3話
冒険者。
ギルドから紹介される仕事『クエスト』をこなしてお金を稼ぐ職業。いわゆる何でも屋。
山菜取りや用心棒に魔物退治と、仕事の内容は基本的にバラバラ。
唯一の共通点は、冒険者に紹介する時点で危険な仕事だということ。
以上、ゼル先生の説明より。
お昼ご飯を済ませたあーしたちは、冒険者登録のためにギルドの受付ブースへと足を運んでいた。
受付ブースでは窓口ごとに冒険者と職員さんが顔を合わせて、手続きやらお金の受け渡しやらを行っている。
あーしはすでに冒険者登録用の簡単な書類手続きを済ませて、スマホをいじりながら受付からの呼び出しを待っていた。
「お待たせしました。赤羽茜さん」
スマホの画面から声をかけられた方へ顔を向けると、職員のお姉さんがわざわざあーしの所に来てくれていた。
慌ててベンチから立ち上がると、苦笑する職員さんからチェーンの付いた小さい鉄の板のような物を手渡される。
「こちらが赤羽茜さんの冒険者タグになります。身分証明書にもなっているので、失くさないように気を付けて下さいね」
「あっ、どうも。ありがとうございます」
受け取ってすぐにタグの表面を見てみると、この世界の文字で彫られたあーしの名前が目に入る。
かなり質素な作りだけど、逆にそれっぽさが出てポイント高い。
早速これをあーしの顔と並べて自撮りする。
「よっしゃ、次はクラス決めだな。アカネは何にするか決めたか?」
「えーっと、ワンチャンかけて魔法使いで・・・」
「あのー、その件についてなのですが・・・」
まだ諦めきれない魔法使いクラスに縋りつくあーしに、職員さんが申し訳なさそうにしながら話してきた。
「赤羽茜さんのクラスは、私どもも見た事のないクラスで固定されていまして・・・」
「えっ!?」
「見たことがない?」
「冒険者タグの裏面をご確認ください」
職員さんに促されるまま、少しワクワクしながら冒険者タグの裏側を見た。
そこに彫られてあったのは。
「『インスタグラマー レベル1』」
「こいつは・・・インスタって名前からして、アカネ専用のユニーククラスか」
「ユニーククラスって?」
「特定の人物だけがなれる特別なクラスだ。大概常識が通用しねえ力を持ってる」
「いいじゃんそれ! あーしだけってのがポイント高い!」
「おっ、おぉ・・・そうか」
この世界では、インスタグラマーは正式に職業として認識されるんだ。
そしてそれは、たぶんこの世界であーしだけ。それがなんか嬉しかった。
ぶっちゃけ魔法使いへの未練はそこそこあるんだけどね。
若干引いているゼルをよそに、あーしはさっきと同じように裏面タグを見せて自撮りしまくる。
そしてそのままインスタに上げようとした所で、あーしのテンションは急降下した。
「どうしたよ。さっきからテンション上がったり下がったり、忙しいやつだな」
「いやー、それがさぁ・・・」
さっきの待ち時間でスマホいじってた時に気が付いた、由々しき問題。
『いいね』はおろかアクセス数すら、一向に増えていなかった。
・・・・・・原因は分かってる。
「あーし以外インスタできないってこと、完っ全に忘れてた・・・!」
というか、よくよく考えればあーし以外にスマホを持ってないのに、アクセス数やいいねが増えるわけなかった。
あまりにも当たり前すぎることを忘れてた自分が恥ずかしくて、頭を抱えてしゃがみ込む。
「あの、すみません。私は仕事があるので失礼しますね・・・」
「あ、あぁ。すまねえな姉ちゃん。後はこっちでなんとかする」
さすがにあーしたちだけに構ってられないのか、職員さんは仕事に戻ると言ってクエスト掲示板の整理に向かっていった。
「オホン! ・・・よく聞けアカネ。クラスとして成立してるなら、たぶんスキルか何かでフォローできるはずだ」
「・・・スキルって?」
しゃがみ込んだあーしの目線まで下がってきたゼルが、冒険者のレクチャーを交えながら励ましてくれる。
「クラスごとに覚えられる技や能力の事だ。必殺技だったり役割のフォローだったり色々ある。ぶっちゃけお前さんのはユニーククラスだから何とも言えんが、元々インスタやってたお前さんなら心当たりあるんじゃないか?」
「心当たりって言われても・・・ん?」
とりあえずスマホを確認してみると、通知欄にメッセージが届いていた。
どうも何かのアプリをダウンロード中みたい。
「何コレ? ・・・【IsekaInsta】? えっ、何このインスタのパチモン」
「よく分からんが、これがインスタグラマーのスキルってとこか?」
「いやそんな、えぇ・・・?」
ダウンロードが終わり、ホーム画面にアプリが追加される。
アイコンも微妙に違っていて、余計にパチモン臭さを加速させる。
半信半疑のまま、恐る恐るアプリを開いてみた。
「中身もけっこう似てる・・・ってかほぼ同じだし」
たぶん神様あたりが用意したんだろうな。
名前からして、異世界用インスタグラム。まぁ元の奴じゃ何もできないままだし、早速これまでに撮った写真をアップしてみる。
「どうだ? 何か変わったか?」
「・・・わかんない。ていうかインスタって見てくれる人ありきだし、あーしだけじゃどうしようもないんだよね」
「そいつはまた厄介だな・・・ん?」
「赤羽茜さーん!」
さっきまで掲示板で整理をしていた職員さんが、何枚かの記事を持って帰ってきた。
「何ですか?」
「これって、もしかして赤羽さんの物ではありませんか?」
「あーしの? ・・・っておお!?」
職員さんから渡されたのは、あーしがインスタに上げた写真や内容がそっくりそのまま載っている記事だった。
「これって!?」
「クエスト掲示板の隅っこに、いつの間にか貼ってあったんです。ですが取っても取っても記事が新しく出てきて・・・」
困った様子の職員さんの話を聞いて、あーしたちもクエスト掲示板の前に向かう。
そこには職員さんの言った通り、あーしの記事が掲示板の隅っこに貼ってあった。
他が白黒の手書き記事ばかりのせいで、思いっきりカラー写真が載っているあーしの記事が異様に目立っている。
とりあえず一枚取ってみると。
「あっ、ほんとだ! 新しく出てきた!」
取ったそばから全く同じ記事が新しく出てくる。何これスゴイ!
ざっと確認した感じ、ほとんどインスタと同じレイアウトだけど、どうもコメント欄は無いみたいだった。ちょっと残念。
それにしても、ネットが無い代わりに掲示板か。考えたね神様も。
「さすがユニーククラス。常識が通用しねえな」
「ちょっと地味だけどね」
「地味じゃねえだろ。だってこれ紙の表面が動いてんぞ」
「うわっ!? ほんとだ!」
なんとこのインスタ記事。スワイプにも対応していた。
右から左へと、新しい方から古い順に流れていく。
なんかもう、この記事自体がちょっとしたスマホみたいになってるなコレ。
むしろスマホよりスゴイ気がするけど。
「すごい・・・・・・こんな紙どうやって?」
「こりゃすげぇ! こんな綺麗な絵は初めて見たぜ!」
「この娘かわいいな」
あーしとゼルの騒ぎが気を引いたのか、徐々に掲示板の前に人が集まりだし、冒険者や職員の人たちが次々にあーしのインスタ記事を手に取っていく。
スマホを確認すると、連動するようにアクセス数やいいねの数が増え始めていた。
「よかった、ゼルの言う通りだったね」
「インスタグラマー・アカネの第一歩だな」
あーしたちは二人して笑い合い、ハイタッチを交わした。




