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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
82/122

慌ただしい時間

本日は二回目の更新です。

前回のとセットで書いていたので、早くに更新できました。


「実は国王陛下が殿下をお呼びだったんですよ。理由は知らないですけど」


 そう話すのはアッシュ様の後ろにいた。ジャン様。

 側近であるアッシュ様の補佐をしているらしい。

 年が近いからか思ったよりも話やすい。


「ジャン、あまり余計な事を言うな。仮にもジャイル国の人間だぞ」


 そう言ったのは髭を生やしているゴルド様。

 さっきはアッシュ様の威圧で名を名乗れなかったらしい。

 年配だけど、多分王家を支えている貴族の一人だろう。

 この二人の後ろを私とアルはついていく。

 後ろにも何人かいるけど固く口を閉ざしている。

 正直怖い。

 

「クラウド殿下とアッシュ様はいつもあんな感じだから気にしなくていいよ」


 ジャン様が優しく言ってくれる。

 私が「へえ……」と相づちを打っているとジャン様はいつの間にか私の隣にきていた。

 近い……。


「でもさ、痴情のもつれは今までにないかも」

「そうなんですか?」 

「うん、クラリス様の時は恋愛っていうより家族愛っぽかったもん」 

「あの件はワシも解せん」


 ゴルド様が話に割り込んできた。


「あれは殿下の望むものじゃなかった。いつの間にか噂が勝手に流れ、クラリス様と婚約との話になってしまった」

「そう!まさしく噂の独り歩き!」

「あの時に全力で否定されておれば、こんな事態にはならなかったんじゃ」


 そう言ってゴルド様は目頭を押さえる。


「何で否定しなかったんですか?」

「んー、それは色々あったからね。事実見てるだけならお似合いではあったし?」

「陛下達もクラリス様を娘の様に可愛がっておったしなあ」


 二人は遠い目をする。

 

「それにさ、陛下達がクラリス様に夢中だったから殿下も言いにくかったんじゃないかなあ」

「そうだな。殿下はお優しいお方だからのう。しかし、陛下達がクラリス様を溺愛していた理由がまさか魅了魔法(チャーム)だったとは、何とお痛わしい」

「ジャイル国の令嬢様には感謝だよ」

「うむ、そこだけは認めるしかないな。あのお方のお陰で陛下達は正気を取り戻したのだから」


 シルヴィアが思ったよりも持ち上げられていて私は複雑な気分になった。

 今までこんな風に感謝されたことはなかった。

 お礼は言われても不気味だと言われてきたから……。


「でも彼女がアルフィード様の婚約者ってのは納得いかないな」

「確かに」


 いつの間にか盛り上がる二人……。

 私はどう返していいのかわからない。

 

「どう考えてもアルフィード様はクラリス様から逃れる為に婚約者をでっち上げたとしか思えないもんね」


 私はそれを聞いてそう言えばクラウド様と初めて会った時にそんな事を言っていたのを思い出した。

 

「婚約をすぐに解消したのが何よりの証拠と言えような。しかし聡明なあの方がこんなに分かりやすく婚約を解消するものだろうか?」


 ゴルド様はそこだけは引っかかると首を傾けた。

 そして「やはり愛がないからかのう?」と私とアルを見る。

 それを見たジャン様が「そうなんじゃない?」とゴルド様に返した。


「この人達みたいにさ、間に入れない空気をもっとしてくれれば殿下は令嬢様に想いを打ち明けるなんて言い出さなかったし、クラリス様もアルフィード様の婚約者になるとか言い始めなかったんじゃやないかな?」

「そうじゃのう……」 


 そして皆で仲良く「はあ~……」とため息をついた。

 

「そう言えばクラリス様は何故自由に動き回っているのですか?クラウド様の話では確か硬直魔法(リジット)をかけられたとか……」

「ああ、それね。実はクラリス様自ら魔法を解いたんだよ」

「何だって?」


 それまで沈黙を守っていたアルが声をあげる。

 これには皆驚いたのか、視線がアルへと集中した。


「いえ、クラウド様の魔力はそんな生半可なものとは思えなくて……」


 慌てて言うアルにゴルド様は  

「それは皆そう思ったさ」と怪しむ事もなく答えた。

 

