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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
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不安な気持ち

閲覧ありがとうございます。

シル視点となります。


 私はアルが治療を受けている間、アルの手を握り返すことしかできなかった。

 悔しい。

 私は何もしてあげられない。

 ううん、それよりも私はアルの足を引っ張っている。


「ごめんなさい」


 私がそう言うとアルは頭をポンポンと撫でる。


「今度から勝手に俺から離れるなよ?」

「はい……」


 私が返事をするとアルは満足そうに頷いた。

 でも何だか後ろめたい。

 私はさっき死ぬと思ってしまった。アルが身を呈して助けてくれていたのに絶望し、諦めていた。

 もし、私があのまま死んでいたらアルはどう思ったのだろう。

 アルを見ると目が合った。

 にっこり微笑むアルに私もに笑顔で返す。

 アルは私を助けてくれた。

 でも一歩間違えたらアルの命がなかった。


 怖い――。


 私はアルを失いたくない。

 私はアルの力になりたいと思った。なのに私はアルの力どころか危険にさらしている。

 離れるべきなのかもしれない。

 私は主人公(ヒロイン)じゃないから。


「だから、さっきから俺から離れるなって言ってるだろ?」 


 アルの言葉に驚いて私は顔を上げた。


「私、声に出してた?」

「いや」


 アルは首を横に振り「シルの顔を見てたら何となくわかるんだよ」とまた頭をポンポンと撫でた。

 どうしよう。凄く安心する。

 反射的に「ごめんなさい」と言いかけたけれどアルの顔を見て違うと判断する。

 きっとアルは謝罪など求めていない。

 私は小さく息を吸い込んでアルを見た。

 

「アル、ありがとう」 


 私がそう言うとアルは「ああ」と笑った。

 その顔が素敵で私は見入ってしまう。


「お前達、俺がいることを忘れてないか?」


 クラウド様が呆れ顔で私達に突っ込みを入れてきた。

 私とアルはクラウド様の存在をすっかり忘れていたので気まずそうに笑って誤魔化した。

 クラウド様は「どうせ俺は影が薄いよ」とブツブツ文句を言い、アルの腕をポンと軽く叩いた。


「とりあえず応急措置はした。だがやはり回復魔法(ヒール)は苦手なものでな。見た目は治っているが、早めに専門の者に見せた方がいいだろう」

「はい。ありがとうございます。これだけしていただければ十分です」


 アルがお辞儀をした。

 私も飛び出してしまった手前「本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げる。

 クラウド様は「次は気を付けるように」と答えたが一向に立ち去る気配はない。

 顔を上げるとクラウド様は私達をじっと見ていた。

 私とアルはその不可解な行動に違和感を覚え、互いに体を寄せる。


「ああ、すまない。怖がらせてしまったか」


 警戒したのが伝わったのだろう。クラウド様は慌てて謝ってきた。

 

「大したことじゃない。二人はどういう関係なのかと思って」

「永遠の愛を誓った恋人にございます」


 アルが間髪入れずに答え私の肩を抱く。

  

「そ、そうか……」

「心配なさらずともいつかきっとクラウド殿下にも運命のお人が現れますよ」 


 アルが笑顔でそう言うとクラウド様は苦笑いを浮かべた。

 そして次の瞬間何かを思い付いた顔になる。


「お前達、王宮に来い」


 私とアルは驚いた。

 これには周囲の人々も歓声状態になる。


「そんな顔をしなくても取って食おうなどしない。これも何かの縁だ。悪い話ではないと思うが?」


 クラウド様はアルの腕を見ながら言った。そんなアルは明らかに戸惑いを見せている。

 王宮に行けば誰かがアルをアルフィードだと気がつくリスクが増えるからだ。

 しかも王宮にはクラリス様がいる。

 断るべきだと私は思った。

 でもアルは何かを決めたようにクラウド様を見る。

 

「クラウド様がお許しになるなら喜んで」

「よし。そうと決まれば早速準備しよう」


 クラウド様は馬車へ向かう。


「アル、いいの?」

「ああ。ここはクラウドの言うとおりにした方がいい。人の目もあるからな」


 そう言う周りの熱気は凄かった。

 「羨ましい」とか「私も声をかけられたい」とかの声が上がっている。

 アルの言うとおりだ。

 普通(・・)ならここは喜ばなくてはならない。

 そう思ったとき、他とは違う言葉を出す人がいた。

 

「いいなあ、まるであの時みたいだわ!」


 あの時?

 私はその声を出した人に聞き返した。


「あの時って?」

「あら、貴女知らないの?かれこれ二年くらい前だったかしら?陛下がこの町にいらした時に陛下の馬が暴れだしてね、たまたま歩いていた女性が跳ねられそうになったのよ」


 それを聞いた私は何か引っかかる気がした。

 今の話どこかで聞いたことがあるような……。

 

「でも危機一髪クラウド様が華麗にその女性を助けたの!」


 段々ヒートアップしていくのがわかる。

 でも私は顔が強ばっていく。

 いつの間にかその話の周りには女性陣が集まっていた。

 

「それでねクラウド様はその女性を王宮へ招いたのよ!」

「すっごい美人だったんだっけ?」

「違うわよ!クラウド様が心配してよ!」

「どっちでも同じだわ!今やその女性は王宮で暮らし、クラウド様の婚約者になったっていうじゃない?」 

「はあー。羨ましい」


 女性達がハモって黄色い声を出した。

 私はここでピンときた。

 この話で出てくる女性とはクラリス様のことだと。

 意外にもクラリス様はこの町の出身だったのだ。知らなかった……。

 いや、それなら数あるパン屋の中でミートさんのパンが選ばれた理由がわかった。

 実際ミートさんのパンが他のパンに劣りはしない。でもスピティカル国もそれなりに広い。

 その中でピンポイントで選ばれたのはここでクラリス様がこの町に住んでいたからなんだ。

 あれ?と言うことはアルフィード様が私にクラリス様と面識があったのか聞いたのももしかして……。

 私がアルを見るとアルは無言で頷いた。

 やっぱり知っていたんだ。

 私は頭を抱えた。

 

「そう言えばその女性は昨日隣のジャイル国の王子様とも婚約したって聞いたわよ!」


 女性の言葉に私は勿論、アルも「え?」と驚いた。


「あら?知らない?」


 女性に聞かれて私とアルは首を横に振る。

 女性達も知ってる者と知らない者とで意見が分かれている。


「その話が本当なら今時珍しいわよね一妻多夫なんて」

「本当よね、一夫多妻はジャイル国の国王様がそれらしいけど」

「だからじゃない?」


 キャーキャー盛り上がる女性達を横目にアルの顔は険しかった。

 当然と言えば当然だ。

 そうでなくてもジャイル国の国王は色々と問題がある人なのだから。


「どうぞ、馬車の用意ができました」


 クラウド様の付き人と思われる人が私とアルを呼びにきた。

 私とアルは頷きついていく。

 後ろではまだ盛り上がっている。

 私は漠然的な不安を胸にアルと共に馬車に乗り込んだ。

読んで頂きありがとうございます。

次もまたよろしくお願いします。

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