表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
二章
31/122

アルフィードとマリエッタ

お待たせしました。

何とか投稿です。


どうしよう。

一度流れ始めた涙は止まることを知らないようで、次から次へと溢れ出していた。

こんなに涙を流したことなんて今の(・・)私の記憶にはない。


「シルヴィア嬢、大丈夫。大丈夫だから」


アルフィード様が私の背中をトントンと優しく撫でる。

それがまたつらくて、苦しくて、涙が出てきた。


「申し訳……、ございません……」


止められない涙を拭いながら精一杯の強がりで答えた。

だってこうなったのは私の責任だ。私が選んだ選択肢。だから慰めて貰う必要などない。

それなのにアルフィード様は私の顔を優しく見つめる。


「謝らなくていい。シルヴィア嬢は何も悪くない」


アルフィード様はそう言ってサーガさんの方を見た。

私からはアルフィード様の顔は見れないけれど、サーガさんは呆れたように肩を浮かすのはわかった。

それを見たアルフィード様が何故か小さくため息をつき私へと視線を再び戻す。


「シルヴィア嬢、君にはしばらく休んでいてほしい」


そう言ってアルフィード様の手が私に伸びてきて私の視界を塞いだ。

パチンと指の音が聞こえたのと同時だろうか、私の意識が闇に落ちていった――。


「お嬢様!!」


シルヴィア嬢の侍女であるマリエッタが駆け寄ってきた。


「大丈夫だ。問題ない」


俺は力尽きたシルヴィア嬢の体を支え、抱き上げた。

その体はとても軽く、しっかり掴んでいないとどこかへ行ってしまいそうな気がした。

マリエッタはオロオロしながら俺とシルヴィア嬢を交互に見ている。

その光景は俺に6年前を思い出させた。

マリエッタも当時と変わらない。あの時もパニックになりながらシルヴィア嬢の側にいたな。

思わず口元が緩みそうになる。


ゴホン


サーガがわざとらしい咳をした。

そうだ。今はそんなことを考えている場合じゃない。


「マリエッタ、シルヴィア嬢をベッドに運ぶぞ」

「は、はい!」


俺の言葉にマリエッタは慌てて寝室へと向かう。

俺はマリエッタの後へ続きながら抱き抱えたシルヴィア嬢に視線を向けると閉じられた目に涙が残っていた。

やっと……。

やっと会えたのに……。

それなのに俺は壊してしまった。そう思うと胸が苦しくなって唇を噛んだ。

この6年間義母上(ははうえ)の気まぐれに付き合い、義母上(ははうえ)に骨抜きになっている義兄上(あにうえ)の代わりをし、外面だけがいい馬鹿な義弟(おとうと)の尻拭いをしつつ父上の我が儘に耐えてきた。

それらを必死で耐えてきたのはダーンに認めてもらい、シルヴィア嬢と会う為。ただそれだけだった。

いや、ただ会うだけじゃない。

シルヴィア嬢と対等に出会い 俺を選んで貰う。

それが俺の目的だった。

そして、今回初めてそのチャンスが訪れた。

きっかけは義母上(ははうえ)に留学先だからとこの国のパーティーにパートナーを連れて出る様にと言い渡されたことだ。

俺の立場と年齢から義母上(ひうえ)の指すパートナーとは婚約者もしくはそれを見据えた人間でということだ。

早い話、身を固めろ。というお達しだ。

俺はそれだけは嫌だと断固拒否をした。

俺にとってその相手とはシルヴィア嬢以外考えられなかったからだ。


「こちらです」


マリエッタに言われ俺はハッと我に返る。

マリエッタはそんな俺の姿を見て眉を寄せていた。

彼女がそんな顔をするのは当然だ。俺は彼女の大切なシルヴィア嬢を傷つけたのだから。

そう思いながらシルヴィア嬢をそっとベッドへ寝かせる。


「今、お医者様をお呼びしますわ」

「いや、その必要ない」


俺は慌てて部屋から出ようとするマリエッタを止めた。


「心配はいらない。シルヴィア嬢は眠っているだけだ」


俺の言葉にマリエッタは目を見開く。

魔法をかけたということに気がついたらしい。


「あのまま泣かせておくわけにはいかない」

「泣かせたのは、貴方様ですわ」


マリエッタの言葉が胸に刺さる。本当にこの侍女はシルヴィア嬢のことになると人が変わるものだ。


「一つ聞きたい。マリエッタはこの滞在城に来たときここの事をどう思った?」


俺の質問にマリエッタは眉を寄せる。

そんな場合かと言いたいのだろう。けれど彼女はシルヴィア嬢に視線を変えてから俺を真っ直ぐに見た。


「はっきりと申し上げて最悪でございます」

「そうか」

「お嬢様の噂は多少は聞いておりますし、私もお嬢様もそれなりの覚悟がございました。けれど、あのあからさまな態度は如何なものかと存じます」

「執事長か?」


俺の言葉にマリエッタは黙って頷く。


「お嬢様に監視役のメイドをつけようとしたり男を侍らせていると言ってお嬢様を挑発したり、更にすれ違う際に『悪役令嬢』等と訳のわからない事を言ったりと、侮辱もここまでされると軽く敵意を感じます」


