襲来
「魔族が4体も!? どうなってるのよ!!」
マキナが取り乱したように吠えた。
状況は深刻だ。
門が破られ、町中に魔物が入り込んでいる。既に犠牲者も出ているだろう。
直ぐにでも魔物と魔族を倒さなければならない。
「とにかく行動しないと。マキナさんはリズさんとアランさんの護衛。あと念のために"魔剣"の守護も頼みます。僕らは町に出て魔族を倒そう」
「わ、わかったわ」
いいよね? と残りの3人に確認をとる。
状況が危機的であればあるほど、冷静かつ迅速に物事を判断しなければならない。
「ええ」
「あぁ、任せろ!」
「問題ない」
よし、行こう! と声をかけエリーたちは大急ぎで駆け出した。
◆◆◆
大聖殿を出て広場に着くととそこには避難してきた住人たちで溢れかえっていた。
全員が恐怖で顔を曇らせている。
「魔族の数は4。どうしよう……」
アランの話によると、町の守衛たちも戦っているそうだがそれもいつまで持つかわからないとのことだ。
魔物程度ならなんとでもなるとも語っていたが、相手は魔族。しかも数が多い。
「簡単な話だぞエリー。魔族の数は4。俺たちは4人。後はわかるな?」
エリーが答える前にアリシアが口を開いた。
「1人で魔族を討つのか? それは」
「……無理? 無理じゃないよアリシア。僕らなら必ず倒せる。僕が保証する」
秩序の守護者に選ばれただけあって、アリシアの実力は高いのだ。
ただ、自信が足りないだけ。クリードや"レジスタンス"、そしてカナヒメと強敵ばかりと戦ってきたばかりに自分の実力に疑問を持っているだけだ。
「……わかった。1人で戦ってみせよう」
アリシアも覚悟が決まったようだ。
彼女なら、絶対に魔族を倒せる。
「さぁ、1人1体!競争と行こうぜ!」
クローヴィスが我先にと北門へ向かうと
「お先に行かせてもらうわ! また広場で会いましょう!」
シルヴィアが東門へと駆け出す。
残されたアリシアはぽつりと感謝を述べた。
「バウチャー……ありがとう」
「気にしないでよアリシア。仲間なんだから、支えあうのは当然だよ」
『そなたらは妾を破ったのだぞ? 少しは自信を持て。そうでなくては敗者に申し訳が立たないとは思わぬか?』
そうでしょ? と笑いかける。
「魔族を倒し終えたらさ、皆でご飯食べに行こうよ。だから、頑張ろう」
「……バウチャーの奢りだぞ?」
「もちろん」
アリシアが大食いかつ食事に関しては自重できない性格を考慮し、帰る頃には財布がスッカラカンになることをエリーは密かに覚悟する。
だが、これでいい。アリシアを元気付けられればそれでいい。
「よし、じゃあ僕は西門に行くからアリシアは南門を!」
「了解だ!」
お互いに走り出す。
――エリー、ここは限定解放で飛ぶか?
「魔力を温存したいしここは走ろう」
限定解放するにしても、消費される魔力はカナヒメのものだ。
カナヒメの魔力が莫大なものだとしても底がある。
ここは体を暖めるがてら、走って西門まで行こう。幸いにもそこまで遠くない。
◆◆◆
「さてさて、どうすっかな」
北門にて魔族と対面したクローヴィスは、ため息とともに呟いた。
既に守衛は退かせた。今は魔物たちの対処を任せている。彼らなら魔物くらい大丈夫だろう。いや、そうでなくては困るのだが。
「ァ――――――ッ!!」
蛇の体に人間の上半身をくっつけたような姿の魔族は叫び声とともにクローヴィスに突進してきた。
蛇の部分には節足動物のように大量の足があり、はっきり言って気持ち悪い。
「エリーのような多芸さはない。シルヴィアのような強力な魔術もない。アリシアのように"魔剣"も持っていない。マキナさんのように魔力に秀でてもいない」
……であれぱ、やることはひとつ。
「――――ッ!?」
突然、魔族の体が傾いた。
なぜなら、クローヴィスが大量にあった足を斬り裂いたからだ。
「地道に削っていくしかないってこった。……なァ!」
さらに魔族の足を斬り払う。
一撃一撃が魔族の体を削ぎ、その命を奪っていく。派手さはないが、堅実で確実な立ち回り。
「ァァアア――――――ッ!!」
「さっさと終わらせてやるかッ!」
一閃。クローヴィスは最後の一撃を決めるべく、相棒を振り上げた。
◆◆◆
――東門。
「なんの因果かしらね」
偶然にしても出来すぎだとシルヴィアは笑った。
「ガァ――――――ッ!」
「あの時の魔族と同じだなんて」
足は4つに別れ、腕はカマキリの鎌のように変化を遂げている。
かつて、シルヴィアたちが5人がかりで倒した魔族と姿が酷似していた。
魔族とは元になった人間によって姿形が大きく異なる。それが人に近ければ近いほどだ。
だが今目の前にいる魔族はあの魔族としか見えない。非常に稀なケースだろう。
「かつての私を超えろということかしら。――いいわ。やってやりましょう」
