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平凡なヒロインですみません (改訂・休止中)  作者: アキヨシ
第三章(聖女編)

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20.合同演習④(断罪)

※一部、不快な表現が含まれます。

『アリス様はぁ、現在男性恐怖症を発症中でーす。近づいたらわたしが噛みつくわよぉ?』


 精神感応しているのか、すぐにあの下種野郎を懲らしめに走ってくれたり、特に伝えてなくても今は大人の男性を見るだけでも拒絶感があるのを悟ってくれたようだ。


(蝶子さん、迫力ないので【虎】に変身して)


 すると、わたしの肩から降りて、すぐに変身した。……多分、トラっぽいもの……ああ、本来の蝶子さんのミニチュア版だわ。愛嬌のあるトラもどき。


『アリス様はぁ大変ご立腹でぇす。も~あなたたちにはぁ、加護がないものと覚悟してくださいねぇん』


 うん、無理だから。祝福したい気持ちが1ミリも湧かないから。


『だいたいねぇ、こ~んな所で酒盛り自体、気が緩んでるのよねぇ。ほらぁ、森の外れまで魔獣が集まって来てるじゃな~い。魔物討伐部隊? なにそれ、本気でやってんのぉ?』


 森を振り返ると、本当に獣たちが集まっているようで、黄色や赤い目が無数に光っていた。森の周辺に魔物や魔獣除けの魔法陣が設置されているので、それを超えてやって来れるモノがいないのは幸いだ。


 しかしまぁ、蝶子さんの言葉遣いがふざけているのできつく聞こえないだろうけど、言ってる内容はわたしが思う以上に辛辣だ。さすがに隊長たちの表情がムッとする。


「我々を侮辱するのか」


『侮辱しているのはそっちでしょう? 泥酔出来るくらいお酒を持ち込んでたりぃ、酒盛りを誰も咎めなかったりぃ、新人を酔い潰したりぃ~』


 あの下種野郎のグループにいた新人隊員は、新歓コンパのように無理やり飲まされて潰れているらしい。

 これは()()()()蝶子さん情報だ。


『あなたたち、基本的に女をバカにしているわよねぇ。あの下種野郎どもは酔っぱらって本性が出たのよねぇ。べたべた体に触って来て、性的な接待しろだなんてぇ、お姉さまたちを娼婦扱いなんて許しがたいわぁ。あ、ここからはわたしの個人的な意見だけどぉ、お許しがあればぁ、わたしが本来の姿でぶっ飛ばしてやったのに~』


「ふっ、それは見ものだな」


 冷ややかなマーリン様の言葉に、ちらりとその顔をみる。軽蔑した眼差しでヒューバート隊長を見ていた。


『マーリン様ぁ? 自分は関係ないと思ってるのぉ? 騎士たちの落ち度だけどぉ、同じ部隊でしょう? 酒盛りしている連中を見逃していた段階で同罪よねぇ?』


 マーリン様は、はっとして顔をこちらに向けた。ぎゃっ! 睨まれたよ。


「それは確かにそうだ。申し訳なかった」


 マーリン様は再び頭を下げた。

 魔導師たちは現在、周辺を警戒して散らばっているそうだ。


「そこまでの侮蔑的な言葉があったとは聞いてなかった。護衛騎士たちに対して謝罪する。申し訳なかった」


 深々と頭を下げるヒューバート隊長に、お姉さまたちは、苦い物を飲み込んだ色を浮かべている。

 もしかしたら、あんなことは今に始まったことじゃないのかもしれない。


 男だらけなのでも分かるように、騎士団は男社会のようだ。その中で女性騎士として生きるのは、わたしが想像するより辛く厳しいのだろう。

 騎士コースのリリアン先輩は、このやり取りにどんどん顔色を悪くしている。将来を悲観しているのかも。


「謝罪を受け取ります」


 代表して、またイリアさんが言った。大人対応だね。

 理不尽な事があっても、笑ってやり過ごす。クビになりたくないから、上司のセクハラにも耐えた前世を思い出すよ。


 半泣き状態で彼女たちを見上げた。貴女たちはカッコいいよ!


