買い出し
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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翌朝。
新しい家のテーブルに、一枚の紙が広げられていた。
ジジは昨日ドーラから持たされたパンを食べながら、そこへ文字を書き足していく。
「パン。卵。野菜……」
向かいに座るルナリスが言った。
「果物」
「果物な」
ペンが動く。
「お肉は?」
「買う」
「お魚は?」
「今日は肉でいいだろ」
「魚も好き」
「また今度な」
「分かった」
塩、油、香草、茶葉。
石鹸や布などの日用品も書き加えていく。
「あとローズヒップ」
「書いてる」
「ほんと?」
「一番下」
ジジは書いたものを読み上げた。
「ローズヒップ」
「よかった」
「こんなもんか」
紙を畳んでポケットへ入れる。
「いっぱい買う?」
「それなりに」
「持てる?」
「だから今日はマーサんとこで待ってるんだろ」
「そうだった」
ジジが立ち上がる。
「行くか」
「行く」
ルナリスを抱き上げ、二人は家を出た。
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朝の冒険者ギルドは、すでに多くの人で賑わっていた。
掲示板の前には依頼を探す冒険者たちが集まり、受付にも列ができている。
奥へ向かう途中、冒険者の一人がジジに気づいた。
「ジジ!」
「ん」
「戻ってきてたのか」
「何日か前にな」
「今度飲もうぜ」
「暇ならな」
片手を上げ、そのまま受付へ向かう。
「マーサいる?」
職員が奥を指した。
「事務所にいますよ」
「ありがと」
受付脇の通路を抜け、奥の扉を叩く。
「どうぞ」
中からマーサの声が返ってきた。
扉を開ける。
小さな事務所には書類棚が並び、中央の机には何枚もの書類が積まれていた。
マーサが書類を置く。
「おはよ」
「マーサ、おはよう!」
「おはよう、ルナリス」
マーサが立ち上がった。
「朝ご飯は食べた?」
「食べた」
「何を食べたの?」
「ドーラのパン」
「昨日持たせてもらったものね」
「今日でなくなった」
「じゃあ、ちょうどよかったわね」
ジジが部屋の隅にある長椅子を見る。
「ここでいいのか?」
「ええ。私は基本ここにいるから。何かあれば受付の職員が来るわ」
「そうか」
ジジはルナリスをマーサへ渡した。
ルナリスの手がマーサの肩に触れる。
「どれくらいかかりそう?」
「買うもん結構ある」
「急がなくていいわよ」
「昼までには戻る」
ルナリスが頷いた。
「分かった」
「何かあったらマーサに言えよ」
「うん」
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい、ジジ」
「いってらっしゃい」
ジジは片手を上げ、事務所を出た。
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市場には朝からいくつもの店が並んでいた。
焼きたてのパン。
籠いっぱいの卵。
色とりどりの野菜や果物。
肉屋の前では店主が大きな声で客を呼び込んでいる。
ジジはポケットから紙を取り出した。
書かれたものを順番に買っていく。
パン。
卵。
野菜。
果物。
肉。
塩、油、香草。
茶葉。
石鹸。
布。
途中で大きな籠を一つ買い、細かなものをまとめて放り込む。
紙に書かれた項目が一つずつ消えていった。
最後に残ったのは、ローズヒップ。
茶葉や乾燥させた薬草を扱う店へ入り、棚に並んだ袋を見る。
「これ、二袋」
「はいよ」
包んでもらったローズヒップを籠へ入れる。
紙に書かれた最後の文字が消えた。
ジジは紙を畳んでポケットへ戻した。
店を出る。
少し先に、花や香草の苗を並べた店があった。
その前を通り過ぎる。
数歩進んだところで、ジジが止まった。
振り返る。
店先へ戻り、並んだ苗の前にしゃがんだ。
「これ、ローズヒップ採れる?」
店主が顔を上げる。
「実が欲しいなら、こっちの方がいいよ」
隣に並んだ苗を示す。
ジジはそちらへ移動し、一枚の葉に触れた。
「庭に植えられる?」
「もちろん。日が当たる場所なら大丈夫だよ」
「水は?」
「植えたばかりのうちは、土を乾かしすぎないように。
根付いたらやりすぎなくていい」
「植え方は?」
「穴を少し大きめに掘って、根を崩さないように入れればいい」
「そっか」
ジジは並んだ苗を見る。
「これ二本」
「二本ね」
二本の苗が丁寧に包まれる。
代金を払い、それを受け取った。
ポケットにしまわれた買い物の紙に、苗の文字はなかった。
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受付裏の事務所では、紙をめくる音が続いていた。
マーサが書類を読み、ルナリスは長椅子に座っている。
扉が叩かれた。
「どうぞ」
職員が顔を出した。
「マーサさん、昨日の護衛依頼の報告書です」
「そこに置いて。確認したら戻すわ」
「お願いします」
扉が閉じる。
少しして、また別の職員がやって来た。
「マーサさん、これ承認お願いします」
「先にバルトへ回して。そのあと私に戻してちょうだい」
「はい」
再び扉が閉じた。
「マーサ」
「なあに?」
「みんな来るね」
「そうね」
「なんで?」
