6話
「おはよー・・・」
「おうアカネ。・・・どうしたよ、えらい顔色悪いな」
「だってあーし、あんなトコで寝たの初めてだし・・・」
一夜明けてのギルド酒場。
所々痛む体をさすりながら、あーしはゼルの向かいに座る。
昨日の反省会が終わった後、あーしはゼルが約束していた飲み比べ対決に誘われて、夜遅くまでドンチャン騒ぎをしていた。
・・・結果、宿を求めてあちこち走り回る羽目になった。
ここは駆け出し冒険者が集まるだけあって宿の料金も良心的な所が多いんだけど、宿のグレード自体はピンキリ。
人気の宿は既に埋まっているどころか数週間レベルで事前に借りておくのがもはや常識らしく、その辺の知識が無いというか今日この世界に来たばっかりのあーしがいい宿を取れるはずもなく、最終的に独房みたいな宿に泊まる事になった。
床は固いし狭いし何か臭いし、これを体験すればネカフェなんてもう天国に見えるレベル。
世知辛い異世界の洗礼をこれでもかと喰らったあーしは、日本がどれだけ豊かな国だったかを痛感した。
「駆け出しなんてそんなモンだろ。第一冒険者なら野宿も普通にやるし、雨風凌げるだけマシだぜ」
「そう言うゼルはどこ泊ってんの? パーティなんだし泊めてよ」
「厚かましいなお前・・・言っとくけど俺は野宿だぞ」
「うそだー。あーしより冒険者歴長いじゃん」
「このナリだから布一枚ありゃ事足りるんだよ。浮いた金で旨いメシも食えるしな」
そう言ってゼルは全身を見せるように体を動かす。
たしかに身体の小さい妖精ならではだろうけど、それはそれでどうなの。
「稀に犬猫に連れ去られるのがタマにキズだがな」
「ダメじゃんそれ!?」
問題しかなかった。
「いやでもそんなモンだぜ? お前さんは戦わないぶん金が浮くが、普通の冒険者なら武具の手入れはもちろん予備の武器だって必要だ。そうなりゃ自ずとどれかを削ることになる」
「そ、そっか・・・。ごめん、好き勝手言っちゃって・・・」
「まぁ俺は削ってる訳じゃないがな」
「あーしの謝り返して」
なんでこの妖精は最後の最後で落としてくるのか。
「とにかく、俺たちにゃ金が必要ってこった。さっさとクエスト選んで出発しようぜ!」
「強引に締めたね。あ、クエスト選ぶならインスタ映えしそうなやつね」
「俺様の魔法があるだろ?」
「それだけじゃ飽きるから」
飽きるというセリフに割とショックを受けたゼルをスルーして、あーしはクエスト掲示板に向かった。
あれやこれやと相談してクエストを受けたあーしたちは、軽い朝食を済ませて依頼主の下へと足を運んでいた。
クエストの内容は、依頼主の営む農園を荒らす『ロケットボア』と呼ばれるモンスターの退治。
ゼルによれば、大きい二本の牙を生やした猪のようなモンスターで、ものすごいスピードで直進して土ごと農作物を食い荒らす農家の天敵らしい。
本来なら農家側も罠を張ったりして対策できるモンスターらしいけど、今回の依頼主の農園では個体数が増えて対処に困っているとのこと。
依頼主はあーしがギルドに来る前に通った大通りにいるみたい。あそこの商人の誰かだろうか。
「報酬十万ゴールド。山分けで五万ゴールドか。贅沢しなけりゃしばらく宿には困らないんじゃねぇか? それに、あの突撃イノシシの肉と牙は良い値で売れる。うまくいけばお前さんの装備も買えるかもな」
「丸腰でモンスター退治に行くって、今更だけど結構ヤバいよね・・・。期待してるからねゼル」
「まかせとけ」
戦えるのが実質ゼル一人だけのこのパーティ。
本当は他にも臨時で募集したかったんだけど、ほとんどがもう別のクエストを受注済みだったし、ゼルが俺一人でも問題ないというので、あーしたち二人で受ける事になった。例によって引き留められまくったけど。
ロケットボアは群れで行動する習性があり、本来は複数の盾役や罠を使って動きを止めて、そこを仕留めるのが主流らしい。
しかしゼル曰く、習熟した魔法使いがいれば、盾役がいなくても広範囲に攻撃できる魔法を使って殲滅する方法があるとの事。たとえ打ち漏らしたとしても罠でカバーできるぐらいには数を減らせると言っていた。
習熟した魔法使いって辺りに引っかかるけど。
「イノシシなんざいくらでもぶっ飛ばしてやる。その代わり、世界最強の武闘派魔法使いの雄姿、しっかり撮っといてくれよ」
「はいはい」
そうこうしている内に依頼主の下にたどり着く。
農園を営んでいるという情報通り、日本でいう八百屋のような店を出していた。しかし他の商人に比べて店の規模は小さく、売っている野菜の品数も少ない。
失礼な話、一目で繁盛していないと分かる有り様だけど、一生懸命呼び込みをしている女の子のおかげか、かろうじてスルーはされてないみたい。あの子が依頼主かな。
「あのー、ロケットボア退治のクエストを受けてきたんですけどー」
「いらっしゃいませ! 何をお求めですか?」
「いや買い物じゃなくて、クエストを受けてきたんですけど」
「えっ? ・・・あっ、冒険者さんでしたか! 失礼しました」
頭に三角巾をまいた小柄な女の子は、薄青のポニーテールを揺らしてペコリと頭を下げた。
「初めまして。イセリア農園で働いてます、ミュールと申します。よろしくお願いします」
「あ、ご丁寧にどうも。あーしは赤羽茜。アカネでいいよ」
「俺はゼル。世界最強の武闘派魔法使いにして、いずれ魔王をブッ殺す男」
クエストの依頼主 ミュールちゃんはゆっくり頭を上げると、改めてあーしの顔を見てからゼルの方を確認する。
「はわ・・・妖精さんっ・・・!」
「あん? おいっ、ちょっ!?」
ミュールちゃんは素早い動きでゼルを捕まえると、胸に抱きかかえ頬ずりし始めた。
「すみません・・・! でも、あまりにも可愛くてついっ!」
赤くなったゼルはテンパりながらも、あーしに目線で助けを求めてくる。
そんな中あーしは冷静にスマホを取り出し、二人に向けてカメラを構えていた。
忘れていた。ゼルは見てくれだけはかわいいのだ。見てくれだけは。
「ハイ、チーズ」
「お前っ! ちょっ止めろ!」
これはいいカンジに伸びそう。あと何枚か撮っとこ。
・・・あれ、あーしたち何しに来たんだっけ。




