誤解と斜め上の解釈
やっと更新です。
遅くなりすみませんでした。
地下牢から出ると外は日が傾き始めていた。
何気ない夕焼け。
けれど私は辺りを赤一色に染めているこの夕焼けがとても不気味に感じた。
「疲れた?」
アルが私に問いかけてきた。
アルはマックスにひどいことを言われたのに何もなかったかのような雰囲気だ。
アルにとっては貴族の夫人達とマックスと比べたら大したことがないのかもしれない。
あれは公開処刑のようなものだから……。
そうは言っても私の友人がアルにひどいことを言った事実は変わらない。
それにマックスの話にはいくつか引っかかるものがあった。
問題は解決どころか新たに浮上し、目の前に積み上がっている。
私は大きくため息をついた。
これが本当に乙女ゲームなのかと思いながら……。
それでも私は私らしく動くしか選択肢はない。
私は顔を上げてアルを見た。
「少しだけ……。アルは?」
「俺?平気だよ」
嘘つき……。
そう言葉で返したかったけど、喉に言葉が突っかかって出てこなかった。
「シル、そんな膨れっ面なんてしてないで。良ければ俺の腕を貸すよ。それで機嫌を直してくれないか?」
そう言って腕を出すアルの姿は悔しいけど格好よかった。
私は拒むことなく「喜んで」と答えアルの腕に手を絡める。
けれど胸のモヤモヤが消えることがない。
「ごめんなさい」
少し歩いたところで出た言葉はそれだった。
「何でシルが謝るの?」
「マックスが貴方に酷い事を言ったでしょ。傷つけてごめんなさい」
「シルが言わせたわけじゃないからシルが気にすることはないよ」
「ううん、気にする。私の友達が貴方に酷いことを言ったのよ?放っておくなんてできない」
「シルは真面目だな。でもどうしてそんなに友達を守ろうとするんだ?」
私は意味がわからず首を傾げた。
「シルが友達思いなのは知ってるし、友達を誤解されたくない気持ちもわかる。けれどいくらシルが謝っても俺とマックスに出来た溝を埋めることはできないんだよ」
「別に私はそんなつもりじゃ……」
私はマックスの為に動こうとしてくれているアルに敵意をむき出したマックスが嫌だった。
私はアルに申し訳ないと思った。だから謝っただけなのに……。
「マックスの方が大事ならそっちに行くのも手だ。今ならまだ間に合う」
アルが足を止め少し寂しそうに私に声をかけた。
間に合う?
何に?
もしかして私が謝ったのがマックスを庇護しようとしていると思っているとアルは誤解しているの?
そうじゃない。
そうじゃないのよ。
私の頭の中はグルグルと混乱した。
「好きなんだろ?マックスが……」
そう言われて私は衝撃が走る。
アルの思考が完全に斜め上に来たからだ。
確かにマックスは好きだけどそれは友達とのしての好きであり、付き合いたいとか添い遂げたいとかじゃない。
断じてない。
「私が好きなのはアルよ」
アルの顔を見てはっきりと言った。
アルの黒い瞳が大きくなる。
「少なくとも、今こうしていたいのは貴方だけだわ」
そう言って私はアルの腕を強く持ち、引っ張った。
足が再び前へと進む。
アルは何も答えない。
私は苦しくてつらくて立ち止まり下を向いた。
振り返るのが怖い。
「アルは、私のこと好きじゃなかったの?それともそれは簡単に捨てられるものなの?」
やっとの想いで出てきた言葉はそれだった。
これはアルフィード様に婚約を反古にするように促された時よりも苦しい。
「違う!俺はシルが好きだ!君が思うよりも、ずっとずっと前から君だけを想ってきた」
そう言って私を引っ張り抱き締めた。
「だったら他のところへ行けばいいなんて言わないでよ……」
私はアルの胸に顔を埋める。
「ごめん。俺が悪かった。マックスとシルとの関係にちょっと妬いてしまった。だから泣かないでくれ……」
これがアルの本心。
なんて不器用な人なんだろう。