「受付の仕事をまとめているからよ」
「マーサ、偉い?」
「偉いかは分からないけど、受付主任なの」
「しゅにん?」
「受付で働いている人たちをまとめる役目ね」
「バルトとは違う?」
「バルトはギルド全体をまとめる人」
「ジジは?」
「冒険者」
「ルナは?」
マーサのペンが止まる。
「ルナリスは……今はちゃんと食べて、眠って、身体を元気にすることかしら」
「それ仕事?」
「大事な仕事よ」
「昨日いっぱい食べた」
「じゃあ、ちゃんと仕事したわね」
「今日もする」
「先生に言われた分までね」
「分かってる」
マーサが再び書類へ目を落とす。
しばらくして。
「マーサ」
「なあに?」
「ジジまだ?」
マーサが壁の時計を見る。
「もう少しかな」
「昼までに戻るって言ってた」
「そうね」
「今は?」
「まだ昼前よ」
「そっか」
また紙をめくる音が続いた。
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市場を出たジジの両手には、大きな籠といくつもの袋。
さらに二本の苗まで増えていた。
ギルドへ続く道の手前で足が止まる。
ジジは荷物を持ち直し、そのまま別の道へ曲がった。
向かった先は、家だった。
家へ戻ると、買ってきたものを順番に片づけていく。
空になった籠が床へ置かれた。
残ったのは二本の苗。
ジジはそれを持って庭へ出た。
日当たりのいい場所を選び、地面を掘る。
二つの穴が並ぶ。
苗を入れ、土を戻す。
根元を手で整える。
もう一本も隣へ植えた。
二本の苗が庭に並んだ。
ジジが立ち上がる。
土のついた手を払い、空を見る。
「……やべ」
家を出た。
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受付裏の事務所。
ルナリスは長椅子に座ったまま、マーサの机から聞こえるペンの音を聞いていた。
「マーサ」
「なあに?」
「お昼?」
マーサが時計を見る。
「……過ぎたわね」
「ジジ遅い」
「そうね」
「昼までって言った」
「言ってたわね」
「……遅い」
マーサがペンを置いた。
「お腹空いた?」
「ちょっと」
「何か持ってきましょうか?」
「待つ」
「無理しなくていいのよ」
「ジジ帰ってきたら食べる」
「そう」
マーサはまた時計を見る。
少しして、事務所の扉が叩かれた。
「マーサ」
ルナリスが顔を上げる。
マーサが扉を開けた。
ジジが立っていた。
「遅くなった」
「ジジ」
「ただいま」
ルナリスは長椅子に座ったままだった。
「遅い」
「悪ぃ」
「昼までって言った」
「ああ」
「もう昼過ぎた」
「悪かったって」
「ずっと待ってた」
ジジがルナリスの前まで行き、しゃがむ。
「買い物終わってから、一回家戻った」
「なんで?」
「荷物多すぎた」
「置いてきた?」
「ああ。片づけてきた」
「だから遅かった?」
「……それもある」
「それも?」
ジジが少し間を置いた。
「ローズヒップの苗、売ってた」
ルナリスの顔が上がる。
「苗?」
「ああ」
「ローズヒップの?」
「二本買った」
「二本?」
「ああ」
「どこ?」
「家」
「家にあるの?」
「庭に植えてきた」
ルナリスの手が膝から離れる。
「もう植えた?」
「ああ」
「赤い実できる?」
「ちゃんと育てばな」
「大きくなる?」
「なる」
「どこに植えた?」
「庭の日が当たるとこ」
「触れる?」
「帰ったら触ればいい」
「ルナも育てる」
「ああ」
「お水あげる」
「頼む」
ルナリスが両手を伸ばした。
「帰る」
ジジがその身体を抱き上げる。
「もういいの?」
「何が?」
「怒ってただろ」
「怒ってない」
「そうかよ」
「早く帰る」
「はいはい」
「ジジ」
「何?」
「お腹すいた」
「先に言えよ」
「待ってたから」
「……悪かった」
マーサが立ち上がる。
「ルナリス、またね」
「マーサ、ありがとう」
「どういたしまして」
ジジも振り返る。
「ありがと。助かった」
「いいえ。今度は時間を過ぎそうなら、気をつけなさいよ」
「ああ」
二人は事務所を出た。
——————————————————————
家へ戻ると、ジジはルナリスを抱いたまま庭へ向かった。
「庭?」
「ああ」
「ローズヒップ?」
「もうすぐ」
庭の奥で足を止める。
「着いた」
ジジがしゃがみ、ルナリスを地面へ座らせた。
「ルナ、手」
ルナリスが右手を伸ばす。
ジジがその手を取り、ゆっくり苗へ近づける。
「棘あるから気ぃつけろ」
「うん」
指先が葉に触れた。
「これ?」
「ん」
ルナリスがそっと葉を撫でる。
「小さい」
「まだ苗だからな」
「もう一個は?」
「こっち」
ジジが手を取り、隣の苗へ導く。
ルナリスの指が二本目の葉に触れる。
「ほんとに二本ある」
「あるって言ったろ」
「大きくなったら教えて」
「ああ」
「花咲いたら?」
「教える」
「赤い実できたら?」
「それもな」
「絶対?」
「絶対」
ルナリスはもう一度、一枚目の葉へ触れた。
「ジジ」
「何?」
「遅かったけど、いいよ」
「……そりゃどうも」
「でも次は遅くならないで」
「ああ」
「約束」
「分かった」
ルナリスが小さく笑った。
庭には、植えたばかりの二本のローズヒップが並んでいた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




