9話:白銀
祭りが近づくにつれて、村は騒がしくなった。
祭りは一大行事。それぞれの家が大騒ぎだ。
私はと言うと、ウキアの剣の相手に、アルマと踊りの練習。それからジェラルドと披露のために射撃の訓練で忙しい。
「百発八十中だね」
「まだまだだなぁ」
「村の子供たちの中で、こんなに射撃の精度が高いのは少ない。誇っていいんだよ」
(そおかなぁ)
こうして褒められると、なんだか照れくさい。
でもやっぱり、ジェラルドの戦う姿を見てしまうと、まだ足りないと思ってしまう。
「私、恥をかかないように頑張るからね」
「あぁ、当日が待ち遠しいよ。本当に」
ジェラルドは私を抱き上げると、今日はもうおしまいにしよう、と言って家に戻った。
(ちょっと、心配そうな表情)
どうしてかわからないけど、ジェラルドの手に力が籠っているような気がした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「赤か?」
「いや、母娘揃えて青がいい」
(なんでもいい!)
今日はヴィクセンの家で祭りの日に着る衣装を選んでいる。
アルマとヴィクセンは衣装選びに真剣なようだ。
子供の頃の、お母さんの買い物に飽きてぐずりたくなるあの気持ちを思い出した。
二人がこんなに真剣なのは、祭りで私を誰よりも綺麗にして、村の女の子たちを見返したいからだろう。
この村で、私たち家族は少し立場が弱い。
ジェラルドは若くして先遣隊隊長に上り詰めた、優秀な戦士だ。幼い頃に両親を亡くしているので、後ろ盾のないジェラルドに求められたのは、優秀な嫁を貰うことだった。
でも、ジェラルドが連れてきたのは潰れかけた村出身のアルマだった。
村人は、子供が男か、せめてジェラルドに似ていれば……と思っていたのだろう。
結果、生まれたのはアルマ似の娘だったから、期待はずれだと無視されてしまったけれど。
とにかく、私は他の家の子供に避けられている。
それは今に始まったことではないし、特に気にもしていないけど、アルマとジェラルドはそれが許せないらしい。
私の髪について言われた時は、
「この銀髪は、まさに月の光と言ってもいいほど綺麗だよ。誰だ、俺の娘に灰被りと言ったのは」
剣や弓、魔術について言われた時には、
「魔術どころか、剣も弓も握れない小娘を気にする必要はない。考えてみなさい、あなたなら枯れ枝を振るだけでその子たちを倒せる」
こんな感じで、激おこだった。
さすがにこのままではまずいと思った私は、二人に一つ提案した。
みんなをギャフンと言わせるくらい、完璧な姿を見せよう、と。
というわけで、祭り当日の服と宝飾品を見ているところである。
選ぶのは三つ。祭りに着ていくもの、披露に着るもの、そして最後の踊りに着るもの。
一つ目と三つ目は白生地じゃないとダメみたいで、披露の分は既に決まっている。
家中に白い布が散乱していて、まるで雪景色のようだけど、今はそれどころでは無い。
選んだ布を私の体に当てては、違うと言ってまた別のを当てる。
(言った手前、あまり勝手なことはできないけど、二時間もかかるとは思わなかった…)
流石に立ちっぱなしは疲れて、ドカッと品なく椅子に腰掛けた。
「はぁ……」
(長いなぁ…。あれ、これ……)
ジェラルドの一目惚れで、勢いで結婚したって噂だけど、ホントなのかな?
この世界に、結婚記念日とかそんな概念があるのかはわからないけど。二人の出会いとか、そんな話は直接聞いたことがない。
(じ、地味に気になる)
(だって、一目惚れしましたってだけで、あのアルマと結婚できるわけないもん!!)
わーーっ!と、気になる気持ちを鎮めるように、体を丸めると足元で何かが光を反射した。
持ち上げてみると白くてしっかりした生地に、銀糸で綺麗な模様が縫われている衣装だった。
「ねぇ、これは?」
広げた布を二人に見せると、ヴィクセンが目を見開いた。
「それは!そうそう、それを探していた!」
嬉しそうに言いながら私にその布を当てて、鏡の前に立たされた。
「わぁ……」
思わず感嘆の声が上がる。
まさに雪の妖精、といっても過言では無い。
そして、それと同時に違和感を感じた。
べリスは私のはずなのに、私じゃないみたいだ。
(変な感じ)
「…べリス、気に入ったか?」
「ぅ、うん。とっても!」
一瞬言葉に詰まってしまう。
「そうか、なら外套は白毛のものを羽織ろう」
「行きに着るなら、やはり二人揃えて白に青がいいと思うが」
「そうですね」
二人は納得したのか、トントン拍子に話が進んでいく。
(よ、良かった意見して)
銀糸の布を抱きしめたまま、ぼーっと二人を見つめていると、ようやくジュエリーの話に入った。
そろそろ終わりが見えてきた。
「べリスがこれを着るなら、宝飾品はこれにしよう」
ヴィクセンは棚からいかにもな箱を取り出すと、それを開けて私たちに見せた。
銀でできた、精巧なジュエリーのセット。全て月下美人のような花の形をしている。
「この花って…」
「五十年に一度咲く花。この花が咲く日に、セレネー祭が行われる」
ヴィクセンは嬉しそうにコームを手に取ると、私の頭に刺した。しばらく見つめて、私の頬を撫でた。
「ヴィクセン様?」
呼び掛けに、すぐに答えはなかった。
「これ、受け持ってくれるかい?」
受け取ってもいいの?こんな、高そうなもの。
いや、こんなに沢山の思い出が詰まっていそうなものを。
「残念なことに、うちに女は生まれなかった。この宝飾品を誰にあげようか悩んでいたところに、ちょうど私の後継者が現れた」
『私の後継者』?どういう意味なのだろう。
「……ヴィクセン様…」
側に立つアルマが、眉を顰めた。
「受け取っても、いいの?」
「べリスだから、受け取って欲しい」
箱に入った、ネックレスやピアスを見る。
その中に、一つ空白があった。
私の右手に嵌められた腕輪がちょうど入りそうな空き。
(あぁ、セットだったんだ)
「有難く頂きます。でも残念だけどネックレスはもうあるの」
そういって、服の下に隠してあった青い魔鉱石を見せた。
アルマから貰った、大切なもの。傷が付かないように、服の下にいつもしまってある。
「そうか。丸ごと持っていくといい。これらは家族だから」
「もう一度、よく見せておくれ」
ヴィクセンは箱を私に渡すと、今度はさっきよりもじっくりと見つめた。
まるで、愛おしいものを見るような目だった。
全ての衣装と宝飾品を選び終わり、その日は解散となった。
ただアルマはずっと、悩ましげな表情で黙っていた。




