機工師 対 暗殺者
この話は、木漏れ日の森の出会い編で、昊斗たちが魔獣使い鞍馬と戦っている中、ドラグレアが何をしていたかの話です。
なので、最低でも木漏れ日の出会い編を読んでから読むことをお勧めします。
フェリシアが試練第二段階を、最速記録を叩きだして終わらせるとは思っていなかったドラグレア。昊斗たちに、フェリシアの用事が済み次第、王都へ連れて行くと言ったために、自分の用事をどうするか迷った挙句、1日で終わらせられる用事を片付けようと、夜も明けぬ内から準備を始め、詰めに詰め込んだ荷物を玄関まで運んでいた。
「あら?ドラグレア様、どうされたんですか?」
朝早く、朝食の準備を始めようと部屋を出てきたフェリシアが小屋を出て行くドラグレアを見つけた。
「あぁ、お前があんなに早く試練を達成するとは思わなかったからな、とりあえず今日中に自分の用事を済ませてくるから、二人のことを頼んだぞ」
ドラグレアは大荷物を亜空間へ放り込むと、ドアを開けた。
「分かりました、お戻りはいつ頃を予定してますか?」
お昼や夕飯の準備の都合がありますから、と言うフェリシアに、ドラグレアは――家事のできなかった王女が、随分と家庭染みた考えをするようになったものだ――と、仕込み過ぎたかな?と内心思いながら、何時頃戻れるかを思案する。
「・・・・なるべく早くには戻るつもりだが、昼は過ぎるはずだ。カレイドの奴にも連絡しないといけないしな」
「では、一応お昼も作っておきますね。いってらっしゃいませ」
フェリシアに見送られ、ドラグレアは目的の町へと足を向けた。
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「いやぁ、さすがは機工師殿!素晴らしい仕事ですよ~」
商人風の男が、ホクホクした顔でドラグレアが持ってきたモノを眺める。
「世辞はいい。それで、どうする?」
「もちろん、すべて買い取らさせていただきます!」
テーブルの上に広げられていたのは、ドラグレアが作った方位磁石・・・コンパスである。
グラン・バースにも、もちろんコンパスは存在するのだが、この世界では精霊などの影響により、正確に動くコンパスがほとんどなかった。
この世界に召喚された頃のドラグレアはそういった話を多く聞き、生きていく術の一つとして自分の世界にある技術を使って道具を作ろうと考えたのだ。
コンパスもその代表的な一つで、今ではそれなりに精度の高い物も出回り始めたが、ドラグレア本人が作るコンパスは最高級品として、王家の船や騎士団の所有する戦闘艦、果ては上流貴族が個人所有する大型船に積まれている。
こう言った品物を作るようになり、ドラグレアはいつしか【機工師】と呼ばれるようになり、彼を示す名称となっている。
「最近、機工師殿の品はどれも人気が高く、何処も品薄状態ですからなぁ」
男は、仕入れたコンパスを見つめながら、チラッとドラグレアへ視線を投げてきた。
そんな男に、ドラグレアは「またか・・・・」と嘆息する。
「仕方ないだろう、オレ一人で作っているんだ。生産量などたかが知れている」
ドラグレアの商品は、どれも彼一人がハンドメイドで製造しているで、人気が出た今では、入荷までに数か月待ちは当たり前となっている。
取引先にも、それを許容出来ないのなら、契約は打ち切り、と言っているのだが、たまに痺れを切らして、催促してくる取引先があったりする。
しかし、目の前の男は催促とは別の言葉が飛び出した。
「上役からも言われているのですが、やはり製造方法の全てを教えてはいただけないのですか?」
ドラグレアは、製品に使用している技術の全てを公開しているわけではなく、肝心な部分は非公開としている。公開している技術だけでも、十分性能の高い物が出来上がるのだが、ドラグレアが作る最高級品を知った者たちは、それでは満足できなかった。そのため、製品を分解して調べようとする産業スパイは後を絶たず、ドラグレアは対策として、自分が作った製品全てに簡単な自壊術式を組み込み、手順通りに分解しなかった場合、非公開部分が砂になるようになっている。
そのため、調整や修理などもドラグレアが引き受けているが、あまりにも物持ちがいいため、未だにそういった依頼は来ていない。
一体、何度目の問答か、と男に苛立ちを覚えつつドラグレアは、スッと立ち上がり、男を見下ろし睨みつけた。
「しつこいな、上役に伝えておけ・・・今公開している部分だけで満足できないのなら、取引はこれまでだと。支払いは、いつも通りに頼むぞ」
それだけ伝え、蛇に睨まれた蛙の様に震え上がる男を尻目に、ドラグレアは足早に商人の館を後にした。
「さて、このペースで次に行くか」
今回、ドラグレアが持ってきた商品は全部で4種類。それを馴染みや贔屓にしている者たちに卸すのが、ドラグレアの用事だった。
朝から精力的に回った甲斐もあり、昼過ぎには全部の商品を納品ことができた。
ドラグレアは、フェリシアたちへのお土産を買いこみ、帰路へついた。
