マックスの話 その1
今回はマックス視点です。
店長が王宮へ行く日、朝早くに俺とジェフリーとジェニーの三人は王宮へ向かう店長を見送ることにした。
「じゃあ、あんた達店は頼んだよ」
店長は荷物を抱え、俺達に声をかける。
王宮に道具は揃ってるだろうに、何でこんなに荷物があるのかは弟子である俺達にも理解はできなかった。
いやそれ以上にその荷物を軽々と抱えている店長が理解できない。
言えないけど……。
「マックス、なーに浮かない顔をしてんだい!」
店長は俺の背中をバシバシ叩いた。
「店長痛いって!」
「いいからいいから。失恋のその気持ち、熱い想いに変えてパンに込めな!」
そう言って笑う店長を見てジェフリーとジェニーも笑う。
「今日の忙しさはジェニー、お前のせいだろうがっ!」
「失恋はお前の責任だけどな」
「ジェフリーお前なあ!」
「はいはい、そこまで!今日は本当に忙しくなるし、シルもいないし、三人で頑張ろっ!」
ジェニーがパンっと手を叩いた。
シルがいない。
それは俺達にとってとても寂しいものだった。
一年半とは言え、彼女と過ごした時間は俺達にとってとても有意義なものだったのだ。
「しんみりしてても仕方がないさ。また遊びに来るって言ってたし、あたし達はあたし達なりに頑張るしかないよ」
「店長の言うとおりだな」
「そうだね!暗くなってたらシルに笑われちゃうわ」
そう言って三人は俺を見る。
「わかってるよ!そんな哀れな者を見るような目で見るな!!」
俺がそう言うと皆はクスクス笑い始める。
どうやらからかわれたらしい。
悔しいと思いつつもここで言い合いしてしまったらシルとの約束を早速破ることになる。
俺は怒りの感情を抑え、店長に握手を求めた。
店長はまだ笑いながら手を取ってくれる。
そして店長は白い歯を輝かせながら王宮へと足を向けた。
そしてこの時、数時間後にまさかあんなことになるなんて思いもしていなかった。
そう、俺達は凄く忙しかったのだ。
隣の店のマールのばばあが冷やかしに一回来たけれど相手にする余裕などなかった。
何とか予約をさばき、常連の客の相手をし、目まぐるしい日中を乗り越えて気がつけばすっかり辺りは真っ暗になっていた。
「も、もうダメ。死ぬ……」
ジェニーがヘロヘロになりながら椅子に腰かけた。
「バカ野郎、まだ片付け終わってねーじゃねーか……」
俺もヘロヘロになりながらガチャガチャと道具を運ぶ。
ジェフリーは最早そこらへんに突っ伏していた。
こいつ、兄弟子の俺に片付けさせる気かよ。
若干苛立つものの、突っかかる気力は残っていなかった。
「私、今日、店に泊まる……」 「俺も……」
ジェニーとジェフリーがそう言って「マックスはどうする?」と聞いてきた。
「俺も泊まる。帰る気力がない」
「わかるー」
「じゃあ今日は皆泊まりだな」
ジェフリーがそう言った時だった。
ガチャンと裏口が開く音がした。
「店長帰って来たのかな?」
「こんな時間にか?」
俺達は不思議に思い裏口へと向かった。
「店長?帰って来たの?」
ジェニーが声をかけるけど声はしない。
けれど人の気配はした。
「まさか、泥棒?」
ジェフリーの言葉に俺達は身近にあった棒や鉄板を手にした。
店長なら真っ先に俺達の元へ来る。それが来ないとなれば確かに怪しい。
「ジェニーは後ろへいけ。最悪逃げて助けを呼ぶんだ」
「うん、わかった」
ジェニーはそう言ってジェフリーの後ろへ回る。
何だろう。こういう時彼女持ちが微妙にイラつく。
いやいや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
俺を先頭にジェフリー、ジェニーと続いた。
「そこにいるのは誰だ!」
俺が声を出すと、気配が動いた。
明かりをつけ、俺達はそいつを見た。
「嘘……」
「どういうことだよ」
ジェニーとジェフリーがそう言って絶句する。
いや、絶句しているのは俺だ。
判断できるのはそいつがどこか見慣れた服に見慣れた顔と髪をして、誰かの返り血を浴びていたことだ。
「誰だよお前……」
やっとの思いで出した俺の言葉はそれだった。
するとそいつはニヤリと笑う。
「俺か?俺はマックスだよ」
そう言って俺の目の前に来た。
読んで頂きありがとうございました。
もほや乙女ゲームじゃなくなりつつあるかもしれませんが、これはこの物語において避けられぬ道なので、ご了承ください。
この後まだ続きます。
次はこの話とセットなので本日中には更新する予定です。
よければまたお付き合いください。




