僕も休んでいた。

 気が付いたら、僕の寝顔を見られていた。

 開口最初の挨拶は「おはようございます」

 どうやらオヒョウさん、仕事のトラブルがあったとかで、帰らなければならない可能性が出てきてしまった模様。

 どうなるかいきなり雲行き怪しかったが、そこは勝負は始まったばかり、駅に降りて早速手配がついたらしく、今日一日は一緒に遊べるようだ。何より何より。

 そして、同じ集合時間に列車に乗ってくるのなら、同じ列車に乗っていて当たり前で。降車した途端に読むだけさんともばったり。

 こう、一年ぶりの再会というものは、ただただ純粋に気持ちがいい。

 シャーロットが異世界からこちらに初めて渡ってきて、再会した時の爽やかな風が吹いたあの時の気分を思い出す……。いかんいかん! 今日から3日間はあの金髪美少女野郎のことは忘れると決めたのだ。

 今日は、今日の縁を楽しもう。

 さて、3人博多駅に降り立って、まずは僕の宿泊先のホテルに荷物を置いて来るという作業から始まり、他メンバーとの合流までのわずかな時間を使って紫煙を燻らせたい御二人と駅前の喫茶店に入るという行程に移らなければならないのだ。

 素晴らしい。

 土曜日の博多駅は、若干小雨日和で、アスファルトは濡れていたが傘をさすまでもない、涼しげな風と少し億劫な湿度があるだけの穏やかな気候。博多の5月なら、上着などいらんかと思ったが、まだまだ背広を楽しむ余裕のある不快指数である。

 しかし、勝手知ったる都会民達は、半袖の涼しい格好。

 視界に入るだけでも、長袖を楽しんでいるのは僕とシャーロットくらい。



 うーん。



 オヒョウさんと読むだけさんの眼を盗んでシャーロットを物陰にひっぱりこんで詰問した。割とマジな声色になっていたと思う。

『お前、なんで来たん? というか、どうやって来たよ』

 シャーロットもかなりマジな顔になっていた。

『コムロと遊ぼうと思って扉を開けたら、ここにいた。……私がいつも使っている次元跳躍魔法、あの土地に扉を開けるんじゃなくて、ダイジロウの縁を伝ってこちらに現れるってことだったんだね』

『今日は今すぐ帰れ、埋め合わせはなんでもしてやる』

『ダイジロウのいない部屋を占拠してやろうと思いまして、調子に乗って、なんと今回は丸二日程の滞在予定です』

 なんてこったい。

「伊藤さーん、行きましょうか」


 2人が呼んでいる。


「はーい、今行きます。『シャーロット、あれ使え、面識のない相手には認識できなくなる魔法。先に言うけれど、僕は今日会う人には流石に君を紹介できない。今日は遠慮して』」

『わかった。けれど一つだけ。その魔法、めっちゃ魔力を常時消費するから、まずいことになる』

『どうなる?』

『お腹がすごい減る。なんか食べないと、突然魔法が途切れる』

『いいから使え!』


 そうして、オヒョウさんと読むだけさんにやっとこさ追いついて、僕達3人は博多駅筑紫口の近くにある全席喫煙席という非常に理解のある喫茶店で朝食を取ることにした。

 二人の大人は、僕の横に座っているシャーロットの存在を全く認識していないようだった。

 本当にすごい魔法なんだな。

 不振がらせないようにシャーロットには視線を向けず、いないものとして扱うのだが。


 速攻で、シャーロットの腹の虫が鳴いた。


 お前、魔法使用して5分しか経ってないぞ。

「何にします?」と訊かれて正直朝御飯食べてたからホットコーヒーだけでよかったんだけれど、シャーロットにこっそり食わせるためにモーニングセットAを購入。

 多分、僕の視界の外でシャーロットは必死にモーニングホットサンドセットを希望していることを眼でアピールしてたんだろうけれど。僕も余りの展開にパニック状態で、それどころではなかった。


 窓際のいい席を確保して、3人で談笑。

 2人の眼が僕から外れた瞬間に、テーブルの下でこっそり隣にいる透明のシャーロットにパンとか茹で卵とかを必死に渡すという、神経の必要な作業だった。

 オヒョウさんが僕の父の4歳年下だとか、読むだけさんのおじいさんが毎年お孫さんと写真撮ってるだとか、素敵な話をいっぱいしながら、楽しく、ドキドキな時間を過ごしていると、ふと誰かが気付く。

「あ、時間」

 楽しい時間は早く過ぎるものである。

 全員合流地点である、姪浜へ我々は行かねばならないのだ。

 コーヒーカップをセルフサービスということで厨房に返す時に、シャーロットの顔をちらりと見た。

 すごく申し訳なさそうな物足りなさそうな、なんからしくない顔。

 なんだか、それを見たら、何も言えなくなるのは、僕も甘いのだろうか。

 こっそり耳元で小声。

『来てしまったものは仕方ないんだから、まあ楽しんどけ。別に君1人面倒見たからって、つまらなくなったりしないよ。いつもの話さ』

『駅で売ってた肉マン食べたい』

 はったおすぞ。



 そういうわけで、先週の終末は、大切な友人達と年に一度のオフ会を楽しみながら、シャーロットが隣にいるのがバレないようにしながら栄養補給をさせるという荒行を繰り広げることになったのである。


「伊藤さん、時間ないし姪浜までタクシーで行きましょうか」

「あ、はーい。……何人乗りのタクシーですか」

「私ら3人ですし、そこの普通自動車のタクシーで十分でしょう」

 助手席 読むだけさん

 後部座席 僕 オヒョウさん

 僕とオヒョウさんの間 シャーロット


 本当、こいつが小柄で細くて助かった。

参考文献

マイパリピー・リポート

https://ncode.syosetu.com/n1036eu/

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