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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
78/122

信じるか信じないか

閲覧ありがとうございます。

長らくお待たせしました。

更新です。

かなり長くなってしまい途中分割をしようか悩んだのですが、そのままにすることにしました。




 マックスは話し終わった後、フーッと息を吐いた。

 私はマックスの話が想像していたよりもミステリー染みてて不気味に感じていた。

 乙女ゲームってこんなストーリーだったっけ?

 確かに前世の私は乙女ゲームとの相性が悪くてバットエンドばかり出していたけれど、こんな展開は記憶にない。

 というか元来乙女ゲームとは多種多様のイケメンなキャラクターの中から自分の好きな相手役を選び、愛いし愛されのものなんじゃないの?

 確かに悪役令嬢にいじめられたり、話によっては身分の違いとかで悩んだり挫けそうになることもあるんだろうけど……。

 これはそれとは違う気がする。

 だとすればこれはサイド・ストーリーだろうか?

 もしくはシークレット・ストーリー?

 うーん、どっちもしっくりこない……。


「ねえ、マックス」

「ん?」

「『ロジュア』って知ってる?」


 ジェニーにもジェフリーにも聞けなかったロジュアのことを今聞かなければいけない。そんな気がした。


「ロジュア?誰のことだ?」


 マックスの答えに私は震える。

 嘘を言ってる顔じゃない。そもそもマックスは嘘をつくような人じゃない。


「シル?」


 アルが少し険しい顔で私に話しかけるけど、私は返事をしなかった。

 別にロジュアを疑うわけじゃないけれど疑わずにはいられない。

 私の記憶ではミートさんが王宮に連れていくと決めた人物はロジュアだった。

 それなのにジェニーもジェフリーもそれを言わない。

 そしてマールさん一人を除いて町の人からもロジュアがいたという事が忘れられていた。

 これを正常と受け止められるほど私は能天気じゃない。

 

「それで?ロジュアって誰だよ」


 マックスが苛立ちながら聞いてきた。


「本当に覚えていないの?」

「ああ。わからない」


 困った様にマックスは答えた。

 妙な空気になり皆黙ってしまう。

 その空気を切ったのはアルだった。 


「シルはね、君がミート・ブレイクを刺したりしてないと主張しているんだよ。勿論王宮にも行っていないと思っている」

「シル……」


 マックスは感激したように私を見た。

 そんなマックスに対してアルは暗示をかけるようにマックスに語る。

 

「マックス、君は覚えているはずだ。王宮に行ったのは君ではなく別の男だったと……」


 アルの言葉にマックスは絶望したように膝をつく。

 マックスの回りを黒い何か動いた気がした。

 

「そうだ。店長は俺でもなくジェフリーでもなく、アイツ(・・・)を選んだんだ……。でもロジュアって誰だ?いや、知ってる。知ってるはずだ。ロジュア……ロジュア……」


 マックスはブツブツと呪文の様にロジュアの名前を呟いた。

 気がつくとアルがマックスの足元に魔法陣を繰り出していた。

 解除魔法(ディスペル)に近いけど少し違う。

 

「アル、これって……」

「しっ、今彼は思いだそうとしている。『ロジュア』の事を……」


 私はそう言われて再びマックスを見た。

 マックスは魔法陣には気がつかず、ひたすら『ロジュア』を連呼している。

 事情を知らなければただの危ない人にしか見えない。

 次の瞬間、パリンと魔法陣が割れた。

 それと同時にさっき見えた黒いものも消えた。

  

「マックス!大丈夫?」


 私が声をかけるとマックスは「ああ……シルか……」とぼんやりした口調で返事をした。

   

「これではっきりしたな。ロジュアは『闇の魔法使い』だ」


 その言葉に私よりもマックスが反応した。

  

「アイツが……、あの根暗が魔法使いだと!?」

「え?マックス?」


 私が驚いていると目線が合ったアルが頷いた。


「マックスは凄い耐性の能力を持ってる。本来なら闇の魔法にも対応できるくらいにだ。その証拠にちょっときっかけを与えて補助するだけで自力で思い出すことができただろ?」

「クラウド様はそれに気がついているの?」

「多分な。だからマックスをここに移動させたんだ」


 そう言った後「だが既に()にもそれは気がつかれているようだけどね」と小さく呟いた。

 

「だからなんだって言うんだ!」

「マックス!?」


 突然声を荒らげるマックスに私は驚き彼を見た。

 マックスは怒りのこもった目でアルを睨んでいる。

 

「お前が俺に何をしたのか知らないが、ロジュアは関係ない。あんな根暗に何ができる!そもそもアイツが俺達の記憶を消して何の得があるっていうんだ!」

「それをこれから探るんだ。今わかっていることは記憶操作は闇の魔法使いの十八番だということ。実際俺達が聞いて回った町の人間でロジュアを覚えていた人間はいなかった。そしてさっき使ったあの魔法、あれは古代魔法の一種で闇の魔法を打ち消すものだ」

