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初めての戦闘



「とはいえ、初戦闘であの数はちょっと荷が重いな」


俺は茂みに身を潜め、狼たちを観察する。青い狼もといバランウルフが六匹に白い狼が一匹。怪我をしているのか所々血を流している満身創痍の白い狼を逃がさないように、バランウルフが取り囲んでいる構図だ。バランウルフの方は目立った怪我もなく、どこか余裕そうな感じがする。

縄張り争いか?どちらにせよ、バランウルフと白い狼が敵対してるのは分かる。


「となると、数が多いほうを先に減らすか。【指弾(しだん)】」


俺は足元に落ちてた小石を拾い上げ、バランウルフを標的に武技を発動させる。

指弾とは小石等のつまめる程度の小さい物を指で弾き飛ばして攻撃する武技で、低レベル帯の拳士唯一の遠距離技だ。ゲーム序盤では、敵を釣ってタイマンに持ち込むためにお世話になったな。


俺が弾いた小石は、バランウルフ目がけて一直線に飛んでいく。そして、小石が頭部に命中した瞬間・・・弾けた。うん、頭がこう・・・パァンって。


「うおぇぇええっ、グロっ!うわぁ、これはひどい」


想定外の惨劇に思わず吐きそうになるが、ぐっと堪える。そして、安定の技能による鎮静。

・・・ふー、落ち着いたわ。ありがとう技能先生。

いやー、改めて自分がやったこととはいえ、これはきついわー。丸太で弾けるのは見慣れてたけど、生物が弾けるのは別物だったわ。


「幸いにも気づかれてはないみたいだな」


バランウルフは突然弾けた仲間に動揺しつつも、辺りを警戒している。どうやら、俺の存在にはまだ気づいていないようだ。しかし、小石であの威力かぁ。狼はまだ六匹いるしもう少し数を減らしたいけど、あの惨劇はなるべくみたくないな。


「お、これは・・・試してみるか【指弾】」


俺は、何となく目に映った小枝を指弾で飛ばしてみる。よしっ、今度は弾けることなく、小枝はバランウルフの体を貫通していった。惨劇回避である。この調子で、小枝指弾で二匹を追加で仕留める。

しかし、バランウルフは相変わらず俺を見つけることができない。ずっと同じ場所から狙撃してるし、気付いてもおかしくなさそうなんだけどね。


「あー、多分技能が発動してるんだろうな。【隠遁】あたりか?」


思い当たる節があるとするなら、技能くらいだ。俺は今、自分の意思で身を潜めている。気配遮断(ハイド)系の技能が発動してるとしてもおかしくはない。こうしてみると、自分のチート具合が良く分かるな。

まぁ、ラノベのチート系主人公に憧れてたし、生きる上で困ることもないから良いんだけどね。


「さて残りは、白いの含めて三匹か。そろそろ、近接も経験するか」


「「「グルルルルル」」」


「おー、怖い怖い。でも俺は、不思議とそんなに怖くないな」


茂みから出てきた俺に、バランウルフと白い狼は殺気をガンガン飛ばしてくる。

日本では、犬に吠えられえるだけでビビってた俺。技能のおかげとはいえ、二メートルくらいある狼と対峙しても不思議と落ち着いてることに妙な感慨があるなぁ。

何かまるで自分じゃないみたいだ。


「んー、出てきたは良いけど。どっちから倒そうかな」


左側には傷だらけの真っ白な狼。右側には割と元気そうなバランウルフ二匹。

白い方は、あまり動けなさそうだから逃げられる心配はない・・・となれば、バランウルフの方からやるか。

俺はバランウルフの方へ向き直し構えを取ると、バランウルフもいつでも飛び掛かれるように戦闘態勢を取る。


「グルルルル、ガァッ!」


「おっと、危ない」


二匹同時に襲い掛かってくるバランウルフの猛攻を、俺は危なげなく軽やかに避ける。


よし、思いのほか動けてるな。バランウルフの動きが手に取るようにわかる。


俺はバランウルフの攻撃を避けつつ、自分の動きを確認する。技能のおかげで自分の身体能力が極限に強化されているのは知っているが、実際に自分で確認しないことにはいまいち信じることができないからだ。

