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すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
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☆11話 白戸夏月という女



 ~次の日~


 うるさい目覚まし時計の音で目が覚め、眩しい朝日がカーテンから漏れ出て顔を照らす。

 時刻は設定した通りの時間。寝坊もしていない。よく眠れたのか動きたくないという朝特有のダルさも存在していない。

 俺は起き上がると両手で頬をパンッ!と叩いて少しだけ残っている眠気も徹底的に追い出す。


「よしっ!」


 今日からだ。今日から、あの子達を鍛えなければならない。スタートは盛大に失敗したんだ。あの子達の俺への評価も最悪だろうしな。



 俺は1階に降りて用意されているであろう朝ご飯を食べに行くとちょうど父さんも食ってる最中だった。


「おはよう。かー君」


「おっ! おはよう楓。なんだ? 今日は随分と目覚めがいいじゃねえか。高校生になってからいっつも起きるの遅いくせに」


 台所にいる母さんとテーブルについている父さんが挨拶してくる。凪はまだ起きてないのか。


「さぁ、なんでだろうな」


 理由はわかる。俺は大好きなサッカーを辞めてからよく眠れないこともあった。そのせいでいつも遅めに起きることになっていた。昨日は寝坊もしたし。

 でも、今日しっかり眠れたのは……そういうことだろうな。久しぶりだよ「どうプレーするか」とか「どういうトレーニングしようか」とか考えたのは。全部俺のことではないが。


「凪の奴、まだ寝てんのかー? あいついっつも起きるの早いくせに」


「きっとよく眠れなかったんだろうな。昨日の夜色々あったし」


「ああ、そういや上でなんか騒いでたなお前ら」


 父さんは朝ごはんを食い終わると食器を母さんの元まで運んでいく。それと同時に母さんが朝ご飯を運んできた。今日も白ご飯や味噌汁に肉類、サラダと朝からパワーをくれそうなメニューだ。


「父さん」


「あん? なんだー?」


 俺が呼ぶと、もう家を出ようとしていた父さんがこっちを振り向く。


「練習試合の件も、どうせ俺が上手くいくようにまたなんか企んでるんだろうけど。もし本当に負けたらどうするんだ?」


「は? お前はバカか?」


 父さんは一瞬キョトンとした顔をするとすぐに呆れた顔をする。


「これから勝負事に挑むって奴が負けるかもなんて考えてやんのかよ?」


「……そうか」


 俺と父さんはお互いニヤリと笑う。

 勝負というのは負けるなんて考えた方が負ける。諦めた奴が1人いるだけでチームスポーツは試合終了する。プレーヤーならまだしも監督の俺が早々に負けた時のことなんか考えてどうするんだって話だ。

 ここら辺は精神論のようなものだがスポーツにとってそれは大事だと思う。なぜなら「気持ち」がなければ試合を戦い抜くことなんて到底できないからな。


 俺はすぐに朝ご飯を食べ終わると母さんから弁当を受け取りそれをカバンに入れて登校の準備を済ませる。玄関に行き靴を履き終わると……一応、俺のせいでもありそうなので2階に向けて声をかけておく。


