72. ☆「Kiss and Kiss and……」
唇に触れるプルプルの果実の味わいは嗚呼まっこと甘美なり。そして右手で大きな双丘の息吹、鼓動をそれぞれしかと感じる。
その緑と黒ギンガム柄はまさに自然豊かな森林を俯瞰で見てるようで、左でそれを剥げば美しい銀世界へと一気に四季が巡る。
そうしてついに姿を現した、天を衝くがごとくそびえ立つ桜樹に舌――ってオイ!?
ちょ待、ちょ待、ちょ待てよ!? なっ何やってんだ俺は!?
「……エッチ」
「あっ! いやこ、これは!!」
「……すけべ。ってか犯罪でしょこれ……」
「違うよ三夜さん、これは!!」
「なんてね、冗談だよ。とりあえず寒いし付け直すから……あっち、向いててよね?」
「うっ、うん」
「ふふ。めっちゃスースーしてるなぁ……」
慌てて離れるが、彼女は顔を背けながらも怒るどころか笑ってる。まさか俺に押し倒されて満更でもなかった……ってのかな。
にしてもデカかったな。噂通りすげぇボリュームだった――って違う! 俺の馬鹿!
「ところで、頭いたいのはもう大丈夫なの? 治ったんだったらそろそろ、行こうよ」
「えっ。行くって……どこに?」
「まだ心配だし家まで送るよ。飲み代もったんだしコーヒーぐらいは出してね。フフ」
えっ。ちょ、この子俺ん家に来る気か!? 何考えてんだ!?
でも金を払えず恥かくところだったのは事実、助けてくれたことは丁重に礼を言う。
「あとでライン教えてね。それと飲み代も返さなくていいよ。――あたしともっと、仲良くなってくれればさ」
は? ――何だよこれ、想像通りの意味でいいのか。ってかまさか、俺は今夢でも見てるんじゃあるまいな。
あんなことしといて嫌われるどころかこんなこと――。そもそもまともな会話したのも今日が初めてなのに。
「大事な初キス奪った上に、あんなトコまであんなコトして。おかげであたし……もう他にお嫁に行けないよ」
「……」
「これはもう責任取ってもらわないと。まずはさっきの罰として……恋人つなぎね♡」
「……」
「で、どうなの? 付き合ってくれなきゃ……強制わいせつで警察に言っちゃうよ♡」
何だよこの展開は、俺いつからラブコメの主人公になったんだ。でも駄目だよ、こんなのよくない。理由を言っとかなくては。
「それ以上のことやってるけど……いいの」
なのでとりあえずそこで少し話そう、と促す。奇しくも再びお宮だ。渋谷氷川神社。
「それってどういう意味……?」
境内のベンチに腰かけワケを切り出す。そう、異世界でのことを上手くごまかして。
「その、オフ会で会った子を?」
ああ、俺は最低のクズさ。どうだ幻滅したろ。しかし彼女は「訴えるって……?」とだけしか言わなかった。
それについてはお互いどこの誰かもわからないから、たぶんないと答えれば「よかった」などと返してくる。
「そんなの不用心なその子も悪いし、心から反省してるならそれでいいと思うよ。後悔した分、他の子を幸せにしてあげればさ」
結局徹頭徹尾こんな感じでまるで言葉もない。こんな俺を擁護してくれるだなんて。
「男の子なんだし仕方ないよ。だけどこれからそういうのは、あたしとだけしようね」
そしてドン引かれるどころか唇が近づいてくる。どうして、なぜと考える暇もない。
「じゃあこれも罰ってことで。獲ったモノ、返してもらうね♡」
――女からこんなことされるのは諸事情で慣れてる。だけどこの子からは、あの時みたいな恐怖は感じない。
「ふふふ……まだ駄目。利息分もきっちりと……もらうからね」
何というか、可愛い。めっちゃくちゃ愛おしい。いいのか……彼女にあんなことしといてこの子と恋に落ちたりしていいのか。
いや駄目だ、もう無理だな。俺もこの子のことマジで好きになっちまったから――
ああ、不規則なリズムでこっちを撫でる鼻息と、リップのベトベトが唾液ごと移ってく感触にゼロ距離から精神を支配される。
「甘いね……煙草の味かな……」
「さっき……ブラックデビル吸ったからな。でも、そう言う三夜さんもじゃんか……」
「さっき……カルーアミルク飲んだからね」
「……」
「大好きだよ」
かくして懺悔の告白は、違う意味の告白で完全に上書きされてしまった。心臓を徹底的に、完膚なきまでに射抜かれたことで。
「もう悩まず前を見て。明星くんのこと支える子が、明星くんと幸せになりたいって子がここにいるんだから」
「……」
「いいよね、付き合うってことでさ。お互いの将来のことを真剣に考えた前提で、ね」
「……」
「まあもちろん子供とかはもう少し、待っててね。さすがに大学は出ときたいからさ」
フフ、自分でどれだけ勝手に話進めてんだよこの子は。けど是非そうしてもらうか。
このジミカワな雰囲気に反してむっちりオトナな身体と意外な積極性、でもやっぱ男慣れしてないゆえのぎこちなさ。完璧だ。
ごめん、ミカエル。後悔の足枷を今こそ完全に断ち切り、希望の誘惑を抱き寄せる。
「あたしやっぱり……される方が好きかも」
近づいては閉じ、また開きをくり返す度瞳の輝きと蕩け具合が増してく。艶っぽい呼吸、ピンク色に染まった頬全部が可愛い。
髪も綺麗だしおまけに優しく穏やかで、ああ俺こんな最高の女の子に男として認められ、求められてるのか。人生最良の日だ。
「これからずっと……ずっと一緒だからね」
ごめん、ミカエル。あの過去が忘却に追いやられて、すっかりこの未来の虜となる。
そしてすみません、碧寝さん――。やはり僕は、あなたと姉弟以上にはなれません。
「河野さんからも何度もかばってくれて、本当に嬉しかったよ」
「そんな……全然大したことはしてないよ」
「さっき塾で言ってた“借り”ってさ、イビリの標的があたしに向いたことなんでしょ」
「今日の今日まで三夜さんを盾にしてた。見ぬふりしてごめん」
「ううん、その前からも助けてくれてた。やっぱり優しいよね」
「……」
「実は他にもあるの。こんな急に明星くんを好きになった理由」
だがしかし――その時だった。
「明星くんっ――きゃあっ!?」
「オウ、さっさと来いやァ!!」
急に何人もの集団に無理やり引き離される。三夜さんが境内から連れ出され、俺は顔面を思いきり殴られた。
痛い、すごく痛い。鼻と唇が血でぬらつき眼鏡も割れ何も見えない。そこにあったのはただ絶望のみだった。
何だよこれ。所詮人生は浮き沈み、イイことのあとのツケってか。だからってひどすぎる! ああ三夜さんが、俺の彼女が!!
「うっ! こっ――これは!?」
何とかならないのか!? とテンパる中不意に右手に冷たさを覚える。握られてたのはあの【反逆の刃】だ。
「また出てくれたか――! ありがとう!」
そう、ただの剣じゃない。目的つまり俺の反骨心が満たされるまで、どんな都合のいい事象でも起きる力が!
「こいつに“乗って”行くッ!!」
BTTFのホバーボードみたいだが速度は半端ない。今助けるぞ三夜さん! と俺は剣の導くまま突き進んだ!
本年もどうぞ応援よろしくお願いします!
※本作はとにかく構想がごちゃごちゃ膨大なため、万一エタった時の場合を鑑みココで終わるIFルートを設けました↓
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