断罪と言うなのイベント その3
「突然何を訳のわからないことを!この無礼者め!!」
国王陛下が私に抗議をするけれど、私はじっと国王陛下を見る。
ベール越しとはいえ、いい気分ではないだろう。
しかもポタポタとさっきぶつけられたグラスに注がれていた飲み物の滴がまるで血のように落ちているのだ。
ある意味ホラーでしかない
さっさと終了させて着替えないと折角のドレスが染みになってしまう。
「国王陛下。お二人はクラリス様の魅了魔法にかかっていらっしゃいますわ」
「魅了魔法……だと?」
国王陛下はピクリと反応した。
「はい。魅了魔法は稀に見るもので、世界にも数人しか使うことができません。しかも、使用している本人にもかけられた者もその自覚はありません」
「わかるのは、心に隙があればいとも容易くかかるということ。そしてその者に異常と言える程の愛情を注ぐこと。そう。今の陛下とお妃様そのものです」
アルフィード様が私に続いて二人に指摘をしてくれた。
多分、私が今からすることを察してくれているに違いない。
何だろう。アルフィード様とは昨日会ったばかりなのに不思議と考えてる事がわかる。
お互いまるで昔から知ってるかのように……。
不思議な気持ちに疑問を持ちながらも今は国王陛下達を元に戻すのが先だ。
「シルヴィア嬢、解除魔法は使えるか?」
「はい。ですが魅了魔法を二人同時に解除したことがないので少し時間がかかると思いますが」
「いや、それで十分だ」
アルフィード様は満足そうに笑みを浮かべ私の頭にポンポンと手を乗せた。
それを合図とするかのように私は魔法陣を二人に繰り出す。
二人は突然の魔法陣に驚き、身を固める。
「何をする!!誰か!誰かその女を捕らえよ!!」
国王陛下が叫ぶと兵士達が私に向かって突進してきた。
「おっと、解除魔法の邪魔はさせない。悪いが少し退いててくれ」
アルフィード様が兵士達ににっこりと笑みを作りながら一人で向かう。
「お退きください、アルフィード様!!」
兵士の隊長らしき人物が叫んだが、アルフィード様は退くどころか兵士達に近づき、そして手を兵士達に向けた。
ガシャガシャガシャーン!!
先頭の兵士が何もないところで何かにぶつかった。
それをアルフィード様はにっこりと笑みを浮かべながら兵士達を見た。
「これは上級防御魔法。君たち程度の魔力じゃ簡単には破れない」
「ひぃぃぃ!!」
私には見えないけれどアルフィード様が余程恐ろしかったのだろう。
弱い兵士達は悲鳴をあげながら会場を出ていく。
それに反応するかのように貴族の貴婦人方の悲鳴も聞こえ始め、混乱で会場はめちゃくちゃになっていく。
「ええい!何をしておる!早くあの女の動きを止めろ!!あの女の首を取った者には褒美を取らす!!」
国王陛下は必死で叫ぶがアルフィード様の魔法は強力で、残っている強面の兵士達でも近づけないでいた。
そんな中クラリス様がワナワナと震えながら私を睨み付けた。
「何でよ!」
「?」
「何でベールの女が今邪魔するの!?何でシナリオ通りに皆動かないのよ!!私は間違えてない!間違えてないんだからぁぁぁ!!」
「!?」
クラリス様は国王陛下が腰から下げていた短剣を手に取った。
「そうよ。私は間違ってない。こんなところでベールの女を出すようなミスなんてしてない。私は主人公。主人公なのよ!!」
クラリス様は私に向かって突進してきた。
いや、ちょっと待ってこれはヤバイ!!
今のクラリス様の台詞で突っ込みたいところも色々あるけれど、私は今両手が塞がっている。
「逃げろ、シルヴィア嬢!!」
アルフィード様が私にも上級防御魔法を繰り出そうとするけれど、とても間に合いそうにない。
私は覚悟を決めて目を閉じた。
「……」
「……?」
何も起こらない?
そっと目を開けると目の前にクラリス様がいた。
しかしクラリス様は驚いて目を見開いているけれど何も話さない。というか、動く気配がない。
「……、固まっている?」
私が首を傾げた。
「硬直魔法だ」
「クラウド様!?」
「ギリギリ間に合ったな」
クラウド様はクラリス様から短剣を取り上げる。
「アルフィード、これで、貸し借りはチャラだ」
それを聞いたアルフィード様はフッと笑う。
「遅いぞ、馬鹿」
アルフィード様が小さく呟いた。
「シルヴィア、後どのくらいかかる?」
クラウド様が国王陛下達を見て聞いてきた。
アルフィード様が私を呼び捨てにするなと怒りながら兵士達を部屋の外へと追いやっていく。
私はクスリと笑いながら国王陛下達を見る。
始めは二人の足元にあった魔法陣は胸の辺りにまできていた。
私は小さく深呼吸をして一気にそれを押し上げた。
「!!?」
魔法陣が国王陛下とお妃様の頭を過ぎ、消えるのと同時に二人は椅子にた折れ込む。
「どのくらい?と聞かれましたね。それならもう終わりましたわ。ですが、やはり二人同時は時間と魔力を取られ、ます……」
私は目眩がしてその場に倒れそうになった。
それをクラウド様が支えくれる。
「あまり無茶するな」
「……でも、これで魅了は解けたはずです」
私がそう言うとクラウド様は少し驚いた顔をして、恥ずかしそうに「ありがとう」と呟いた。
「どういたしまして」
私がそう答えるとクラウド様は顔を真っ赤にして私を支えてくれていた手を離した。
「いたっ!!」
当然私は床にお尻を打ち付けた。
「シルヴィア嬢!」
兵士達を外へと追い出したアルフィード様が戻ってきて私を抱きかかえる。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。魔力を使いすぎて少し目眩がしただけですから」
「そうか。ならよかった」
アルフィード様がそう言って私の額にキスをした。
私は思わず額を押さえる。
「あの……、ずっと気になっていたのですがアルフィード様はスキンシップが過ぎませんか?」
「ん?そうか?それはシルヴィア嬢が可愛いからいけない。それに、ベール越しだからいいだろ?」
「そういう問題ではありません!!もう!下ろしてください!!」
「まだダメだ。陛下達が起きるまではこうしている」
「そ、そんな……」
「……」
この時、私はアルフィード様とのやり取りをクラウド様が複雑そうな目で見ていたことには気がついてはいなかった。
そしてアルフィード様は本当に国王陛下達が起きるまで私を抱きかかえたままだった。
読んで頂きありがとうございます
本日二度目の更新です
思ってた以上に長くなってしまいました
少しだけですが、最後辺りにシルヴィアとアルフィードのイチャイチャっぽいのが書けて満足(笑)