「おい凪ー! そろそろ起きろよー」


『うっさいバカおにぃー!』


 なんとも元気な声が2階から聞こえてきた。上からバタバタという忙しい音が聞こえてくるあたりさっき起きたんだな。


「じゃあ、行くか」


 俺は玄関の扉を開ける。昨日は寒かったのに、少しだけ暖かさを感じるようになった外の世界へ俺は足を踏み出した。



 学校に行き、いつも同じ風景と感じる授業を受ける。昨日までならどうせ授業が終わっても帰るだけだったからなんの楽しみもなく淡々としていた。

 だが、今は違う。早く放課後になってくれと願っている。それに興奮しているせいか授業も睡眠することなく受けられている。




   ☆




 ~昼休み~


 俺は弁当を取り出していつものようにぼっち昼食に入ろうとすると不意に自分の横に誰かがいるような気がした。チラッと横を見ると……



「おや? こんなところにぼっちの監督が」


「うっせぇ」



 白戸だった。ニヤニヤとこっちを見てきて俺が1人で飯食うことを笑っているみたいだ。


「違うクラスのお前が俺に何の用だ?」


「は? あたしのクラスここだけど。ほら一番後ろの席」


 そう言って白戸は俺の列の一番後ろの席を指さす。おい嘘だろ。こいつ同じクラスだったのか。


「クラスメイトの顔も覚えてないとかひどいねー」


「ほっとけ。で、用件は?」


「一緒にご飯食べてあげよーか?」


「嫌だ。断る。あっち行け」


 俺はまるで警戒している獣のようにジロリと白戸を睨みながら見る。こいつもこいつで父さんと同じように好きになれない奴だ。なんでこんなのと飯なんか─


「じゃあ食堂行こっか。はい立って。スタンドアップ」


「お、おい!」


 腕を引っ張って無理やり立たせる。なんだなんだと周りの目がこっちを見てくる。やめてくれ。恥ずかしい!




   ☆




「で、本当は何なんだよ。まさかマジで俺と飯食いたいとかじゃないだろ」


「当たり前でしょ。なんであんたと飯食ってあげないといけないの」


 すごいよな。こいつ、さっき「一緒にご飯食べてあげよーか」って言ってきた奴と同一人物なんだぜ?


「俺がお前と飯食いたがってるみたいに言うな」


「今日もちゃんと来てくれるか聞いときたくてね」


 自分の弁当箱を開けてさっそく昼飯にありつこうとする白戸。俺も弁当箱を開ける。


「行くよ。監督、やってやるよ」


「ほへー。それはまたなんで? 絶対来ないと思ってたからこうして話しかけてんのに。時間損した。お金払って」


「お前はキャバ嬢か。…………色々とあったんだよ。これがまた、色々とな」


 まさか昨日の夜に舞依と会って自分の過去を語り合った……なんてこと思いもしないだろうしな。


「昨日の夜に舞依と話したんでしょ?」


「なんで知ってんだよ!!」


 ドン!と思わず食堂のテーブルを叩いてしまう。こいつはエスパーか何かなのか……?

 そんな俺が感じる恐怖を知らない白戸は呑気にタコの形に切ってあるウインナーをパクッと食べていた。


「お前まさか見てたのか?」


「んーん。これ」


 うん……? 白戸は俺の目の前に自分のスマホの画面を見せてくる。画面に映し出されていたのは誰かとのLINE画面だった。相手の名前は「アホせんせー」と登録されている。誰だこいつ?


