マックスの話 その2
閲覧ありがとうございます。
何とか本日中の更新ができそうです。
今回も前回に続きマックス視点となっております。
俺の目の前に誰かの返り血を浴びた俺が立っている。
こいつは誰だ?
何者だ?
「マックス、お前双子だったのか?」
ジェフリーが真顔で聞いてきて、俺は我に返る。
「んなわけあるか!」
俺は思わず突っ込んで、目の前にいる俺そっくりの男を睨んだ。
すると俺……じゃない、俺そっくりな奴が再びニヤリと笑った。
これが自分の顔そっくりだから恐れることはないのに、その笑みは不気味でしかなかった。
「いいね、いいね。ちゃんと魔法が効いているじゃないか」
「魔法、だと?お前、一体……」
俺が言いかけるとソイツはそれを遮った。
「生憎質問に答える気はないよ。お前は今から捕まるんだから」
「は?」
「この血、誰のものだと思う?」
言われている意味がわからず俺達は首を傾げた。
「ミート・ブレイク。この店の店長だよ」
「はあ!?」
「なっ!?」
「嘘……!」
俺達の驚きの反応を見て、血を浴びた俺が笑う。
「お前達は関わり過ぎたんだよ。俺のシルにさあ」
「シルだと?お前、シルの知り合いなのか!?」
ジェフリーがそう聞くとソイツはニヤリとまた笑う。
「知り合い?そんな薄っぺらい関係なんかじゃないよ。シルとは前世から結ばれる運命っていう仲さ。まあ、本人は覚えちゃいないけどね」
「ふざけないでよ!あんたみたいな奴とシルが結ばれるわけないじゃない!」
ジェニーの言うとおりだ。
コイツはヤバい奴だ。
俺とジェフリーはそう感じ持っていた道具をソイツに向けた。
「これだから脇役はウザイんだよね。まあ、いいさ。まずは邪魔な店長も消したし、お前ももうじき捕まる。後はシルをアイツから引き離せばいい」
「わけのわからねーこというな!」
俺が叫ぶとソイツはまた笑い出す。
「鈍い奴だな。この姿で店長を刺したんだぜ?しかも場所は王宮。お前はもうすぐ捕まるんだよ」
「その前に俺達がお前を捕まえれば問題解決だろ!」
ジェフリーがソイツに向かった。
だが思いっきり弾き飛ばされた。
「ジェフリー!」
ジェニーが叫んでジェフリーに駆け寄る。
「魔法陣も使えない雑魚に俺が捕まるわけないじゃん?」
そう言って今度は俺を床に押さえつけた。
とても普通の人間とは思えないその力に俺は何もできなかった。
その時、もう一人現れた人物がいた。
「こんな夜更けに何騒いでるんだい!」
マールのばばあだった。
多分この騒ぎで出てきたんだろう。
「早く、逃げろ!」
俺は精一杯の声を出し、マールばばあに声をかけた。
「お前、何やってんだい!ミートと一緒に王宮に行ったんじゃなかったのかい!」
マールばばあは誰に言っているんだ?
俺が目線を上げると俺を抑えているソイツの顔が驚いた顔をしている。
「何で、知っているんだ?」
「何でって、忘れたのかい!今日町で王宮へ向かうあんた達に声をかけたじゃないか!」
どういうことだろう?
店長は一人で行ったんじゃないのか。
俺達はそれを見送ったんだぞ?
「マックス、あんたも何驚いた顔をしてるんだい!知らない仲じゃないだろ!」
は?
何言ってんだ?
俺達はマールばばあが何を言っているのかわからない。
俺達がコイツを知ってるだって?
「それよりもお前その血……。誰か刺したのかい?」
「ああ、そうだよ。俺が刺した。店長をね」
俺そっくりに言うコイツに寒気を覚えた。
「何マックスみたいな言い方をしてるんだい!冗談も程々にしな!さっさとマックスを離すんだよ、ロ……」
「逃げろマールばばあ!」
俺はそう言って抑えられていた手を払いのけ、俺そっくりな奴に飛びかかった。
こいつ、今マールばばあが名前を呼ぼうとした瞬間、ものすごい殺意を向けたのだ。
素人だってわかるほどに……。
「生意気奴だな。大人しくしとけよ」
「悪いな。俺はそう言うのは性に合わないんだよ。正体現せ!」
俺はソイツの顔を一発殴った。
正直自分の顔を殴ってるみたいで複雑だったが、俺はこんな人間じゃないとも思いたかった。
マールばばあはその間に逃げたらしい。
俺はホッとした。
「どいつもこいつも人が優しくしてたら付け上がりやがって……」
殴られた俺の偽物が怒りで震えているのが分かった。
俺に殴られたのが余程悔しかったのだろう。
「マックス危ない!」
ジェニーの声とほぼ同時にナイフが俺の頬をかすめる。
「雑魚のくせに……、サブキャラのくせに……」
シューっという音と共に髪が段々と色が変わっていく。
多分これが奴の本当の髪の色なのだろう。
髪と同時に顔も変わっているようだったが、手で顔を隠しているからはっきりとはわからない。
けれどその顔に見覚えがある気がした。
「マックス!後ろ」
今度はジェフリーが声を出した。
後ろから数本の矢が俺に降ってきた。
「っ!」
突然の事で俺は避けきれず、矢が刺さり倒れた。
目の前にいる男はニヤリと笑った。
「やっと兵士が来たか。ちょうどいい。お前はここで終わりだ」
