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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
75/122

会わせたい人

今回は早めの更新です。

良ければお付き合いください。

すみませんタイトル誤字でした。現在訂正してます。


 カツン、カツンと石の階段を降りる音が響く。

 大きな明かりはなくクラウド様とアルが持つ炎の光だけがユラユラと揺れている。

 湿っぽくて何か不気味だ。

 どの国の王宮にもこのような物騒な場所があると聞いたことはあるけれど、実際に足を踏み込むのは初めてだった。

 一体クラウド様はこんな場所で私達に誰と会わせたいと言うのだろう。

 ピチョンと水滴が落ちる音に驚いて私はアルの袖を掴む様に引っ付いた。


「怖い?」


 アルは優しく聞いてくる。

 怖い。

 でもここで怖いと言えば別の場所で待っていろと言われるかもしれない。

 今アルとは離れたくない。

 そう思って私は首を横に振った。


「普通は女性をこんな所に連れてくるものじゃないんだが、奴を外に出すわけにはいかんからな。嫌なら……」


 そう言いながらクラウド様は私達の方へと振り向いた。

 多分気を使ってくれたんだろう。

 でも私とアルを見てチッと舌打ちをし、再び前を見てしまう。

 クラウド様の行動の意味がわからず困っていると「俺達のこの状態が羨ましいんだよ」とアルが小声で私に呟いた。

 ピッタリとアルにくっついている私。

 今更だけどこれってすごく恥ずかしい状態なのでは?

 そう思ったけれど離れたくはない。

 羞恥心よりも離れる恐怖の方が勝ったのだ。

 私は更にアルに身体を寄せる。

 暗闇ではっきり見えないけれどアルが嬉しそうに微笑んだ気がした。

 下までつくとクラウド様は鍵を取り出し施錠を外す。そして重い扉を開いた。

 いかにも『古い』を連想させる。

 

「この奥に奴はいる」


 そう言ってクラウド様は中へ入っていく。

 私とアルもそれに続いた。

 クラウド様は私達が入った事を確認すると再び扉を閉め鍵をかける。

 クラウド様はここがどういう場所なのか、一言も話さずただ前へと進む。

 ユラユラと揺れる炎に左右にあった鉄格子の影が動いた。


「ここは牢だな」 


 アルが小さな声ででも私に聞こえる声で呟いてくれる。

 私は黙って頷いた。

 ここは牢だ。

 しかも長いこと使われていない。


「着いたぞ」

  

 クラウド様が立ち止まった。

 目の前にはさっきの扉よりも更に重い鉄の扉が構えている。

  

「いいか、ここに奴がいるのを知っているのは俺と一部の人間だけだ。ここに来たこと。誰にも口外するな」

「わかりました」


 私とアルは強く頷いた。

 クラウド様は鍵を開ける。

 ガチャリと重い音がした。

 扉を開けると更に奥にいくつか鉄格子が見えた。

 その中の一つだけ人の気配がする。


「誰だ?飯の時間にしては早すぎるだろ?それとももうお迎えか?」


 私はその声を聞いてそこにいるのが誰なのかはっきりとわかった。


「マックス!!」


 私は駆け出して鉄格子に手を掛ける。

 中にいた人物も声で私だとすぐにわかったのだろう。

 ガチャガチャと鎖の音がして鉄格子に近づいてきた。


「シル!?本当にシルなのか!?」

「そうだよ、マックス……」


 マックスはあの日別れてから随分と印象が変わってしまっていた。

 髭が伸びて、髪もボサボサになって少しだけ頬が痩けている。ずっとここに入れられているのだろう。


「どうやって、ここに?」


 鉄格子に掴まる私の手にそっと手を乗せてマックスが聞いてきた。

 ジャラリと手首にかけられた鎖が鳴る。

 私は後ろを振り向いた。


「クラウド様が、ここに……」

「クラウド殿下が?」


 明らかにマックスの声の質が変わった。

 クラウド様は何も言わず私達を見ている。


「あんた!まさか俺だけでは飽きたらず、シルまで疑ってるんじゃないだろうな!」

「マックス?」


 声を荒らげるマックスを見て私は驚く。

 私まで疑う?どういうことだろう?


