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第19話 公爵家、崩壊の始まり

 ヴァレンシュタイン公爵家に王弟カインの封鎖命令が届いたのは、王宮の鐘が夕を告げる少し前だった。


 王都貴族街の中でも、ヴァレンシュタイン家の屋敷はひときわ大きい。


 白い石壁。

 鉄細工の門。

 四季の花を絶やさない前庭。

 訪れる者に家格を思い知らせる長い馬車道。


 そこは、エレノアが生まれ育った場所だった。


 けれど、彼女にとってそこは、帰る場所というより、息の仕方を覚え損ねた場所でもあった。


 幼い頃、廊下の端でリリアナの泣き声を聞いた。


 居間で父のため息を聞いた。


 母の「あなたは強い子でしょう」という声を聞いた。


 そしてそのたびに、エレノアは自分の欲しいものを一つずつ手放してきた。


 銀細工の髪飾り。

 祖母からもらった絵本。

 家庭教師との時間。

 母の膝。

 怒る権利。

 泣く権利。


 あの屋敷で失くしたものは、王宮で失くしたものより、ずっと古かった。


 その屋敷へ、今、監査の馬車が向かっている。


 先頭には王弟カインの紋章を掲げた黒い馬車。


 続いて、文書官、宝飾鑑定士、近衛騎士、王家法務官補佐が乗る馬車。


 そして最後に、エレノアの乗る馬車が静かに続いていた。


 向かいの席にはマルタが座っている。


 彼女は何も言わなかった。


 慰めもしない。


 無理に話題を作ることもしない。


 ただ、膝の上で両手を重ね、時折エレノアを気遣うように目を向けるだけだった。


 その沈黙がありがたかった。


「エレノア様」


 やがてマルタが、低い声で言った。


「おつらければ、私が先に確認を」


「いいえ」


 エレノアは窓の外を見たまま答えた。


「私が見ます」


「ご実家です」


「だからこそです」


 そう言うと、馬車の中にまた沈黙が落ちた。


 実家。


 その言葉は甘い響きを持つはずだった。


 けれど今のエレノアには、厳しい確認対象のひとつでしかない。


 そう思わなければ、揺れてしまう。


 父の怒声。

 母の涙。

 リリアナの震える声。


 家族という名前を持つものは、証拠よりも厄介だった。


 人は、血のつながった者を疑う時、相手より先に自分を疑ってしまう。


 本当にそこまでしなければならないのか。

 自分は冷たいのではないか。

 家を壊す娘なのではないか。


 そんな声が、胸の奥から何度も聞こえてくる。


 だが、そのたびにエレノアは思い出す。


 月涙石の首飾り。

 孤児院の屋根。

 王妃の薬包。

 黒眠草。

 サルヴィ商会。

 王妃の遺言状。


 家族の痛みだけを見て、そこから目を逸らすことはできなかった。


 馬車が止まる。


 ヴァレンシュタイン公爵家の門前だった。


 門番は、王弟の紋章を見た瞬間、顔色を変えた。


 普段なら、訪問客の身元を確認し、執事へ取り次ぎ、主人の許可を得て門を開く。


 だが今回は違う。


 王弟命令。


 国王裁可済みの監査。


 門番に拒む権限はない。


「開門を」


 近衛騎士が告げる。


 門番は震える手で門を開けた。


 鉄の門が、重い音を立てて動く。


 エレノアは、その音を馬車の中で聞いた。


 幼い頃、帰宅する父の馬車をこの音で知った。


 父が帰ってくると、家の空気が少し硬くなった。


 母は姿勢を正し、リリアナは甘える準備をし、エレノアは失敗しないように呼吸を整えた。


 その門が今、監査のために開いている。


 屋敷の玄関前には、すでに執事と数名の使用人が並んでいた。


 その後ろに、グレゴール公爵が立っている。


 普段なら完璧に整えられている礼服が、今日はどこか乱れて見えた。怒りのせいか、焦りのせいか、顔色も悪い。


