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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
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メイドの話

閲覧ありがとうございます。

何とか連続で更新です。


 生死すら不明?

 つまり行方不明ってこと?

 まさかそんなことあり得ない。


「多額のお金でも握らせているんですか?」


 アルの質問にメイドは眉間にシワを寄せる。

  

「一人や二人ならあり得るでしょう。ですがそんな人数ではありません」

「なら何人くらい……」

「現在把握しているだけでも五百人は越えます」

「ごっ!?」


 これにはちょっとびっくりした。

 いくらなんでも五百人の口は防げない。


「勿論この数は使用人だけではありません。一部男爵の地位の人間も含まれます」 

「使用人は身内がいない者もいるでしょう。けれどいなくなった相手が貴族の者なら何か言ってくるはずですよね?」


 アルの言うことはもっともだった。

 使用人は住み込みが基本。

 その為身内が外部にいなかったり、そもそも身内がいない事だってある。

 でも男爵などの貴族は別だ。どんなに低い地位の男爵だろうが貧乏だろうが貴族ならば家があり、そこに仕える者が必ずいる。

 そこから何も連絡がないなどあり得ない。

 余程厄介者扱いされている人間達の塊ってこと?

 ううん、それもあり得ない。

 だってここは誰がなんと言っても王宮だ。

 上手く令嬢など仕えることができたらクラウド様の目に止まるかもしれないし、そうでなくても上級貴族に認められる可能性もある。

 そこに厄介者を入れるとするならば陛下達の『支持』の問題になってくる。

 

「一つだけ理由は存在します」


 メイドの言葉に私とアルは「え?」と止まる。

 何故か怖い。


「無いんですよ」

「無い?何が?」

「記憶です」

「記憶?」

「そのいなくなった人間が確かにそこに存在していたという記憶も記録もそこにはないんです」 


 ゾクリと私達の背中に悪寒が走る。


「でも貴女方にはあるんですよね?」

「はい。私達はクラリス様の影響は受けませんので」

「でも今まで気がつかなかったんですか?」

「はい。誰も何も気にしませんでした。あの日、陛下達が魅了魔法(チャーム)という魔法でおかしくなっていたと知るまでは……」


 そんなことってある?

 普通は誰か一人くらい違和感を感じるものじゃないの?

   

「記憶操作……」


 アルがポツリと言った。

 記憶操作って、記憶を操る……。

 マックスがかけられていたのと同じってこと!?


「クラリス様の魅了魔法(チャーム)と同時並行で誰かが記憶をいじっていたと考えるべきですね」

「はい。クラウド様もそう仰っていました。私達はクラリス様の魅了魔法(チャーム)影響は受けない。けれど、そこに違う何かが重なった場合は話は別だと」

「なるほど。シルヴィア様が魅了魔法(チャーム)が集中していたであろう陛下達を正気に戻したからそれに繋がる者達の記憶も戻ったというところか……」

「その通りです。実際あの日まで私達は辞めた人間のことなど気にも止めていませんでした」

 

 話を聞いていて私は血の気が引く。

 前にも思ったけど最早これは乙女ゲームの次元じゃない。

 ミステリーか、ホラーだ。

 親友はこんな恐ろしいゲームにドはまりしていたのか……。

 恐ろしい。

 

「そんな事ができるのは闇の魔法の使い手だけだな」


 アルが静かに言う。


「クラウド様もその点を考えておいでです」


 アルは「成る程な……」と苦笑いを浮かべる。

 

「クラウド様はクラリス様が闇の魔法を使う者と関わりがある、もしくはクラリス様自身が闇の魔法の使い手だと睨んでいるんだ」


 嘘!?

 いや、相手は主人公(ヒロイン)だからね?

 それ絶対違うやつでしょ。

 でも……。

 何だろう。凄くしっくりくる。


「そうとなればクラウド様が耐性持ちを求めるわけだ。闇の耐性持ち何て希少だからな。自国の者でも何人もいるもんじゃない」


 そっか。だから私のお願いも叶えてくれるとか言って、ジェニー達の事を探してくれてるのね。

 私は納得してウンウンと頷いた。

 けれどふと気がつく。 

 そう言えば昨日の侵入してきたアイツ。

 アイツは闇の魔法を使っていた。

 ということは、アイツが犯人?

