仲間
「モンペリエから発ったその後は、ただ戦い続けた。ただ強くあろうとした。仇の魔族も探していたけど、きっと僕は死に場所を求めていたのかもしれない。気が付けば旅に出て3年がたって、シルヴィアたちと出会ってた」
エリーの過去を聞いて、ギュンターは何と切り出していいかわからなかった。
シルヴィアにウェン、レベッカとキニジでさえ黙ってしまっている。
「せめてリアンさんが僕を責めてくれれば良かったのにとは思うよ。でもリアンさんは僕に恨み言1つ吐かず、死んだんだ」
エリーはうつむいており、その表情はギュンターからは読み取れない。
エリーは急に顔を上げると自分の想いを吐き出す。
「2人とも僕なんかのために死ぬ人じゃ無かったんだ。あの場で死ぬとしたらそれは僕だ!リアンさんでもイヴァンさんでもないッ!」
それほどまでにエリーは、闇を抱えていたということだろう。エリーがここまで感情を高ぶらせることをギュンターは見たことがない。
「……"死神"。馬鹿らしいとは思うよ。でも妙に納得してる自分がいるんだ。リアンさんとイヴァンさんも僕と会ったせいで死んだ。師匠だって、僕と会いさえしなければ先生の怪我を背負って5年間も苦しむことだってなかった」
「……」
「ガルドさんたちだってそうだ。もし僕がシルヴィアたちと一緒にいなければ死なずにすんだかもしれない」
「………」
「あの時、いやずっと前から知ってたかもしれない。僕は出会った人に不幸をばらまくと。だから僕はシルヴィアたちを殺したくなくて…!」
「………それで、急に人が変わったかのように?」
今まで無口を貫いていたシルヴィアが、静かに言葉を流す。
「そうだよ…。だって僕といればそのうち、シルヴィア、ギュンター、ウェン、レベッカに師匠、先生だって!だから僕から突き放さなきゃ、みん」
「ふざけないで!」
その言葉と同時に、シルヴィアはエリーの頬を叩いていた。
シルヴィアの瞳には涙が浮かんでいた。
シルヴィアはこの半年間、エリーに手を上げたことなど一度も無かった。そういう素振りすらなかった。
そのシルヴィアがエリーに手を上げたのだ。
「どうして…どうして信じてくれないのよ!?そんな言い方じゃ、まるで私たちが死ぬのを信じているみたいじゃない!どうして死なないと信じられないの!?」
「だって…僕なんかといたばっかりに皆、死んでいくんだ。僕なんかのためにだ!」
ここまで声を荒げるエリーもまた始めて見た。
エリーはずっと、自分が周囲を傷付け殺すのではないかと不安を抱えていた。耐えきれなくなってしまう程に。
だがシルヴィアはそれをあえて突き放した。
「自惚れないでくれるかしら?私が死ぬのならエリーのためじゃない。私がそうしたいからそう死ぬ。私自身のために死ぬのよ。それがエリーを助けることでもね。だから」
シルヴィアは零れ落ちた涙を振り払い、震える声で諭す。
「"僕なんか"なんて言わないで。エリーはみんなの大事な人なのだから。そんな自分を卑下するような言い方は私が許さないわ」
だから1人で背負い込まないでと優しく言い、そのままエリーを抱擁した。
「僕は、弱いままでいいのかな…」
エリーは小さくそう呟いた。
「人間なんて弱い生き物よ。だから支えあって生きていくの。大丈夫、私は絶対にあなたの味方であり続けるわ」
シルヴィアもまた小さく、だが力強くそれに答えた。
エリーは、泣いていた。
繋がれた枷から解き放たれたような、そんな表情に見える。
今まで口を開けることなく俯いていたレベッカが口を開く。
「シルヴィアの他にも私たちがいることを忘れないでよ?エリー」
味方は1人ではないと少しだけおどけて言うレベッカ。
伝えるまでもないと思っていたが、ここは言うべきだろう。
「人は誰しも、何かを背負って生きていくもんだ。だけど1人でしか背負えない訳じゃねぇ。一緒に背負っていくこともできる。俺はそう思ってるし、仲間とはそういうもんだと信じてる。1人て思い詰めないで、それを話す勇気も必要だぜ」
こういうキャラじゃ無いんだけどなと心の中で苦笑する。
エリーは1人でいる期間が長かった。知らずのうちに1人で解決しようとする癖とでも言おうか、それがエリーを苦しめていた。
だから仲間を頼る癖をつけて欲しいとギュンターは願っていた。
「昔の話です。僕は魔術を使えるが故にシルヴィアさんやギュンターの様に魔族や魔物と近くで戦い、傷付くということがほとんどありませんでした。それを悩み、その痛みを共有できないと自分を責めたこともありました」
ウェンの表情は読めないが、エリーを想う気持ちは自分たちと変わらないはずだ。
「そんな時、シルヴィアさんとギュンターが言ってくれたんです。『痛みを共有することだけが仲間じゃない。そんなことでしか仲間と言わないやつは仲間じゃない! ウェンに背中を預けて戦ってるんだからうだうだ言ってないで魔術唱えろ!』……と。乱暴ですよね。……しかし、悔しいですが僕も救われた1人です。今度は僕がエリーさんを救います。何だって仲間ですから」
