Erase the memory
今回はR15とぬるい乱暴描写が入ります。ご注意ください。
警鐘を告げる危機感がどんどん大きくなっていく。クロシュにはこれがエルネインに迫っているものだと理解していた。15年前のあの時からクロシュはエルネインと繋がっているのだから。
無くしてしまった翼をこの時ほど忌々しく思った事は無いだろう。少しでも早く辿り着きたいのに、どうしてもこの姿では速さが出ない。
漸く自分達の家が見えた時には胸が張り裂けそうだった。勢いのまま玄関の扉を蹴破り、何時の間にか手に収まっている剣を持って部屋の扉を開ける。
飛び込んできた光景に脳内が沸騰しそうだった。
「……汚い手を退けろ、人間共」
「ちっ!貴族の男か」
「逃げてください!」
扉脇を陣取っていた二人の男が武器を振り下ろす。エルネインが悲鳴を上げた。
「邪魔だ」
片方を素手で掴み、もう片方は剣で受ける。次には男達の武器が黒に侵食されて何も残らなくなる。
「こ、こいつは……」
クロシュから発せられる尋常ではない気に、近くにいた二人の男は泡を吹いたまま失神し、他の五人も腰を抜かした。
「クソッタレが!この女がどうなってもいいのか?」
「いやあ!」
組み敷いていた裸同然のエルネインの首元に、ナイフの先が突きつけられる。剣を振り上げていたクロシュの動きが止まった。
「よぉし、いい子だ。そのまま剣を窓に投げな。変な真似をしたら殺すぜ」
「駄目です、クロシュ様。こんな人の言う事聞いちゃ駄目です」
「うるせぇ!黙ってろ」
脅しじゃ無いと見せつける為か、エルネインの首がナイフで浅く傷付けられる。怖いだろうに、それでもエルネインの瞳は駄目だと訴えていた。ふ、と場違いなほど優しく微笑み、クロシュはエルネインから目を逸らさないまま剣を投げる。
「大丈夫だよ、エル。直ぐに終わらせるから目を閉じててごらん」
「おい!てめぇら、やっちまえ」
クロシュは大人しくエルネインが目を瞑ったのを確認すると直ぐさま動いた。一斉に襲った男達は残像を斬り、頭が理解するよりも先に強烈な衝撃が全身に響く。頬に当たる水滴で、漸く自分が窓から外に放り投げられた事を知った。何とか逃げようと這いつくばるが、手の甲を貫いた剣に縫い止められる。
「ギャアア!」
「何があったか知りませんが、逃がしませんよ」
醜い悲鳴を上げる男を不快げに見下ろし、引き抜いた剣の腹で首を叩く。あっさりと昏倒した頭の襟首を掴み、ずりずりと引きずっていった。
男達の悲鳴は直ぐに聞こえなくなる。ふわりと抱かれる感触に身を硬くしたエルネインだが、慣れた香りに力を抜いた。
顔中に降られるキスを受け止めながらゆっくりと目蓋を開く。
「クロシュ様」
「よく頑張ったね、エル。もう大丈夫だよ」
「クロシュ様ぁ」
くしゃりとエルネインの顔が歪む。ぎゅうぎゅうと押し付けてくる身体を受け止めて、クロシュはエルネインの背をゆっくりと撫でる。普段の彼ならばエルネインの裸体を見た時点で押し倒していただろうが(実際彼の息子は溌剌としている)、今ばかりは全力で自制を働かせていた。エルネインを傷付けることは例え自分であっても許せない。そこで漸く、エルネインが怪我していたことを思い出した。欲望を意志で押し付けてエルネインの身体を引き離す。結果としてそれは間違っていた。
「クロシュさま?」
泣いて赤くなった目元と頬はまるで事後のよう。舌足らずなのは甘えているからか?手の平にすっぽりと収まりそうな膨らみの先には綺麗なピンクの飾りが上を向いてしゃぶりつくのを待っているようだ。視線が離せないのを自覚しながら、クロシュの手はエルネインの喉元へと伸びる。
突然の事に涙は引っ込んだエルネインだが、今度は別の意味で泣きそうになった。隠そうにも周りに隠せるようなものはなく、何より貧相な身体をクロシュに見られていることが恥ずかしい。身動ぎも出来ず、かと言って声に出して言い難い。そんな葛藤をしていると、喉元へとクロシュの手が当てられた。探るように長い指が肌を這い、くすぐったさに身体を揺らす。
誘われている?
一度は固めた意志だが、早くも重石の役目を放棄しそうだ。エルネインは全身を赤く染めながら小刻みに身体を揺らしている。つまり、ささやかな膨らみもクロシュが触れるのをねだる様に揺れていて、理性崩壊へのカウントダウンを迎えていた。
「兄上、此方は終わりましたよ……って、うわ!」
けれども、呑気な声がクロシュの理性を即座に取り戻す。目にも見えない速さでエルネインの身体に自分の外套を着させると、シグルスを張り倒した勢いのまま、地面に何度も叩きつける。
「忘れろ!直ぐにお前の記憶から抹消しろぉ!」
「いや、兄上の背中で……隠れて見えなか……から」
「嘘をつくな!お前の立ち位置からはぎりぎりエルの顔が見えたはずだ!」
「え!?顔も?そんな理不……尽な……」
クロシュと同じく頑健なシグルスがノックアウトされるまでに、大した時間は掛からなかった。
ヒーローはちょっと残念な感じです。ごめんなさい。