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やってきたよ異世界


「・・・知らない天井だ。ってあれ?・・・ここどこ!?」




目が覚めたら俺は森の中で寝てた。屋内どころか屋外である。

あんまり実感が湧かないけど、もうここは異世界なんだろうなぁ。でも神様。死んだ身としては第二の人生を与えてくれたことには感謝してるけど、転生先が森の中ってどうよ?

てっきりどこかの家庭のお子さんとして生を授かるもんだと思ってたんだけど・・・ははは、天涯孤独でしかも丸腰ときたか。これは最初から人生ハードモードだなぁ。


「とりあえず、適当に進んでみるか。木の実とか落ちてないかなぁ」


ここにいても仕方ないし、俺は森の中を進むことにした。何だろう。この景色、なんか見覚えがあるんだよな。神様は、ユグドラシルの設定をマルパクリするって言ってたからゲーム上では来たことあるんだろうけど・・・うーん、思い出せない。




・・・




「・・・あぁ、ここってバランの森か」


モンスターに模した丸太を見つけて、俺はここがバランの森だと確信する。

ここは、ユグドラシル新規プレイヤーが最初にリスポーンするチュートリアル専用の森だ。ここで戦闘や採取の仕方などを一通り習得するんだけど、逆に言うとそれしか用途のない森だ。

俺もここを訪れたのは、チュートリアルの時だけだし五年も前の話だ。そりゃ、覚えてないわ。


「マルパクりするとは言ってたけど、本当にまんまやん・・・」


定期的に配置された丸太を眺めつつ、ゲームとほぼほぼ変わらない光景に気持ちが昂る半面、マルパクリした神様にツッコミを入れたい衝動に駆られ素直に感動できない。

しかし、俺はあることに気づいた。


「・・・ということは、アレも使えるのか?」


そう、アレだ。ここまでゲームと一緒だと、異世界転生でお馴染みのアレが使えるんじゃないか?

やっば、ワクワクドキドキが止まらない。

物は試しだ、やってみよう。俺は、高らかに声を上げる。




「ステータスオープン!」




・・・




・・・はい、何も起きません。




ですよね、いくらユグドラシルを真似たとしてもステータス画面なんて出ませんよね。えぇ、知ってましたよ。異世界とはいえ、ここは現実。ゲームじゃないんだもの。

でも、夢くらいみたっていいじゃない。人間だもの。


「さすがにそんなに都合良くはないか。これだと【武技】や【魔法】【技能】の存在も怪しくなってきたな・・・」


【武技】【魔技】【技能】とは、ユグドラシルにおける戦闘の三大要素だ。【武技】とは、物理特化職が主に気力を消費して扱う技のことだ。高レベルになればなるほど威力の高い【武技】を習得するが、それに伴って消費する気力も増えていく。


【魔法】は、魔法特化職が主に魔力を消費して扱う魔法のことだ。これも物理特化職と同様に、高レベルになればなるほど威力の高い【魔法】を習得するが、消費する魔力も増える。


最後に【技能】だが、これは身体機能向上や状態異常を抑える等の特殊技能のことだ。常時発動しているものと任意で発動させるものに分かれている。


「そもそも、今の俺の【職業】は何なんだ?ステータスが見れないからわからん」


【職業】とは、ユグドラシルが不動の人気を誇る理由の一つだ。ベースとなる【職業】である剣士・拳士・魔法使い・治癒師を起点にものすごい数の【職業】へと派生していくのが特徴だ。

ちなみに俺はリアルと睡眠時間を捨て、金も湯水の如く課金することによって五年で全ての【職業】をカンストさせることができた。

五年だよ?そりゃ、歓喜の舞の一つや二つ踊っちゃうよね。仕方ないね。


「多分だけど、丸腰ってことは拳士ってことかな?レベルも1だと仮定して・・・使える【武技】は、強打と発剄くらいか?」


そもそもレベルの概念があるのかも怪しい。でも、わざわざ神様が俺をチュートリアル専用の森の中に転生させたことを考えると、ここで【武技】の練習をしていけとも汲み取れる。

部屋に引きこもって五年、ここ数年マウスと箸しか握った記憶がない。

・・・うん、チュートリアル用の魔物に手も足も出ずに食われる自身があるわ。

異世界にせっかく来たんだ。第二の人生、すぐ死にたくはないしどうせなら楽しみたい。


「生きる為に、試せることは試しておくか・・・って、あるぇっ?」


なんだこの筋肉っ!?

