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反逆のMYTH【シーズン3】~表舞台じゃ誰も敵わない最強の力を妬まれるだけなので、死を偽装した懸賞金を元手に新天地で闇金や夜の店の経営者としてアウトローの道を極めます~  作者: 公月奏
覚醒! 光もたらす者・神に似たる者~異世界パート

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49. ☆「Compensation」

「これを知っているか。魔法学史上究極最高の秘薬“ティミーズ”。水魔法の大家たちが精魂込めて世に放った珠玉の傑作だ」


 アンジュがベリィの前に小瓶をかざす。その効力は身をもって証明済みの、さっきミカエルが俺に使ってくれた回復薬だ。


「当然供給は少ない上使用期限も短く、市場に回るのは専ら効力切れ間近のものばかり。それでも需要も価格も大変に高い」

「なぜか。生きてさえいれば欠損した部位や失われた血液、それすらも元通りになるからだ。今から実演してみせてやろう」


 そう続けたのち「お前たち、やつの手足をこっちへ」と求めてくる。って、何だって!?


「さあ、言われた通りに早くおやりなさい」


 俺がためらってる間にも眉ひとつ動かさず、斬り落とされたベリィの腕を拾い上げてくエブリン。

 背中越しでもわかるアンジュの無言の圧力を受けて仕方なしにやるが――気持ち悪くて仕方ない。


「よし、断面を重ねろ。注意深く丁寧にな」


 未だ深紅の流れ出る傷口を見てるだけで青ざめる。そして彼女がそこに薬をふりかけた次の瞬間、


「うお!? オッ、オレの手足が元に!?」

「おっと妙な気は起こすなよ。少しでも動いたら女を殺すからな」


 予告通りやつが完全に四肢を取り戻す。さらにその刹那、首に鋭い刃を這わせつつ後方のパフィへ目配せする。一体何を?


「おい貴様。“この女のために、自分が身代わりとなる”。その言葉に本当に嘘はないのか」

「ああ、もちろんだ!!」

「本気でか。この身体ではエブリンの言う通り、早く楽にしてやった方が幸せだと思うが」

「治す方法はあるだろうさ。そう、諦めずに生きてさえいればきっとな。だから頼むよ!」

「この薬に期待しているのか? さすがに時間の経ち過ぎてからでは完治の保証はないぞ」

「たとえそうでも、そうだとしてもだ。オレは、オレより先に姐さんを死なせたくない!」

「あとで私の気が変わったらどうするんだ」

「あんたはそんなことしない。信用するよ」

「ほう。本気のようだな」


 “スパンッ!”


「では。“まず左腕”だな」


 えっ。――アンジュ??


「うぎゃあああッッ!?」

「念のため言っておくが今さら“楽には死ねんぞ”。それは心得ろ」


 突然だった。瞬きの暇もなくベリィの腕がいきなり吹き飛んだ――いや、アンジュによって根元からぶった斬られたのだ。


「ぐぎゃあああッッ!!」


 膝を突き絶叫するベリィ。だが、アンジュの方は顔色も変えず子供を諭すように続ける。


「“人はこれから欲するものよりも、一度手にしたのを失ったことにこそ執着する”。戻った腕を再び奪われた気分はどうだ」

「ああああああっっ!!」

「次は右腕、脚は最後にしてやる。それまでに考えが変わらなければこちらも約束を守る」

「ががああああああ!!」

「無論、心変わりも自由だ。その場合はお前の方を生かす。見せしめはどちらかひとりだ」

「ぐううあああ――!!」

「選ぶのはあくまでお前だ。さっきの惨状をまた味わいたくなくば、せいぜい早く決めろ」

「ぐぐぐううう――!!」

「さあ、あと3回まで言っていいぞ。『姐さんを助けてくれ』と」


 ――何だ、一体何だよこの状況は。せっかく勝ったのに。逆転したのに。スカッと爽快どころかより後味の悪い展開は!?

 声が出ないし口も開けなければ目を反らすことすら何もできない。ヘビを前にしたカエルのようにただただ震えるのみだ。


「いやああああああ!!」


 ミカエルに至っては屈んで泣き叫ぶばかり。どうしてだ。こんなことする必要が、ここまでする意味がどこにあるんだ!?


「怖くて苦しいよねルーシー。私たちを残酷だと、そう思うよね」


 そう言うパフィの冷静さは汗と動悸の止まらない俺とは対極だ。――ああ思う。これじゃどっちが悪者かわからないだろ!


「けれど考えてみて。これが世の真理で、間違ってるのは君の考えの方かもってことをね」


 だが今の俺はやはり何も言えず、彼女の言葉と迫力の前にただただ沈黙するのみだった。


「この世は弱肉強食、弱ければ尊厳もお金も生命も何もかも奪われちゃう。平穏無事に生きるには誰よりも強くならなければいけないの」

「でもそのためには数多の苦難を知り、幾度も手を血に染めなければならない矛盾もまたある。こんなの私たちだって心穏やかじゃない」

「だけどそんな感情はただの甘えだと、そう割り切るしかない。ただ能天気に『私強~い!』なんてできないの。ちゃんと“代償”がある」

「強さとは報復に対する復讐、つまり、怨嗟の連鎖を“そこで止められる力”。こんなやつらが二度と現れないようにしなくちゃいけない」


 ――そうか、わかったよ。ここじゃ俺みたいな現代人(あまったれ)の常識など通用しないってか。そんな非情なる事実に耳を傾ける間、向こうでは、


「姐さんをっ!! 助けてくれえっっ!!」

「ようし右腕!! お前の番だステラ!!」

「ぎょぐあああああああああッッッッ!!」


 ……


「さて、あとは。“斬り落とす”と“ねじり切る”は済ませましたから残るは“すりつぶす”ね」


 ……


「おい、聞こえているか。これが最後なんだ、決める時は今だぞ」

「ね……さんをっ……。た……けて……っ」

「よし、いいだろう。心からの偽りなき願い、しかと聞き届けた」


 そしてアンジュは俺の方へと向き直ると、


「とどめはお前だ。やれ」


 そう剣をよこし言った。

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