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 うっわあ、なんだこれ、黙示録でも始める気かよ。

 審判の日、来たれりってか、これはどうなんだ、『ご同輩』なのか?

 色々とドン引きするしかない俺だったがまだまだお話は続くってか、こっからが本番だよなこれ。

 つか本気でアップダウン激しくないですかね大陸史、頭がこんがらがってきたわ。





 何はともあれ、こうして長い間戦争と無縁だった大陸に、突如出現した侵略国家、というか虐殺国家。

 それによって開かれた戦端はその狂った国の一方的な蹂躙劇が続いた。

 それはもう兎に角圧倒的だったらしい。

 前に述べたように全てにおいて平和ボケしていたというか、内治極振りだった各国を全てにおいて上回っていた。

 そも、商工業の分野で二流三流だと思われていたその国だが、軍用品に関しては各国の上を行っており、装備の面ですらも圧倒的だったらしい。

 未だに物資不足から建て直したばかりの国々にはとても真似できない潤沢な魔石の使用による高火力、下手をすれば魔石その物を弾頭とした兵器まである始末。

 そして発生した死体を根こそぎ、逃げ遅れた住民達も容赦も例外も無く根こそぎ、地獄の窯へと、『炉』の中へと投げ込んでいき、魔石を即座に補充した。

 糧食の準備も抜かりなかったらしく、補給は途切れず進軍が滞る事も一切ない。

 まして住民を根こそぎ『炉』へとくべるのだから、奪った食料や物資も丸々自分達で使える上に統治の手間も掛からない、正に無人の野を行く、というか無人の野を作り出すというか。

 彼らの通った後には自然は残るが人は肉片の一欠けらも残らず、という空恐ろしい例えが成されるぐらいに。

 こうして幾つもの国を瞬く間に滅ぼし、大陸北西にあったその国は全土の二割まで版図を広げた。

 それに対する各国の対応は遅れに遅れた。

 元々が軍備という物が手薄な上に、復興に力を入れて更にそれを削っていたのだから対応など出来るはずもない。

 住民を避難させようにもそれすらも手間取る国が多かった。

 なまじっか苦境を乗り越えて建て直しが適った、先の展望がようやく見えてきた所での事であり、それを捨てて逃げる事に抵抗がある者が多かった為だ。

 それによって避難が遅れ、迎撃体制もそれに伴って満足に整わず、それによって唯でさえ不利な状況が悪化して蹂躙され、そして死体の山は魔石の山へと変わっていくという悪循環だった。

 凄まじい進軍速度によって国家間の連携も碌に取る間も無く討ち滅ぼされ、滅んだ国から雪崩れ込む難民によって混乱する間にそれを追うかのようにやって来た軍勢に蹴散らされる。

 こうして混乱しまともな対応が取れる国家がほぼ無い状態で、真っ先に纏まった行動を取れたのは、またしても五星教団だった。

 教団はその国を大陸に住まう全ての人々の敵であると糾弾し、その危険を強く説きながら民達の避難誘導を国家間を越えて行う事を各国に強く働きかけた。

 それは避難誘導と言うよりは民族移動、国家移動と呼べる物だった。

 このままでは悪戯に人々が犠牲になり、その犠牲によって敵国を利する事になり、それによって更なる犠牲が生まれ、そして更にそれが敵国を利すると言う悪循環に陥り、このままでは大陸全土が彼の国に飲み込まれかねない。

 迅速な避難によって人間が存在しない空白地帯を作る事で、彼の国の人間を材料とした魔石の補給を行わせない事で彼らの進軍を遅滞させる事が至急求められる。

 ここは近隣の国家は国土を捨ててでも遠方へと逃れ、勢力を糾合して敵と対せねばならない。

 敵に利する全ての物を破却して一刻も早く退かなければならない、事は大陸に住む全ての人命に関わる事態である、と。

 要するに国を跨いだ焦土作戦を展開しろ、という提言だった。

 だが、こんなものにはいそうですかとすぐに頷ける国など、避難する方もされる方も中々無いわけで、そうやってまごついている間にも、幾つもの国が次々にそこにいる民ごと『喰われて』いった。

 援軍を差し向けてそれを共に迎え討たんとした国々もあったが、それも無残に蹴散らされ悪戯に魔石の材料を提供する事になっただけだった。

 そして、ようやく五星教団の提言が容れられその国の進撃が止まった時には、既に大陸の国家の五割が地図上から消滅していた。

 そして、大陸全土の三割を超える土地がその国の手に落ち、隣接する土地に誰も存在しない空白地帯が全土の一割から二割の面積に広がるという事態になっていた。

 いや、その国の手に落ちた三割もその大半が人間が魔石と化し、全く存在し得ない場所のほうが多かったことを考えると、果たして人間が存在する領域がどの程度あったものか、という話だったらしい。