気合を入れる為にガッツポーズを作った際に自分の腕が視界に入ったけど、なんだこの筋肉っ。大事なことだから何回も言います。なんだこの筋肉っ、ムッキムキやないか。

あれだ、自慢じゃないが。この五年間マウスと箸くらいしか持たなかった俺の体には、必要最小限の筋肉しかない。

身長が高い分、ものすごいヒョロガリだ。・・・なんか自分で言ってて悲しくなってきた。


「うひゃー、腹筋バッキバキですやん」


恐る恐るお腹をめくってみると、そこには決して太くはないが極限まで引き締められたかのような見事なエイトパックが存在していた。

もしかして、俺の貧弱な体を哀れんだ神様からの粋な贈り物?

・・・こうなってくると、自分の現在の容姿がめちゃくちゃ気になってきた。くそっ、鏡もなければ水辺もないから自分の姿がみれん。

そして、自分の肉体にビビりすぎて忘れてたけど【武技】の確認しないと。


「とりあえず、拳士の強打でも試して見るか」


拳士とは、己の肉体を武器として戦う【職業】だ。俺は、丸太を正面に構えをとる。


「【強・・・」


ちょっと待てよ。俺は、丸太に拳を突き出す寸前で止める。丸太にこのまま拳を打ち付けたら痛いんじゃね?そもそも喧嘩とかしたことないし、格闘技も習ったこともないから拳の正しい突き方もわからん。下手したら怪我するんじゃね?


・・・よし、強打は辞めよう。手の平で気を打ち付ける発剄なら痛くないだろうし、発剄にしよう!

俺は、気を取り直して再度丸太に構えをとる。


「【発剄】ってうおおおお!?」


ちょ、体が勝手に・・・動く!

なんと武技名を唱えたら、体が勝手に動き始めた。なにこれ、自分の体なのに勝手に動くって怖い。

そして武術の達人のような洗練された動きで、丸太にそっと両手のひらを当てる俺の体さん。




・・・あれ?そんだけ?まさかの不発?




時間差で的を丸太の後ろが勢いよく弾け飛んだ。




「ほぎゃあああああああああああ」




俺は、勢いよく飛び散った丸太にビビり尻もちをつく。

なにこれ威力おかしくない!?うわぁ、前の方は無傷なのに後ろ半分が弾け飛んじゃってるよ。

発勁は、相手の内臓に衝撃を与える技で丸太がこんな風に弾ける技ではない。そして何が怖いって、この惨状を俺の体が勝手に動いてやったっていうことがすっごい怖い。

武技がちゃんとあることに安心したけど、さっきの光景が衝撃すぎて動悸がとまらん。


「おお、見事に中身が吹っ飛んでるなぁ」


丸太の後ろに回り、弾け飛んだ部分をまじまじと眺める。

はは、見事に中身を抉るように弾けてら。これって生き物に使ってたら、さっきの丸太みたいに中身がパァンってなってるってことだよね?

うん、発剄は封印だな。好き好んでグロ映像は見たいし、仕方ないね。


「ん?丸太の中身に何か入ってるな・・・手紙か?」


なんと丸太の中に手紙らしきものが入ってた。・・・どうやって入れた?