 相変わらずわたしには見えないけど、どうやら彼女たちに祝福の金の光が降り注いでいたらしい。

 目を瞠り、降り注ぐ光を受け取るように両掌を上に向けている。そして、わたしに向かって跪き一礼した。


『ところでぇ、あの不埒者どもの処罰ってどうするのかしらぁ。本当はねぇ、あいつらにこそ地べたに頭を擦りつけて声の限りに謝罪して欲しいところよねぇ。でもぉ、今は顔を見るのも嫌だしぃ、二度と会いたくない訳よぉ』


 ここで、ずっと静観していた王太子殿下が口を開いた。

 折り畳み式の椅子に腰かけ、脚を組んで、このやり取りを観察しているみたいだった。


「聖女アリスはどのような処分が妥当と思う?」


 質問返しかよ! そして何故わたしに訊く!? 被害者全員の声を聴かなくていいの?

 というのを、蝶子さんの”超訳“で尋ねたら、この中でわたしの身分が一番高いから、代表で訊いたんだって。

 家格でいえばマリエル先輩の家は侯爵家で、我が家より格上。でもわざわざ”聖女“と付けたという事は、個人の身分が高いと言いたい訳ね。

 今一つ聖女の身分ランキングがはっきりしてないんだけど、王太子殿下がそう言葉にすることで「聖女は高貴」だと示した訳かな?


『あ~んな下種野郎にも家族はいるんでしょう? お酒の失敗を~家族が被るのってぇ気の毒よねぇ。本人がちゃぁんと事の次第を理解してぇ~? 謝罪する気持ちがあるんならぁ~降格処分? 自覚もぉ反省もぉ謝罪もぉないんならぁ~除名処分? な~んてどうかしらぁ』


(アリス様ぁ、ずいぶんお優しいんじゃなぁい? あんなの、処刑よ処刑!)


(簡単に処刑なんてダメだから!!)


 心で蝶子さんとデスカッションしていたら、代弁が疑問符だらけになっちゃった。

 これに対して王太子殿下の考えは――


「ずいぶん優しいな。”聖女“であればこそ、か」


 皮肉気に笑みを浮かべるその美貌は、とても酷薄に見えた。


「わたしなら、遠征参加者を危険に晒した咎で処刑を選択するがな。今回の遠征には、並ぶ者無き聖女とフェルザー国王太子殿下が参加しているのだ。シャール殿下に怪我はないが、もし何かあれば外交問題に発展する。そして聖女には実害があったのだ。しかも、魔物討伐の遠征で気が緩み過ぎている。綱紀粛正の意味を込めて厳罰が必要だ」


 ――ああ、そうか。


 すみません、忘れていたけど、本当にシャール殿下に何もなくて良かったわ。

 それにしても……わたしの考えって浅はかだったよね。

 わたしは()()に対しての処罰を考えていたけれど、王太子殿下は()()に対しての処罰を裁定しているんだ。


「わたしの判断は厳しいと思うか?」


 ちらりと隊長たちを窺う。深く頭を下げているので表情は分からない。でも、わたしが代弁してもらった話を聞いていた時より、遥かに緊迫しているみたいだ。

 いい加減、代弁じゃなく自分で言いたいんだけど、まだ口を開くと吐きそうなんだよ。


『アリス様はぁ、人の死を恐れているのぉ。でもねぇ、王子様の言うことはちゃぁんと理解しているからぁ』


 うんうんと頷いた。


『それに~ここで即断はないんでしょうぉ?』


「ここはリズベリー公爵領だ。本来なら領主に判断を仰ぐのだが、現在公爵とはまともに話し合いが出来ない状態だ。であれば王都に帰還後、改めて罪状を審議することになる」


『了解でぇ~す』


 その時の感情に任せるのではなく、冷静に状況判断できる王子。

 弟王子がマシラだし、初対面があまり感じが良くなかったけど、王太子としてとても信頼できる方だと思う。


 ただ――ちょっと疑問に思うのよね。

 今回の演習に参列した理由をね、少し斜め読みしてしまうと、魔物討伐部隊の行状を監査する為だったんじゃないかって、何か問題行動を起こすのを待ってたんじゃないのかなって思うの。

 問題が起きたら、それを発端に綱紀粛正する名分が出来るじゃない?

