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平凡なヒロインですみません (改訂・休止中)  作者: アキヨシ
第三章(聖女編)

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36.王妃様のお茶会④(異変)

「母上、聖女はどちらに?」


「アルフォンスもお茶会に参加するのかしら」


 王妃主催の茶会は、未成年者中心の会だ。わたしは成人しているし――


「いえ、わたしは既に婚約者がおりますので」


「まあ、ミンツ候のご長男は先日婚約したばかりでも参加していてよ」


「ああ、婚約者の令嬢のエスコートでしょう。それを建前に聖女に近づこうとしているのかどうかは知りませんが」


「あら、そっけない事。そうそう、オディール様がおいでになっているわ。顔を会わせない内に戻りなさい」


 わだかまりのあるソーフィールド公爵の一人娘。外見は申し分ない美貌の令嬢だが、内面は捉えどころがない。

 人を操る術をすでに持つ麗しきオディール嬢が、国と王家に忠誠を誓えるのなら、わたしは彼女を推しただろう。だが、国際情勢の変化には抗いようもない。

 わたしの婚約者となりえなかったことで、恐らく恨みを買っている。だからと言って、王太子であるわたしが顔色を窺うべきではない。

 まあ、無用の争いは避けるに越したことはないが。


「遠目にルシフェル殿下と一緒の所を拝見しましたよ。で、聖女とシリウスはいずこに?」


「そうねぇ、どこかしら。お小さいけれど目立つから、すぐに見つかると思うのだけれど……ああ、いらしたわ」


 母をエスコートし、ゆったりと歩きながら周囲をぐるりと見渡して、庭園の外れの生け垣に、淡い金色の光を見つけた。


 青い花々に囲まれて、その花を観賞している小さな少女。

 青い中にピンクの色がとても映えている。

 そして、少女が纏う金色の魔力の光が、そこだけ幻想的な空間へと変えているようだ。


「ふふ、まるで妖精のようね」


 確かに背中に透明な羽根でも隠しているかもしれない……などと、らしくもない空想をしてしまう。


「愛らしく、朗らかで謙虚。魑魅魍魎共の餌食にされてしまわないか、私でさえ心配になるわ」


 令嬢時代に”サザーランドの青き薔薇“と呼ばれ、パールミュラ王国とのいくつかの折衝を社交を通してまとめ上げ、ソーフィールド公爵令嬢とのし烈な戦いを制し、夫を玉座に押し上げた女傑。