「な…、何だと」
「さて、俺はさっき逃げたマールを仕留めに行くか……。どうせそこら辺にいるだろう」
そう言ってソイツは顔を隠したまま奥へと進もうとした。
俺は倒れたまま奴の足を掴んだ。
「待てよ。マールばばあはシルとは関係ねーだろ」
「ああ、関係ないね。ついでに言うならそこの二人もね。だからそこの二人は生かしてるじゃないか。でもさ、マールは駄目だ。俺の事覚えてたからね」
そう言うと俺に刺さった矢を抜いて同じ箇所に突き刺した。
俺はあまりの痛さに手を離し、悶える。
「シルは俺の元にこなきゃいけない。店長もお前もマールも皆その為の駒だ」
そう言って奴は奥へ進み、ジェニーとジェフリーに何かを囁いて店の方へと向かっていった。
俺は最後の力を振り絞って追いかけた。だが店には奴の姿も形もなかった。
外へ出たのか?と思って外に出ると問答無用で兵士達に取り押さえられた。
罪状は店長を王宮で刺したというものだった。
違うと何度も否定したが、聞き入れて貰えなかった。
俺が店長を刺した所を王宮のメイドが見ていたらしい。
ジェニーとジェフリーも違うと言って俺を助けようとしたが、途中何かに気がついて急に黙ってしまった。
二人の視線の先を見たが誰もいない。
いないけど、二人は何かに怯えているようだった。
結局俺は店長を刺した犯人として連れていかれた。
その後は全て淡々としていた。
どんなに否定しても認めて貰えない。
一方的に話が進んでいくだけだった。
そして最後、俺は王宮で犯した罪人として極刑が決まりそうになった時だった。
ジャイル国の王子が異議を唱えるという書状が届いたのだ。
まさか他国の人間しかも王子にそんな事を言われるとは思いもしなかった。
けれどそのお陰で俺の刑は確定することなく秘密裏にクラウド殿下に地下牢へと連れて来られることとなった。
もしかしたらクラウド殿下も助けようとしてくれていたのかもしれないと俺は希望を抱いた。
だからクラウド殿下から「真実を話してくれ」と言われて俺は素直に謎の男の話をした。
けれどクラウド殿下の口からは「こんな虚言者を助けようとするなんて、アルフィードはどうかしている」と返ってきたのだ。
俺は絶望した。
クラウド殿下は俺が犯人以外あり得ないと思っていたのだ。
確かに信じられない話だが事実だったんだ。
ジェニーやジェフリーにも聞いて欲しいとお願いしたが、それは叶わなかった。
あの時三人で店に居たのに、二人は存在しなかった事になっていたのだ。
二人は店が終わってから自分達の家に帰ったと。そう言うことになっていた。
意味がわからなかった。
何故そうなった?
そんなに俺に犯人になって欲しいのか?
俺はそれを聞いてから口を閉ざすようになった。
定期的に運ばれてくる食事で時間を判断した。
店長がどうなったかも、マールばばあのこともわからない。
ただ一つの希望はジャイル国の王子だけ。
そんな時、食事を持ってきた一人の兵士に言われた。
「お前の罪ももうすぐ確定だ。ジャイル国の王子の動きが鈍くなってきた」
一方的に話す兵士に俺は違和感を覚えながら黙って聞いていた。
これまでもたまにいたのだ。一方的に話すだけ話して勝手に出ていく兵士が……。
「ジャイル国の王子が婚約解消したらしい」
だから何だ。
俺は冷めきった顔でそれを聞いていた。
「もうすぐクラウドはその令嬢と婚約し、クラリスがその王子と婚約をする」
突然口調が変わった兵士に俺は驚いて顔をあげる。
「お前はもう用済みだ。後はお前の大事な仲間達が全て罪を被ってくれる」
「仲間達って……、まさかジェニーとジェフリーか?」
「やっと反応したか。てっきり精神が病んだかと思ったが、思ったよりげんきじゃないか」
「そんなことどうでもいい。あの二人に何をした!」
「別に何も。ただ助言してやっただけさ。お前を助ける為のとっておきの秘策をな……」
兵士がニヤリと笑った。
俺はソイツの笑い方に覚えがあった。
「お前、あの時の偽物か!!ジェニーとジェフリーに何をさせるつもりだ!」
俺は鉄格子を掴んだ。
「野生の勘は働くらしいな。安心しろ。仲間の処刑台の時には見送りをさせてやるよ。絶望と共にな」
そう言って兵士は俺に背を向ける。
「待て!俺が捕まえてやる!逃げるな!」
「吠えてろ。負け犬が」
そう笑いながら言い残し重い扉は閉められた。
その日から食事は1日一食となり、しかも運ばれるのではなく扉の向こうから魔法によって牢の前に置かれるようになった。
俺はここで声を上げ、叫んだが誰も聞いてくれず、入って来ることもなかった。
今日シル達が来るまでは……――。
読んで頂きありがとうございます。
今回でマックスの語りは一区切りとなります。
次はまた少しのんびり執筆できればと思います。
よければ次もよろしくお願いします。
毎回読んでくれる方、ありがとうございます。
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