 私はチラリとアルを見た。

 アルもどこか複雑そうな顔をしている。 

 

「クラウド様の言うとおり察しのいい方々のようですね。今回は期待できそうです」

「今回はって、前回もあったんですか?」

「聞きたいですか?」


 メイドの静かな笑顔に私は「遠慮しときます……」と答えた。

 この人、時よりマリエッタみたいな反応するから怖い。


「賢明な判断ですね。くれぐれもお気をつけください。クラリス様はその愛らしい外見とは裏腹に悪魔の様な穢れを持つ方です」 


 いやだからそれ主人公(ヒロイン)に言う言葉じゃないから……。

 そう心の中で突っ込んでいると、メイドの足が止まった。

 それに続いて私とアルも足を止める。


「ここから先がクラリス様の行動範囲です。私にも耐性はありますが個人的理由でこれ以上は進むことができません」


 個人的理由?


「私の恋人だった人も先程の話の中に含まれているからです」

「!?」

「『だった』と言うことは過去形ですね」

「はい。私の恋人は耐性持ちではありませんでした。その為クラリス様に溺れ、身を滅ぼし、行方がわからなくなりました。あの時、私が彼を止めていれば……」


 立ったまま涙を流すメイド。

 好きな相手に『他に好きな人ができた。別れてくれ』そう言われたらどんなに辛いだろう。

 決して届く事のない想い。

 それが『失恋』だ。

 けれどそれが彼の本心ではなく、全ては魅了魔法(チャーム)のせいだったら?

 それさえなければ彼女を愛し続けたかもしれないし、今頃二人は幸せだかもしれない。

 今彼女の中にあるのは彼を止められなかった後悔と、恨みだ。

 

「確かにそんな君をクラリス様に近づけるのは危険だな。格好の餌食だ」

「承知してます」


 だから近づかない。

 憎いからこそやられたくない。

 そう言う事なのだろう。


「貴女方もお気をつけください。特に貴女」 

「わ、私!?」

「はい。クラリス様は貴女の様な人を探していたと聞いています」

「え?」

「先日辞めたアッシュ様の元で働いていたメイドで滞在城に勤めていた……」

「マリー、ですか?」


 私の答えにメイドは不思議そうに首を傾げる。

 

「マリー……?違います。辞めたのはリリィです」

「え、リリィ……?」


 予想外の名前が出て来て私とアルは絶句する。


「リリィ・ネット。先日城で起こった殺人未遂の唯一の目撃者であり、アッシュ様に仕え、滞在城で働いていたメイドです」


 リリィが目撃者?

 え?どういうこと?

 彼女もこの城に来ていたということ?

 

「何か勘違いをされているようですが、アッシュ様の直属のメイドはリリィ一人ですよ?」

「でもアッシュ様はマリーと……」

「聞き間違いじゃないですか?」


 聞き間違い?

 『マリー』が『リリィ』の愛称とかならわかるけど、ファーストネームが違う以上、二人は明らかに違う人物だよね……。

  

「もうよろしいですか?私はここで失礼しますので必ずクラリス様の所へ行って下さいね」

 

 そう言ってメイドは去っていく。

 

「アル、これってどういうことだと思う?」

「ごめん、俺にもわからない」

 

 アルは髪をかきあげながら「うーん……」と唸った。

  

「アッシュの言うメイドは『マリー』、さっきのメイドが言っていたのは『リリィ』か……。今の俺達みたいに一人が二役演じているのか、それとも本当に別人なのか……」

「もしくはまだ知らない第三者?」

「そうなるな」


 謎が謎を呼ぶ。不可解な出来事。

 最早、乙女ゲームなどの欠片も微塵もない。

 私とアルは警戒しながらクラリス様の元へと足を進めた。

 そしてこの時の私はまだ気がついていなかった。

 乙女ゲームで主人公(ヒロイン)から見る視点が『表』ならば、それ以外の人物からの視点は全て『裏』だと言うことに――。

読んで頂きありがとうございました。

不定期な更新で申し訳ないです。

良ければまた次回、よろしくお願いいたします。

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