想いは強いのに、妙に気を回すから絡まるんだ。
「貴方は手を離す事に慣れすぎだわ」
私は手をアルの頬へと伸ばした。
アルの綺麗な黒い瞳が揺れながら私を見る。
「そりゃあ、私の友達は大切っていう気持ちが強いのは確かよ。マックスを助けたいって心から思っている」
そういう感情がマックスを特別視してるとアルは思ったのかもしれない。
そういうものじゃないから。
滞在城で色々聞かれたときもそう言ったのに……。
「これからも今回のことみたいな事があるかもしれない。でもこれが私なの。私はそういう人間なの」
友人は大事にする。
それは身分や性別、年などは一切関係ない。
私はシルとして友を作り、シルヴィアとして友の為に動く。
そこに恋人なんて必要なかったのだ。
でも今は違う。
アルフィード様に出会って私は変わってしまった。
心が動かされてしまった。
「言ったはずよ。私は貴方に守られたいんじゃない。私は貴方の力になりたいの」
怖い。
今までのシルとシルヴィアが壊れてしまいそうだから。
でも、この人に拒絶される事ほど怖いものはないのも事実だ。
この瞳が違う人を見るのは嫌。
私を見て。
私だけを見て。
そう思いながらも私はアルの頬から手を離そうとした。
「離さないで」
アルに手を押さえられる。
「俺は君に嫌われたくない。ずっと傍にいてほしい。でもそれが怖いんだ。言ったろ?俺は独占欲が強いんだ。今ここで振りほどかなければ絶対に二度と離せなくなる。君を溺れさせるくらいに愛したい。それを受け止める覚悟が君にある?」
そう言って私の手の平に口づけをした。
私の体温が一気に上がり心臓がうるさい。
さっきまでのモヤモヤは消え去り、ときめきしかない。
随分と自分は図々しい人間だと思ってしまう。
けれど、嫌じゃない。
その言葉が嬉しいと感じてしまう。
「私は貴方から離れない。だから貴方も私から離れない――」
言い終わるか終わらないかで私は再びアルに抱き締められる。
自然と互いを見つめ、顔が近づいていく。
2センチ、1センチ、もう触れ――。
「はい、そこまで!ストーップ!」
突然クラウド様が現れた。
私は驚いて悲鳴を上げアルを思いっきり押し、距離を取った。
我に返った私は顔から火が出るほど熱くなる。
ど、ど、ど、どうしよう。人前で何て破廉恥な!
「今、わざと出てきましたね?」
アルが胸を押さえ、よろめきながらクラウド様を見る。
うわ、超不機嫌だ。
めちゃくちゃ怒ってる……。
「お前達が俺を置いていくのが悪い」
「貴方が鍵をかけるのに時間がかかりすぎていたからです」
「仕方がないだろ!あの入り口は特殊なんだから!」
そう言ってアルとクラウド様は口論を始める。
私はオロオロと見ているしかない。
「やっと追い付いたと思ったらお前達はイチャついてるし……。あー、ムカつく」
クラウド様が「キー!」と叫んでいるところに私は「ずっと、見てたんですか?」とクラウド様に聞いた。
「ああ、お前達がキ――」
クラウド様がいいかけたけど、何かに気がついて慌て始める。
「見てない。俺は何も見てないぞー」
ものすごい棒読みだった。
嘘でもいい。
見てないとしてくれるならそれで構わない。
私が胸を撫で下ろしていると、アルと目が合った。
多分クラウド様を脅したんだ。
そのお陰でこれ以上の羞恥にさらされなくて助かったわけだけど……。
ふと、アルが指を立て「しぃーっ」とする。
そして口パクでこう言った。
『続きはまた後で』
その瞬間、私の顔が再びゆでダコ状態になったのは言うまでもない。
読んでいただいてありがとうございます。
とにかく今回は甘くしようと奮闘した結果、こうなりました。
何故あそこからこんな歪んだ解釈になる?と思ったりもするのですが、まあそれは追々書ければ……。
もし、良ければ次もよろしくお願いします。
のんびりと、ながーい目とひろーいお心で見ていただければと思います。