37 追いかけっこ
追いかけっこ
久しぶりに、競争しようか。どっちがはやいか、競争して決めようよ。昔よく、そうしたみたいにさ。
『どうしますか? ジラ』(沈黙を破って)みちびきが言う。
「当然、追いかけるよ。まだ私は『まめまきと友達』になっていないからね」そうみちびきに言ったときには、すでにジラは闇の中を駆け出し始めていた。
……ようやく目がこの暗闇に慣れてきた。
さっきまで、ランプの明かりがあったから、少し時間がかかってしまった。
ジラはその闇になれた闇の中でぼんやりと光る猫の瞳のような大きなつり目をきょろきょろと動かして、風のように走りながら、周囲の様子を確認する。
……いない。変だな? まだ見失うわけないんだけどな。
ジラは一度、走るのをやめて、周囲の気配にじっと意識をかたむけてみる。すると、少し遠くで、何者かがざっざ、と言う足音を立てて、駆け足をしている音が聞こえた。
それは、その音の感覚からわかる体重や、大きさから考えてみても、先ほど出会った幽霊の女の子、笹百合まめまきに違いないとジラは判断をする。
でも、それほど距離は離れていないはずなのに、ジラにはいつものように、自分の近くにいるまめまきの様子やその場所を正確に判断することができなかった。
……なにかが私の邪魔をしている。ジラはそう決断を出したあとで、そっと、その大きな猫のような瞳を開ける。
「みちびき。この周囲になにか妨害電波のようなものは流れている?」ジラは言う。
『確認できます。微量ですが、思考の邪魔をするような力場が感知されています。正体は不明。その力場は、思考だけではなく、聴覚、嗅覚、視力、味覚、身体、運動感覚など、あらゆる感覚に作用するようです。脳に直接影響を及ぼす力です。磁力に似ていますが、……地上では確認されていない力場です。そんな力場が、この空間のかなりの範囲を覆っています。不思議な力です。データを収集します。データ収集中……。収集中』
それでさっきから、なんだか頭がくらくらするのか。
自分の頭を少し押さえながらジラは言う。
『この場所に長くとどまっていることは危険です。ジラ。ここは一度、壁の穴をもう一度通って、外壁から幽霊の街まで戻りましょう。撤退を提案します』みちびきは言う。
「却下。それはできない」
ジラは言う。
それからジラはまた、大地の上を風のようになって、駆け出した。
周囲には真っ暗な闇の中にぼんやりと浮かび上がるようにして、たくさんの瓦礫の山があった。
その山と山の間の道を、ジラは一人で、逃げ出してしまった、まめまきを追って駆け足をしている。
しかし、まめまきの姿はどこにも見えない。(どうやら、まめまきはこの辺りの地形にかなり詳しいようだった。それに、見かけによらず、鬼ごっこもかくれんぼもすごく得意みたいだった)




