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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第4章 夢を誓う者、変革を導く者
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悪夢のはじまり

各々魔族を撃破したエリーたちは再び大聖殿前広場へと集合していた。


「みんな、大した怪我は……」


ないみたいだね、と言いかけてそれを止める。

アリシアの頬に掠り傷があったからだ。


「アリシア、ちょっと見せて」

「あ、あぁ。別にこんなのどうってことないが……」


アリシアの傷にそっと触れ治癒魔術を施す。

確かにどうってことなさそうだが、バイ菌が入られても困る。それに


「女の子なんだから顔に傷なんて残しちゃダメだよ。うん、これで大丈夫だ」

「……そ、そうか。ありがとうバウチャー……」


むしろ自分は顔に傷が欲しい。

傷がひとつくらいあれば少しは男としての威厳が……あるだろうか……。



「……むぅ、こんなに優しいエリー見たことない」


唇をすぼめてそっぽを向くシルヴィア。


「そうかな?」

「そうよ!」


だとしたらシルヴィアにはもう少し日常の態度を改めてもらいたい。


「ちょっとは変なアピールを自重してくれたら考えるよ」

「それは嫌」

「はっきりと断るんだね……」


やめる気はさらさらないらしい。


「と、ともかく大聖殿に戻ろう。マキナさんたちに無事に倒したと言わなくちゃ」


さぁ行こうと大聖殿の方を見た瞬間だった。





突然の爆音と閃光。


「え……」


ほんの数秒前まで何ともなかった大聖殿から、黒煙が吹き出していた。


(――――!! 落ち着け、よく考えろ! 今しなきゃいけないのは何だ!?)


突然の出来事に理解が追い付かない頭を無理矢理にでも動かす。



「……魔物の侵入か何かか!? とりあえず急いで戻るぞ!」


クローヴィスが慌てて大聖殿へと駆け出そうとする。

本来ならそうしたいところだが、4人で大聖殿へと走るわけにもいかない。


「待ってクローヴィス!」

「なんでだよ!?」

「今ここで4人で大聖殿へと向かうのはダメだ! 魔族が同時に4体も出た時点で気づくべきだった……間違いなく、この襲撃には人が絡んでる!」


魔族の出現、大聖殿の爆破。そのふたつが全くの偶然であるはずがない。


「大聖殿が爆発すればどうする? 多くの守衛が大聖殿へと向かうはず。そうなればこの広場が手薄になる」

「そうか! もしそこに魔物が現れたら……」


大量の犠牲者が出てしまうだろう。

エリーたちなら油断は出来ないとはいえどうとでもなる相手だが、戦う術を持たない人々にとっては脅威でしかない。



「ここは2人ずつ分けよう。戦力の分散はしたくないけど仕方ない」

「どう分けるつもりだバウチャー」


ただ分けるだけでなく、今回は魔物の相手と人々の防衛を考えなければならない。だとすれば自分は広場に残るべきだろう。



「とりあえず魔術とか"センチュリオン"の力で広範囲を殲滅できる僕は残った方がいいと思う。あと1人は」

「いや、それ待った」

「えっ?」


クローヴィスは無言で広場を指差した。そこには守衛を広場防衛と大聖殿に向かう組で別けているようだった。

エリーたちとは違い戦力を半々にはせず2:1で大聖殿と広場に別けているようだが、エリーたちとは数が違う。

恐らくはそれなりの数を各門に防衛に置き、残りを広場に集結させたのだろう。


「あの人たちも無能じゃないってこった。むしろあれだけいると逆にエリーの魔術で巻き込むかもしれない。だからここは俺が残る。……安心しろ、守る戦いは専門分野だ」

「クローヴィス……」

「私も残ろう」


今度はアリシアだ。


「私の槍は人々を守るための槍だ。ここは私に任せてくれ」

「アリシア……。わかった。ここは2人に任せるよ」


うだうだ言っていても仕方ない。

クローヴィスとアリシアを信用して、自分とシルヴィアは大聖殿へと向かおう。


「怪我しないでよ!」

「お前がな!」


軽口を叩き、シルヴィアとともに大聖殿へと急いだ。






◆◆◆






大聖殿に入り、まず目に入ったのは


「――!? だ、大丈夫ですか!?」

「しっかりしなさい!」


何者かに倒されたと思われる守衛たちだった。



まだ意識がある守衛に近づき、怪我の容態を見る。


「……妙な女が……妙な魔術で俺たちを……うっ」

「しっかりしてください! ……まだ、息はある。治癒魔術を」


――待てエリー! ここにいる全員に治癒魔術を施すつもりか!? 見てわからぬか? 妙な女とやらの実力は高いぞ。ここで消耗してどうする!?