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町からの帰り道、ドラグレアは小さな違和感を感じていた。
―なんだ?・・・何か引っかかるんだが、忘れ物でもしたか・・・?―
気のせいか?と思いつつ歩いていると、その違和感が突然顔をのぞかせた。
木漏れ日の森の”裏”と呼ばれる辺りから、ドラグレアの知らない未知の力が発生する。
「な・・・・・今のは?!」
森に張り巡らした結界は、ドラグレアの知覚とリンクさせることができ、結界の状況を手早く確認すると、一か所だけ、人が一人通れるか分からないほどの小さな穴が開いていたのだ。
「侵入者?!っ・・・・随分手際がいいな!このオレに気付かせないとは!!」
舌打ちするドラグレアの視線の先に、騎士団の支部が入る建物が目に入る。
「とりあえず、増援の手配はしておくか」
支部へ駆け込み、騎士団に出動を打診したドラグレアは、先行して森の裏へ分け入っていった。
異変が起きている近くに、フェリシアや昊斗と冬華によく似た気配を感じ、何かの理由で巻き込まれたのだろうと考え、ドラグレアは毒づいていた。
「ったく!あいつらは、じっと出来ないのかよ!」
木々の中を走っても時間のロスと考えたドラグレアは、木の上を忍者のように飛びながら、異変の中心に近付いた時だった。
少し離れた木々がなぎ倒され、その中から人影が飛び出るのをドラグレアは見逃さなかった。
「逃げる?はっ!させるか!!」
逃げる侵入者を超える速度で近づき、ドラグレアは一気に追い抜き、侵入者の前に立ちはだかる。
「!!」
気配無く近づき、目の前に現れたドラグレアに、黒ずくめの侵入者・・・暗殺者は驚いて、急停止する。
「・・・逃げるなよ。お前にはいろいろ聞かないといけないんだ」
血のような赤い瞳に睨まれ、暗殺者は咄嗟に投擲用のナイフを右手の指に挟み、三本まとめてドラグレアへ投げる。
飛んでくるナイフに対し、ドラグレアは避ける素振りを見せず、全てのナイフをその身体に受けた。
「・・・・そんななまくらで、オレを倒せると思ったのか?」
「ば、馬鹿な・・・」
ナイフは確実に、ドラグレアの身体へヒットした。だが、ナイフは当たった瞬間、粉々に砕け散ってしまったのだ。
暗殺者が持つ投擲武器の中で、追加効果などを持つ高威力を誇っていた自慢のナイフが砕け、暗殺者から動揺が伝わる。
「お前、異世界人だな?・・・・まったく、自分の力を過信する奴が最近増えてきたが、相手との力量差を考えて行動しろよ」
暗殺者は、ドラグレアの言葉を聞いていなかった。視線も、彼には向いておらず、その後ろに注がれていた。
暗殺者の目に、巨大な”龍”が映っていた。
「判るか?・・・・・これが”力の差”と言うものだ」
彼が見ている”龍”は、もちろん幻、というよりドラグレアのオーラが形として見えているものだ。
これが、ドラグレアの一族が”龍族”と呼ばれる所以の一つとされている。
獲物に襲い掛からんばかりに、ドラグレアのオーラが暗殺者に近づく。
「あ・あああ・・・・ああ」
暗殺者の膝が振るえ、股間に生暖かいものを感じる。
実のところ、別の場所で戦う魔獣使いの少年同様、暗殺者もVRMMOをしている最中にグラン・バースへ召喚された、ただのフリーターゲーマーの青年だった。
異世界に召喚され、なぜかゲーム中で使っていたアバターの姿と能力やアイテムを持っていた彼は、帰る方法が無いと基点者に言われ、ゲーム同様に暗殺者として生きることを決め、基点者を含め、これまで何人も殺してきた。
チートといえる能力で生き残ってきた青年は、異世界に来て初めて悟った。
上には、上がいると。
その時だ。
フェリシアたちがいた場所から、ドラグレアも知らない巨大な術式が急速に展開され、本能的に頭の中が戦闘状態へ入ってしまうドラグレア。
「う、うああああああああああああああ!!!!」
その影響で、龍の姿をしたドラグレアのオーラが、口を開けて暗殺者を呑みこんでいった。
「しまった!」
倒れこむ暗殺者へ駆け寄るドラグレアは、青年を見て”手遅れ”だと判断した。
外傷は一切ないが、ドラグレアの膨大なオーラによって、暗殺者の精神は完全に噛み砕かれ、”死んでいた”。
「くそ・・・・聞き出すことがまだあったというのに」
とはいえ、過ぎたことを悔やむような精神を持ち合わせてはいないドラグレアは、すぐに思考を切り替える。
先ほど向かっていた場所では、暗殺者の仲間とフェリシアが戦っているはずだ。それに、ドラグレアも知らない術を使う、先ごろやってきた異世界人の二人の気配によく似た存在も気になる、と彼は後続の騎士団団員たちに暗殺者を引き渡すため、動かない青年を担ぎあげた。
「よし、さっさと引き渡してフェリシアたちを助けに行かないとな」
そう言いながら、フェリシアたちがいる方向から飛んで行った力の固まりで、山頂が消し飛んだ山を横目に見ながら、ドラグレアは――面倒にならなければいいけどな、と大きく息を吐き出すのだった。
7/30 サブタイトルと内容の一部を改稿




