行かない場所
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。
═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═
バインスへ向かう日が近づくにつれて
家の中から少しずつ、いつもの形がなくなっていった。
ジジの荷物がまとめられ
ルナリスの衣類が箱へ入り、
薬や保存食が分けられていく。
エレーンはその様子を見ながら
自分たちの荷物にも手をつけ始めていた。
「エレーン」
シエラが。
畳んでいた服から顔を上げる。
「何?」
「私たちは、どうする?」
いつか話さなければならないことだった。
エレーンは手を止める。
「姉さんは、どうしたい?」
「私は……」
シエラが少し考える。
「エレーンと一緒にいたい」
「それだけ?」
「今は、それが一番」
エレーンは小さく笑った。
「私もよ」
「じゃあ、一緒ね」
「ええ」
そこまでは簡単だった。
問題はどこへ行くのか。
「バインス」
シエラが言った。
エレーンは顔を上げる。
「ダンテが言ってたでしょう。エルフがたくさん暮らしている場所があるって」
「ええ」
「行ってみる?」
同族がいる。
二人で新しく暮らすなら悪い選択ではない。
仕事だって探せるだろう。
それに。
ジジとルナリスもいる。
「…………」
そこで思考が止まった。
シエラは何も言わず待っている。
「……行かない」
ようやくエレーンは言った。
「バインスには?」
「ええ」
「そう」
理由は聞かなかった。
でもエレーンは分かっていた。
バインスへ行けばルナリスに会える。
ジジにも会える。
きっと今までの続きを。
そのまま続けられる。
それはあまりにも都合がよかった。
「別の場所を探しましょう」
「分かった」
シエラが頷く。
「仕事も探さないとね」
「ええ」
「二人なら何とかなるわ」
その言葉にエレーンは笑った。
「姉さん、結構たくましくなったわね」
「エレーンに言われたくない」
「どういう意味?」
「そのままよ」
——————————————————————
荷物をまとめていると。
部屋の入口にジジが立っていた。
「何してんの?」
「見れば分かるでしょう」
「荷造り?」
「ええ」
「どっか行くの?」
エレーンは手を止めた。
「私たちも、ここを出ることにしたの」
「シエラと?」
「ええ」
「いつ?」
「あなたたちがバインスへ行く頃」
ジジは少しだけ黙った。
「そっか」
そういうと思った。
「どこ行くか決まってんの?」
「まだ決めてないわ」
「バインスは?」
胸の奥が小さく痛む。
「行かない」
「エルフいんだろ?」
「そうみたいね」
「だったら住みやすいんじゃねぇの?」
「そうかもしれないわね」
「じゃあ何で?」
エレーンは服を畳む。
「別にいいでしょう」
「まあ、エレーンが決めたなら」
またそれだ。
「……そうね」
ジジはまだ入口にいた。
エレーンは服を一枚箱へ入れる。
「ジジ」
「ん」
「私たちがいなくなったら、寂しい?」
言った瞬間。
手が止まった。
ジジは少し目を瞬いた。
「ああ」
「……本当に?」
「寂しいよ」
胸の奥が。
少しだけ軽くなる。
「一緒にいたし」
続いた言葉に。
その軽さが元へ戻った。
「ルナ寂しがると思う」
「……そう」
「うん」
エレーンは自分でも分からないまま。
もう一つ聞いた。
「引き止めないの?」
ジジが黙った。
ほんの少しだけ。
期待した。
シエラはずっと二人の話を聞いている。
「エレーンが決めた事だろ」
それだけで分かった。
「……そっか」
「ここにいたいなら、いていいし」
優しい。
本当に…どこまでも。
「知ってるわ」
「ああ」
「ありがとう」
ジジは少しだけエレーンを見た。
「何かあった?」
「ないわよ」
「そう?」
「荷造りの邪魔」
「分かった」
ジジは素直に出ていき、扉が閉まる。
エレーンはしばらく手を動かせなかった。
やがて小さく息を吐く。
「……馬鹿ね」
誰に言ったのか。
自分でも分からなかった。
ジジは自分を大切にしてくれている。
それは疑ったことがない。
ここにいていい。
好きなことをすればいい。
自分で決めればいい。
ずっと。
そうしてくれた。
でもそれと自分が欲しかったものは
どうやら同じではなかった。
——————————————————————
その夜。
庭ではルナリスが移動椅子の練習をしていた。
「ここ?」
「もう少し左」
ジジの声。
「左どっち?」
「こっち」
「見えない」
「あ、そっか」
「ジジ、馬鹿なの?」
「たまにね」
ルナリスが笑う。
エレーンは窓からその様子を見ていた。
ジジがルナリスの手を取って
車輪の動かし方を教えている。
何度失敗しても。
何度でも。
同じことをする。
きっとバインスへ行っても。
そうなのだろう。
ルナリスを中心に。
ジジの生活は続いていく。
エレーンは静かに窓を閉めた。
═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═
お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