「心配せずとも彼女を疑ったりしていない。俺はただ、お前に関係がある人物だと思って連れてきただけだ」

「どう意味だ!俺は嘘なんてついちゃいない!シルを連れてきたからって主張を変えたりはしない!俺はやってない!俺が店長(あの人)を刺したりするもんか!」


 マックスは最早私に眼中はなく、クラウド様に敵意を丸出しにしていた。

 見かねたアルがクラウド様に「俺達だけで話をさせてもらえませんか?」と声をかける。

 クラウド様は少し迷った表情を見せ、飽きためた様にため息をついた。

 

「15分。その間だけ出ててやる」

 

 クラウド様はそう言って扉を開け出ていった。

 勿論鍵はしっかりかけられる。この間にマックスを逃がしたりさせないためだろう。

 

「君がマックス・ディーンだね?」


 アルが早口にマックスに問いかけた。


「誰だよ、あんた」


 マックスがアルを怪しんでるのが声でわかった。

 私が説明しようとするとアルが私の口に指をあて遮る。

  

「シルの夫だよ」

「はあ!?」


 牢屋にマックスの声が響いた。

 思ったよりもここは声が響くらしい。

 

「冗談だよ。シルとはまだ結婚してないから『未来の』がつく夫だ」


 表情を変えずに答えるアルに「いや、それあんまり変わってねーし……」と半笑いで突っ込みながら私の顔を見た。

 多分アルなりにマックスの緊張を解こうとしてるのだろう。

 逆効果な気がするけど……。


「シルは愛だの恋だのには鈍いから遠回しのプロポーズじゃなくて、ストレートに想いを伝えるべきだったな」

「俺だってそれなりにストレートだったよ!てか何でそんな事知ってるんだよ!」

「シルから聞いた」


 聞いたと言うより、問い詰められたと言うのが正しいと思うけど?

 私がそんな顔でアルを見ているとマックスが吠える。


「何でこんな奴に俺の(・・)シルを取られなきゃならねーんだよ!」

「シルは君の物じゃない。そもそもシルへの想いの年月は君よりも長いし強い。初めから比じゃないんだよ」

「何だよコイツ、意味わかんねー!シル、今からでも遅くない。こんな奴止めとけ!」


 マックスはそう言うけれど、私は恥ずかしさで顔を手で覆っていた。

 好きな人に想われるってこんなにドキドキするものなのだと、改めて感じていた。

 

「さて、君をからかうのはこのくらいにして、時間がないから簡潔に聞く。何で君はここにいる?一体何があったか教えてほしい」

「お前に話す義理はねーよ」


 フンとアルを突き放すマックスに私は胸が痛たんだ。

 同じだ。

 ジェフリーに突き放された時と……。

  

「悪いが、他を当たりな。俺は何も話すつもりはない。どうせクラウド殿下に言いくるめられたんだろ」

「違う……。マックス、違うよ……」


 けれどマックスは信じてくれない。

 私は苦しくて辛くて、胸を押さえた。


「ジェフリーと同じ事を言うんだね」


 アルの言葉にマックスの身体がピクリと反応した。


「話したくないなら話さなくても俺は構わない。要するにお前達にとってシルは所詮他国の人間で、部外者というわけだ」

「何だと?」

「だってそうだろ?『お前には関係ない』と一方的に突き放してるんだから」

「ジェフリーがそう言ったのか?」


 マックスがアルに聞くと「彼には君よりももっと酷かったかな。話す間も作ってはくれなかった」と答えた。

 それを聞いたマックスは「それは本当か?」と反応した。

 アルは頷きジェニーとジェフリーに会った時のことをマックスに話た。

 そして今二人は行方がわからないことも……。


「今の話、本当だろうな?」

「嘘をついて俺達……、いやシルに何か得があるか?」

「そうだな。シルは仲間を売るような人間じゃない。それは俺がよく知ってる……」


 マックスはそう言って黙り込んでしまう。

 私は声をかけようとしたけど、アルに止められる。

 それを見たマックスは私とアルを交互に見渡し、覚悟を決めたように頷いた。

 

「わかった。お前達の話を信じることにする。多分ジェフリーの態度はシル、お前を巻き込みたくなかったんだ」


 その言葉にアルは「確かにその可能性はあるな」と私の頭を撫でた。

 でも私は嬉しくはない。


「巻き込みたくないって何?何か危険なことをしてたわけ?」 

「違う。そんなことはしていない」

「なら話してよ!私を除け者にしないで……。短い期間だったけど私だってミートさんのパン屋の従業員だったんだから!」

「ああそうだ。そうなんだよな……。でもシル。お前が俺達にとって妹の様に大切な存在だったと言うことも事実だ」


 マックスは私の手をそっと握った。

 

「今から言うこと。信じる信じないはお前達に任せる」

「ありがとうマックス」

「お礼を言われる程じゃないさ」 

「時間がない。早く話してくれ」


 照れるマックスをアルが真剣な顔で遮った。

 勿論然り気無く私の手を握るマックスの手も離した。


「わかったよ……」


 そう言ってマックスは面白くなさそうに口を開いた。 

読んで頂きありがとうございます。

良ければ次もよろしくお願いします。

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