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シャーロット・シャリアール、お隣さん家で手作りピザを食べる。

 5月14日


 隣に住んでる学生のコムロさんがピザを焼いてくれるそうだ。

 前に異世界人が迷惑をかけて謝りに行ってから、喋る回数が増えて廊下で出会った時に会釈した後軽く世間話をするくらいの仲にはなった。

 最初は天気だとかシャーロットが次いつ来るのかくらいのあたりさわりのない会話をちょっとするだけだったのだが、お互いにテレビを見ない、カードではなく現金派、ジャズバンドのシャック・ジョリーン・シックスのファンであることがわかってしまい、それなりに趣味に突っ込んだどうでもいい話をすることも増えた。

 まあ、つまり。

 前はシャーロットを通しての繋がりしかなかったのだが、今はちゃんとしたお隣さんとしての付き合いができるくらいの仲にはなったわけだ。


 ただ未だにコムロってどんな字で書くのかしらないし、ファーストネームも知らないけれど。

 二年近くお隣さんやってて今更訊くのはあれな気もするし、第一一回りも年下の女性のプライベートにお近づきになろうとするのもどうかなーと思って放置していた。


 で、それで放置していればいいのに、異世界から晩飯をたかりにきたシャーロット・シャリアールに喋ってしまったのは、僕のミスでしかなかろう。奴はラゴラディバリウス言語でけだるげに

『わかったわかった、コムロの名前訊いてくればいいんでしょ』

 とか僕のノートパソコンをいじってお気に入りの動画リストを巡回していた手を止めて立ち上がろうとしたので止めた。

 金髪碧眼の未だに日本語をこれっぽちも覚えないシャーロットは、止めた僕に怪訝な顔をしている。

『隣に住んでる人間の名前もわからないで平気でいる感性のが変だよ。こちらの世界の人間はみんなそういう価値観なの?』

 そう言われても、なんでも踏み込めばいいというものでもないだろう。

『コムロは明らかにダイジロウに踏み込んで欲しそうにしてるじゃない。……あ、別にそういう仲になりたいって言う話じゃなくて、ただ隣人として仲良くしたいってことだけれど。まあ、ダイジロウにその気があるなら、それはそれで』

 ねーよ。ねーよ。あ、別にコムロさんが魅力的ではないという話じゃないから。

『そういうのなんて言うんだっけ。ダイジロウの世界の言葉で……』

 そして、ちょっと地球よりの発音で

「オクテ?」

 とか言って首を傾げるこの異世界人にイラッとしたり、やっぱそうなのかなとちょっと不安になったりしながら、コムロさんの部屋に押し掛けることになった。


 今日はそもそも、彼女が「ピザ焼くから食べに来てください」と誘ってくれていたのだ。

 今朝仕事に行く前に廊下でばったり会い、夕食に誘ってくれた。

「へ、へへ……。今日はシャーロットちゃん、来る日ですよね? なんか、そんな気がして。いや、別にローテーションとか組んで来てるわけじゃないと思うんですけどね。あの子のペースだと、ちょうど今日かなーって、あ、あの子なんてちょっと上から目線でしたね、すみません。えへへ」

 とか笑ってた。

 まさか本当にシャーロットが来た時にはびっくりしたし、もしかしたらコムロさんにも闇の流れが少し見えているのかもしれない。



 さて、お呼ばれしたので、仕事帰りにコムロさんが好きだと言っていた駅一つ向こうにあるケーキ屋さんに寄ってマカロンを三人分購入して、訪ねる。

 この前まで雨が降ったり冷えたりしていたのに、急に真夏日だったせいかコムロさんは少し厚手の服だった。

 ジャージだった。

 額に汗をかいている。

「こ、こんばんは。あはは、ピザ作ってたら汗かいちゃってあせあせ、なんちゃって」

 すごいなあ。30越えたおっさん相手にそんな反応できるなんて。

 とりあえず、今日のお礼を言っておみやげを渡して中に入れていただくと。


 勝手知ったるという勢いで、奥でシャーロットがくつろいでいた。

 ちゃんと叱ろうかと思ったけれど、コムロさんの話ではこいつ、たまに僕に内緒でコムロさんと遊んだりしてたらしい。いや、内緒というのもおかしいか。こいつはこいつでただ遊びに来ただけだし。

 僕がシャーロット抜きでもコムロさんと付き合いができたように、シャーロットもまた僕抜きでの付き合いができているということだろう。

 こいつ、一応領主代行なのに、こんな夜な夜な異世界に遊びに来て大丈夫なのだろうか。

 とか考えていると、居間で寝そべってなんか狐か狸かわからない動物のぬいぐるみをいじってるシャーロットが僕に座るように促す。

 とりあえず、座ってシャーロットに小声の異世界語で訊く。

『お前、コムロさんとどういう話すんだよ』

『私こっちの世界の言葉喋れないんだから、会話なんてないよ』

『……二人で何して過ごすの?』

『さあ? 私がぬいぐるみいじったりお菓子食べてるの見て、コムロがにこにこしてるだけ、かな』

『……』

『あ、あとあれも聞いてる。ダイジロウの部屋にもある……えれくとろすいんぐ、だっけ? シャック・ジョリーン・シックス。ダイジロウはあの四角い箱の道具ラジカセにピカピカの円盤(CD)差し込んで聞いてるけれど、コムロはあの机の上にある開く板(ノートパソコンか?)の中から音楽流すんだ。不思議よね、あれどういう仕組みなの?』

