透き通る白《しろ》の姿ー前篇ー
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透き通る白の姿ー前篇ー
今日も白から直々に討伐命令が下った。
標的は変形型の異形だ。
変形型とは、形が不特定であるということ。
即ち、どう形容してよいか分からない、植物のようであるけれども獣っぽいなどという曖昧な形を取っている異形を指す。
闇の中でも一際目立つ赫い瞳が、周囲を見渡す。
その少年、鴉煉は単独で行動していた。
最近異形の出現率が高まり、組織『白』の領内でも報告された異形の数は約八十。
組織『白』の人数五人と比べ、途方も無い量だ。
これを討伐していくとなると、人型があちらこちらに単独で向かわされるのは多少危険度が高まるものの仕方が無いことなのだ。
寂れた物影に身を潜め、じっと辺りの様子を窺う。
――――――――物音さえしない……
唇を噛み、赫い双眸を細める鴉煉。
しん、と静まっている辺りに自分の呼吸音だけが残った。
息が異常に白い。大気中の視認出来ない塵が特にこの辺りで舞っているのだろう。
それはつまり、つい先程までこの場で戦闘が行われたことを意味する。
この付近に向かわされたのは自分一人だから、戦闘していたのは異形同士か、装甲兵器と異形か………
さらに、最悪の場合、他の組織が領内に侵入して、獲物を横取りした可能性だってある。
なんにしろ、油断は禁物だ。
息を殺し、索敵する。
なるべく足音を立てないよう、かつ速く移動しつつ………。
それから数分後、鴉煉は微妙な温風を感じ取った。
生ぬるく、何かが腐敗しているような、体調を悪くする異臭。
その異臭が漂う方へ歩を進め―――――――鴉煉はその赫い瞳でソレを視認した。
奇妙な動きをする、全身深い紫の体色をした異形。
下半身にはうねうねと蠢くタコのような足が数本、上半身には『人』の表情だろうか、喜怒哀楽が四つの頭にそれぞれ表れていた。
喜びは白目を剥いて顎を外し、
怒りは眼球が飛び出し口を開け放って息を荒げ、
哀しみは顔中を皺にして時折絶叫、
楽しみは目を狐のように細め口が裂けるほどに嗤っていた。
なんてグロテスクなんだこの異形は………。
酷く顔を顰めつつ、鴉煉はその変形型の異形を凝視した。
――――――――罪科……『狂気』、…これは厄介かもな……。
罪科はその個体の大まかな特徴を表す。
この場合、『狂気』は痛覚が無い、ということだ。
相手に幾らダメージを与えようとも、それは怯みにさえならない。
痛みを感じない変形型『狂気』は、自身の核を抉り取られるまで相手を襲い続ける。
――――――――何の迷いも無く、だ。
鴉煉は物影に潜みつつ、変形型『狂気』の死角へと移動した。
寂れた廃墟の外壁にぴたりと身体をつけ、開けた場所で徘徊する異形から目を離さずに、鴉煉は静かに詠唱した。
「罪深き此の身体が紡ぐのは 罪業に塗れし詞―――――――<顕現せよ>同時に<覚醒せよ>」
詠唱中に指の皮膚を裂き、紅き血が滴る。
ヒイィン――――………
利き手の手中に顕現された、一条の閃光。
それは瞬時に、紅く禍々しい大鎌を構築した。
更に全身を廻る血がドクン、と脈打ち、活性化する。
身体中が熱気を帯び、鴉煉は湧き上がる力の鼓動を感じた。
自分が、気分が、身体中が、目の前の獲物を視認して、高揚する。
自然と口の端が歪んだ。
始まる血塗れの戦い――――――――
今少年の瞳は、鮮血のように紅く、呪術のように禍々しく、大量の血が寄り集まったように赤黒く………獲物を追い求める虎よりも獣じみていた。
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