「やっぱりあれは解除魔法(ディスペル)じゃなかったのね」

「いや解除魔法(ディスペル)ではあるんだが……」

「ごちゃごちゃうるさい!」


 マックスが鉄格子を掴んで叫んだ。

 

「闇だが古代だか大根だか知らないが、ロジュアを疑いやがって……。お前はロジュアの何を知ってるんだ!」

「でもマックス、アルは……」

「シルは黙ってろ!」


 マックスが私に強く言った。

 ここまで私に言ったことはない。

 怒ってるというのがよくわかる。

   

「マックス、君が仲間思いなのはシルから聞いている。でもそれが全て正解とは言えない」

「お前が正しいも言えないけどな」


 マックスがそう言うと、アルは「しかたがない」とため息をついた。  

 そしてズボンのポケットから一つのボタンを取り出す。

 無駄にキラキラしてて、はっきり言ってケバい。

 悪趣味。

 

「どうしたのそれ……」


 恐々とアルに聞くと、にっこりしながら「着替えの時にちょっと拝借てきた」と返って来た。

 マックスもこれにはかなりドン引きで顔がひきつっている。


「こんなのだからね、見つかったらヤバいだろうね。窃盗罪で捕まるかも」


 アルはサラッと怖いこと言い、にっこりしたまま「はい、どうぞ」とマックスの手のひらに乗せた。

 

「へ?」


 突然の事で意味が分からないのだろう、マックスは変な声を発した。

 その反応に満足したのかアルはそっと人差し指を自分の口の前に立てる。


「これで君も共犯だ。内緒にしないと窃盗罪で捕まるよ」

「なっ!」


 マックスは今度は大声を出しそうになった。

 私は慌てて鉄格子の間に手を入れてマックスの口を押さえた。

 モゴモゴ言うマックスにアルは更に意地悪そうな顔を見せる。

  

「よかったね。俺の(・・)シルのお陰で助かったじゃないか」


 『俺の』を強調しながら話すアルにマックスは私の手を振りほどき、プルプルと震え始める。


「ついでに言うと捨てるという行為も止めた方がいい。一歩も外に出れない君が何を言っても誰も耳を傾けたりはしないよ」


 まるで逃げ場を失わせるかのように言うアルにマックスは遂に怒りが頂点に達する。


「ふざけんなよ!」

「ふざけていない。俺は正論を述べただけだ」


 何だろうアルが微妙にマックスに対して冷たい。

 どうして?

 私が不思議に思っているとアルがそっと私の手を握って自分に引き寄せる。

 一瞬驚いたけど、アルを見ると少し顔が強ばっていた。

 この顔は見たことがある。

 これは私がマックスに告白を受けたと知ったときの顔だ。

 もしかしてアルがマックスに妙に冷たいのはヤキモチの一種?

 まさか……、でもそれならばさっきからの妙な行動の理由に説明がつくわけで……。

 うわ、恥ずかしい……。

    

「シル、悪いがこれをお前からコイツに突き返してくれ」


 突然目の前にマックスの拳が伸びてきて私は現実に戻された。

 多分ボタンをアルに返せということなんだろう。

 でも私は受け取らなかった。


「シル?」 

「ごめんマックス。私は受け取れない」

「何でだよ!」

「彼が……、アルが貴方を陥れることはないと思うから……」 


 その言葉を聞いたマックスは驚きの顔になる。

 アルも少し驚いている。

 いや、そこは喜んでよ。


「ごめんね、マックス。でもアルは貴方を助けようとしてくれてるのよ。そりゃあ今は貴方にちょっと酷いこと言ってるけど、アルは本当はいい人だから……。ね?」


 マックスは納得できない顔をした。

 チラリと私とアルが手を繋いでいるのを見てからアルを睨み付ける。 

 

「お前、シルを騙しているだろ?」

「騙す?俺がシルを?」


 マックスの言葉にアルは目を丸くした。

 まさかそんな事を言われるなど思っていなかったのだろう。


「俺を助けるフリをしてシルに近づいたんだろ。って言ってるんだ!」

「マックス落ち着いて。アルはそんなことしてないわ」

「信用できるか!コイツは善良ぶった顔をしているが裏では悪魔のような事をしているんだ」

「何てこというの!」

「事実だ!俺に耐性だか何だか知らないが、そのお陰で見えるんだよ!コイツの回りに渦巻く黒い影がな!」


 その言葉を聞いて私は何かがプチンと切れた音がした。

 そして地震かと思うような揺れが起こる。

 マックスは驚いて腰を抜かした。

 

「シル、いい。俺は慣れてる。気にするな」

 

