アッシュ様の嫌がらせ?
閲覧ありがとうございます。
少し更新に間があってすみませんでした。
今回はシル視点です。
助かった……。
私は胸に手を当ててホッと息を吐いた。
嫌なわけじゃない。
自分で言うのもおかしいけれど、すごくドキドキした。
このまま身を任せてもいいと思ってしまった。
けれど忘れてはいけない。今の私は『シル』だけど、本来は『宰相の末娘シルヴィア』なのだ。
私はブンブンと首を横に振った。
今はこのバチバチ音を立てている巻物を何とかするのが先だ。
アルがそっと巻物に手を伸ばすとバチッと激しい音と共にアルが手が弾かれた。
「アル、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
そう言うアルの手は赤くはなっていた。
「厄介だな。何かの作用で地図に触れないように細工されている」
「誰がそんなことを……」
「アッシュしかいないだろうな」
ですよね~。
私は「ははは」と力なく笑う。
「あ!それなら 解除魔法を使ったらいいんじゃない?」
私の案にアルは首を横に振る。
「これには解除魔法は効かないよ」
「どうして?」
「これは魔法じゃなくて、呪いだからだ。見て、魔法陣が黒いだろ」
アルに言われるがまま巻物を見る。
じっと目を凝らすと確かに黒い魔法陣が見えてきた。
「でも受け取ったときは何も起こらなかったよ?」
「呪いは魔法以上に複雑なんだ。魔法はその場ですぐ反応するのが常識だけど呪いは速攻のものはあまりない。寧ろ一定の時間で発動したり、何かの条件で発動するのが殆どなんだ」
そう言ってアルは目線を巻物へと向ける。
「一度発動した呪いを解いたり消すのは容易なことじゃない」
「アルって『呪い』に詳しいんだね」
「こう見えて一応王位継承者の資格を持つ者だし、まあ色々とね……」
色々……。その言葉が重い。
押し潰されてしまいそうだ。
「間違っても呪いについて調べようなんて思わないでほしい。シルみたいなタイプは触れない方がいい」
「何で?私が使うとでも思ってるの?」
「まさか。シルはそんな人間じゃないよ。シルなら呪いをかけるよりも先に相手を成敗してしまうだろうからね」
「それはどういう意味?」
「深い意味はないよ」
そう言ってアルは笑う。けれど悲しそうな目で巻物を見ているのを私は見逃さなかった。
「『呪い』なんて知る必要ない。一歩間違えれば俺の母上の様になってしまう」
「アルのお母様?」
私が首を傾げるとアルが「現妃の義母上方じゃなくて、俺を生んだ方ね」と答える。
「ダーンから聞いてないか?俺の母上は『呪い』で精神が崩壊したって」
「ごめんなさい。その話は知らないわ……」
「そっか。まあ王子の母親が呪い返しで気が狂ったなんて簡単には言えないよな」
まるで他人の事のように話すアルに私は胸が締め付けられる思いだった。
「母上は父上を愛していた。だから父上に呪いをかけようとして弾き返されたんだ……」
「愛しているのに呪いをかけるの?」
「愛していたから呪いをかけようとしたのさ」
私にはとても理解はできそうになかった。
アルは私の頭を優しく撫でる。
「わからなくていいんだよ。歪んだ愛なんて理解すべきじゃない」
悲しそうな声を出すアルを私は引き寄せ胸元で抱きしめた。
「シ、シル?」
「私はずっと側にいるから。これからずっと貴方を助けるから。だからそんな悲しそうな、寂しそうな顔をしないで」
貴方が望むなら、私は何にだってなる。
例えそれが『悪役令嬢』だったとしても……。
私はアルの額にそっと口づけをした。
するとアルは突然私から離れた。
嫌だったのかと思ったけれど、アルは額を押さえて真っ赤な顔をしていた。
驚いたのかもしれない。
戸惑っていると今度は私がアルに引き寄せられる。
「もう我慢できない。地図なんてどうでもいい。このまま俺はシルが欲しい……」
アルがそう言った時だった。
バチン!と大きな音が鳴った。
「随分と自己主張の強い呪いだな……」
アルは舌打ちをして巻物を睨む。
今にも巻物を切り裂いてしまいそうな雰囲気だ。
「アル、待って!何か対策を考えよう?このままじゃ私達クラウド様との約束が守れなくて明日にアッシュ様に嫌味を言われるだけだよ!」
私の言葉にアルはピクリと体を反応させた。