俺はこれを機に、色んなことを試すことにした。

身体能力は向上してる。武技や魔法の威力も分かった・・・次は防御面か。


「ええい、男は度胸だ!」


怖いから試すのは一番最後にしてたが、技能先生はちゃんと働いてると確信し腹を括る。俺は避けることをやめ、両腕を上げて防御態勢をとる。


「「ガァァッ!・・・ガッ!?」」


俺が動きを止めると、チャンスとばかりに飛び掛かってくるバランウルフ。それぞれ、腕と横腹に噛みつくが歯が通らないらしく噛みついたまま困惑している。


「ははは、全然痛くないや」


思わず笑ってしまった。

多少の怪我は覚悟で攻撃を受けてみたが、でっかい牙で噛まれるのはものすごい恐怖があった。心臓がすごいバクバク鳴ってたけど、それもすぐに技能先生によって強制鎮静され落ち着く。

実際に攻撃を・・・というか噛まれてみたが、まったく痛くなかった。それどころか、あんなに鋭い牙が皮膚すら貫通できていない。ちょっと痒い程度である。

さすがにこれは人間やめてないか?という意味で、笑ってしまったのだ。


「さて、試したいことは全部試したから、そろそろ終わらせようかね。【発剄:ダブル】」


俺は極限にまで威力を殺した発剄を発動する。未だに噛みついているバランウルフの腹に、そっと手のひらを当てる。するとバランウルフは全身を逆立たせた後、静かに倒れる。


「おお、今のは良い感じに武技が打てたんじゃないか?」


俺は絶妙な加減で武技を打てたことと、倒したバランウルフの体に外傷がないことに満足する。今のでなんとなくだけど、加減のコツがつかめたような気がする。

うん。これだけ綺麗に仕留めることが出来たから、素材として高く売れるんじゃないか?小石指弾で倒したやつは、せめて肉だけでも美味しく頂こう。

命を粗末にしてはいけないって、バーちゃんも行ってたしね。


「・・・グルルル」


「あぁ、そういえばまだお前がいたっけか」


発剄が綺麗に決まったことが嬉しくて、もう一匹いるのすっかり忘れてたわ。白い狼の方へ向きなおると、白い狼は立つ余力もないのか横たわりながら俺を睨みつけていた。


「・・・良くみると大分傷だらけだなぁ。毛皮穴だらけやん」


ボロボロの白い狼を眺めつつ、俺はため息をつく。白い狼の毛皮は高く売れそうな感じで期待してたんだけどなぁ。

ん、待てよ?回復系魔法で癒せば毛皮復活するんじゃないか?

回復魔法の試し打ちができるし、無傷の毛皮もゲットできる・・・一石二鳥じゃん。


「そうと決まれば【癒しの光(ヒール)】」


俺は、白い狼の方へ手をかざし魔法を発動する。すると、突き出した手のひらに小さい魔法陣が発生し、白い狼が光に包まれる。


「おお、傷が治っていくな」


よしっ、成功だ。光に包まれた白い狼の傷が、ものすごいスピードで治っていく。白い狼も何が起こったのか、不思議そうに自分の体を見渡している。思った通り、毛皮もバッチリ綺麗だ。


「お次は毛皮の回収だね。って、おおっ?」


回復魔法の検証と毛皮の修繕も完了し、毛皮の回収をしようとしたら元気になった白い狼が俺の目の前でお座りしてる。

・・・尻尾バッサバッサ振ってるし、ハッハッハッハッて言いながら犬が飼い主に向けるような視線で俺を見つめてる。


や、やりづれぇ!毛皮の回収しづれぇ!


あれだ。絶対、俺のこと助けてくれた恩人と勘違いしてる。だって目がキラキラしてるもん!さっきまで鋭い目してたのに、犬みたいな目になってるもん。

あっ、お腹見せてきた・・・確定ですやん。主人認定してますやん。うわぁ、今更だけどすんごい罪悪感わいてきた。毛皮目的で癒したなんて言えない。


・・・うん、このことは俺の胸に内にしまっておくか。今すべきことは、目の前にいる犬と化した狼をどうするかだな。


「・・・」


めっちゃ見つめられてるよ。すんごい何かを期待した目で俺を見つめてるよ。だが、俺は言うぞ。心を鬼にして言うぞ!


「・・・腹減ってないか?一緒に肉食うか?」


「ウォンッ!」


・・・犬の可愛さには、勝てないよ。狼だけど。



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