愛剣を町の石畳に突き立て、それに魔力を流し込む。
『影』を呼び出すにはこれが最適だ。
「――我が血。我が刃。我が声にて呼び出され、蹂躙せよ」
「ガァ――――――――ッ!」
危険を感じ取ったのか、四脚の魔族はシルヴィアに向かって鎌を振り上げた。
「残念、1歩遅いわ。――食らい尽くしなさい! "暴虐なる影刃"ッ!」
シルヴィアの影が急速に広がり、それが形をもって魔族に襲いかかる。
『影』は刃のような鋭さをもって、魔族の鎌を引き裂いた。
「――――!?」
魔族は突如として消えた自身の腕に驚いたように見える。
畳み掛けるなら今だ。
「さぁ、行きなさい!」
怯んだ魔族に次々と『影』を突き刺し、動きをとれなくさせていく。
「ガァァァ……」
ついに魔族は膝をつき動けなくなった。
「これで、終わりよッ!」
シルヴィアは跳躍し、魔族の首目掛けて剣を降り下ろした。
◆◆◆
「……私も、ただ秩序の騎士を名乗っているわけではないッ!」
突進してきた魔族にすれ違い様に一閃。
「力あるものとして、私は戦えない者のために力を振るうのだッ!」
追撃にと回し蹴りを叩き込み、アリシアは魔族と距離をとる。
南門にてアリシアを待ち受けていたのは、蝿のような顔に長い手足、さらには背中からは虫の羽根を生やしたアリシアにとっては辛い風貌の魔族だった。
「確かに見た目は私の苦手なもの尽くしだが、怯んではいられない。私の後ろには守らなければならない人々がいる!」
槍を構え直す。
魔族は警戒しているのか、動きは見せない。微動だにせず、『その時』を待つ。
風が吹き、アリシアの赤髪が揺れる。
「――今だッ」
アリシアは槍を――投げた。
「――――ッ!?」
槍を投げ、その僅か後に駆け出す。
魔族としては槍を打ち落とすか、アリシアを狙うか、そのどちらかを選択せねばならない。
「ァ――――ッ!」
「やはり私か!」
魔族が狙ったのはアリシア。
長い腕を使い、それを振り回すことで彼女を叩きつけようとしたのだろう。
「甘いな――!」
アリシアはその腕を台に飛び上がった。そしてその飛び上がった先には投げた槍が。
「まずはそこからだッ!」
空中で槍を掴んだアリシアは、落下の勢いと共に槍を魔族の右腕に叩きつけた。
「――――――ッ!?」
長い腕を槍で貫き、切断させる。
「これで終わりではない!」
地面に着地したアリシアは再び跳躍。今度は魔族の羽根を槍で凪ぐ。
虫のように薄いその羽根は、幼子が無邪気に引きちぎるようにその体から離れた。
「ゴァァァ――――――ッ!」
瞬く間に右腕と片羽根を失い、痛みと驚きで狂ったような叫びをあげる魔族。
そして、その隙を見逃さない。
狙うは心臓一点。
「……"ブリューナク"! 私に力を貸してくれッ!」
アリシアの言葉に呼応したかのように、彼女の持つ"魔槍ブリューナク"は光を纏い、必勝の輝きを放つ。
「――穿てッ!」
「ァァァァ―――――――ッ!!」
全力で打ち込んだその一撃は、魔族の体に風穴を空けた。
魔族を討ち倒したアリシアは、ほんの数秒我を失っていた。
しかし魔族が光とともに還るのを見ると、我を取り戻し微かに唇を緩めた。
「ふふ……そうか。バウチャーの言う通りだな。私もやれるみたいだ」
少し、自信がついた。
これならエリーたちと肩を並べて戦える。
「さて、戻ろうか」
アリシアは広場へと足をむけ、"魔槍ブリューナク"を納めた。
◆◆◆
――西門。
「さてとカナヒメ。どうしよう」
『決まっておろう! 瞬殺じゃ!』
そう言われてもなぁと目の前の魔族を見る。
エリーの前に立ちはだかる魔族は、人の形をかなり残した魔族……簡単に言えば非常に強力な魔族だ。
「あまり時間はかけていられないし、"使う"よ。魔力の制御はお願い」
『心得た。だが妾が出来るのは魔力の制御のみじゃ。術の発動と維持はそなた次第じゃからの?』
「大丈夫。じゃあ、いこうか」
ゆっくりと魔族の前に歩いていく。
魔族は唸るだけで、行動を起こそうとしない。
これは好都合だと2人は詠唱を始める。
「『右手には祈りを、左手には願いを。輝ける武具よ、今こそ我が身を喰らいて形を成し、顕現せよ! 憑依術式・限定解放ッ!!』」
エリーとカナヒメの声が重なり、その体が光に包まれる。
辺り一帯が極光に呑まれ、視界が白一色に染まる。
「アァ!?」
唐突な光に目を奪われる魔族。
光が晴れ、視界を取り戻した魔族が見たのは――――、
「覚悟しろ魔族! この町は、僕と仲間が守るッ!」
四肢に鎧を纏い、右手には"エスペランザ"、左手には魔力結晶の剣を握り、その背後にある三対の剣と魔力の奔流はまるで翼のよう。
血反吐を吐きながらも愚直に鍛え続け、ついに自分のものとした禁術を纏うエリーの姿があった。