「ぐッ……でも……!」


ここで消耗して妙な女に敗れればそれこそ本末転倒だ。

それは理性では理解している。しかし、どうしても納得できない自分もいる。



「守衛さん。後で治癒魔術を扱える人を呼んでくるわ! それまで、どうか耐えて!」

「シルヴィア……!」


……行くしかない。

今の自分がしなければならないことは一刻も早く、「妙な女」に追い付きリズやアランを守ることだ。



「……行こう」

「急ぎましょう!」


自分の気が変わる前にエリーは守衛たちから目を背け、大聖殿への奥へと進む。












大聖殿を走り、爆発が起きた地点へと急ぐ。


「――――ッ!?」

「えっ……?」


その途中、倒れていた人物はエリーがよく知る人物だった。



「マキナさん!?」

「マキナ!」


慌てて駆け寄り、無事を確認する。幸いにも傷は浅く命に別状はない。


「……う……。エリー……シルヴィア……?」

「マキナさん。"アスクレピオス"借りるよ!」


"聖杖アスクレピオス"を手に取り、マキナに治癒魔術を施す。これならば自分のものマキナにも負担はかからない。



「シルヴィア……。ルーシーが……リズ姉さんを……!」

「ルーシーって、"レーヴァテイン"回収の時の!?」

「そう……。あいつ、変な魔術使いやがった……。気をつけなさい……」


シルヴィアとマキナとは面識があるらしい。

それにトップクラスの魔術師のマキナが変だというのなら、相手は相当な手練れだろう。魔術戦ならまず負けないであろうマキナが地に伏しているのならば、相手は搦め手を得意としている可能性が高い。

そうでなくとも魔術師であるが故に接近戦を想定していないマキナであれば、一対一の状況であれば剣士に負けてしまうこともある。


(とにかく、油断できない相手だ。……それにしても、ここ、寒いな……)


爆発の地点に近付けば近付くほど、寒気が増していく。

気になるが、今はマキナの傷を治さねばならない。

だが治癒魔術を施すと、先程置いてきてしまった守衛たちが頭を過る。




……振り返らない。


「この冷気は……。近くにいるわ、気を付けて」

「あの時もそうだったわね」


シルヴィアとマキナを他所に、無言で、無心で、治癒していく。



「よし、これで大丈夫だと思う」

「ありがとエリー」


目につく傷は治した。

後はルーシーという無作法な人間をご退場願うだけだ。



「そうだ、他の2人はどうしたの?」

「今は広場で魔物から民間人を守ってる。僕とシルヴィアは大聖殿へ爆発の原因を調べにきた」


原因がわかったのなら、早急に対処するべきだ。


「なるほどね。よし、あたしも行くわ。やり返してやらないと」

「待ってマキナ。あなたは少し戻って、倒れている守衛の人たちを治してほしいの」

「怪我は治したけど、まだ安静にしていて欲しいし、ルーシーのことは僕らに任せて」


マキナは少し不満そうな顔をしながらも、渋々ながら頷いた。



「わかったわ。ただ、リズ姉さんたちを絶対守りなさいよ」

「絶対に、絶対」

「忘れないでよ!」


それだけ言い、マキナはエリーたちが歩いてきた方向を逆走していく。



「急ごう」

「エリー、怒ってるの?」

「……ちょっとだけ」







◆◆◆







爆発地点、そして冷気が一際強い場所に辿り着いた。


「シルヴィア!」

「いたわね!」


既にそこにはリズとルーシーが相対していた。

彼女らの足元は氷が昇華し、霧がかかっているように見える。



「"アイムール"は渡せません!」

「随分と強情ですねぇ。……いいですよ好きですよそういう人。あなたのような人物ほど、殺しがいがあるってルーシーは思うんです」


リズは"アイムール"と思われる戦槌を手に抱え、それにルーシーが剣を突きつけている状況だ。

もちろん、黙って見てはいられない。



「そこまでだ! 大人しく引いてもらうよ、"レジスタンス"!」

「さっさと逃げたほうがよろしくてよ。怪我をしたくなければ、ね」


エリーとシルヴィアは既に剣を抜き、いつでも斬りかかれるように体勢を整えている。




「……エリー・バウチャーにシルヴィア=クロムウェル。ふふ、あの人の予想通りですねぇ」


ルーシーはリズに剣を向けたまま動こうとしない。


「さてさて、それでは、おもしろおかさいショーの始まり、と行きましょうかねぇ。演出はこのルーシーが、主演は……エリーさんとシルヴィアさんでお送りしますよぉ」


ルーシーはそう言うと、狂ったような笑みを浮かべた。



――冷気が、また一段と強くなった。

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