 隣にはセレスティアがいた。


 彼女は淡い灰色のドレスを着て、青ざめた顔で王弟の馬車を見つめている。


 リリアナの姿はない。


 王宮に残って証言整理を続けているのだろう。


 エレノアが馬車を降りると、母の目が彼女へ向いた。


 その瞬間、セレスティアの顔がくしゃりと歪んだ。


「エレノア……」


 母の声は、泣きそうだった。


 その声だけで、昔の自分なら足が止まった。


 母が泣きそう。


 自分のせいで。


 そう思って、すぐに謝っただろう。


 でも今、エレノアは立ち止まらなかった。


 王弟カインの後ろ、半歩の位置へ進む。


 職務上の位置だ。


 娘として母のもとへ駆け寄るためではない。


 カインが口を開いた。


「ヴァレンシュタイン公爵。国王裁可に基づき、王妃基金関連監査を行う。宝飾保管室、書庫、会計室、サルヴィ商会関連書簡の保管場所を封鎖する」


 グレゴール公爵は、屈辱に顔を歪めた。


「王弟殿下。何度も申し上げますが、我が家は王家に長く仕えてきた名門です。このような扱いは」


「名門であれば、記録も整っているだろう」


 カインは淡々と言った。


「確認すれば済む」


「それは……」


「済まない理由があるのか」


 グレゴールは黙った。


 カインの言葉は、剣よりも逃げ道を塞ぐ。


 怒れば怒るほど、自分に不都合なことがあるように見える。


 それを父も分かっているのだろう。


 唇を引き結び、渋々道を開けた。


「執事。案内を」


 公爵家の老執事は、深く頭を下げた。


「かしこまりました」


 屋敷に入る。


 エレノアは、久しぶりに実家の大広間を見た。


 高い天井。


 磨かれた床。


 壁に掛けられた先祖の肖像画。


 白大理石の階段。


 どれも、記憶の中と変わらない。


 けれど、そこに立つ自分だけが変わっていた。


 子供の頃は、この広間が世界の中心のように大きく見えた。


 今は、王宮の会議室よりも狭く感じる。


 そして、何よりも息苦しい。


「まず宝飾保管室へ」


 カインが命じる。


 執事が先導する。


 グレゴール公爵が不快そうに続き、セレスティアも遅れて歩いた。


 エレノアは、マルタとオスカーと共にその後ろを進む。


 階段を上がり、西棟奥の厚い扉の前で一行は止まった。


 宝飾保管室。


 母が季節ごとの社交に合わせて装身具を選んでいた場所。


 リリアナの社交界デビュー前、母と妹が楽しそうにこの部屋へ入っていったのを、エレノアは廊下の向こうから見たことがある。


 自分はその時、王宮へ提出する招待客名簿の修正をしていた。


 母は言った。


『あなたは王太子妃候補なのだから、飾りより実務の方が大切でしょう?』


 リリアナは笑った。


『お姉様は何もしなくても綺麗だから、いいじゃない』


 あの時、胸が小さく痛んだことを覚えている。


 けれど、忙しさの中に沈めた。


 今、同じ扉が監査のために開かれる。


 執事が鍵を差し込んだ。


 扉が重く開く。


 中には、いくつもの宝飾箱が整然と並んでいた。


 公爵家に代々伝わる首飾り、舞踏会用の髪飾り、母の嫁入り道具、リリアナのために誂えられた装身具。


 その美しさの奥に、王妃基金の担保品が混ざっていた。


 カインが静かに言った。


「封鎖記録を」


 オスカーが筆を走らせる。


 宝飾鑑定士が箱の番号を読み上げる。


 文書官がリストと照合する。


 エレノアは、提出済みの月涙石の首飾りが入っていた箱を確認した。


 内側には、わずかに擦れた跡がある。


 長く保管されていたものが、何度か出し入れされた痕だ。


「この箱は、誰が管理していましたか」


 エレノアが尋ねると、執事が答えた。


「奥様でございます。宝飾保管室の鍵は、旦那様、奥様、私が管理しておりました」


