↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
PR
124/125

☆③─52話 Q.E.D【証明終了】



「……で、これは一体?」



 慧はてっきりまたなゆと1VS1だと思っていた。それはそうだ。だってそういう提案を自分からしていたのだから。


 だが、目の前の光景は少しだけ違う。用意したフットサル用のゴールに牧野愛実が立っている。近衛学園のゴレイロだ。



「めぐと一緒に戦う。にーにとの勝負に勝つために」


「それは…………、いや。いいか」



 これまで何度もなゆとやってきた。ゴレイロがいた方が自分の練習にもなる。それに……



(なゆに何か心境の変化があった?)



 そう捉えるのが自然だ。なんにしてもこれは良い傾向なんだろう。時間が無い今の状況では喜ばしいことだ。

 正直、奈夕葉の中で抱えていたものが吐き出せたのなら、別に慧の仕事は終わっている。あとは「試合頑張れ」と送り出すだけでいい。なゆが実力を出すようになったのなら。



 けど、




(それで終わるつもりはなさそう)




 奈夕葉の目が燃えている。「勝ちたい」って叫んでる。誰に? 僕に。




 慧は喉を鳴らした。あの奈夕葉が、完璧だと思っていた妹が。





 僕に本気で挑もうとしている。




 これで終わりにしたくない。終わりなんかじゃない。








 僕が、終われない……!








「やろうか。なゆ」


「うん。にーに……ばっちこーい」




 互いの視線がぶつかる。その視線の先で本気の熱を持った電雷が弾ける。息が苦しい。




 ふっ…ふっ……ふっ…ふっ…………



 いやに呼吸が聴こえる。お互いのだ。五感が研ぎ澄まされ、やがて、





 激突の警笛が──鳴る。






 ふっ……!!!!



 風が動いた。二つ。




 慧のシンプルなドリブル進行。一切の小細工抜きで速度を以って奈夕葉の横をぶち抜くつもりだ。

 奈夕葉は一瞬の遅れを取る。それだけで、慧は自身の横を抜けようとする。




 本来ならこれでシュートをすれば終了だ。ボールは無人のゴールに突き刺さる。



 だが、そこには愛実がいる。このまま撃ったって止められる。経験差があるからシュートの威力でゴリ押してもいいが、そんな勝負は元より求めていない。




 完全に奈夕葉を抜き去ろうとさらに進行する。慧の体は奈夕葉の横からさらにもう一歩体が進み、とうとう彼女の斜め後ろへと移動した。この時点で対決としては決着。なんとも呆気ないもの……




 だけれど!!




(この感じ……違うっ!!)




 最初は実力差だと判断した。いくら本気で行くと言っても。小学生と高校生。男子と女子。経験。埋められない体格差や技量がある。簡単に抜けてもおかしくない。




 しかし、これは「罠」であると感じた。




 慧は立ち止まる。本能だなんて大層な理由ではなく、頭の中で計算した結果。




 その次には奈夕葉が前方にスライディングを仕掛けていた。

 狙いは空振りに終わったが、あの位置……もしもあのままドリブルで進んでいれば、ボールをかすめ取られていた。



 一見して苦し紛れの行為に見える。けど、あまりにも狙いが鮮やかすぎる。今のはファウルどころか、綺麗に寸分違わずボールへと来ていた。




 なゆを見ると苦虫を噛み潰したような……まるで作戦が上手くいかなかったという顔をしている。全部考え通りだったというわけだ。

 ドリブルで抜いた後、ゴールに意識が集中した一瞬の静止を突く。それだけじゃない。僕の歩幅、一歩の速さ、進行方向、自身の動きがボールに達するまでの秒数……あらゆる情報から的確に狙い撃つスナイパーのよう。




 今のなゆの行動に偶然はない。頭のコンピュータによるシミュレート結果が反映されるのみ。



 至高のプレーマシーン。得られる情報を高速処理して欲する結果へと最短で進みだす。





 これが、真のなゆの姿か……!!





 油断できない。動くべきかがわからなくなる。動けば、それがなゆによって誘導されている結果かもしれないから。



 頬に汗が伝う。真剣を向け合っているみたいだ。



 なゆは僕から目を離さない。作戦を立てている? 違うな。僕の思考を読んでいる。





 なんだよ……







 めちゃくちゃ本気じゃないか……!