 アルは私にそう言いながら抱き寄せられた。


「6年前のあの日の時のように君は俺の為に怒ってくれる。俺はそれだけで満足だ。世界中全員から嫌われても君が俺を信じてくれたらそれでいい」


 私は怒りが抜けていくのがわかった。

 そうだ。ここで私が怒って問題を増やせばアルに負担をかけることになり、何の解決なもならない。

 6年前のやらかした時学んだはずだ。

 アルが今止めてくれなかったら私は新たな黒歴史を背負うところだった。


「アル、ごめんなさい」

「ううん、俺こそごめん。マックス()の反応があまりにも面白いから少しからかいすぎた」


 マックスが「からかってただけかよ!余計にふざけんな!」と衝撃を受ける。

 腰を抜かしてるから格好悪いけど……。

 

「おい、今の揺れはなんだ!」 


 クラウド様が慌てて扉を開けるのがわかった。

 このスピードからしてずっと扉の前で聞き耳を立てていたのかもしれない。

 当然と言えば当然か。

 

「お前ら……、何をしているんだ?」


 クラウド様は呆れた顔をして私達を見ていた。

 マックスは腰を抜かして私はアルに抱きしめ……、いや押さえられているようなこの状態。

 ある意味修羅場な光景かもしれない。

 

「あー、その、何だ。牢を破壊して脱獄しようとしたわけじゃないならいい」


 クラウド様はコホンと咳払いをし、何事もなかったかのように話し始める。

 ありがたいけど、逆に気まずい。せめてもう少し突っ込んで欲しかった。

  

「知り合いが来れば口を割るかと思ったが、効果はなかったようだな」

「だから俺は嘘は言っていない!俺は王宮(ここ)には来ていない!あの日、店長は俺でもジェフリーでもなくロジュアと来てたはずなんだ!」


 その言葉にクラウド様は一瞬目を見開いた。けれどすぐに「それはありえない」と答える。


「お前を見たと王宮のメイドが証明している。ここに来たのは被害者のミート・ブレイクとそのその弟子のマックス・ディーンだとな。他にも複数人目撃している者もいる」

「何だって?だったらロジュア、ロジュアを調べてくれ!」

「残念だがそのロジュアとかいう人物は存在しない」

「嘘だ!ロジュアは店の従業員の一人だぞ!」

「だが、事実だ。お前の同僚達も従業員は自分達だけだと証言している」

「そんな……」


 マックスは力が抜ける様に地面に手をついた。

 私はしゃがんでマックスに声をかける


「マックス、今はまだ待ってて、私とアルできっと助けてあげるから。ね、アル?」 

「ああ」

 

 そう返事をアルに対してマックスは唾を吐いた。


「マックス!」

「悪いが俺はその男の言葉だけは絶対に信じない」


 アルは「そうか……、なら好きにしろ」と唾を拭い、冷たい目線でマックスを見た。

 そして立ち上がりクラウド様を見る。


「クラウド様、そろそろ15分になりますか?」

「ああ、だがもう話さなくていいのか?中々ここには連れてこれないぞ?」


 若干驚くクラウド様にアルは淡々としていた。

  

「構いません。もう彼とは二度と(・・・)話すことなどありませんので」

 

 そう返事をしてクラウド様の元へと歩いていく。

 私は苦しく思いながらもマックスに「それじゃあね」と声をかけアルに続こうとした。


「待ってくれ、シル」

 

 マックスにドレスの裾を掴まれる。


「シル頼む。アイツだけは信じるな」


 私はその言葉に苛立ちを覚えマックスの手を振りほどいた。


「マックス、ごめん。それは聞けないわ」

「何でだよ!アイツは絶対にヤバい奴だ。さっき言っただろ。アイツの回りの黒い影、あれは相当ヤバい。このままじゃお前は不幸になる」

「だから?離れろって?」


 私は冷たい目をマックスに向けた。

 マックスは嫌いじゃない。

 いい人だ。私を心配してくれるのはわかる。

 わかるけど、それが私にとって最善だとは思えない。


「私は彼の力になりたいのよ。彼が私の力になってくれているように……」

「それでお前が不幸になってもか?」

「不幸になるのかどうなのかは私が決めること。マックスが決めることじゃないわ」


 マックスは黙ってしまう。何か言葉を無理矢理探すようなその態度に私はため息をついた。


「確かにアルの態度はよくなかった。だからと言ってそれだけで判断すべきじゃないわ」

「けど……」

「少なくとも私がアルと出会った時、私の目には黒い影なんてなかったわ」


 マックスは黙ってしまう。

 少し言い過ぎたかしらと戸惑いながらもマックスにはガツンと言っておいた方がいいと私は判断した。 


「マックスがアルを信じないなら私がその分アルを信じる。だからマックスは安心して待ってて。必ず無実を証明するから」

  

 私はそうマックスに言い残しアルの元へと向かう。

 その際、後ろでジャラリと鎖の音が聞こえた気がした。              

長いのに読んで頂きありがとうございました。

次も良ければお付き合いください。

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