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ご都合魔法



「とりあえず、どうすっかなぁ」


認めたくないけどあのふざけた手紙のおかげで、現在の状況と自分の力は把握することが出来た。後は、今後どう動くのかを決めるだけだ。

念のために、現状をザックリ説明するとこうだ。



・この世界は、俺がやっていたゲーム(ユグドラシル)の世界とほとんど変わらない。

・俺は全ての職業(ジョブ)の恩恵を受けているおかげで超強い。

・自由に生きていい。でも身寄りも金もない。

・神様はお仕置の為、謹慎中。



最後のやつは特に困らないのでどうでもいいけど、いきなり自由にしていいと言われても困る。

神様は、英雄にも殺人鬼にもなっていいって言ってたけど。正直どっちもごめんだな。

ゲームの中で目立つのは好きだったけど、いざ現実(リアル)で自分が目立つとなるとあまり気が乗らない。というより、五年間も引きこもっていた俺に英雄とか無理無理。殺人鬼も論外だ。そんな趣味はない。


なら、どこかの村か町に住んで働くか?・・・いや、それも無理だな。そもそもそんなチマチマ毎日働くことが出来るなら、ちゃんと学校に通ってるしFXにも手を出していない。


「いっそのこと、冒険者にでもなってみるか?」


適当に依頼(クエスト)をこなして、適当に金を稼ぐ悠悠自適な冒険者稼業・・・悪くないな。幸いにも俺には、全職業(ジョブ)の恩恵もあるしほぼほぼ死ぬこともないだろう。むしろ、死ぬほうが難しいレベルだ。

五年間引きこもってた分、外の世界を見て回るのも楽しいかもしれない。おお、そう考えてみると冒険者稼業良いじゃないか。決めた!冒険者になろう。


「冒険者になるとしても、まずは森を抜けないとな。頑張ろう」


そう、まずは森をぬけて街につかないことには話にならない。

確かゲームだと道しるべのように置いてある丸太に沿って三十分ほど進むと、森をぬけて街につくはずだ。

まぁ、余裕だろう。ついでに、丸太で他の武技(アーツ)魔法(スペル)も確認しながら進むか。




・・・




・・・




・・・




「おかしい、これはおかしい」


歩き始めてかれこれ三時間は経つのに、一向に森の外に出る気配がしない。

日もすっかり落ちてきて、大分暗くなってきた。薄暗い森の中に一人ぼっち・・・流石に心細い。


「おかしい、ゲームならとっくに・・・はっ、そういうことか」


ここでようやく自分の認識の間違いに気づいた。ここはユグドラシル(ゲーム)じゃない。ユグドラシル(ゲーム)に限りなく近い異世界(現実)だ。

ゲームの森は容量の関係で狭いが、実際の森はとても広い。時々、森で遭難しただの一週間彷徨っただのニュースを聞くほどだ。


「・・・森を舐めてたわ」


俺はがっくりとうなだれる。ふと「自然を舐めるな」という有名な自称探検家の名言が頭によぎるが、今はどうでもいい。

おそらく丸太に沿って歩いていけば森をぬけれるのは間違いないと思うが、問題は後どれくらい進めば良いのかだ。

惜しみなく発揮されている技能(スキル)のおかげで、疲労感はまったくない。まったくないが、漠然とした不安感が込み上げてくる。


「下手すると野宿だぞ・・・」


無理だ。引きこもりの俺に野宿なんてハードルが高すぎる。あぁ、なんかお腹も空いてイライラしてき・・・てない?


な、なんだ。あんなにイライラしてたのに、イライラが嘘のようにスゥーっと引いていくのを感じる。イライラどころか、不安感や心細さも消えて穏やかな気持ちになっていく。なにこれ怖い。


「これはいくらなんでも不自然すぎる。となると技能(スキル)か?」


むしろ、思い当たる節が技能(スキル)しかない。確か精神に作用する名目で魔力を底上げする技能(スキル)があったな。おそらくだが、そこら辺の技能(スキル)が作用したと思われる。

いや、ありがたいっちゃありがたいけど強制的に鎮静された感があって怖いんだが。


「でも、おかげで少し冷静になれたな」


技能(スキル)のおかげで強制的に冷静にされたとも言うが、それはさておき俺には魔法(スペル)があるじゃないか。

ゲーム(ユグドラシル)にも夜は存在する。夜は視界も制限され、魔物(モンスター)も活性化し強化されるといったデメリットしか存在しない。多くのプレイヤーは夜には街等の安全圏に戻るが、迷宮(ダンジョン)や遠征しているプレイヤーはそうもいかない。

