私だけじゃない?
閲覧ありがとうございます。
今回はシルの視点で動きます。
若干ウジウジかもしれません。
苦手な方はスルーしてください。
『彼女は話してもいない事を知っているんだ。まるで見てきたかの様に……』
アルにそう言われて私は思わず「まさか……」と声を出してしまった。
アルが「何か心当たりがあるの?」と聞いてきたけど私は答えられなかった。
「光の使者だからこその能力と言う人もいるが俺は違うと思っている」
アルの顔は真剣だった。
私は戸惑っていた。
ずっと思ってきたけどどこか否定してきて敢えて考えないようにしてきたことが一つだけある。
それはクラリス様が私と同じく『前世の記憶』があるということ。
もしクラリス様が前世の記憶があって『ときめき♡きっと見つかる私だけの王子様』をプレイしていたとしたら?
それならクラリス様が話してもいない事を知っていてもおかしくない。
でも確証がない。
それにアルに『私』の事はどう説明しよう。
プレイしたらゲームオーバーを叩き出していた私がこの世界について話せる事などほとんどない。
逆に混乱を招くだけかもしれない。
「シル?」
アルが心配そうに私の顔を覗きんだ。
「ごめん。ちょっと驚いちゃって……」
「そうだよな。信じられないよな……」
「違うの。アルが嘘を言ってるなんて思ってないわ」
「うん、わかってる。顔をみたらわかるよ。別のことを考えているんだろう?」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれるアルに胸がドキドキした。
クラリス様が前世の記憶を持っていたとしたら、シルヴィアが何の役を持っていたのか知っているのかもしれない。
クラリス様と初めて会ったとき、私のことを『ベールの女』って呼んでいた。
でもそれが『悪役令嬢』という意味だったらどうしよう……。
怖い……――。
何とも言えない恐怖が押し寄せてきた。
でも今更どうしようもない。
こうなったら明日クラリス様にさりげなく聞いてみるのはどうだろう?
……、ダメ。
もし本当にクラリス様が前世の記憶を持っていたらそれがヒントになって私がシルヴィアだとバレる可能性もあるし、私も中途半端だけど前世の記憶があると気がつかれてしまうかもしれない。
そしたらアルに危険が及ぶことは十分にあり得る。
それよりもクラリス様は既に私とアルの正体を知っていて、出方を待っている可能性だってある。
「シル、寒いんじゃないか?震えてる」
そう言ってアルは私にガウンを被せてくれる。
アルの優しさがつらい。
アルの側にいて気がついた。私はどんどんアルに惹かれている。
アルのちょっとした仕草、気遣い、動き。
もう私は抜け出せない。そのくらいにアルが好き。
アルの役に立たない前世の記憶。
私を守るためって前世の私は言っていたけど、まだそんな恩恵などにあやかってはいない。
寧ろそのせいでシルヴィアの力が出せていない気がする。
「ねえ、アル……」
「ん?」
「もし……、もしよ?自分で得た知識とは別の知識が急に頭に入り込んできたらどうする?」
こんなことを聞いてなんになる?