「そうだな。このままアッシュの思い通りになるのは非常に不愉快だ。サーガに『どや顔』をされるくらい腹立たしい」
比べる基準はそこなんだ……。
私は苦笑いを浮かべたけれど、何とかアルの暴走を止めることに成功したことに安堵した。
「こんなことになるなら始めに地図を写しておくんだったな」
「写す?」
「見たところ呪いがかかっているのは巻物のみ、つまり呪いがかかっているのは紙だ。先に模写でもしておけばこんなことにはならなかったはずだ……」
完全に俺のミスだ。
そう言いたげなアルを横目に私は考えた。
触れられない。見れない。そんな状態では中身を写すのは不可能と言っていい。
魔法が発達しているけれど、魔法は万能じゃない。
できないこともある。
それにしても、触らずに中身を取るなんてまるで一休さんの頓知みたい。
まあそれは地図じゃなくて屏風の中の虎だったけど。
「あ、そっか……」
「何か思い付いたのか?」
アルの問いに私は小さく頷いた。
「ねえ、あの巻物に触れなかったら別に魔法使っても大丈夫そう?」
アルは頷く。
「でも触らずに開くのは不可能だ。そんな都合のいい魔法は流石に古代魔法にだってない」
「うん、わかってる。触れないなら触らずに出したらいいと思って……」
「え?」
アルは訳がわからないと言う顔で私を見た。
私は「多分大丈夫だから心配しないで」と言って魔法を使う。
使う魔法は二つ。
切断魔法と浮揚魔法だ。
「紙とインクが別れた……」
アルが驚いた声を出す。
紙には指一本も触れられないなら中身だけを抜き取ればいい。
そうすれば書き写すことは可能になる。
けれどそれを写す紙を探していられる時間がない。
今の私の魔力はそこまで持たない。
仕方がない。
あまり人には見せたくないけど、裏技をしよう。
私はそうして浮かんだ地図を二つに分けて私とアルの頭へと記憶する魔法をかけた。
狙ったかのように私の魔力は切れてベッドに倒れ込む。
「シル!」
アルが私の体を支えてくれる。
「今の魔法は何だ?何をした?紙とインクが別れて、更には地図が頭の中に入ってきたん……」
「切断魔法と浮揚魔法を使って紙とインクを切り離し、写本魔法をして、記憶魔法を発動したの」
そういうとアルは「よくそんな使い方を思い付いたな」と感心してくれる。
巻物はまだバチバチと音を立ていた。
私が安堵の息を吐く。
「それなら俺に話してくれればよかったのに……」
アルの手に力が入る。
「『シル』になる際にいくつか制限をかけているだろう?俺が気がつかないと思っていたのか?」
怒ってる。
私は初めてアルが私に怒っているとわかった。
「ごめんなさい。話さなくても問題ないかなって思ってたから……」
「君が『シル』の時、ダーンでも見つけられない理由は魔力をシルヴィア嬢の半分以下に抑えているからだろう?」
バレた。
「よく、わかったね……。マリエッタでもそのことは知らないのに……」
「わかるさ。俺を誰だと思っている?」
「王子様……」
「正解」
アルはそう言うと私の顔に近づいてくる。
「ちょっ!」
「俺の魔力をあげるだけだよ」
「こんなことしなくても貴方ならできるでしょ?」
「駄目。シルにはこの方法しかない」
アルの目がキラリと光る。
「嘘」
「本当」
「でもほら、寝たら回復するし……」
「嫌?」
アルの悲しそうな目に私は罪悪感を覚える。
「嫌じゃない、です」
「よろしい」
満足そうな顔になるアルに私は悔しいと思った。
「大丈夫。これ以上先はしないから」
そう言ってアルは私の唇はアルの唇によって塞がれた。
アルから魔力が伝わってくる。
それはとても温かく、柔らかい。
バチバチと巻物が音を立てているけれど気にする必要はもうない。
時たま漏れる息と唇が重なる音が聞こえる。
情けないかな。私はアルに魔力をもらっているはずなのに眠気に耐えられず、そのまま闇へと落ちていった……――。
読んでいただき、ありがとうございます。
嫌がらせのはずなのに嫌がらせになってないというか……。いや、多少はお預けくらってるから嫌がらせにはなってるかな?(笑)
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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