「これ、あんたの父さん」


「はい!?!?」


「あたし、あんたの父さんのLINEアカウント持ってて数日前から定期的にあんたの情報貰ってたから」


 何やってんだあいつ……。現役JKとLINEしてる先生ってそんなのいるのかよ。


 なんだか……自分の父さんだけど変な妄想とかしてしまうなぁ。父さんは母さんのことこっちが恥ずかしいと思うくらい大好きだからそんなことはないと思うが。


「キモい妄想してるあんたに言っとくけど変なことは一切ないからね。ちょっとあの人と前に色々あったから」


 あ、そこは大丈夫みたいだ。いやそこまで深刻な心配ではなかったがモヤモヤが晴れた感じがして良かった。にしても……


「息を吐くようにキモいキモい言うな。俺の妹かよ」


「凪ちゃんでしょ? めっちゃ可愛いよねあの子。アイドルみたい。写メ持ってるよ。見る?」


「見ない。つかなんで人の妹の写真なんか持ってんだよお前は。しかも俺の妹のことまでちゃんと知ってるし」


 知らぬ間に桜庭一家はこいつに侵略を受けていたのか。父さんという内通者がいたとは知りもしなかった。


 そもそもなぜ父さんとこいつが知り合ったんだろう。

 父さんは俺と同じでこの学校に来たのも最近だ。長く見てもまだ1ヶ月か2ヶ月というところ。それなのにもう学校で好き勝手やってる父さんも異常だけど。


「俺の父さんとお前の両親のどっちかが知り合いなのか?」


「違う。だってあたし親いないし」


「…………は?」


「じゃあ、また放課後ね」


 さっき放たれた言葉がずっと耳に残って……いつも無表情っぽい白戸の顔がいつもより少しだけ暗く感じた。

 そういえば飯食う相手、俺以外にいなかったのかな。




   ☆




 ~放課後~


「ようやくこの時間が来た」


 俺はすぐにカバンを取って席を立つ。後ろにいる白戸の元へと向かわねば。


 前回、俺は1人で初等部なんかに行ったから警備員に怪しまれたんだ。制服を着ていたはずなんだがな……。しかし、それも白戸と一緒に行けば解決するわけで。


「おい白戸。一緒に行かないか?」


「なんで?」


 白戸はキモいと言いたげな顔でこっちを見てくる。ほら出たよ。絶対嫌がると思った。


「いるよねー。ちょっと話したら『もしかしてこいつ俺の事好きなんじゃないか』『一発ヤれるかも』とか勘違いして妙に親しくしてくる奴」


「違うわっ!…………俺1人で行くとなぜか警備員に捕まるんだよ」


「あー、だってあんた根暗っぽいしね。昔からそうだったの?」


「昔はこんなんじゃ……ってうるさい!」


 傷つくわー。こいつ俺に恨みでもあんのかよ。なんで話す度に俺は(けな)されてるんだ。こいつ絶対友達いないだろ。…………俺も今はいないけど。


「お前飯食う時に俺を無理やり連れて行っただろ? その時のお返しだと思って。なぁ頼む」


「ま、いっか。じゃあお座りして待ってて。首輪とリール持ってくるから」


「うん。とりあえずお前が俺の事を人間扱いしてくれてないことだけはわかったよ」


 俺は犬かっ!




   ☆




 こんな漫才みたいなことを白戸としても何も面白くないのでさっさと初等部に向かうことにした。


 やはりと言ってか白戸が同伴(どうはん)してくれるとまったく警備員に引っかからないし他の初等部の子にも怪しまれない。それどころか時々白戸の方に子供たちがすり寄ってきている始末だ。

 それに対して白戸はぎこちなく笑いながらポンポンと頭を撫でてあげている。初等部の子に懐かれてんのか?


「お前、子供相手には優しいんだな」


「? 生物相手には基本優しいけど?」


「ああ、そうかい。10回くらいくたばっとけ」


 もうとうとう俺は犬ですらなくなって無生物扱いなのか? じゃあお前はいったい何と喋ってるんだと聞いてやりたい。


「っていうか……お前ちょっとは笑えるんじゃないか。かなりぎこちないけど。そっちの方が良いと思うぞ」


 さっきのヘラッと笑った顔を見るとこいつもちゃんと心がある人間なんだなと感じた。

 俺へのあまりの罵倒の酷さにさっきまで俺はこいつのことを実は人間じゃなくて、桜庭楓を言葉だけで殺すようプログラミングされたロボットなんじゃないかと本気で疑っていたのはここだけの秘密だ。


 ずっと不愛想に無表情じゃなくて少しくらい笑えばいいのに。こいつの容姿は悪くない……どころかかなり良い。だから笑顔を見せれば人気も出て友達も出来ると思うんだがな。


「見てるところがキモい。-75点」


「なんの得点だよふざけんな」


「これが-100点になると警察に通報になるから」


「もういきなりリーチかかってんじゃねえか! それは最早警告じゃなくて脅迫(きょうはく)だぞ」


 何考えてるかわからん奴だ。もう放っておくか。



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