「リリアナは?」


「お嬢様ご本人が鍵を持たれることはございません」


 つまり、リリアナは首飾りの出所を知らなかった可能性が高い。


 だからといって責任が消えるわけではないが、少なくとも彼女が自分で王妃の宝飾品を持ち出した線は薄い。


「お母様」


 エレノアは母を見た。


 セレスティアは肩を震わせた。


「月涙石の首飾りを、いつこの箱に入れましたか」


「……覚えていないわ」


「リリアナの社交界デビュー後ですか」


「そうだったと思うけれど」


「誰から受け取りましたか」


「グレゴール様が……」


 そこまで言って、セレスティアは夫を見た。


 グレゴールの顔が険しくなる。


「余計なことを言うな」


 その一言で、場の空気が凍った。


 セレスティアは、びくりと肩を震わせる。


 エレノアは、父を見る。


「お父様。今の発言も記録されます」


 グレゴールは怒りを剥き出しにした。


「娘が父を脅すのか」


「監査官補佐として、証言妨害の可能性を記録しているだけです」


「お前は……!」


 父の手がわずかに動いた。


 昔なら、その動きだけでエレノアは身を固くした。


 叩かれたことはほとんどない。


 けれど、父の怒りはいつも家全体を支配した。


 逆らえば面倒になる。


 母が泣く。


 リリアナが怯える。


 だから黙れ。


 そう体が覚えていた。


 だが、今は違った。


 カインが一歩前へ出た。


「公爵」


 低い声。


 それだけで、グレゴールの手が止まった。


「次に監査官補佐への威圧と見なされる行動を取れば、即座に別室で聴取する」


 グレゴールは拳を握りしめた。


 だが、動けなかった。


 エレノアは息を整え、母へ向き直る。


「お母様。もう一度伺います。月涙石の首飾りは、誰から受け取りましたか」


 セレスティアは、涙を浮かべた。


「あなたは……どうしてそこまで私たちを追い詰めるの」


「質問にお答えください」


「家族でしょう?」


 母の声が揺れる。


「私たちは家族でしょう、エレノア。あなたのお父様も、私も、リリアナも……間違いがあったとしても、家族なら守ってくれてもいいではないの」


 その言葉に、胸の奥が痛んだ。


 家族。


 その言葉は、いつも遅れて出てくる。


 エレノアが譲る時には「姉だから」。


 エレノアが尽くす時には「長女だから」。


 エレノアが疑問を持つ時には「家族でしょう」。


 都合よく姿を変える鎖のようだった。


「お母様」


 エレノアは、静かに言った。


「私は、家族を守るために王妃様の首飾りを見なかったことにはできません」


「首飾りひとつで、家を壊すの?」


「首飾りひとつではありません」


 エレノアの声は、少しだけ低くなった。


「孤児院の屋根です。王妃基金です。薬草園です。王妃様の薬です。そして、リリアナを知らないまま不正の飾りにしたことです」


 セレスティアの涙が頬を伝った。


「私は、ただあの子を綺麗にしてあげたかっただけなの」


「その首飾りがどこから来たか、気になりませんでしたか」


「グレゴール様が用意してくださったのよ。夫を疑えというの?」


「はい」


 短い返答に、セレスティアは息を呑んだ。


「疑うべきでした。少なくとも、王妃様の所有品に似た宝飾品が突然公爵家に入ったなら、確認すべきでした」


「そんなこと、私には……」


「お母様は、確認しなかった」


 エレノアは言った。


「確認しなければ、知らなかったことにできるからです」


 セレスティアは、言葉を失った。


 それは、彼女自身が薄々分かっていたことだったのかもしれない。


 夫が持ってきた美しい首飾り。


 出所を尋ねなかった。


 尋ねれば、何かを知ってしまう。