変に思われたかもしれない。
そう思ったけどアルはそんな素振りは一切見せず、少し考えてから口を開いた。
「俺なら利用する」
「利用?」
「ああ。この世界はまだまだ変われる。だからその知らない知識が降ってきたら俺は利用したい」
素直に、真っ直ぐに答えるアルに私は衝撃を受けた。
「で、でもそれが役に立たないものや、余計な情報だったら?」
「別に気にしない」
「気にしないの?例えば、明日の天気が晴れとか、明日の朝御飯はフレンチって事が事前にわかるようになったとしても?」
アルは少し首を傾げた。
「天気は事前に知っても変えられないし、朝御飯はそれが嫌なら食べなければいいんじゃないか?」
「それは……、そうよね……」
「それを明日晴れるからどうしよう。朝御飯がフレンチだどうしようって悩んでも解決しない」
アルは伸びをしながら答える。余りにも下らない質問でつまらなかったのかもしれない。
けれどアルの言う事は間違っていない。
慌てても仕方がない。
「じゃあ、人生に関わることだったとしたら?」
アルが驚いた顔をする。
多分言ってることが理解できないのだろう。
「選択肢で『A』と『B』、どちらかを選ぶの。片方は死んでしまって、もう片方は生き長らえる」
アルならどちらを選ぶだろう。
私は目を伏せた。
「どっちがそうなるかはわかるの?」
「わからない……」
私の返事にアルは黙ってしまう。
やっぱりアルでも答えられないわよね。こんな変な事……。
「それなら俺は後悔しない方を選ぶ」
私は目を見開いてアルを見た。
「俺はその時、その瞬間に思った事を選び最善を尽くす。それを選んだことにより死ぬのなら死なない方法を探す」
「凄いね、アルは……」
「そんなことはない。偉そうに言ってるけど、どうなるかなんて選んでみなきゃわからない。それに俺だって躊躇することはある……」
アルが少し悲しそうな顔をする。
「俺は一度シルを突き放した。それがシルを守り、俺の友をも守れる思ったから。でも違った。それは俺のおごりなだけで結局俺はシルを悲しませただけだった……」
それを聞いた私は首を横に振る。
「あの時はそれでよかったのよ。それにちゃんと知らせてくれた。だから気にすることなんてないよ」
「ありがとう。シル……」
少し悲しそうに笑うアルに私は苦しくなった。
今、打ち明けるべきだろうか?
前世の記憶のことを……。
でも……。
私が戸惑っているとアルが頭を優しくポンポンと撫でた。
「俺は常にシルの味方だ。だからシルが話したい時に話せばいい」
「何で?何で私にそんなに無条件に気をかけてくれるの?」
「無条件ってわけじゃないさ。俺がシルを好きなだけ」
「す……、好き……」
思わず言い返してしまう。
「うん、俺はシルが好きだ。どこにいても、どんな姿をしていても俺は君を見つけれる」
「そんなこと……」
「できるよ。だから俺は『シル』を見つけたんだから……」
そう言って抱き寄せられる。
心臓がドキドキする。
「だから俺はシルを離さない。誰にも渡しはしない」
そう言われて私はクスクス笑ってしまった。
アルがムッとするのがわかる。
「何だよ。そこ笑うところか?」
「ごめん、何かアルがキザつぽくて、似合わない」
「失礼な」
「だからごめんってば」
「いいや、許さないね」
そう言ってそのまま後ろへ押し倒された。
「許して欲しかったら約束してくれ。絶対に一人で突っ走らないと……」
「私、そんなことしないわ」
「そうかな?シルヴィアが行ってきた今までの功績を考えると相当無茶していたと思うけど?」
意地悪そうな顔で言われ、私は「う……」と言葉に詰まった。
実は解決するのは『シルヴィア』だけど、『シル』が動きやすい事をいいことに結構無茶をしたことは多々ある。
その度にマリエッタにめちゃくちゃ怒られてはいるんだけど……。
「今回はシル一人じゃない。俺がいる。もっと頼ってくれていい」
「それはアルも同じだよ」
私以上に危ないのはアルだ。
この人は一人で抱え込み過ぎている。
「アルも絶対無茶なことしないでよね」
念を押すように私はもう一度言った。
アルは軽く笑みを浮かべ「肝に銘じておく」と返事をしてくれた。
それを聞いた私は「約束だよ?」とアルに伝えたのだった。
その瞬間、胸の奥がチクリと痛んだけれど、この時の私は気がつかなかった。
読んでいただいてありがとうございます。
前世の記憶が絡むと暗くなるのは仕方がないとは言え、書くのもつらいですが、また一歩前進かな?と思っています。
また、ブックマークありがとうございます。
純粋に嬉しいです。
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。
では、また次回も良ければ覗いてください。