ウェンは今度は自分の番だと珍しく微笑みながらそう言った。
「やはりエリーには1回謝らねばならないな。剣を教えたことではなく、こんなにエリー想いな仲間がいるとは思わなかったことだ。大丈夫だ、エリーの剣は人を殺すものでも、不幸にするものでもない」
キニジは師というよりもむしろ父親のような目でエリーを見つめていた。
「人を助け、幸せにする剣だ。人々を苦しみから解放する…"リベレイター"。大切にしろ、その剣も仲間も。きっとエリーの一生の宝物になるはずだ」
「わかったでしょう?エリーは1人じゃない。私たちがいる」
「うん、そうだね…」
シルヴィアはエリーを抱いたままそっと一言。
「そうね…今度また1人で悩んだらその横っ面をひっぱたこうかしら」
「それは怖いや…。でも大丈夫。僕には仲間がいる。それだけは絶対だ。」
エリーはシルヴィアから離れると、涙を払う。
「ありがとう、皆。もう1人で悩まない。僕にはこんなにも想ってくれる仲間がいるんだもん。だから、愛想尽かさずに今後もよろしくね」
そして華のような笑顔でそう言った。
◆◆◆
翌日、フィレンツェ南支部。
「んじゃ俺はこのままキニジと行く。"オラクル"のやってた事は許せねぇし、見逃す訳にはいかない。またそのうち会えるだろ、だからそれまで、エリーにウェン、お嬢様をよろしく頼むぜ」
キニジがもうフィレンツェを発つと言うのでその見送りにエリーたちはギルドまでやってきた。
聞けばギュンターもそれについて行くらしい。
「当たり前です。ギュンターがいなくても大差ありませんよ」
「言ってくれるじゃねぇか。俺の存在のありがたみを知って涙目になっても知らねぇぜ?」
ギュンターとウェンは軽口を叩き合う。
別れの言葉など不要だろう。
どうせまた会えるのだ。
「……の回収も忘れないでくださいNo.9。"オラクル"のことも重要ですが、それも大切な任務であることも忘れずに」
「わかっている。今俺が担いでいる大剣で二振りだ。"オラクル"調査のついでに他のも探しておこう」
「………。まぁいいでしょう。御武運を。No.9、キニジ・パール」
キニジの背中には5年前使っていた大剣があった。
5年前にキニジが孤児院の庭に埋めたものを、マリーが大事にとっておいた物だ。
必ず孤児院に帰ってくると、マリーは信じていたのだろう。
「それじゃあ俺は行くぜ。じゃあな!」
ギュンターはそう言うとキニジと一緒にギルド支部から出ていった。
…のだが。
出ていった1分後、ギュンターは戻ってきた。
「どうしたのギュンター?」
「この手紙をエリーたちに渡してくれって頼まれてな」
「手紙?」
ギュンターの手には一通の手紙があった。
「エリーたちとその場読んでくれって言われたから今すぐ読むぞ」
手紙を見ると、そこには予想の斜め下をいく内容が記されていた。
『悪いが俺1人で行かせてもらう。
ギュンターの腕が悪いという訳ではなく、"オラクル"以外にも調査せねばならないことがあるからだ。
今のところ、それは秩序の守護者以外には知られてはならないため、ギュンターを連れていく事はできない。
そういうことだ。 キニジ・パール』
「あっ…」
「あら…」
「…………」
「だああああああ!やられたああああああ!」
頭を抱え、悶えるギュンター。
「キニジさんが一枚上手ということね」
「なんかごめんねギュンター」
「なんで手紙を渡された時点で怪しまなかったんですか?」
シルヴィアは苦笑し、エリーは謝り、ウェンは煽る。
「もうほっといてくれ…」
ギュンターは肩を落とし、近くの椅子に座り込んだ。
復活するのに数分要したほど、ギュンターにはダメージが大きかったのだろう。
「結局、いつも通りのメンバーね」
「ですね…」
「切っても切れない腐れ縁とはこのことだな…」
言葉とは裏腹に嬉しそうな3人。
「でも嫌じゃない、そうでしょ?」
エリーの問いかけに3人は三者三様に笑う。
「当たり前じゃない」
「シルヴィアさんの素行に辟易とすることはありますが、嫌ではないですよ」
「お前は一言多いんだっつの。勿論、この旅は嫌じゃないぜ?」
なんだかんだで纏まっているのがシルヴィアたちなのだろう。
エリーもその一員であることは間違いない。
そのことが嬉しくてたまらない。
「じゃあ、次はどこに行こうかしら?」
「予定も無しに旅をするのも割と乙なものだと思いますよ」
「俺はなんでもいいぜ」
シルヴィアたちは次の旅の目標を決めているようだが、少し忘れていることがある。
「その前に、まず燃えた装備品の替えを用意しないといけないし、そもそもフィレンツェに来た目的は達してないし、他にも色々とやらないことがあるんだけど、いいの?」
「「「あっ…」」」
――彼と彼女の物語はまだまだ続く。
第2章『死神の真実』はこれで終了です。
第3章はシルヴィアたちの話が中心になります。