 知ってしまえば、止めなければならない。


 止めれば、夫が怒る。


 リリアナが悲しむ。


 家の中が乱れる。


 だから、見なかった。


 それが母の選択だった。


「奥様」


 カインが静かに言った。


「月涙石の首飾りを受け取った日の記録を提出してください。日記、使用人への指示、衣装係の帳簿、すべてです」


 セレスティアは力なく頷いた。


「……分かりました」


 グレゴールが低く唸る。


「セレスティア」


 しかし、母は今度は夫を見なかった。


 その小さな変化を、エレノアは見逃さなかった。


 宝飾保管室の確認は続いた。


 月涙石以外にも、不審な品がいくつか見つかった。


 金細工の百合簪と似た意匠の髪飾り。

 青玉腕輪の片割れと石質の近い腕飾り。

 王妃基金担保品目録にある宝飾品と、特徴が重なる品。


 すべてが王妃の品と断定されたわけではない。


 だが、確認対象として十分だった。


 宝飾鑑定士が一点ずつ封印箱へ納めていく。


 グレゴール公爵の顔は、時間が経つほどに険しくなった。


「次は書庫です」


 エレノアが言うと、父は露骨に表情を変えた。


 ほんの一瞬。


 だが、見えた。


 書庫に何かがある。


 カインも同じものを見たのだろう。


「案内を」


 短く命じる。


 執事は躊躇した。


「書庫は旦那様の私的執務室に隣接しておりまして」


「だから何だ」


 カインの声で、執事は深く頭を下げた。


「ご案内いたします」


 書庫は東棟の奥にあった。


 そこはエレノアも、子供の頃からほとんど入れてもらえなかった場所だ。


 父の執務室に近く、公爵家の領地経営や取引記録が保管されている。


 かつてエレノアが帳簿整理を手伝いたいと言った時、父は笑った。


『お前は王宮のことだけ考えていればよい。家の金の流れは父の領分だ』


 その領分へ、今、王弟の封鎖命令が入る。


 扉が開くと、古い紙と革の匂いがした。


 壁一面に棚があり、中央には大きな机がある。


 机の上は一見整っていた。


 だが、暖炉の近くに、最近灰をかき混ぜた跡がある。


 エレノアの目が止まった。


「暖炉を確認してください」


 オスカーがすぐに動く。


 灰の中から、焦げ残った紙片がいくつか見つかった。


 父の顔色が変わる。


「古い書類を処分しただけだ」


 エレノアは紙片を受け取らず、鑑識用の銀皿に置かせた。


 焦げた端。


 残った文字。


 サル……

 薬草……

 王妃……

 礼……金……

 モーン卿……


 カインの表情がさらに冷える。


「燃やしたのはいつだ」


 グレゴールは答えない。


「公爵」


「覚えていない」


「都合のいい記憶だな」


 父は黙った。


 オスカーが棚を確認し始める。


 文書官が台帳番号を読み上げる。


 やがて、一冊の帳簿が見つかった。


 表紙には何も書かれていない。


 だが、中を開くと、サルヴィ商会とのやり取りが記されていた。


 正規帳簿ではない。


 私的な控え。


 日付、金額、受領品、紹介料。


 そこに、エレノアは見覚えのある名前を見つけた。


 ダリウス・モーン。


 そして、ベルトラム財務官。


 さらに、王妃療養薬に関する欄。


 黒眠草の納入増量。

 王宮医師側へ「眠れぬとの報告」伝達済み。

 処方変更記録不要。

 体調悪化は病状進行として扱える見込み。


 マルタが小さく悲鳴のような息を漏らした。


 エレノアは、その文字を見つめた。


 体の奥が冷える。


 怒りより先に、冷たさが来た。


 王妃の死が、病の影に隠されようとしていたこと。


 それが、ここまで明確に書かれている。


 父の書庫に。


 父の管理する場所に。


「お父様」


