40 ロストチャイルド
ロストチャイルド
幽霊は、そこにいる。……ほら、君のすぐ後ろに。
その正体不明の物体が(いや、あれは物体ではないのかもしれない)ジラの目の前にあらわれたのは本当に突然のことだった。
ジラは最初、それをなにかの目の錯覚だと思った。(あるいは目の中に焼きついた、青白い放電の光の残像のようなものだと思った)
でも、それは目の錯覚ではなかった。
それは確かに『そこにいた』。
まずは一体目。(……いや、一人目だろうか?)
そのぼんやりとした輪郭だけの緑色の発光体は、ジラの目の前にあわられると、そのままベーっと思いっきり舌を出して、ジラに向かって、あっかんべーをした。
そして、そんな不思議な光景を見て、びっくりしているジラを見て、その緑色の発光体はげらげらと笑って、それから、空を飛んで、そのまま、真っ暗な闇の中に消えて行った。
「今のなに!! みちびき、分析は!!」足を止めずにジラは言う。
しかし、みちびきから反応がない。
「みちびき!! どうしたの!? 返事は!!」ジラは言う。しかし、やはり、みちびきからの返事はなかった。
『……ざ、ざざ……、ジ、……ジラ』とみちびきの声がノイズに混ざって、かすかに聞こえた。
通信電波が妨害されている? もしかして、これがさっきから私の邪魔をしている正体不明の力場の正体なの?
思考するジラの周囲にまた、不思議な緑色の発光体が今度は二人(そう。人と呼ぼう。命と呼ぼう)ジラをはさみ込むようにして、いきなり、突然、なにもない真っ暗な空中にあらわれた。
「お前たちはいったい誰だ!!」
全速力で、目の前を走る白く光る女の子を追いかけながら、ジラは二人の緑色の発光体に向かって、そう大きな声で叫んだ。
でも、その二人の緑色の発光体は『へへへ』と『ふふふ』とだけしか言わずに、にっこりと楽しそうに笑って、ジラのすぐ近くにまで、ふわふわと空中を飛んでやってきた。
二人に挟まれると、その不思議な力場はとても強くなった。
ジラは自分の体の中の研ぎ澄まされた自分の感覚が少しだけ、ずれてしまうような感じを受け、そして、急に頭がすごく痛くなった。(ずきずきととても強く傷んだ)
『ねえ、遊んで……』
『お願い。私たちと遊んでよ。……お願い』
と、その二人の緑色の発光体はジラに言った。
子供の輪郭をした、空を飛び回る、まるで本物の幽霊のような緑色の発光体。ジラがその二人の緑色に光る子供たちをじっと頭を抑えながら観察していると(少しでも多くのデータを取るためだ。みちびきはおそらく、通信はできなくても、データの観測はずっと行っているはずだった)、ジラを導いてくれている不思議な声が『あの幽霊の子供たちは、『ロストチャイルド』たちです。ロストチャイルドに関わっていはいけません。あの子たちに関わると、ジラさん。あなたまでもあの子たちと同じように、ロストチャイルドになってしまいますよ』とそんなことをジラに言った。
ロストチャイルド。
……迷子。
これが、あなたの研究の副産物なの? ひまわり。それとも、これはただの失敗作の集まりなのかな? 私と同じような、いらないもの(いらない子)として、ゴミ捨て場にすれられてしまった、あなたの実験が生み出した失敗作の一つ。それがあなたたちの正体なんだね。とジラは思う。
ぴかっという激しい光と、凄まじい轟音とともに、また真っ暗な闇の中に、青白い龍のようなかみなりが走った。
ジラはかみなりの照らし出す、青白い世界の中で、ロストチャイルドたちを振り切るようにして、速度をあげる。
しかし、ロストチャイルドたちは、その数を三つ、四つ、とだんだんと増やしながら、ジラのあとを追いかけ続けた。
これは、逃げ切れいない。
長年の自分のスパイとしてのかんから、ジラはそんなことを冷静に判断する。そしてジラは逃げることをやめて、ロストチャイルドたちと戦う決意をした。(そのころには、ジラの周囲にいるロストチャイルドの数は、二十をすでに越えていた)