 んでもって空白地帯を挟んで睨み合った双方だったが、それぞれに問題があった。

 まず、瞬く間に大陸の三割までその版図を広げたその国、『帝國』だったが、この国は元々がそう大きな国ではなく、幾ら精強であったとしても兵の数、国民の純粋な数が得た領土に比して圧倒的に足りなかった。

 まして、制圧した地域の人間を根こそぎ全て『炉』へと放り込んで『処理』を行うために、それを早急に増やす事ができない。

 根絶やしにするので統治の手間も掛からないが、それにも限度というものがあった。

 五星教団の唱えた焦土戦術が形になり、隣接する領土を持つ国家が一斉に退避を行った頃には、既に彼らは攻勢に出れる限界を超えていたのではないか、と言うのが後世の研究では一般的らしい。

 各国への焦土戦術の提言が形になった頃、帝國は攻勢を広げすぎたために兵力が薄く広がりすぎており、そのまま進撃を行っていれば侵攻先の国家にそれぞれ各個撃破された可能性もあったらしい。

 よってその焦土戦術は結果として見れば失敗だったという評価になっている。

 もっと早くに各国が実施できていればよかったが、遅すぎたために狂乱に任せて進撃していた帝國を、彼らにとって実に良いタイミングで冷静にさせてしまった、と。

 そのままにしておけば退避によって空白地帯となった一割から二割の土地は帝國の物になっただろうが、それから先の進撃で分散した兵力は確実に今までより消耗するようになる。

 長い間、抑圧され憎悪を煮詰めて過ごし、それが解放され熱狂に滾った帝國の者達はそう簡単に止まらないだろうから、そのまま消耗戦に引きずり込めばよかった。

 魔石や物資の補給こそ問題なくとも、人的な消耗を回復する力が極端に少ないのだから、そこから一気に押し戻す事が出来た、と言う事らしい。

 上手くすればそのままあっさりと、反攻によって帝國を崩すことも出来たのではないか、と言われている。

 尤も、その場合に蹂躙される地域の人々の被害がどの程度になるか、と言う事に目を瞑ればという話だし、後世から見てのたらればで意味はないが。

 兎に角、帝國の人間は冷静になった。

 解放された狂喜は圧倒的勝利を重ね続ける事によって歓喜へ変わった。

 狂気は人々を飽きるほど大量に殺戮し、そして『炉』に放り込み続ける中で徐々に落ち着いていった。

 熱狂は空白地帯が続いて狩りたてる獲物もなく、奪う物資が悉く破棄されている事により冷めて行った。

 まあ、かなり簡単に、身も蓋もなくザックリ言ってしまえば、息切れするほどに散々に暴れまわって八つ当たりをして、その対象が手の届く範囲にいなくなりわりと落ち着いてしまった、と言う事だろうか。

 こうして空白地帯の半ばで進撃を止めた帝國軍は、潮が引くかのように焦土になっていない地域まで退いて行った。

 


 それに対する他の国々と言えば、五星教団の提言通りに帝國の制圧地域に面する国々が一斉に退いたのはいいのだが、当然と言うかなんと言うか大混乱が起きた。

 帝国がそのまま空白地帯を進撃して来れば、目前の危機に団結して当たれたのかもしれないが、後方の国々から援軍を受け入れて待ち構える最前線国家群、そこに辿り着く前に彼らは退いてしまった。

 いや、元々が帝國の進撃を遅滞させる目的もあったのだし、それ自体は上手くいったと言うべきか、上手く行き過ぎてしまったと言うべきか。

 五星教団が各国を動かし、勢力の糾合を行うという目的もある意味達成できたと言うべきだろう。

 そのまま帝國が進撃してきたならば、だが。

 当たり前の話なのだが、複数の国家規模の難民が発生して一気に流れ込んできて、それを受け入れる事が出来る余裕がある国などそうはない。

 ただでさえ物資不足の混乱からようやく立ち直ったばかりなのだから尚更だ。

 まして受け入れる国家は帝國の恐ろしさは耳にしているが、直接その脅威に接していないので危機感を実感しきれていなかった。

 実感する機会も帝國が退いてしまった為に失われ、それによって彼らにとっては目の前に押し寄せてきた人々の方がよほど身近に迫った脅威となった。

 直接的に災禍に見舞われた人々には同情もするが、戦わずに逃げて来て、そのせいで自分達の国が対帝國の前線国家にされた挙句にその連中の面倒を見ねばならないなど冗談ではない、という者すらいた。