「あの状況では誰も手引きなんてできんはずじゃ。仮に誰かの企みだったとしても殿下の魔法を解くほど強い魔力を持っておらん」

「ジャイル国のアルフィード様以外はね」


 ジャンが静かに言った。


「ジャン様はアルフィード様がクラリス様を助けたと?」


 聞かずにはいられなくて、私も声を出す。

  

「違う違う。流石にアルフィード様でもクラリス様の部屋に勝手に入れるほどこの城のセキュリティは甘くないよ」

「そもそも魔法が解けたのはアルフィード様と令嬢が帰ってからじゃし、いくら彼が化物であってもあの令嬢を誤魔化しながらクラリス様の所に忍び込むとは考えられん」


 つまりそれはシルヴィア()がいなかったらアルフィード様は疑われていたということ?

  

「どのみちアルフィード様には無理だよ。城内で起きたあの事件……」

「ああ、パン屋が弟子に刺された件か」

「そうそう、クラリス様が部屋から現れてからあの事件が起きたでしょ?いくらなんでもアルフィード様にそこまでする理由がないよ」

「そうなるとやっぱりクラリス様は伝説の……」


 ゴルド様が口を開きかけた時「つきましたよ」と後ろから声がした。

 ゴルド様は「ああ……」と返事をして私とアルを部屋へと促す。


「しばしここでお待ちくだされ。恐らくすぐにアッシュ様が来られます」

「バイバーイ!」


 そう言い残し彼らは出ていった。

 勿論鍵はかけられている。

 まあ、勝手に出歩かれては迷惑だろう。

 私は振り返り部屋を見て「わあ……」と思わず声を出してしまった。 

 そこは滞在城程ではないにしろ、そこそこ広い部屋だった。

 装飾も細やかで美しい。

 とても庶民に提供するとは思えないほど高級な部屋だ。

 クラウド様は私達に最高の接待とは言っていたけれど、これはちょっとした貴族よりも上のクラスなのではなかろうか?

 流石のアルも「ほお……」と感心している。

 私達がしばらく部屋を見ていると扉がいきなり開いてよろめいてしまう。


「何をボーッと突っ立っているんだ?」


 そこにいたのはアッシュ様だった。

 私は思わず「あまりにも部屋が綺麗で見とれてました」と答えると、アッシュ様は「そうだろう、そうだろう」と嬉しそうに頷く。

  

「庶民相手にこんな部屋を用意するとは、非常に勿体ない。本来なら別の部屋に移動させたいのだが、バレたら私が怒られるのでしない。だがお前達が望むならもっと質素な部屋に変えてやってもいいぞ?」

「いえ、是非このままでお願いします」


 にっこり笑いながら答えるとアッシュ様は「チッ」と舌打ちをした。

  

「ほら、例の物だ。今回は殿下の好意と、私の地位維持の為にくれてやる。だが、一晩でその紙は消失するように呪い……じゃなかった。魔法をかけたからしっかり覚えるがいい」


 アッシュ様はそう言って巻物をアルに投げる。

     

「そこにはお前達の行動範囲のみ記してある。もしそこから一歩でも外に出たら反逆罪として首に縄をかけてやるからそのつもりでいろ」


 段々アッシュ様の発言が悪役になっている気がするけど突っ込まない方がいいのだろう。

 アルはアッシュ様を完全に無視し、巻物を開いた。

  

「へえ、思ったよりも広範囲ですね」

「そうだろう?全ては殿下のひろーいお心故のこと。ありがたく思うんだな」

「あー……、でもここまでトイレの記載はいらないですね」 

「本当、凄い。ここの廊下なんて1メートルくらいの間隔であります?」

「1メートルじゃない。2メートルだあ!」


 そう言ってアッシュ様は吠えた。

 私とアルが驚いていると居心地が悪くなったのかアッシュ様は早々に立ち去ってしまう。


「多分、今頃トイレに直行だな……」 


 アルが可哀想なものを見るような目をしながら言った。


「そんなにアッシュ様はお腹が弱いの?一度お医者様に見てもらった方がいいんじゃない?」

「医者の見立てでは病気じゃないそうだ。精神的なもので病気以前の問題らしい」

「ふーん……」

「まあ、アイツは人見知りだからな」

「人見知り!?あれで?」


 私の驚き様にアルは笑う。

 