俺はマリエッタの言葉にため息をついた。滞在城を任された執事長ともあろう者が特定の者に対して無礼を行う。これはかなり重症だろう。


「シルヴィア嬢の話では悪役令嬢とは読んでそのまま字の如し『悪の所業を行う令嬢のこと』らしいな」

「お嬢様が悪役令嬢などあり得ませんわ!」


俺が言い終わるのが早いか、マリエッタが納得できないと言いたげに反論しようとするが、俺はそれを制する。


「心配せずともわかっている。執事長は婚約者達を破局へと導く者をそう呼ぶと言っていたが、俺は納得していない」


マリエッタはホッとするように胸を撫で下ろすのがわかった。

 

「多少の政略婚は致し方ない。それはよくあることだ。しかし、目に余るものは対策を練らねばならん」

「まさか、ご存知なのですか?」

「当然だ」


俺はベッドに腰掛けマリエッタを見ると先ほどまで俺に対して向けられた敵意がなくなり、明らかに動揺しているのがよくわかった。

他者からの批判を受け流すことには慣れていているが、他者から認められる事には慣れていないのであろう。


「ある程度の身分を持つ者が己の利益を求めて自分の子どもを利用し婚姻をさせたりすることは別におかしいことじゃない。むしろ何の利益も求めない婚約など稀だ。だからこそ当人同士の合意があって政略婚が成立する。だがこれを利用して相手を欺き国の中枢に潜り込もうとする者。国の財源を掠め取ろうとしている者を泳がせておけるほど我が国には金も兵士達も余裕がない」


マリエッタは同意するかのように頷いた。

つまりはシルヴィア嬢もそういう考え方だったのだろう。


「だがシルヴィア嬢は甘過ぎる。逃げられる選択肢を与えているのは感心しない」

「お嬢様の目的は破局ではありません。真実を公にする事だけです」

「そして結果的に皆は婚約を解消しシルヴィア嬢の悪名だけが轟くというわけか」


俺が笑みを浮かべながらそう言うとマリエッタは悔しそうな顔をする。


「ですがそれがお嬢様のポリシーです。最後にどうするか選ぶのは本人達であり、ご自分が決めるものではないと……」


甘いな。

俺はそう思いながらシルヴィア嬢の頬に手を触れると温かく、肌も美しかった。


「お嬢様を泣かせたのは何故でございますか」


マリエッタの問いかけに動きが止まる。そっとシルヴィア嬢から手を離し、マリエッタを見ると複雑そうな顔をした彼女がいた。


「私にはわかりません。ここまでお嬢様を理解し見ておられる殿方はアルフィード様が初めてでございます。それなのにサーガに一方的に言われるお嬢様を助けない。その行動は理解に苦しみます」


マリエッタの言葉は当然だろう。実際のところ俺はサーガから言われるシルヴィア嬢を、助けようとは思わなかった。


「シルヴィア嬢なら軽くあしらうと思っていたからな」

「え?」

「そして俺の予想通りシルヴィア嬢はサーガの上をいった」

「どういうことですか?」

「サーガの性格は知っているだろう?あいつは陰湿メガネでドSだ。狙った獲物は追い詰めて追い詰めて更に追い詰める。サーガとしてはそうやってシルヴィア嬢をいたぶるつもりだったのだろうが、シルヴィア嬢はそれをさせなかった」


マリエッタはハッとして何かに気がついたようだった。

そう、シルヴィア嬢はサーガが追い詰める前にサーガが求める答えを出したのだ。


「俺との婚約を一度白紙にすること。それがサーガの狙いだった」

「何故……」

「サーガはシルヴィア嬢を疑っていた」

「疑う?」

「クラリス嬢との関係にダーンの思惑だ」


マリエッタは「あり得ない」と呆れた顔をする。


「あいつは俺がシルヴィア嬢に婚約の申込をしても受けてもらえるはずかないと言っていたからな」

「けれどお嬢様はあっさりと受け入れてしまった。成る程。上手く行きすぎている事にサーガは疑問をもったのですね」

「そんなところだ。昨日の一件でクラリス嬢の遣いでないだろうと答えを出したようだが、ダーンの事が気になったんだろう。自分で確かめると聞かなかった」


だから今日はシルヴィア嬢の部屋に来てサーガの好きにさせたのだ。


「しかし、わざわざ婚約を白紙にする必要はないかと思いますが……」


そういいかけたマリエッタに俺は口に人差し指を立てる。


「マリエッタ少し俺に協力してくれないか?」


マリエッタは首を傾げながら俺の顔を改めて見た。

お付き合いありがとうございます。

投稿ペースが安定せず、すみません。

そんな状況でも読んでくれる方、ブックマークしてくれている方、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