 左右にフェイントを仕掛ける。ボールを転がし、無理やり視線を外させる。

 なゆは動じない。まったく動かない。ボールを目で追う必要がない? そんなバカな。足を大きく開いてる。左右は警戒しているから大丈夫だと?




 だったら……!




 容赦なく股を抜いた! ボールは奈夕葉の後ろへ進む。



「!」



 なゆが、動いた。いや、正確には僕がボールを蹴ったのと同時。

 行動は、足を無造作に後ろへ投げ出した。その足に、股下を転がるボールが引っかかる。



 今更、気づいた。これが狙いだったと。




(股を抜かせたことが目的!? なんなんだそれは!?)




 ギャンブルもいいところだ。左右を捨ててただ股にボールを通す瞬間のみに集中していただなんて。



 いや、足を若干大きく開いていたのは股抜きを誘導していた? きっとそうだろう。だけど、普通じゃない。




「ぐっ……!」



 なんとか、ボールは奪われずギリギリのところで保持する。危なかった。今のは半分負けていた。





 さぁ、仕切り直──





 さっきとは一転。なゆが急激に僕を攻め立てる。ボールを奪おうとアグレッシブに足や体を出す。


 通常ならそれでも僕は躱せる。だけど、ここまでからのギャップがすごい。そのせいで対応が遅れる。ボールが、奪われかける!





(でも……!)





 それが、「隙」となる。






 僕は今こそとばかりに、抜こうと動く。速度では勝っている。なゆの右を通ろうとする。 なゆはそれに対応。負けじとついてこようとするが……




 回転。





 僕はそこから体を翻し、コマのように一回転した。




 ─ルーレット

 文字通り、円運動により相手の体の逆を取る、僕の得意なフェイント。



 僕はなゆが向かってきた逆──左を容赦なくぶち抜いた!




 これは決まった!!!!












 ─が、









 今度は目の前に、牧野愛実が迫ってきた!





 なんとゴールの守備をかなぐり捨てて、ボールを奪おうと迷いなくこっちに走ってきていた!




 これは自己判断? いいや、この状況でそんなわけがない。





 なゆの指示か! でも、それは悪手だよ。





 ──全然、ここからでも狙える!




 僕はシュートを右足で撃ち放った。そのシュートは愛実の右側スレスレを通り抜ける。



 愛実は上手かった。シュートしづらいように、こちらの目線からゴールを隠すように走っていた。これではシュートしようにも狙いづらい。




 しかし、こちらも経験が違う。それだけで撃てないわけじゃない。


 無茶をしたから少々危ないコースだが、これならゴールに入る。



 僕の勝……













「なゆの、勝ち」




 え──







 飛んでいくボールの軌道は、突如変更を余儀なくされる。少女のブロックによって。



 慧のシュートコースに奈夕葉は飛び上がって足を向け、その爪先が当たり軌道変化を起こした。



 ボールは本来のゴールギリギリ隅へは突き進まず、ポストに激突する。

 そのボールは、家の壁に当たり、事実上のゲーム終了を言い渡す。





 これは…………攻撃失敗。慧の負けだ。





「ここからシュートを撃つことを読んでいた? コースまでも?……そうなるように賭けていた?」


「ううん」



 奈夕葉は否定する。偶然ではない。全て思い描いた結果だと。


「にーにがなゆの左を抜いたら、すぐに守備に入るようめぐにお願いした。さっきなゆは頑張ってボールを奪おうとしたから、にーにはきっとすぐにシュートを撃とうとする」




 そうだ。なゆはさっき必死にボールを奪おうとしてきた。だから、シュートができる自信ももちろんあったけど、何より愛実を相手している間になゆにやられることを警戒した。だから愛実をドリブル突破しようとせず、すぐにシュートを選んだ。それがまさか撒き餌だったとは。