「ああ、アイツ初対面の人間を見るとああなるらしい。大丈夫。二日もすれば慣れるさ」

「そういうもんなの?」

「そういうもんだ」

 

 こうして私とアルが再び地図に目を落とそうとしたのとほぼ同時に扉が再び開かれる。

 またアッシュ様かと思ったけど違った。

 そこにいたのは沢山のメイドや執事だったのだ。


「今から最上級のおもてなしをさせていただきます!」


 そう言うが早いかメイドと執事達は慌ただしく動き始めた。


「まずは後夕食をどうぞ」


 そう言い終わるのが早いか料理がどんどん運ばれてくる。

 何これ?と言うような高級料理だ。

 メイドと執事は黙々と用意をし、私達を強制的に椅子に座らせる。

 目の前にはどう見てもマナーを必要とされそうなものばかり。

 食べ方は当然わかる。

 けれど素直に食べたら貴族とバレてしまう。かといってこんな高級料理を下品に食べるわけにはいかない。

 アルもこれには引いている。

 もしかしてアルフィード様としてよりも豪華なおもてなしなのかもしれない。

 私とアルがオロオロとしていると食べ方がわからないと思われたのか、傍にいてくれたメイドと執事が食べる順番を丁寧に教えてくれた。

 わかっていることを教えられるのは変な感じで、私とアルはぎこちなく食べ始める。

 けれどそれが逆に良かったのだろう。結果的に庶民が頑張って貴族のご飯を食べるの図が見事に形成された。


「ディナーの後はお風呂にございます」

  

 そう言われて私とアルは流される様にお風呂に連れていかれる。

 当然男女別。

 私にはメイドがぴっちりついた。


「あ、あの。私は一人で……」

「いけません!」


 そして抵抗も空しく、メイド達にお風呂へ入れられた。

 甘い花の香りの浴槽。

 その香りは嗅いだことがある。

 確かエレナお姉様がよく入っていた。

 これで男性をいちころにするとか何とか……。

 そんなことを考えている間にお風呂は終わり、その後は肌のケアやマッサージ。

 メイド達が入れ替わり立ち替わりで、ゆっくりするどころか随分な大騒ぎだった。

 やっと解放されたと思ったら寝間着姿になっていた。

 何だろう。今日一番の疲労感かもしれない。

 最後にメイドがわざとらしく「では、ごゆっくりお楽しみください♡」と言って出ていく。

 騒がしかった回りが一気に静かになり、私とアルは立ったまましばらく硬直していた。

 先に動いたのはアルだった。

 アルはそっと扉に近づき、扉を開け辺りを見回す。

 

「誰もいない?」

「ああ、誰もいない」


 そう言ってアルは扉を閉めて鍵をかけた。

 私とアルの距離が近づく。


「シル、今からすべきことが何かわかる?」

「ええ。わかるわ」

 

 私の返事にアルは満足そうに微笑んだ。


「じゃあ、始めよう」

  

 アルの合図と共に私とアルは離れて部屋の中を漁り始めた。

 ベッドの下、枕、シーツ、カーテン、テーブル、棚に至るまで、隅から隅まで見ていく。

 別に物を盗もうとか思っているわけじゃない。

 私達はあるものを探した。

 それは私達を監視するもの、私達の行動を見るもの、私達の声を盗むもの。

 私とアルは部屋の物を壊さないように注意しながらそれらを探した――。

読んでいただきありがとうございます。

前回が長過ぎですみませんでした。

また次回よければお付き合いください。

更新間隔がバラバラで皆さんにはご迷惑をおかけてしております。

気長にながーい目と、ひろーいお心でお付き合いしていただければと思います。

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