うーん。手紙の主には何となく心当たりはあるけど、とりあえず読むか。




~親愛なる三上椎名君へ~

これを読んでいるってことは、無事に異世界へこれたってことだね。おめでとう。

君のおかげで無事に、この世界を創ることが出来たよ。

世界創造にあたって多大な貢献をしてくれた君は、この世界の生みの父と言ってもいいね。

ちなみに母はボクね、生んだのはボクだもの。

あっ、そうなるとこの世界はボクと君の愛のけっしょ・・・




・・・スゥーハァーッ、スゥー、ハァー。




俺は、手紙を静かに封筒へ戻し深呼吸を繰り返す。


「うぜええええ、初めて会った時からそんな感じがしてたけど、あの神様めっちゃめんどくさいぞ」


落ち着け、落ち着け俺。あんなんでもこの世界の神だ。

手紙を破り捨てたい衝動を必死に抑える。心を落ち着けるんだ椎名。バーちゃんが言ってたじゃないか、心はCOOLにって・・・ふう、ちょっと落ち着いてきた。ありがとうバーちゃん。


手紙の送り主は、思った通り神様だった。しかし、丸太の中に手紙仕込むとか何を考えてるんだ?俺が丸太をスルーしたらどうするつもりだったんだろう。

・・・とりあえず、最後まで読もう。破くのはその後だ。




~親愛なる三上椎名君へ~

そうなるとこの世界はボクと君の愛の結晶だねっ。

そんな愛の結晶だけど、やっと君のやっていたゲームと同じくらいの文明レベルまで育ったから君を転生させることにしたよ。

世界観や地形とかほぼほぼそのままだから、色々と楽しんでもらえたらボクも嬉しい。

あっ、でもさすがにステータス画面とか死んだら生き返るとかそんな要素はないから注意してね。

後、この世界に住む人々は独自の生活を歩んでいるから、君の知っているゲームとは少し違いが出てるかもね。

最後に、お礼として君のゲームキャラクターの性能をそのまま君に引き継がせているから活用してね。

英雄になろうが、殺人鬼になろうが君の自由に動いていいよ。

親愛なる三上椎名君に素晴らしい人生があらんことを。

ボクはいつでも君を見守っているよ。by神様




「手紙の冒頭はふざけてたけど、途中からしっかりとしてたな」


手紙を破り捨てようとしてごめん神様。割と俺のこと考えてくれてたのね。

しかし、ゲームキャラクターの性能全てを引き継いでるって・・・めちゃくちゃやばくないか?

俺、全部の職業ジョブカンストしちゃってるよ?


「でも、それだと発剄の威力が説明できちゃうんだよなぁ」


俺は、抉れるように弾け飛んでいる丸太を見る。通常の発剄の威力では、こんなことにはならない。そう、通・常・の・発・剄・ではね。

各職業ジョブには、己の能力を向上する技能スキルを複数習得することができる。例えば戦士が最初に覚える技能スキルの【怪力】だと、常時筋力を20%UPする効果を持っている。

職業ジョブレベルを上げて技能スキルを習得していき、能力の底上げをして強くなっていくのだ。


各職業ジョブの技能スキルは重複しないのだが、俺の場合は違う。全職業ジョブレベルカンスト特典として、全ての職業ジョブの武技アーツ・魔法スペルが使用でき、全ての技能技能が適応されるのだ。

具体的に言うと、俺の攻撃力と防御力は数千倍レベルで強化されており、おまけに魔導士や神官も真っ青なレベルの魔法スペルを繰り出せる。

つまり今の俺は、とんでもない身体能力フィジカルお化けというわけだ。当然、発剄の威力も倍増されており、丸太が弾け飛ぶのも納得できる。


後、俺がムキムキマッチョメンになってることも説明がつくな。

おそらく身体強化系の技能スキル【剛体】【金剛】【鋼の体】あたりの影響を受けてるんだと思う。

・・・異世界生活、案外何とかなりそうな気がしてきたな。というか、人生ハードモードからイージーモードになったレベルだ。


「とりあえず、他の武技も試してみるか。ん?手紙二枚目がある」




PS.他の神達に、ゲームの設定丸パクリしたことがバレちゃってね。

罰として千年ほど謹慎することになりました。

君が寿命を迎えるまで、見守るつもりだったんだけどごめんね笑。

他の神が君に介入することは・・・多分ないと思うけど。まぁ、頑張って笑




俺は無言で手紙を破り捨て、その上から【豪打掌】を打ち込んだ。

この日、バランの森で大規模な地震が発生し、巨大なクレーターが発生した。




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