 それが我が国の王妃であり、我が母である。



 二人の王子の玉座争いは、妻に迎えた公爵令嬢の優劣で決したという。

 正妃が生んだ弟と、第二妃が生んだ兄は魔力的に拮抗していた。

 差がないのであれば通常なら長子が立太子されるが、正妃と側室妃という格差もあり、王宮は二分し、前王である祖父は決めあぐねた。

 兄弟それぞれの後ろ盾に考慮したのか、単に優柔不断だったのか、あるいは先々代の曾祖父が長きにわたって王位に執着し続けたせいかは分からない。


 兄王子・ウィルフリードが妻に向かえたのはソーフィールド公爵令嬢レイチェル。

 弟王子・アーサーが妻に向かえたのはサザーランド公爵令嬢ソフィア。

 この二人の令嬢はオーディン学園の同級生で、学生時代から反発しあっていたそうだ。

 卒業してからもそれは続き、夫の為に策を弄したレイチェルの失敗を逆手に取り、母はサザーランドの助力を得て夫の立太子に貢献した。


 だから、ソーフィールド公爵夫妻の恨みを王家は買っている。

 こちらの隙を虎視眈々と狙っているのだ。ウィリアムの馬鹿に足元を掬われたくはない。


 我々の後ろを歩く弟をちらりと見下ろすと、あからさまに肩を震わせた。

 先日、脅し過ぎたのだろうか。まあ、あれくらいの覚悟を持っていてもらわなければ困るが。


 生け垣の向こうでは、シリウスがやってきて、聖女を伴い離宮の中へと姿を消した。

 それを見送り、母が笑む。


「シリウス殿はアリス様を本当に大切になさっているようね。貴方や陛下はあの子をどうするおつもりかしら」


「いくつかの選択肢はあると思いますが……父上は聖女に『赤の離宮』を与えたいようです」


 じろりとサファイアブルーが睨み上げてきた。


「貴方は違う考えを持っていて?」


 わたしは微笑んだだけで答えなかった。

 まだ、根回しが済んでいない。母と言えど王妃、口に出すのは憚られた。

 それに、これで母から父に釘を刺してもらえれば、時間稼ぎが出来るというものだ。


 ――300年前の文献を読んだ限りでは、『聖女』と『赤の離宮』の組み合わせは不吉と言える。


 話をはぐらかし、母の元から離れようとした時、歪なものを発見した。

 一見、ただぼんやりしている男だった。

 人の輪の外側にいる為、中心人物は気づいていないようだ。

 どこかの令息の従僕なのだろうが、その令息が誰だったか。


「今、オディール嬢に挨拶しているのはどこの子息か分かるか?」


 傍に控えた侍従に訊くと、ソーフィールド家一門の伯爵令息だった。


「どうかしましたか?」


「様子がおかしい者がいます。母上はビアンカを連れてここから離れて下さい」


 侍従から警備の者へ、例の男を静かに連れ出すよう指示を与えた。

 母は機転が利くので、ビアンカどころか、周辺にいる令息令嬢たちに声を掛けて、離宮側へと誘導している。

 それらを視界に収め、面倒な事になりそうだと思いながらも、ゆっくりと歩を進める。

 わたしに気づいたのは、オディール嬢をエスコートしているルシフェル王子だ。

 含みのある微笑みを浮かべたが、それに構っている暇はない。


「殿下自ら対処なされずとも、我々が……」


 近衛騎士が注進してくるが、それを手で制した。

 もし、わたしの懸念通りであれば、騎士よりも魔導師が必要な場面だ。


「シリウスを呼んで来てくれ。離宮の控室にいるだろう」


「御意」


 侍従の一人が優雅にも早足で離宮へと歩き去る。

 その間にも、ルシフェル王子がわざわざオディール嬢に耳打ちして、わたしの存在を知らせたようだ。

 虹色の扇で口元を隠し、わたしへと顔を向けた。

 視線を受け止めたまま、それ以上距離を詰めることなく、迂回して問題の男へと近づこうとしたのだが、こちらの意図とは違い、オディール嬢から近づいて来た。


 いや、近づこうとしていた。その背後から、突然あの男が飛び掛かったのだ。


「きゃーーー!!」


 複数の悲鳴が庭園に響き渡った。




 ◆◇◆




「こちらにおられましたか」


 シリウス様の従僕と護衛騎士にドアを開けてもらい、少しせわしなく入室して来たのは誰かの侍従。

 身なりや振る舞いが品が良いし、もしかしたら王族の侍従かもしれない。


「ハノーヴァ侯爵ご令息シリウス様、王太子殿下が急ぎお召しにございます」


「何かあったのか?」


「わたくし目にはよくわかりませんでしたが、殿下は危険を察知されたご様子でした」


 シリウス様はすぐに席を立ち、わたしにここで待つようにと言って、足早に部屋を出て行った。


「王妃様のお茶会なのに危険って何かしらね、蝶子さん」


 この場にいる全員が答えを持っていない問いなので、耳の良い蝶子さんに何かしら聞こえないかと思ったんだけど、


『わっかんないわぁ。厳重警備を潜り抜ける賊とかっているかしらぁ』


 不安なので、ヌコの蝶子さんの腹毛をもふる。


「少し様子を見てまいりましょう」


 イリアさんは言うが早いか、さっと部屋を出て行くと、


「状態が分かれば、警護の仕方も対応できますので」


 シリンさんが、フォローの発言をする。なかなか良いコンビになったな。

 そういえば、ビアンカ様たちはどうしているだろうと思って、伝書鳥を飛ばした。


『アリス、今どこにいるの!? もし安全な所にいるのならそこから動かないで! 庭園ではどなたかが襲われたそうよ!』