「でも、シュートは? ループシュートの選択肢もあった。それに僕が右じゃなくて左で撃ったらなゆの位置からはどうしたって届かなかった」



「ふわり浮くシュート? だったら、走れば間に合う距離って思った。右でくるって思ったのは、にーにが右利きだから」




 全部、言語化できてる。ダメだ。計算通りだ。これは。





「は、はは…………負け、たか……」





 なんの言い訳も出てこない。1VS2とはいえ、本来キーパーがいることは当たり前。そんなの負けた理由になんてならない。



(やっぱり……こうなるんじゃないか……)



 神様は残酷だ。何もここまで才能に差をつけなくたっていいだろう。それも、フットボールまでも。


 嫌だ。僕はそれでもサッカーだけは諦めたくない。この熱を手放したくなんてない。





 でも、なゆは、また僕を置いていくんだ。





「にーに」


「…………」














「もう一回、やろう」





「…………え?」






 今、なんて言った? もう、一回?




「もう一回って……?」


「今の。もう一回。にーにに勝ちたい」


「いや、勝ちたいって、か、勝ったんだよ。なゆは。僕に、……勝ったんだ」





 そうだ。優劣ならもうついたじゃないか。もう戦う意味なんてない。なゆのすごさは嫌というほどわかった。僕じゃ練習にはならない。








「だって、にーにすごかったもん!」



「…………。…………ぼく、が?」





「いっぱいいっぱい作戦考えてた。けど、にーにを止められるかなって思ったのはさっきのやつだけ。グルグルって回るやつもやっぱりすごくて止められなかったし、シュートもつよくて足に当たってもゴールに入りそうだった」



「う、うん……?」









「だから、すっごくたのしかった!!」






「…………」




 一瞬何を言っているのか脳が理解してくれなかった。でも、少しずつ、じんわりと、入ってくる。なゆの思ってることが。





 楽しい? なゆが?




 だって、いつもなゆは、僕のところにやってきて、すぐ僕の上を行って、だから僕相手に楽しいなんて、そんな、








 そんな、












 そん、な……







 気づけば、涙が流れていた。




 違う。違うだろ。なゆは僕から奪っていったんじゃない。







 なゆは僕と遊ぶために、僕についてきていたんだ……






 勉強した時だって、僕と一緒に同じ話がしたかったから。すっごく勉強を頑張ったんだ。








 ゲームだって、自分が弱いと相手にされなくなると思ったから、いっぱい考えて遊んでたんだ。






 走ることだって、僕と一緒の時間を過ごしたかったら、夜走るのに付き合っていたんだ。










 フットサルだって! きっと僕と一緒にやれるって楽しみにしてたんだ!!




 でも、僕は突き放した! どうせなゆの方がすごいって。僕なんかじゃなゆに敵わないって!





 僕だ。





 ぼく、なんだ……!











 なゆが本気を出さなくなったのは、僕に嫌われないためだったんだ……!!








 涙が止まらなかった。みっともない。小学生二人の前で、高校生が。友達には無表情でよく感情がわからないなんて言われてるのに。なんでこんなに。



「にーに? だ、だいじょうぶ? どこかいたい?」




「…………う、ん…! い、たい……!」
















「こころ……が、……いたい…………!!」








 僕の罪だったんだ。ぜんぶ。






「ごめん……、なゆ、ごめん…………!!」





 もう、君を突き放したりなんかしない。








「ごめ、ん…………!!!!」






 だって、ぼくたちは「きょうだい」だから。





 

 何度も互いを証明しあった鏡越しの君と僕。



 この解だけはもう、手放さないから。




 僕は鏡を叩き割って後ろを振り返り、ずっと泣いていた君を抱きしめた。




 

選手名鑑⑤「四井奈夕葉」ポジション:アラ


シュート:1 ドリブル:1 ディフェンス: 3

スタミナ:2 スピード: 2 


 小学生ながらもIQがズバ抜けて高いフワフワとした雰囲気を持つ不思議ちゃん。その才能の高さや兄との確執から周りと合わせることを極端に気にしていた。それらを乗り越えたことで才能をフルに発揮し、味方や相手を分析、求める結果から逆算して行動する理知的なプレーを見せる。また、学習能力も高く様々なことを効率的に吸収できる。その潜在能力はチーム内ではピカイチ。色々な意味で桜庭楓激推しの選手。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。