 ましてや各国の援軍まで受け入れているのだからとてもではないが支えきれる物ではない。 

 そして避難してきた国家の人々の間でもその認識は差があった。

 直接その暴威を目の当たりにして命辛々逃げてきた者、その姿を見て恐怖しながら逃げてきた者、恐ろしさは理解すれど土地や財産を破棄して逃げる事に納得しきれずに退去した者、抗戦を主張しながらも周りからの説得で復仇を誓いながら退いた者など様々だった。

 そんな状態で何も起こらないわけが無かった。

 当初は伝え聞く帝國の脅威と、土地や財産を失って流れてきた人々への同情などで、ある程度の寛容さと忍耐を持って難民達に接した退去先の国々だったが、すぐにそんな物は消し飛んだ。

 様々な衝突と混乱を起こしながら、大量の難民達は対帝國の前線国家となった国々から更に後方の国家へと、追い出されるかのように流れて行った。

 しかし、その国々でも彼らを持て余し、またも数々の衝突と混乱を巻き起こして大半が厄介払いのように更に後方の国家へと流れる。

 たらい回しにされるかのように次から次へと国を移動し、そして対帝國の前線からの距離が離れるに比例して、それに対する危機感が希薄な国になっていくのだから扱いは更に悪くなる。

 難民達もそうやって弾かれ続けて、戻るべき故郷からも離れていくたびに心が荒んでいく。

 まして土地が離れる毎に考え方、習慣、訛りなどの言葉の違いが出てくるのだから衝突は加速度的に増えていく。

 そしてそんなものを押し付けあう各国家間の関係も悪化する。

 最終的に、難民達は何とか居つくことが出来た一部がその国で内政問題として残り、他へ流れた者が隣接国家との間に亀裂を入れる、という繰り返しで多数の国家に政情不安と不和の種をばら撒く結果になってしまった。

 そして、何処にも受け入れられずに流れ続けた者達などは、最終的には賊徒と変じて行き更なる問題を引き起こした。

 帝国が進撃してこない為に逆に打って出ようにも、元々がその余力が各国に無かった上に、その準備を整える前にこうした事態になってしまい身動きが取れなくなった。

 それどころか、前線国家に兵を送り込んだ後方国家は国元の治安悪化や情勢不安を理由に兵を引き上げざるおえなくなった。

 五星教団は一連の騒動や難民を保護しようとした各種活動によって各国の取り纏めに失敗し、一気に求心力を失い、旗頭を失った対帝國の国家間の連携は崩れ去り、不和の種をばら撒く結果となった。


 こうして帝國とそれに対する各国は空白地帯を挟んでどちらも動かずに睨みあう事になった。

 帝國は制圧した領土内に未だ大量に残る逃げ遅れた民達を狩り出しを行いながら、接収した各種施設や資源の活用を行った。

 しかし、その範囲と数に全く人手が足りずにかなりの時間を有し、接収した各種施設の運用も技術力の格差によって中々に進まず、それによって自国の問題点をはっきりと自覚した帝國は暫くはこれ以上の侵攻を行う事ができないと判断した。

 勝利によって緩んだ国内の統制も急激に勢力を拡張し、薄く広がり過ぎた為に行き届かず困難を極めた。

 よって国力の伸張に勤しみながら緩んだ統制の引き締めを行う事に注力せざるおえず、打って出る事は出来なかった。

 対する各国は難民の受け入れなどで再び傾いた景気と悪化した治安、そして周辺国に対する不信感によって身動きがとれず。

 それどころか国によっては難民によって争乱が起こったり、国同士の小競り合いに発展する所まで出る始末だった。

 難民達は郷土の奪還を望みながらそれを成せず、自分達への隔意を隠そうともしない受け入れ先の国々への恨みを募らせ更に先鋭化した。

 受け入れ先の国々からすればお前らさえいなければ治安や周辺国との関係も悪化せず、派兵した兵たちを戻さずに帝國に対して反撃に出れた筈だ、という思いがあり更に状況は悪化していった。

 五星教団もその提言によって現状を招いた事から各国から、そして庇い立てした難民からすらも非難され事態の収集を図れなかった。

 そうして諍いは増えていき、最終的に各国は帝國という共通の敵を放置したまま国の内外で相争う事となった。

 ここに、戦争を始めた帝國は平和でありながら、迎え撃つ立場の各国が同士討ちを開始すると言う状況に陥ったのだった。


 こうして空白地帯を挟んで対峙した帝國と他の諸国は、それぞれの理由で互いに攻め込まずに時を過ごす事となった。






 

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