まだ分からないこと
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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アグラディアは開いた本のページを見ながら説明した。
「ハイエルフは、普通のエルフより精霊との親和性が高いとされているんだ」
アグラディアが開いた本には、古いエルフ文字が並んでいた。
ジジが横から覗き込む。
「古文?」
「うん」
「読みにくそうだな」
「慣れればそうでもないよ」
「俺は嫌だ」
「ジジ、読める?」
ルナリスが聞く。
「読めない」
アグラディアがジジを見る。
「普通のエルフ語なら分かるけど」
「そうなんだね」
それ以上は追及せず、アグラディアは本へ視線を戻した。
「ただ、精霊との関わり方にはかなり差がある。
ハイエルフだからといって、みんなが同じように精霊と関われるわけじゃないんだ」
「じゃあ何が違う?」
「精霊の存在を感じやすかったり、向こうから近寄ってきやすかったり。
そういう傾向が、普通のエルフより強いんだ」
ルナリスが首を傾げる。
「ルナにもある?」
「ある可能性は高いと思う」
「何ができる?」
「それはまだ分からない。ただ、精霊との親和性が高いことと、その力を扱えることは同じじゃないよ」
「ルナは使ってる?」
「今のところ、その様子はないね」
ジジが口を挟む。
「千里眼とは別?」
「別のものだと考えてる。ただ、千里眼についてもまだ分からないことが多い」
「じゃあ結局、分かんねぇことばっかか」
「そういうことになるね」
「学者なのに」
「学者だから調べるんだよ」
アグラディアが少し笑った。
「それに、ルナリスは人間とハイエルフの混血だからね。
僕たちと同じように考えていいのかも分からない」
「前例は?」
「僕が知ってる範囲では、ないかな」
ルナリスがアグラディアを見る。
「怖い?」
アグラディアは首を振った。
「今のところ、怖がる必要はないと思うよ」
「ほんと?」
「うん。何か起きたら、その時に一緒に考えればいい」
「一緒に?」
「もちろん」
ルナリスが少し笑う。
「じゃあ大丈夫」
「そう言ってもらえると僕も助かる」
シャイアが手元の記録を見ながら口を開いた。
「今はまず、身体が元気になることを優先しましょう。脚の変化も始まってるしね」
「うん」
ジジがアグラディアを見る。
「足の再生と精霊は関係あんの?」
アグラディアは少し考えてから答えた。
「今のところ、そうとは言えない」
「ハイエルフなら普通に足生えるわけじゃねぇんだろ?」
「もちろん」
「じゃあ何で?」
「それを調べたいんだ」
シャイアが記録へ視線を落とした。
「栄養状態が良くなってから変化が始まってるのは確かね」
「そこは僕も気になってる」
ジジがルナリスを見る。
「いっぱい食ったから?」
「それだけで脚が戻るなら苦労しないよ」
「そりゃそうか」
「でも、身体が再生できる状態まで戻った可能性はあると思う」
ジジが少し眉を寄せる。
「精霊じゃなく、ルナ自身の身体?」
「その可能性もある」
「まだ断定はできないけどね」
アグラディアは本を閉じた。
「分からないからって、全部を精霊と結びつけるのは早いと思う」
「千里眼も?」
「うん」
「脚も?」
「それも」
「別々かもしれねぇ?」
「その可能性もあるよ」
ジジは小さく息を吐いた。
「面倒だな」
「研究ってそういうものだよ」
「俺には向いてねぇ」
「知ってる」
「何で知ってんだよ」
アグラディアが笑う。
ルナリスが辺りを見回した。
「精霊いる?」
「いるよ」
「ここにも?」
「うん」
ルナリスは少しの間、診察室の中を見回した。
「わかんない」
「僕にも姿は見えないよ。でも近くにいることは分かる」
「なんとなく?」
「そう。説明するのは難しいけどね」
「学者なのに?」
「学者でも難しいものはあるよ」
「そっか」
ジジが口を挟む。
「で、今後はどうすりゃいい?」
「できれば、定期的に診せてほしい」
「どれくらい?」
「最初は少し間隔を短くしたいな。脚の再生も始まってるから」
シャイアが続ける。
「しばらくは私が身体の状態を見る。アグラディアにも定期的に来てもらうつもり」
「僕もその方がいいと思う」
「毎回来る?」
ルナリスが聞く。
「できるだけ来るよ」
「児童所は?」
「ちゃんと仕事もする」
「本も読む?」
「読む」
「忙しい」
「そうだね」
「大丈夫?」
アグラディアが笑う。
「心配してくれるの?」
「うん」
「ありがとう。大丈夫だよ」
ルナリスが笑った。
シャイアも小さく笑う。
「それと、ジジにもお願いがある」
「何?」
「千里眼だけじゃなくて、今までと違うことがあったら教えてほしい」
「例えば?」
「身体の変化でも、変わったものが見えたでも、何か妙なものを感じたでも。小さなことでもいいよ」
「精霊も?」
「うん。今は何が関係するか分からないから」
「分かった」
ルナリスが聞く。
「ルナも言う?」
「もちろん。ルナリスが一番最初に気づくこともあると思う」
「じゃあ言う」
「お願いするね」
話が終わる頃には、診察室へ差し込んでいた朝の光が少し高くなっていた。
ジジがルナリスを抱き上げる。
「もういい?」
「今日はここまでで大丈夫」
シャイアが記録をまとめる。
「脚については今のところ順調。食事も今の調子で続けて」
「ああ」
アグラディアも立ち上がった。
ジジが扉へ向かう。
「じゃあ」
「うん。またね」
「またね、ルナリス」
「またね」
診療所を出る。
木々の間を抜けながら、ルナリスが口を開いた。
「ジジ」
「何?」
「ルナ、ハイエルフ?」
「まだ分かんねぇ」
「アグラディアとおそろい」
「髪はな」
ルナリスは少し考えてから、また口を開いた。
「ジジ」
「今度は何だ」
「お腹すいた」
ジジが足を止める。
「……さっきまで身体の話してた奴がそれかよ」
「いっぱい食べていいって言ってた」
「言ってたな」
「何食べる?」
「帰ってから考える」
「お肉?」
「朝も食っただろ」
「食べれる」
「元気だな」
「元気」
ジジはルナリスを抱き直した。
三日前まで分からなかったことに、いくつか名前がついた。
ハイエルフの血。
千里眼。
そして、失った脚すら戻り始めた身体。
それぞれがどこから来たものなのか。
互いに繋がっているのかさえ、まだ分からない。
それでも、ルナリスの身体は少しずつ変わり始めていた。
バインスへ戻ってからの日々もまた、少しずつ形を持ちはじめていた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




