『受け継がれる意思』
轟音が最下層を揺らし、衝撃波が周囲の瓦礫を宙に舞わせた。
迅と黒の騎士の剣が激突した瞬間、
大地がひび割れ、天井の氷柱が崩れ落ちる。
「はぁ……はぁっ……!」
迅は荒い呼吸を繰り返しながら、
握った剣が折れそうなほど震えているのを感じた。
一方、黒の騎士は乱れない。
呼吸音すらなく、その漆黒の鎧は傷一つついていない。
圧倒的。
絶望的。
それでも――迅の意思は消えていなかった。
「行くぞ……!」
素早く踏み込み、迅が斬り上げた。
黒の騎士はそれを軽く受け流す。
衝撃だけで迅の体が弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
血を吐きながらも、立つ。
(何度倒れても……立つしかないんだ……!)
黒の騎士がゆっくりと歩き出す。
重い足音が、まるで死刑宣告のように響いた。
そして、初めて口を開く。
「――何故、戦う?」
低く、深く、土の底から響くような声だった。
迅は息を呑む。
「お前は、何のために強さを求める?」
それは“試す者”の声だった。
「……俺は――」
迅は答えを探すように胸に手を当てた。
生前の想い
氷狼王の想い。
リリィたちの笑顔。
自分が今ここに立っている理由。
「守りたいからだ!」
黒の騎士が動きを止めた。
「俺には、大した才能なんてない。
仲間より弱いのもわかってる。
でも、誰かを守れる力が欲しいんだ……!」
その叫びは、ただの感情ではなかった。
迅がここまで積み重ねてきた“戦う理由”そのものだった。
「俺は……守るために戦う……!
それだけは絶対に、曲げない!」
黒の騎士は無言で剣を持ち上げた。
――まるで、答えを受け取ったかのように。
次の瞬間、黒の騎士の気配が変わった。
重圧。
殺気。
そして、何か別の感情。
黒の騎士は、両手で大剣を構えた。
「……ならば示せ。
その刃に宿る“覚悟”を」
地が震え、空間そのものが歪む。
黒の騎士が放つ最後の一撃――
それは、これまでの攻撃とは比較にならない。
「守ってみせよ」
その呼びかけと共に、黒い残光を引きながら大剣が振り下ろされた。
「守るために――負けられない!!」
迅も全力で迎え撃つ。
剣に、ありったけの力を込めた。
金属同士がぶつかる音はしなかった。
代わりに、世界が軋むような音 が響いた。
「う……おおおおおッ!!」
(折れるな……折れるな……!!
この剣は……仲間の未来を守るための剣なんだ――!)
迅の全身が軋む。
足が床にめり込む。
腕が千切れそうになる。
それでも――
折れなかった。
黒の騎士の大剣が止まっていた。
やがて、黒の騎士は剣を引いた。
静かに、深く、頷く。
「……見事だ」
その声音には、戦いの冷たさではなく、
何か温かいものが宿っていた。
黒の騎士は、自らの大剣を地面に突き刺した。
刃が光り、黒い紋様が剣から剣へと移っていく。
まるで“力”を渡すように。
「その剣を――持て」
迅はゆっくりと黒剣を握る。
冷たいはずなのに、どこか懐かしい温度を感じた。
「我が名は……セリウス。
この地に封じられし――“ルシェラを守る者”。」
迅は息を呑んだ。
黒の騎士は最初で最後の名を、彼に告げる。
「頼む……彼女を……導いてやってくれ……」
その言葉とともに、黒の騎士の鎧が光となって崩れた。
静かに、優しく。
残されたのは、黒剣だけ。
「……頼むって……どういう……ことだ……?」
迅の手の中で黒剣が微かに脈打つ。
その瞬間、
足元の魔法陣が輝き、迅の身体を包んだ。
世界のシステムが動き出す。
次の瞬間、迅の“ジョブ”に変化が訪れようとしていた。




