5話
「ブラッドグリズリーの討伐、お疲れさまでした。こちら報酬の5万ゴールドとなります。・・・えっと、その、大丈夫ですか?」
「ゼェッ・・・ハァッ・・・ご心配なく・・・」
「・・・大丈夫だ、問題なおぼろろろろろろろろ」
「ギャーーー!? 誰かバケツと布巾持ってきてええーーー!!」
危なげなくブラッドグリズリーを退治したあーしたちは、満身創痍でクエストの達成報告をようやく終わらせた。
「だから言ったじゃないですか。ブラッドグリズリーは駆け出しの、ましてや二人パーティで挑むものじゃないって。・・・まぁでも生きて帰ってこれたのは本当に幸運です。よく頑張りましたね」
叱りつつも最後には優しく褒めてくれる職員のお姉さん。天使はここにいた。
たぶん死闘の末にグリズリーを倒したと思ってるんだろうけど、実際は違う。
ゼルが魔力切れになったもんだから、いつ魔物が出てくるかも分からない平原の中を全速力で駆け抜ける事になった。おかげで街に着いた頃には足もブルブル、息し過ぎで肺も痛くなっていた。
体育の授業を適当にやり過ごしてきたJKにはきつすぎるし・・・。
そしてゼルの方は、あーしがリレーのバトンよろしく握りしめて走ったおかげで酔ったらしく、街に帰って来るなり盛大に吐いていた。なんならさっきも吐いていた。
あーしたちは職員のお姉さんたちに抱えられて、酒場の隅っこの席に座らされる。申し訳ない。
クエストを終わらせて景気よく乾杯する他の冒険者たちを尻目に、あーしたちはお互い絶不調のまま今日の反省会に突入した。
「ゼル、正直に言って。魔法使いってあんなに早く魔力が無くなるものなの?」
「・・・ふつうは違うな」
「やっぱり!」
酔いがまだ覚めないのか、ゼルは焦点の合っていないうつろな目で答えた。
ゼルとグリズリーの戦った時間は10分も無かったはず。さすがのあーしだって疑問くらい持つし。
「言ってなかったか? 妖精は体質的に攻撃魔法と相性が悪いんだ。平均的な人間と比べて十倍くらい燃費が悪い」
「ダメじゃんそれ!?」
ゼルの口から飛び出した衝撃の事実。
十倍ってそれ燃費が悪いってレベル超えてるでしょ。
「相性が悪いって事は、相性が良いのもあるんじゃないの?」
「その通りだ。でも俺はやらない」
「なんで!?」
「これが俺のやりたい事だからだ」
「・・・そっか」
その言葉を聞いて、あーしは何も言えなくなってしまった。
だってそれは、あーしも同じだから。
同じ思いでこの世界に来たんだから。
思う所がない訳じゃないけど、こういう男の信念みたいなのは素直にカッコいいと思う。
・・・抱えたバケツに盛大に吐いてなかったらね。
「まぁあーしだってゼルにおんぶにだっこだからお互い様だし、職員さんの言う通り新メンバーでも募集する?」
「・・・そうだな。俺様は一人でも問題ないが、仲間がいるに越したことはない」
「・・・なんで自分が吐いてるかもう忘れたの?」
強がりもほどほどにしなよ、と言いつつあーしはポケットから一枚の用紙を取り出す。
「メンバー募集の用紙か。いつの間に」
「さっき受付で職員さんにもらったの」
もらったというか強く押し付けられたって方が正しいけど。
用紙には今いるメンバーの名前欄と、新しく募集するメンバーの希望クラスや大まかな人物像なんかを書き込む欄があった。
「名前はいいとして・・・何のクラスを入れるか・・・っていうか他にどんなクラスがあるのゼル?」
「お前さん、冒険者志望なのにそんな事も知らねえのか?」
「えっ、だってあーしは、ホラ・・・」
ゼルが冗談だろと言いたげな表情であーしを見る。しゃーないじゃん! あーしそもそもこの世界の人間じゃないし、なんなら予備知識も無いし!
・・・なんてゼルに言っても意味不明だろうし、内にとどめておく。
「しゃーねーな。じゃあとりあえず基本クラスから説明してやる」
「ハーイ先生、よろしくお願いしまーす」
「うむ。まずは『戦士』だな。剣とか槍とかで近接戦闘を行う。以上」
「みじかっ!?」
想像以上にざっくりした説明に逆にビックリする。
「別に問題ねえだろ。言ったところで八割方忘れるだろうし、後は見て覚えろ」
「うぅ、否定できないのが悔しい・・・」
「次は『ソーサラー』、俺様のクラスだな。主に派手な攻撃魔法をブチかまして敵を殲滅するパーティの花形だ。何よりカッコいい」
「えらい箔付けたね自分のクラス」
「次は『プリースト』。回復支援担当、以上」
「無視か。しかも戦士より短いし」
なんてツッコミつつも要領は押さえてあるので、募集用紙の裏に走り書きしていく。じゃないと八割くらい忘れちゃうからね。
「そんで『レンジャー』、弓とかを使った遠距離攻撃と索敵探知が出来る。いわゆるパーティの目だ」
「結構重要そうだね」
「そうだな、居ると居ないじゃかなり変わる。次に『アサシン』。潜伏に変装と不意打ちメインのクラスだ。斥候もできるからレンジャーに次いで人気があるが、いかんせん数が少ねえ」
「そんな人気者がウチに来てくれるかな?」
「・・・言うな」
「そこはウソでも前向きに言ってよ」
相変わらず先行きに不安しかないあーしたちのパーティ。
ていうかこの世界に来てからつまずいてばっかりな気がする。
「後はアイテムが作れる『錬金術師』と、ざっとこんなもんだな。細かく言えば他にもあるが、それはまた今度でいいだろ」
「んーとじゃあ、バランス的にプリーストとレンジャーを希望でいい?」
「いや、俺らが注文できた立場じゃねえし、誰でも歓迎とでも書いとけ。入り口は広い方がいいしな」
「そこは弱気になるんだね・・・」
まぁゼルの言うことも一理あるので、言われた通り誰でも歓迎と書いておく。何か怪しい勧誘に見えなくもないけど。
「よし。後はこれを掲示板に貼ればいいんだよね?」
「あぁ。・・・ってお前さん何してんだ?」
「ん? インスタでもパーティ募集かけようと思って」
「なるほど、その手があったか」
ポンと手を叩いて納得の表情を浮かべるゼル。
仮にも職業としてインスタグラマーを名乗ってるんだし、出来ることはやっとかないとね。
「後はあーしたちの活躍がインスタで広まれば、メンバー募集の問題も自然と解決するでしょ」
「お前さん、意外と頭いいな」
「意外いらなくない?」
お互い体調も戻ってきたのか、冗談を言って笑い合うあーしたち。
「よし! そうと決まりゃ飯食って明日に備えねえとな! 何食うよアカネ?」
「その前にバケツ片づけてきなよ。あーしも掲示板にこれ貼りに行ってくるから」
「おぉ、そうだった」
一足先に席を立って、パーティ募集掲示板に用紙を押しピンで貼り付ける。
ざっと見た感じでも、他の募集用紙はかなり真面目に書き込んでいるのが分かり、でかでかと誰でも歓迎と書いたあーしたちの用紙がかなり悪目立ちしている。
まぁでも、これでいい。
インスタでもメンバー募集でも、まずは目に留まらなきゃ意味無いし。
・・・できれば王道に目立つのが一番いいんだけどね。




