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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
87/122

耐える俺 その1

閲覧ありがとうございます。

更新が大幅に遅れてすみませんでした。

それでも待っていてくれた方、ありがとうございます。

今回はアル視点です。


 俺の横で俺の大切な人が気持ち良さそうに寝息を立てている。

 けれど俺の心境は穏やかじゃなかった。


「キスしてる最中に眠るってどうなんだ?」


 俺は聞こえてないであろう彼女に問う。

 魔力を渡すと言う口実に彼女とキスをした。

 嫌がる素振りはなかった。

 しかも途中から魔力を渡すって言う理由から離れて求めるがまま彼女の唇に触れてしまった……。

 そしてシルはそのまま寝てしまった。

 いわゆる寝落ちというやつである。


「寝顔も可愛いいし、これはこれでいいんだけどさ……」


 あそこまでしておいてお預けを食らった俺は何とも言えない複雑な気持ちでいた。

 彼女を大事にしたい。

 無理矢理は嫌だ。

 もしこんな状態で襲ったら俺はただの野獣でしかない。

 頭では納得している。しているが……。

 耐えろ。耐えろ俺……。 

 そんな俺の葛藤など全く気にしていないかのように、シルはむにゃむにゃと寝言を呟いた。

 どうやら夢の中でミートさんのパンをたらふく食べているようだ。


「全く、いい気なもんだ」


 サラッとした彼女の髪の毛に触れた時だった。

 

 バチン!

 

 大きな音が聞こえ反射的に身を起こす。

 音の原因は例の巻物だった。

 俺とシルがキスをしている時もバチバチバチバチうるさかったが、今は更にバチバチ言っている。

 どうやらこの巻物、恋人の邪魔をするようになっている様だ。

 受け取った時何も起こらなかったのは俺達が互いにそういう目で意識してなかったということだ。

 だから部屋を漁っていた時も何も起こらなかったのだ。

 

「まるで僻みの塊だな」


 俺はそう呟き、白い魔法陣を出す。

 そして一気にそれを握りつぶした。

 ジュッ……と、まるで火が消える瞬間のような音を立てて巻物はその場から消えた。

 消滅魔法(ディサピアランス)

 禁断まではいかないが、危険な魔法の部類に入る。

 何故なら魔法だろうが呪いだろうが何でも一瞬で無に返す魔法だからだ。


「消滅に特化しているから加減ができないのがこの魔法の嫌な所だな」


 そう言いながら俺は苦笑いを浮かべた。

 この魔法の存在に気がついたのは俺が五歳の時だ。

 俺の母上が俺を殺そうとした時、恐怖から身を守ろうとして発動した。

 子どもの潜在能力と可能性は無限大とはよく言ったものだ。

 俺は恐怖から母上の()をこの魔法で消し去ったのだ。

 あの時の恐怖は言葉では言い表せない。

 けれどそれは母上も同じだろう。

 俺のせいで母上は更におかしくなってしまったのだから……。

 あの時、たまたまその場に居合わせたダーンと義母上(ははうえ)がいて俺は助かった。

 二人のお陰で精神をやられることがなかったのだ。

 けれど現実に記憶違いを起こしているから精神はおかしかったのかもしれない。


「あの義母上(ははうえ)の顔があんなに必死に俺に向けられるわけがない」


 そして脳裏に浮かぶその記憶を消そうと俺は強く拳に力を込めた。


「いて……」

  

 指先がピリピリと痛む。

 この魔法は使うとその強さに比例して己に返ってくる。

 だからダーンにはあまり使うなと言われている事をふと思い出した。


「滅多に使うものじゃないからな。副作用(この事)を忘れていた」

  

 しかしあれをそのままにしておくわけにはいかない。

 シルには言わなかったが呪いを解除すればどんな形であれ持ち主へ返る。

 今クラウドからアッシュを欠落させるのは得策じゃない。

 一時の痺れで何とかなるならその方がいい。

 

「ん~……」  


 シルがもぞもぞと動いた。

 俺は思わず息を飲む。

 シルが動いた時に寝巻きがずれて胸元が見えかけていたのだ。

 数分の葛藤の末、何とか理性が勝利し俺は彼女に毛布をかけた。

 正直無防備もここまでくると俺を男として見ていないのではないかと心配になる。

 いや、男としてみていないなんてことはないはずだ。

 多分……。


「ん?風?」


 窓を開けたままにした覚えはないのに風が入ってきて俺は違和感を覚える。

 すると動くことなく、俺の様子を窺っている気配が一つあった。

 誰だ?

 俺は気配がする方へと向かった。


「覗き見とは悪趣味だな」

「あれー?もうバレたの?面白くないなあ」


 聞き覚えのある声だった。

  

「その声は、アンリか?」

「ヤッホー」

 

 手を振り窓から部屋に入って来るのは確かにアンリだった。

 けれど俺は漠然的に不安に刈られる。

 何故アンリは王宮(ここ)に来た?

 定期連絡をしなかったから?