 待ってるだけじゃなく、安全対策として、シャール殿下には王太子殿下と共にいるよう天幕に誘ったりしてるし、わたしや生徒たちの様子を聞いたり気に掛けていたわ。

 国王陛下も近衛隊の緩みを正すとか言ってたしなぁ。

 この謝罪の場は、意図して皆に騎士団の緩みを明らかにさせようとした――とか?


 ……もしかしたら、わたし、ダシに使われた?


(あらぁ、もしかして、王子様が嫌いなのぉ? あ、これ、代弁する? しちゃう?)


(いやいやいや! しなくていいから!)


 わたしが個人的に信用していないって話だからね。


 謝罪の場はお開きになるようだ。王太子殿下が跪く隊長たちに指示を出し始めている。

 そんな時――

 離れた場所から何やら物々しい声が聞こえてきた。


『あら! ヤバイのが出てきたみたいねぇ。あいつ、もっと奥の森にいたのに~、やだぁ、こっちに遠征してきたのぉ!?』


 蝶子さんが森を凝視しているので、わたしも首を伸ばして見つめたけど、目視は出来なかった。


「魔獣か!? それとも魔物か!?」


 イリアさんが端的に訊く傍ら、他の皆に緊張が走る。


『魔獣よぉ。でも臭いし、凶暴だし、図体がでかいのよねぇ。しかも群れで行動するのよぉ!』


 前足をさも嫌そうにフリフリする。

 これを聞いて、シリンさんがシールドを飛び出していく。遠ざかっていた隊長たちに伝えに行ったようだ。

 なんだけど、ヒューバート隊長はシリンさんを邪険に振り払っているように見えた。あの野郎め!


「我々も場所を移しましょう。出来れば、学生たちはまとまっていた方が部隊は仕事がしやすいでしょう」


 マリエル先輩がすっくと立ちあがり、青白い顔を引き締めて、「わたくしが話してくるわ」と言って、護衛騎士と共にシールドをこれまた出ていく。


「アリス、立てる?」


 ヘンリー様に手を取られ、よろりと立ち上がる。

 護衛騎士たちの采配で、先輩たちと一緒に王太子殿下の天幕付近に移動すると、教師たちと学生たちもやってきた。マリエル先輩とノース先輩がなにやら揉めている。


「アリス、学生たちを全員入れたシールドを張って欲しい。あと、君はフードを被って自分にシールドを張るように」


 カイエン先生が傍に来て指示をくれる。対魔獣のスキルがないから、どうしていいか分からなかったからほっとしたわ。

 すぐにフードを目深にかぶってシールドを張る。視界が制限されたことで、男子生徒や教師たちにいちいち反応しなくてもよくなった。

 生徒たちの向こうに、シャール殿下一行が、王太子殿下の天幕に入っていくのが見えた。うん、安全第一ね。わたしのシールドはその天幕ごと守っている。


「あら、ピエール様は?」


 リリアン先輩が周囲を見回しても見つけられないようだ。


「彼は討伐に加わるの」


 戻ってきたマリエル先輩が青白い顔で答えてくれた。


「そんな、どうして!」


 非難の声を上げたリリアン先輩に、少し呆れた顔でマリエル先輩が宥めるように言う。


「彼は“剣聖“の後継者よ? あんな士気の低い騎士団より、よっぽど頼りになるわ」


 わたしはあまりよく分からないけれど、少なくともマリエル先輩は、ピエール様の剣技に信頼を寄せていることは分かった。


(ねぇ、蝶子さん。万が一手に負えない魔獣が襲ってきたら戦える?)


 わたしは右手を拳にして、腕をジャブするように動かして見せる。


(ええ~、あんな臭いのとぉ? でもそうねぇん、最後の手段としてならぁ元の姿に戻ってぇ、ペイってするわよん)


 ぺいってねぇ。迫ってくる魔獣がどんな姿かも知らない。でも、あの巨大蝶子さんなら倒せるかも、と少し笑った。


 そして――結果として、蝶子さんの出番はなかった。



お読みいただきありがとうございます!

ブックマークや評価もありがとうございます!((w´ω`w))


え~次回は魔物討伐になる・・・予定です。


※【 】内の言葉は日本語発音です。

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