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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
二章
33/122

私と私

まだ前回の続きです。


『いらっしゃい、思ったよりも遅かったかな?』


扉を開けるとそこには一人の女子高生(?)が窓に凭れるながら立っていた。

(?)となるのは口から上がはっきり見えないからだ。まるでホログラムのデータが破損しているかのようにジジジと揺らいでいる。

口から下の体つきと声で女子高生と判断したのだ。


『ずっと、待ってたんだよ』


彼女はにっこりと笑い(?)私を見る。

私が黙って女子高生を見ていると彼女は少し困ったように私にこっちへ来るように促した。

彼女には私の顔が見えているのだろうか?


『そんなに警戒しないで部屋へ来て。別に何もしないから』


私は黙って彼女へと近づく。

彼女からは嫌な感じはしない。ただそれだけが根拠で足を前へ出す。

中へ入ると空っぽになっているベッドが視界に入ってきた。


『もう、()はいないよ』


彼女の言葉に私は彼女に顔を向けた。

何故彼女は彼の事を知っているのだろう。

彼女からは笑みは消え、暗い声が響く。


『会えると思ってここに来たんだったら残念だったね』

『それは貴女も同じでなくて?』

『そう……、かもね』


彼女は静かに笑う。


『酷いね。一番の親友よりも彼を選ぶなんて』

『そうね』


彼女の言葉に私は苦笑いをしながら答えた。

そう、ここが病院なら親友もいるはずだ。それなのに私は親友の部屋でなく、彼の部屋に来た。

彼よりも親友の方が聞きたい事がいっぱいあるはずなのに……。


『夢でも幻でもいいからもう一度会いたかったんだよね』


彼女の声が震えるように私に問いかける。

まるで自分自身に言い聞かせるかのようだ。


『私ね、好きだったの』

『え?』

『彼の事が本当に、本当に大好きだったの』


見えない顔から涙が落ちる。

その姿はとても苦しそうに見えた。


『約束いっぱいしたの。いっぱい、いっぱいしたの。無理ってわかってたのに、彼を困らせるってわかってたのに……』


私は彼女から目をそらした。

胸が苦しくて彼女を見ることができない。

そうだ。この気持ちがあったから恋などしたくないと思ったのだ。


『でも好きって言えなかった。怖くて言えなかった』


後悔。

彼女からは後悔しか伝わらない。

好きになってしまったけど、言えない。言えないけど、伝えたい。


『ちゃんと伝えてたら彼は死ななかったかもしれない』

 

彼女の言葉に私はハッとして彼女を見た。

彼女をよく見ると見覚えがある制服だ。

そう、あれは私が通っていた高校のもの。

そして彼女の声、仕草、気持ち。

私は知っている。

彼女をよく知っている。


『でも親友にすごく怒られた。伝えなかったのはあんたが悪い。でも彼が死んだのはあんたのせいじゃないって……』


彼女の言葉には覚えがある。

親友の言葉だ。

 

『むしろ彼は貴女と出会ったからこそ時が動き出した。貴女と出会ってから失った時間を取り戻すかのように生きたのよ』


私の言葉を聴いて彼女は驚いたかのように動きが止まる。


『貴女が言うと様になるわね。やっぱり親友は乙女ゲームの台詞を持ってきたのね。親友は違うって否定してたけど』


彼女は笑いながら答える。

違う。

私が知ってるのはそういうことじゃない。

 

『貴女は事故で死んだのよ』


私の言葉を聴いて彼女はビクリと体を震わせた。

戸惑っているのか、恐怖しているのか、それとも彼女が何かに変化するのか、私は目をそらさずに彼女を見ていた。

彼女の顔の歪みが少し弱くなる。顔ははっきりみえないけれど、間違いない。彼女は前世の私だ。


『いつから気がついてたの?私が貴女だって』

『確信をしたのはついさっきね』

『そっか、私が見えてないわけじゃないんだね』


どう言うことだろう?私は首を傾げた。


『私、転生するなら何になるのかなって思ってたの』

『そうね、そんなことを考えていたわね』


前世の記憶を思い出したときにそんな事を考えていたのは記憶に新しい。


『死んだ後、乙女ゲームのキャラクターになるなんて親友が聞いたら羨ましがるわね』


確かに彼女の言うとおりだ。しかし私は違和感に気がついた。


『待って、私がゲームのキャラクターって何でわかったの?』

『何故でしょう?』

『はぐらかさないで!』


私は彼女に詰め寄った。

しかし彼女は怖じけることなく私をじっと見ている。


『駄目だよ。貴女は私だけど、私じゃないもの』

『そんなことわかってるわ!』

『ううん、わかってない。貴女は私。私は貴女。だけど同じじゃない』


彼女は私の手を取った。

それを察知したかのようにぐにゃりと景色が歪む。


『私は彼が好きだった。でも貴女は違う。貴女が好きなのは彼じゃない。貴女が運命を感じた人は別の人でしょう?』


少し早口に彼女は私に問いかけてきた。

私の頭はその問いかけに答えるかのようにアルフィード様の顔が浮かぶ。


『そう。貴女が惹かれたのはその人。でも本来はもっと自然に出会うはずだった。でも全てが狂い始めている。あの人のせいで……』

『あの人?』


彼女が指す『あの人』とはアルフィード様のことじゃない。

それだけはわかる。

けれど、何故彼女はそんなに焦っているのだろう。


『お願い。あの人には気をつけて』

『あの人?』


私が聞き返すと、私の後ろに黒い影が現れた。

すごい力で引っ張られそうになるのを彼女が私の手をしっかりと握り留めようとする。

彼女は引っ張られていないようだ。


『覚えておいて私の記憶は貴女をあの人から守るためにあるの』


彼女との手が離れそうになる。引っ張られる音がゴーゴーと鳴り響き彼女の声が聞こえない。


『大丈夫。貴女は私だから……』


口の動きから彼女がそう言った気がした。

そして彼女との手が離れ私は闇に吸い込まれてしまう。


『大丈夫。シルヴィア()アルフィード()が守ってくれる』


前世の私はそう言って今の私が消えた後をじっと見つめていた。

読んでいただいてありがとうございます。

彼だ、彼女だ、あの人だと名前が出てこない人が多いので少し分かりにくいかもしれませんがそこは許してください。

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