☆10話 シスター・パニック
「ったく。助けるのか困らせたいのかどっちなんだよ」
俺は自室の机にフットサルのルールブックを置いて椅子に腰かける。なんか今日だけで色んなことがあり振り回されすぎて疲れたよ。
急に監督やれって言われて、小学生の女の子と衝突して監督やっぱやらないってなって、夜にその子と過去を打ち明け合ってやっぱ監督やってやる!ってなって。
今度は練習試合組んだぞ、だと? しかも父さんが言うには相手は強豪らしい。一見無茶なような話……いやどう見ても無茶すぎる。
だが、父さんは「絶対にできないこと」は言わない。多分だがこの話、相当な裏がある。
かなり困難な道だが、必ずどこかに勝ち道が用意されてる話のはずなんだ。俺がそれを見つけ出せるかどうかを父さんは面白がってる。それが父さんのいつものやり口だから。昔からそういうところが嫌いなんだよなぁ。
「とにかくルール確認の方が先だな。父さんの考えなんかに惑わされて一番大事な道を見失ったらダメだ。勝つことよりもまずはその土俵に上がれること。そしてちゃんとフットサルを楽しめるようにさせないと」
俺はさっそく父さんから受け取ったルールブックを読んでいく。だが読んでみると……これは、
(サッカーのようで……サッカーとは違う。フットサル、奥が深いぞ!)
フィールドは体育館くらい。体育館で試合や練習が出来るのは良いな。サッカーだと毎日芝で練習なんて贅沢言えない。砂の運動場で練習すると怪我などが原因で思い切ったプレーを出しづらくなる。そこは好都合だ。
……が、「フィールドが小さい」というのがやはり問題だ。これに関してはサッカーというよりバスケットボールと思った方がいいな。
フィールドが小さいと試合の展開も早くなって全員が決まった仕事をちゃんとやらないといけなくなる。誰かがサボればそこを突かれるわけだから運動量も並大抵じゃない。
スポーツ経験者じゃないとキツイだろうな。陸上で鍛えられた舞依なら大丈夫だと思うが、他の4人はどうなんだ?
俺がブツブツと考えを言葉にして呟きながらルールブックを読んでいると、俺の部屋のドアがコンコンと鳴った。誰かがノックをしている。この家には父さん、母さん、妹しかいないし2階に部屋を持っているのは俺と妹の凪だけ。つまり……
『おにぃ、お風呂あがったよー。次、入れば?』
やはり妹だったか。そもそも母さんはノックじゃなくて下から呼びかけてくるし、父さんはノックなんかせずに入ってくる非常識野郎だからノックしてる時点で凪なのは確定なんだけど。
「父さんと母さんはもう風呂入ったのか? 俺ちょっと忙しいから最後でいいぞ」
『もうどっちも入ったよ。後はおにぃだけ。ってか、なにやってんの? 中に入っていい?』
「ばっ! ちょ、ちょっと! 入ってくるな!」
急に入ってくるという凪の声にビックリして俺は椅子から飛び上がりドアのところまで行って開かれないように抑える。
別に変なことをしてるわけじゃない。だがフットサルのことを勉強しているとなると完全に怪しまれる。もしそこからフットサルのことが気になって部活を見に行くなんてことになれば俺がいることが一発でバレるわけだ。
あまりに急だったためフットサルの本を隠す余裕もなかった。余計に怪しまれるような行動だったか?
『おにぃ今ドアの前にいるの? なんで? ってドア抑えてない!? なにやってんのおにぃ!!』
するとドアはガガガガッ!と悲鳴のような音を上げて微振動する。これは俺と妹の凪がドアを開けよう、閉めよう、と攻防を繰り広げているせいだ。痛たっ! やめて! 開けないでー!
「今ちょっと大事なことしてるんだよっ! 訳あってお前には見せられない」
『なんで!? なんか怪しいんだけど!?』
「今日中にやっておかないと落ち着かないんだ。お前には言えないことだけど……」
俺がここまで言うと向こうのドアへの攻撃が緩む。あれ?
『も、もしかして……それって、き、聞いたことはある……よ? 男の人ってその……あれだよね。いや聞いたことあるだけだから実際どういうことなのかは知らないし本当かどうかも知らないんだけど……そういうことやっておかないと落ち着かないらしいっていうか……』
「なんだよ。なんのことだ。もう少しわかりやすく言え」
『はぁ!? 妹に言わせようってわけ? 意味わかんない! キモッ! 信じらんない! キモッ!』
なんで急にキレるんだよ! こっちはフットサルのルールを確認しとくってだけなのに!
「キモいって2回言うな! それなら俺も言いたいことがあるぞ。お前、家ではおにぃおにぃ言ってるくせに学校では『お兄ちゃん』って言ってるみたいだな? 『おにぃ』って呼べばいいのに」
『はぁ!?!?!? なんでそのこと……じゃなくてっ! そんなの知らんし!!』
動揺しまくっているのか言葉がもう変だぞ。舞依がくれた情報という名のとんでもない最強カード。こいつに刺さりまくってんな。
「しかもあれ? あれれ? なんだろう……なんかどこからか声が聞こえてくるぞ? これは……休み時間に教室で友達と話すお前の声かな? なになに……俺がお前と風呂に入りたがってる? 保健の宿題? お前の箸を使ってご飯を食う? なんだろうなこれー?」
『はぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?』
俺が最強カードを連続で出していくと凪は近所迷惑ってレベルの、爆弾でも爆発したのかという声を出した。うるっせぇ! まぁ俺のせいなんだけども。
『全部おにぃの妄想でしょ! キモいキモい! そんなこと知らないもん!! うわ~~~~~ん!!』
「おい!…………逃げたか」
バタン! という音がドアの向こうから聞こえてきた。自分の部屋に逃げ込んだということだ。ケケケ、これに懲りたら兄のことを犯罪者のように吹聴するのはやめることだな。
……あの、本気でやめてくれないといつかマジで捕まっちゃうかもしれないしな? う~ん、ちょっとイジメすぎたか……。
なんかまた余計に疲れたぞ。あ~、もうルール確認するのは風呂入ってからにしよ。結局後回しになっちまった。