そう、野営するしかない。そして、その野営を補助する魔法(スペル)があるのだ。

ここ最近、ずっと近距離戦闘専門の職業(ジョブ)ばかり使ってた為、魔法(スペル)のことすっかりわすれてたわ。


「まずは光源の確保だな。【光球(ライトボール)】っと。よし、これで朝まで保つはず」


俺の頭上に光の球が出現し、眩しすぎず暗すぎずちょうど良い光量で周囲を照らしてくれる。

光球(ライトボール)】は、名前の通り光の球を飛ばし暗所を照らす魔法だ。魔力が尽きるまで辺りを照らし続けるが、【光球(ライトボール)】の消費魔力はとても低く、低レベル帯のプレイヤーでも余裕で朝まで保たせることができる。

まぁ、野営するプレイヤーに対する救済措置のような魔法だ。


「さてお次は【安全地帯(セイフティハウス)】!」


魔法を唱えると、何もないところから立派なログハウス風の家が出現する。

これも先ほどの共済措置の一つだ。一見するとただの家に見えるが、魔物は侵入することも壁に傷をつけることすらもできない正に安全地帯だ。

俺はソロで遠征することが多かったから、この二つの魔法には良くお世話になってたな。


「さて、問題は中だけど・・・うん、大丈夫そうだ」


家の中を確認して俺は安心する。良かった。家具一式揃ってるわ。

流石に食べ物はないけど、これで地べたの雑魚寝っていう最悪の展開は防げたから良しとしよう。

正直、お腹空いてるけどそれは明日何とかしよう。仕方ないね。もう寝よう寝よう。




・・・




・・・




・・・




「ふぁー、良く寝たぁ。そろそろ行きますかね」


安全地帯(セイフティハウス)のおかげでぐっすり寝れたし、目覚めもバッチリだ。

俺は安眠をくれた安全地帯に感謝しつつ、維持に必要な魔力を解除する。すると、安全地帯は地中に沈むように音もなく消えていった。

これって安全地帯の中にいる状態で魔力切れたらどうなるんだろう。一緒に地中に沈むのかな?

・・・か、考えるのは辞めよう。


俺は昨日に引き続き、丸太に沿って進むことにした。とりあえず、今日の目標は森をぬけることと食糧を見つけることだ。飲み物は魔法で水を出せるから問題ないんだけど、食べ物がねぇ・・・割とマジでお腹が空いてるんだよね。もうね、お腹がギュルギュル悲鳴を上げてるの。転生早々に餓死とかシャレにならん。


「・・・進むか」


食べ物のことを考えてたら余計にお腹が空いてきた。俺は、丸太を目印にガンガン進んで行くことにした。

武技・魔法の検証?ハハッ、昨日いろいろ試したよ。試した結果、どの武技を使っても丸太は爆ぜたし、魔法にいたっては消し飛んだよね。

めちゃくちゃ手加減して、何とか丸太が弾けないように力加減を調節することができたけど、森がちょっとした禿山みたいになってて心が痛かったわ。


特に魔法は、戦闘では絶対使わない。

・・・あれは、かなり悲惨だった。軽い気持ちで丸太に【火球(ファイヤーボール)】を放ってみたら、出てきたのは直径一メートル位の火の球ですよ。丸太を軽々と消し炭にして、周囲の木々を燃やしまくってさ。もうね、大規模森林火災だよね。

火を消そうと慌てて【水球(ウォーターボール)】を放ったら、なんと津波が発生!火は消えたけどそれ以上に木々をへし折るっていうね。

魔法に関しては、周囲の被害が甚大だから封印することにしたよ。


「お、リンゴっぽいのが生ってる。あれ食えるかな」


順調に森を進んでると、真っ赤な果実をつけてる木を発見した。一つもいで見てみると、リンゴみたいにふっくらしてて美味しそうだ。

空腹も相まって、思わずその実にかぶりつく。


「う、うめぇ!」


リンゴっぽい実は、リンゴっぽい味がした。リンゴ以上に甘みが濃厚で、果肉も肉厚だからとても食べ応えがある。一個だけでお腹が膨れるほどボリューム満点だ。

よし、非常食として何個か持っていこう。


でも、何だろう?リンゴっぽいやつを齧る度に、頭の中でビービーって音が鳴るんだよな。

何となく危険信号を思わせる音だけど、問題なく食べれてるから大丈夫なのか・・・?