『……』

『あと、コムロが縫った服の着せ替え人形になったり』

『あの人、服縫うのか』

『そこの引き出しの中に入ってるよ』

 入ってるよと言ったって、だからって女性の部屋の引き出し開けるわけにもいかない。

『わかったわかった、私が開ければいいんでしょ』

 とか言って立ち上がりそうになってる馬鹿娘を止めてたら、コムロさんがにこにこしながら居間に入ってきた。

「シャーロットちゃん、伊藤さん。ピザ焼けましたよー」

 大皿に乗ったピザである。


 具、多っ! というのが、最初の感想。

 市販のピザシートであろう、その上に、チーズはもちろんのこと、角切りのトマト、プチトマト、ピーマン、ウインナー、牛肉、玉ねぎ、ネギ、さくらえびetc とてもピザに載せる具材とは思えないものまで載っていた。

 それを見て、目を輝かせるシャーロット。

『わあ、今日のピザはたくさん乗ってるわね』

 今日のピザ?

 シャーロットに訊くと、最近コムロさんの家に遊びに来たら、大抵ピザを焼いてもらうらしい。なんでも最初は宅配のピザだったのだが、あまりにシャーロットが美味しそうに食べていたせいか、自作というスキルを持つコムロさんは自分で焼いたピザを食べさせてくれるようになったらしい。

 で、コムロさんに訊くと、料理はどちらかと言うと、和食専門でピザなんて焼いたことがなかったらしい。なんでピザ食べさせたのかは、彼女が西洋人ぽかったから、洋食の方が好きかなとおもって、チラシを見せたらシャーロットの奴がピザの写真に食いついたらしく、宅配を頼んだのがスタートだとか。

 で、試行錯誤で自分でピザを焼いてみてシャーロットの食べた顔を見て、物足りなさそうな顔から彼女の求めるものを考えて色々焼いた結果、今日の具合になったとか。

 とりあえず、たっぷり食わせればいいだろうという、立体盛りピザの完成である。

『ダイジロウさっそく食べよう! 温かい料理は冷めないうちに食べるのが作法!』

 それはまったく同感なので、僕も手をつけさせてもらう。


 正直、ネギとかさくらえびとか和風の具材はあうのかと思ったけれど、びっくりするくらい旨かった。

 甘みのあるソースが、大量の具材の旨味をからめとってゆく。

 このソース何だろう? 市販のピザソースではないなと思いコムロさんに訊くと

「トマトケチャップです」

 との回答。

 具材に関しても、火を通して、本当に薄く味付けをしているらしく、どの部位を食べてもまた違ったうまみがある。

 これは、シャーロット好みの味付けだ。

 まさか、言葉の通じないこいつのためにここまでのもんを作ってくれるなんて。

「ひひ、シャーロットちゃんが私の作ったものを食べてるの見ると、えへへ」

 ……本当、愛がないとできないわな。

 しかし、シャーロット、ピザ生地の薄さに対して具が乗り過ぎたピザのせいか、トマトがぽろりと落ちたりして『きゃっ』とか言ってる。

 すると、コムロさんが取り皿と割り箸を持ってきてくれた。

 まずさらに置いて、具を箸でつまむという、斬新な食べ方。

 手づかみで食べるのがピザの作法かと思っていたが、箸で食べてもいいんだな。

 その方が手が油で汚れないし。

 と、シャーロットも思ったのか、上手に箸を使って口に具材を運んで、最後に具の重みで折れなくなったピザ生地をチーズと絡めて箸で食べてた。

 違和感もあるけれど、異世界人からすれば和も洋も地球の食べ物よな。


 たっぷりとピザ2枚食べて、デザートのマカロンも食べてコムロさんの入れてくれたお茶を飲みながら、そう言えば服を作ってるんですよね? と訊くと、コムロさんが目を輝かせた。

「そ、そうなんです。あの、見たらドン引きするかもしれないんですが」

 別にアニメキャラのコスチューム出てきたって気にしないよ、くらいの気持ちで彼女が引きだしを開けると


 中から、シャーロット・シャリアールの腰に吊るされる暗黒騎士の魔剣が出てきた。


『あ、最近見つからないなーって思ったらこんな所に置き忘れてたんだ』

『シャーロット、てめえ!』

 ちなみに、コムロさんが縫ってるのは、普通にシャレオツなワンピースだった。

 昔はアニメコスチュームとかも作っていたのだけれど、それとは別に普段着も縫うのが面白くて、よく作って遊ぶらしい。

『あの、シャーロットちゃんの浴衣、縫ってあげたいんですけど』

 とても、素敵な申し出である。

 ただ、そんなもんできた日には、この魔剣振り回して遊んでる異世界人の少女を夏祭りに連れていくのは僕の仕事になるのだろうか。

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