 いや、だとしてもここを掴むには早すぎる。

 そもそも少し定期連絡が少しないくらいで慌てふためくような奴らじゃない。


「どうしたの?怖い顔して」

「別に。こんな夜更けに何の様かと思っただけさ」

「あー、そういうこと?それならどうしてもこっちから伝えたい用事があってさ」


 そう答えるアンリに俺はやっぱりおかしいと確信した。

 今までどんなことがあろうとも向こうから連絡など来たことなどないからだ。

 

「悪いな。色々あって連絡できなかった」

「色々?」

「こんな状況で連絡できるわけないだろ?」

「なるほど、恋に忙しかったわけだ?」


 そう言ってアンリは俺の唇に指を伸ばしてきた。

 けれどアンリの指から嫌な気配を感じ咄嗟に手を振り払う。


「何だよ。ケチー」


 言葉は普通だ。

 普通だがこの憎しみにも似た憎悪は何だ?

 仮にアンリが彼女に本気で好意を持っていたとしても、この感じはおかしい。

 そんな事を考えながら俺は「ケチで結構」と素っ気なく返した。

 

「んー、もう!意地悪」

「それで?何しに来た」


 俺の問いかけにアンリは膨れながら一つの封筒を渡してした。


「開けてみてよ」

「今ここでか?」

「うん」


 俺は少し躊躇する。

 アンリが急かす意味がわからない。

 そんなに緊迫しているなら直接言えばいい。

 

「どうしたの?早く開けてよ」


 封を開けかけた俺の手が止まる。

 この感じに覚えがあったからだ。


「ねえ、どうしたの?」

 

 声は疑問を帯びているが、口元は笑っている。

 それを見た俺は「ああそうか」と納得した。

 この違和感、この疑問の答えがわかったのだ。


「え?ちょっと、何?怖い顔して、どうしたの?」


 俺の手が止まったことによって焦り始めるアンリ。

  

「同じ手で俺を落とそうとしたのか?舐められたものだな」


 俺は躊躇うことなく魔法で手紙を燃やした。

 手紙が一瞬で燃え灰になりサラサラと舞う。

 突然のことに驚いて固まっているアンリに、俺は近くにあった燭台を手に取りアンリの喉に向けた。

 しかしアンリはこれに対して動じなかった。

 それどころか「おかしいなあ」と冷静に呟く。

   

「あの時もそうだけど、アルフィード(・・・・・)は部下に思いやりがあるっていう設定だったはずなのに……――!」


 言い終わるのが早いかアンリの姿が消えた。

 俺はすかさず後ろへと振り向きアンリが振り下ろした短剣を受け止める。

 

「あれ?ここは大人しく切られるべきじゃない?」

「切られるとわかっていて切られる様な趣味は持ち合わせていない」


 ギリギリと燭台が押される。

 燭台で短剣を受け止め続けるには無理があるか。

 

「ピンチなのにその表情。相変わらず憎たらしい奴」

「本物のアンリならともかく、偽物のお前に文句を言われる筋合いはない!」


 俺はアンリの短剣を振りほどいた。

 アンリは身軽に飛ぶ。

 とてもダメージを受けているとは思えない。


「前回同様、手紙に何か細工をしていたのかと思ったんだが違ったか」


 俺の言葉にアンリは舌打ちをした。

 当たらずとも遠からずってことのようだ。

 やはり目の前にいるアンリは俺の知るアンリじゃない。

 

「どうした?本物のアンリの動きはもっと軽やかでまるで風のようだぞ?」

 

 俺の挑発に再びアンリが舌打ちをして向かってきた。

 確かに早いが見切れないほどじゃない。

 

「前回、サーガに憑依して負けたから今度は俺の知り合いに姿を変えれば俺が手を下せないと思ったのか?」


 アンリの目が開いた。

 それは『動揺』という名の乱れ。

 そして俺の言葉に対しての『肯定』だ。

   

「浅はかだな」

「うるさい!」

「ほら、このくらいで頭に血が上るなんて、餓鬼の証拠さ」

「黙れっ!」 


 俺の挑発に踊らされ、怒りで反撃しようとするその動きに俺は笑みを浮かべる。

 感情で動けば力は増しても無駄な動きが増え、隙が生まれる。

 隙が生まれたら後はそこを突くのみ。


「何っ!?」


 どうやら俺の思惑に気がついたらしいが一度乱れその隙を突かれた状況から簡単に元には戻れない。 

 俺はアンリを壁に追い詰める。


「形成逆転だな」

  

 そう言いながら俺はアンリの短剣を弾いた。

 短剣は宙に飛ばされ、俺の手に収まった。


「くそっ!」


 悔しがるアンリに俺は無表情で短剣をアンリの喉に近づけた。


「チェックメイトだ」


 この時のアンリは唇を噛みながら俺を睨み返すしかなかった。

読んでいただいてありがとうございます。

次は続きの『その2』です。

できるだけ早く出すつもりですので、待っていただけると嬉しいです。

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