といっても食べ物はこれしかないし、今のとこ食べるしか選択肢ないんだよなぁ。


「さーて、腹も膨れたしどんどん進むかー」


考えても仕方ない。とりあえず進もう。物事は勢いだけでなんとかなるもんだ。実際、FXも勢いでなんとかなったしな。




・・・




・・・




・・・




「お、何か聴こえるな・・・獣の声?」


特にアクシデントもなく丸太を目印に道を進んでいると、森の奥のほうから何やら獣の鳴き声が聞こえてくる。声のほうに近づくと、どうも複数の獣の唸り声をあげてるようだ。

日本では犬に吠えられてビビってた俺、その何倍もの迫力の唸り声に当然ビビる。


「とりあえず、見に行ってみるか。もしかしたら肉が手に入るかもしれないしな」


この自給自足のサバイバル生活な現状、ただビビっているだけじゃいられない。リンゴっぽい実で餓死は回避できたけど、肉が食べれるなら肉が食べたい。そして、肉を食べるにも自分で用意しないといけないのだ。


「全ジョブの恩恵もあることだし、死ぬことはないだろう。うん、大丈夫大丈夫」


そうは言っても、やっぱり怖いもんは怖い。無理やり、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

大丈夫大丈夫・・・あっ、何かスゥーっと恐怖心が引いてきた。多分、これも何かしらの技能が働いてんなぁ。

ありがたいっちゃ、ありがたいけど。やっぱり強制的に鎮静されてる感があって、別の恐怖を感じるわ。

まぁ、悔しいけどおかげで冷静になれた。やばそうだったら逃げればいいし、様子を見るだけ見にいくか。




・・・




「お、いたいた。あれは、狼・・・バランウルフか」


身を隠しながら唸り声のするほうへ向かうと、青い狼たちが白い狼を取り囲んでいた。どっちの狼も殺気をまき散らして、一触即発の雰囲気を醸し出している。縄張り争いかな?

唸り声だけでも怖かったのに、実際に見ると迫力がヤバいな。足が恐怖でガクガク・・・あっ、技能さん。鎮静ありがとうございます。


「んー、バランウルフは分かるけど。白い狼は、こんなとこにいたっけ・・・?」


青い狼は、バランウルフで間違いないと思う。ゲームでプレイヤーが、一番最初に闘うチュートリアル用の魔物だ。うっすらと見覚えがある。確かバラン森の固有種だからバランウルフって名前だったかな。

でも、あの白い狼は見覚えがないなぁ。ゲーム内では白い魔物はレイドボス限定でしか存在しない。

レイドボスとは運営が用意した多人数参加型討伐ボスの総称で、一言でいうとめちゃくちゃ強い。弱めのレイドボスでも、高レベルプレイヤーが数十名は必要という鬼畜な難易度を誇る。ソロで活動してた俺でも

、レイドボス戦は傭兵として参加してたくらいだ。


つまり、白というのは最強の証でもある。でも、あの白い狼はどう見てもレイドボスには見えない。むしろ、チュートリアル用の魔物に囲まれちゃってるくらしだし。


「うーん、神様もゲームと全てが同じではないって言ってたし、こういうこともあるのかな?」


そう、ここはゲーム(ユグドラシル)の世界ではない。ユグドラシルの世界に限りなく近い異世界なのだ。そろそろゲームと現実の区切りをしっかりしないと、いつか足元救われそうだ。今も心のどこかで、ゲームをやってる感覚でいるのは否めない。気を引き締めないとな。

うん、気を付けよう。白い魔物だってそこら辺にいるさ、異世界だもの。


「技能の効果で殺気MAXの狼みても全然怖くないし、狩ってみるかな」


技能先生の鎮圧のおかげで、あれだけ怖かった狼も最早獲物にしか見えない。

ふふふ、ここら辺でいっちょ初戦闘でも経験しとくかな。ついでに毛皮とか素材と肉も取れるし、特にあの白い狼は良い毛皮が取れそうだ。

そして、何より肉が食べたい。成人男性にはリンゴっぽいやつで空腹は満たされても、食欲は満たされなかったよ。


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