 エレノアの声は、驚くほど静かだった。


「これは、何ですか」


 グレゴールは顔を真っ赤にした。


「知らん」


「お父様の書庫から出ました」


「誰かが置いたのだ!」


「この書庫の鍵は?」


 執事が震える声で答える。


「旦那様と、私が……」


「執事が置いたと?」


 グレゴールは執事を睨んだ。


 老執事が顔を真っ青にする。


「わ、私は」


「旦那様のご命令で、何度かサルヴィ商会からの箱を運び入れました!」


 それは、ほとんど叫びだった。


 全員の視線が執事へ集まる。


 グレゴールが怒鳴った。


「黙れ!」


「もう黙れません!」


 老執事は震えながらも、声を絞り出した。


「旦那様は、奥様にもお嬢様方にも内緒だと。王宮との大切なお取引だと仰いました。私は……私は、中身までは知りませんでした!」


 エレノアは、執事を見た。


「箱の搬入記録は?」


「裏帳簿が……使用人控えにございます」


「提出してください」


「はい」


 父の顔から血の気が引いた。


 崩壊は、音を立てるとは限らない。


 人が一人、黙っていたことを話し始める。


 その瞬間、家の壁に入っていた亀裂が広がる。


 エレノアは、それを見ていた。


 自分が生まれ育った公爵家が、内側から崩れていくのを。


 だが、止めなかった。


 止めればまた、誰かの沈黙の上に家が立つだけだから。


 カインが近衛に命じた。


「グレゴール・ヴァレンシュタイン公爵を、監査妨害および証拠隠滅の疑いで王宮へ同行させる」


 セレスティアが悲鳴を上げた。


「お待ちください! 夫は、夫は何かの間違いで」


「奥様」


 エレノアが言った。


 母は泣きながら娘を見る。


「もう、見なかったことにはできません」


 その言葉に、セレスティアは崩れるように椅子へ座り込んだ。


 グレゴールは近衛に囲まれながら、最後までエレノアを睨んでいた。


「お前は、父を売ったのだぞ」


 その声は低く、憎しみに満ちていた。


 エレノアは、父を見返した。


 胸は痛い。


 それでも言った。


「いいえ」


 短く、はっきりと。


「お父様が、王妃様を売ったのです」


 グレゴールの顔が歪んだ。


 反論はなかった。


 近衛が彼を連れていく。


 その背中が扉の向こうへ消えた時、公爵家の書庫には重い沈黙だけが残った。


 エレノアは、机の上の裏帳簿を見下ろした。


 王妃の死に毒の影を落とした記録。


 公爵家とサルヴィ商会とダリウスをつなぐ記録。


 父が関わった可能性を、可能性では済ませなくする記録。


 公爵家は、崩れ始めた。


 いや、きっとずっと前から崩れていたのだ。


 ただ、誰も見ようとしなかっただけで。


 エレノアは目を閉じ、静かに息を吸った。


 古い紙と灰の匂いがした。


 幼い頃、この屋敷で欲しかったものはもう戻らない。


 父の愛も。


 母の無条件の抱擁も。


 妹と何も知らず笑えたかもしれない日々も。


 けれど、戻らないものを守るために、今ある真実を隠すわけにはいかなかった。


「記録を封印してください」


 エレノアは言った。


 声は震えなかった。


「王宮へ持ち帰ります」


 カインが頷いた。


「そうしよう」


 窓の外では、夜が落ち始めていた。


 ヴァレンシュタイン公爵家の白い壁が、夕闇に沈んでいく。


 かつて誇り高く見えた屋敷は、今はひどく静かだった。


 その静けさの中で、エレノアは自分の中の何かが一つ終わったことを知った。


 娘としての期待。


 姉としての我慢。


 家族だからという鎖。


 それらが、灰の匂いと共に少しずつ崩れていく。

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