 この返信に、シリンさんとミラさん、ダリアさんが緊迫した。

 わたしはすぐに防御結界を部屋いっぱいに広げる。

 この部屋の窓からは庭園が見えない。イリアさんが戻るのを待つしかないが、本当に賊が忍び込んだ何てことがあるのだろうか。


 わたしはビアンカ様にもう一度伝書鳥を飛ばして、自分の状況と居場所を知らせると、決して誰も近寄らせないよう忠告が返ってきた。

 ちょうどイリアさんが戻ってきて、誰かと何か言い争っているのが少し開けたドアから聞こえてきた。


「確認いたしますのでお待ちください!」


 強く言い切ってドアを閉めるイリアさんが、渋面を作ってこちらに戻ってきた。

 わたしの防御結界って、信頼している人はフリーパスですから。


 だけど、イリアさんから報告を聞く前に、閉めたドアが許可もなく開いて、男が踏み込もうとして結界に弾かれて尻もちをついた。

 なんなの? ”待て“も出来ないほど急いでいるのか、怪しい人なのか分からないけどさ。

 イリアさんが舌打ちしているよ。


「お嬢様、ミンツ侯爵家のジェラルド様が護衛を申し出てます。あの方は近衛隊所属だそうですので」


 目を白黒させて起き上がろうとする男をよく見たら、確かにピエール様のお兄さんだった。

 でも一人でわたしの所に来たの? リリアン先輩はどうしたのかしら。


「婚約者を置いてきたのでしょうか。それに護衛は間に合っていますし、男の方は怖いので要りません」


「――ですよね。一応確認してみますとは言いましたが、追い払います」


「あ、イリアさん、部屋いっぱいに結界を張っているので、ドアの外に出ないで下さい」


 それを聞いて、イリアさんはにやりと笑った。


「畏まりました」


 イリアさんが断りを言っても、どうやらジェラルド様は引き下がるつもりがないようで、食い下がっている。

 どんなに頑張っても入れないよ?

 そして学習能力がないのか、また扉の内側に足を踏み入れようとして、結界に弾かれて飛ばされた。


 ……本当にピエール様のお兄さんなの? 残念な感じがハンパない。

 いつもはクールなシリンさんやダリアさんからは失笑が漏れてるし。


 そんな愉快な寸劇を、新たな登場人物がシリアスに戻してくれた。


「ジェラルド卿、何をやっているんだ?」


「フォード!……副隊長」


「こちらに聖女様がおいでになると聞いて警護にやって来たんだが……」


 どうやらイリアさんに向かって言っているらしい。わたしからはドアの影になって姿が見えない。

 イリアさんはわたしにも姿が見えるようにドアを大きく開け、近衛隊の白い騎士服姿の男性たちにそれ以上踏み込むなと注意をしている。

 彼らは了解して、扉の外で騎士の礼を取った。


「王太子殿下より命を受け、聖女様の護衛に参上しました、近衛隊副隊長フェリックス・フォードと申します。どうかこの扉を守る事をお許しください」


「同じく近衛隊所属、ピーター・ワイズと申します」


 フォードで副隊長といえば、ヘンリー様のお兄さんだよ。びっくりするほど似ていないけど。

 共通点は淡い真っすぐな金髪くらいだろうか。

 ピエール様のお兄さんと同い年だったよね。もう一人の騎士さんも若いみたい。


「……フォード副隊長、何が起きているのでしょうか。それに王妃様の護衛に回らなくてもよいのですか?」


「王妃様の護衛には既に人を割いていますし、あちらは少々過密状態でして。対する聖女様はお一人だとお聞きしましたので私が対応に参上しました。それから庭園での事は、王太子殿下の指揮で魔導師たちが対処しておりますのでご安心を」


 シリウス様もその一人なのだろう。


「聖女様、この防御結界はいつまで張っていられるでしょうか」


 いつまで? はて。


「半日ほどは平気だと思います」


「それは頼もしい。ではこのまま結界を維持してください。我々は扉の外におりますので」


 そう言うと立ち上がり、イリアさんに目配せして扉を閉めてしまった。


「どなたかと違って、()()()()されてますね」


 シリンさんがちょっと嫌味っぽく言うのに、わたしも頷いた。

 だけど結局、何が起きているのかは教えてもらえなかったな。それとも副隊長さんも何が起きているか詳細を知らないのかしら。


 という訳で、自分で魔力探知してみた。

 薄く薄く、広範囲に探りを入れる。

 そうしたら、あるところにとても不快な塊を察知した。


(あらぁ、瘴気が漂っているわよぉ。それに誰か血を流しているんじゃなあい?)


 蝶子さんがわたしとシンクロして、同じ場面を感じ取っている。

 怪我をしている人は分からないけれど、傍にいる一番強い魔力の持ち主はすぐに分かった。


(シリウス様だ。それから王太子殿下)


 魔力探知は映像が見える訳ではない。ただ相手の魔力を感じるだけなのに、シリウス様がわたしに気づいたのを感じ取った。


『――アリス』


 びくりとした。まるで傍で呼ばれた気がしたから。

 それから間もなく、実物のシリウス様が青い顔をして部屋に戻ってきた。



いつもとは違う時間帯の更新になりました。

お読みいただきありがとうございます!( ̄▽ ̄)


侍従さんは、数ある控室を探し回りました。お疲れ~。

前半は王太子アルフォンス視点、後半はアリス視点です。

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